第七章:エスピオナージ・オペレーション/05
大挙して襲いくる追っ手の警備員たちを退けつつ、どうにか下層区画に辿り着いたウェイン。
フィーネとの合流ポイント、目的地の警備室はもうすぐ目の前にまで迫っていた。
「ああくそ、どんだけ居やがるんだよ……!」
〈警備室はもう間もなくです、ウェイン!〉
「へいへい……!」
曲がり角で出くわした警備員の黒服を、出会い頭の飛び蹴りで吹っ飛ばしつつ。廊下を駆け抜けたウェインはようやく警備室の前まで辿り着く。
〈どうやら、ここですね〉
「とんだ一苦労だったぜ……あらよっと!」
警備室のドアをバンッと蹴破って、中に足を踏み入れるウェイン。
しかし、部屋に入った瞬間――――。
「――――動くなよ」
冷ややかな声とともに、彼のこめかみに銃口が突き付けられた。
……が、その直後。
「なんだウェイン、お前だったか」
という彼女の――フィーネの声とともに、彼女は突き付けていたピストルの銃口をスッと下ろした。
「おいおい……勘弁してくれよ、冷や汗もんだったぜ」
肩を竦めながら、後ろ手にドアを閉めつつ言うウェインに「ノックぐらいしてから入れ」とフィーネは返す。
「それにしても、随分と派手に暴れたみたいだな。船中が大騒ぎだぞ?」
「色々と事情があったんだよ、色々とな」
監視カメラの映像を映したモニタを指差して言うフィーネに、ウェインはまた大きく肩を竦め返して言う。
「それよりもフィーネ、ここはお前が?」
「うむ」
「そうかい……ま、一休みできそうで助かるぜ」
警備室は、既にフィーネの手で制圧されていた。
床には複数の警備員たちが――恐らくは監視カメラ担当だったのであろう者たちが、気絶しロープで縛られた格好で床に転がっている。
現状、ここはとりあえずの安全地帯なようだ。
だからウェインは小さく息をつきつつ、疲れた顔でピストルのマガジンを取り換えながら呟く。
「いい加減に、手持ちの弾も心もとなくなってきたしな」
「安心しろ、読み通りここには武器も弾も山ほどあったぞ」
フッと小さく笑うフィーネに「そりゃ安心だ」とウェインは返し。
「ところで、さっき言ってたイレギュラーってなんだよ?」
その後で問うと、フィーネは「えっと、それはだな――――」と答えようとしたのだが。
「――――その話、おいらのことかい?」
フィーネが答える前に、警備室の奥の方から聞こえてくる何者かの声。
しゃがれた、キザっぽい男の声だ。
ハッとしたウェインが声のした方に向かって咄嗟にピストルを構えると、その銃口が睨む先に立っていたのは――――。
「て、てめえは……ミシェル・ヴィンセント……っ!?」
藍染めの着流しを着こなした、長身のキザな色男。
声の主は――――あの、ミシェル・ヴィンセントだったのだ。
(第七章『エスピオナージ・オペレーション』了)




