89 滞っていた支払いを求めるという当然の権利
家族や学校、探索者。
トモヒロにとって、これらは敵でしかなかった。
控えめに言っても、辛い体験をさせられた。
正確に言うことを控えたくなるほどだ。
そんな連中に何もしないでいるわけにはいかない。
こうした者達にやられた事をやり返さない事には気がおさまらない。
迷宮によって力を手に入れたトモヒロなら、これを実行する事が出来る。
単純に迷宮の盛衰、今後の展望を考えるならどうでも良いことだ。
だが、放置するわけにはいかない。
このままではトモヒロは一方的に損害を被っただけになる。
割に合わない。
やられた分はやりかえしておきたい。
それでようやく元が取れるというもの。
損失を損失のままにしておくわけにはいかない。
幸い、トモヒロの行動を阻む者はほとんどいない。
人間社会の方も混乱していて治安もかなり乱れている。
隙はいくらでもある。
そこ伝っていけば、潜入する事はたやすい。
潜入してる工作員から必要な情報も手に入れてる。
目的の連中が今どうなってるかくらいは把握している。
自分の能力と陣容を考えれば、手を下すことも難しくは無い。
「やれ」
手下に命令を出す。
それに従って人間型の怪物は町の中に入っていく。
迷宮で生まれた種別怪物の人間達は、人の中に紛れ目的地へと向かっていった。
その先で、調査済みの対象を残さず捕まえていく。
既に50年以上の歳月が経っているので、当事者の全てを捕まえる事は出来ない。
とっくに死去してる場合もあるからだ。
だが、そうであっても子供や親類縁者を捕まえる。
例外は何一つない。
同じ血筋を、遺伝子を持つ者がこの世にいる事すら許せないからだ。
やらかした連中の子孫や血筋がこの世にいる。
のうのうと生きて暮らした結果がこの世に残ってる。
認められるわけがなかった。
存在した証の全てを消滅させなければ気がおさまらない。
トモヒロを虐げて何の報いも受けずに生きて、成果を残していっているのだから。
その全てを根絶やしにするために、トモヒロは血縁関係者の全てを捕らえていった。
捕まえて迷宮にまで連行した。
それらを迷宮の中で処分し、養分にするために。
その為だけに作られた、迷宮の出入り口にある転移区域。
迷宮の壁の中に放り込むためだけのそこに、トモヒロを虐げていた者達と血縁者が放り込まれる。
設定された機能に従って、転移の魔術・超能力は放り込まれた者達を迷宮の壁の中に瞬間移動させた。
まだ存命だった者も、その子供や孫、親兄弟とその配偶者に子供などの血縁者達。
これらは、漏れなく全てが原子や分子ごと迷宮の一部に溶け込んでいった。
霊魂もまた迷宮に組み込まれ、エネルギーとして取り込まれていった。
それをトモヒロは、楽しく眺めていた。
迷宮の入り口までわざわざ出ていき、転移区域に放り込まれる連中を見ていた。
泣き叫び罵る者達の声を楽しく聞いた。
うるさい連中は配下の怪物に叩きのめさせて黙らせた。
トモヒロ自身も、積年の恨みを晴らすべく、思いつく限りの拷問をした。
楽しい一時だった。
生まれて初めてとすらいえる喜悦をおぼえた。
問題を起こしてた連中の全てをそうして処分した後。
トモヒロはこれまでにない爽快感をおぼえた。
心が晴れていった。
生まれて初めて空を見上げる事が出来た。
下を向いてばかりいた人生の中で、これもまた初めての事だった。
「青いなあ……」
高く澄んだ空。
それを含めて、この世界が初めて美しいと思えた。
強ばっていた心と体がほぐれていくのを感じた。
処分した連中の存在が知らず知らず緊張の原因になっていたのだろう。
無意識にストレスを感じていたのだ。
それが解消され、ようやくトモヒロは心身を蝕み捕らえていたものから自由になった。
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