88 使い道がなくて困る方が良い、無くて何もできないよりは
核ミサイルによる攻撃、周辺地域への工作。
そんな事をしてる間に、迷宮を作って50年となった。
地下は5800階まで掘り下げるにとどまっていた。
地上への工作を優先していたせいで、どうしても階層の増加が後まわしになっている。
敵を退けるためとはいえ、力を軍備や兵力に注ぎ込んでいたのだから仕方ない。
少しずつ階層を追加してはいたが、大幅な増加にはなってない。
それでもここまで掘り下げたのだから相当なものだが。
その階層を更に増やしていく。
ようやく迷宮の拡大拡張を再開出来るようになったのだ。
遠慮する事なくより強力な迷宮にしていく。
相変わらず1区域だけの階層が増え、異様に細長い迷宮になっていく。
それでも階層が増えるごとに気力や霊気が増えていく。
歪つで異様に見えても、効果があるならそれで良い。
そう思っているし、これで上手くやってきている。
結果が出せてるならそれで良いのだとトモヒロも分かっているのだが。
「本当にこれでいいのか?」
たまにそう思ってしまう事もある。
それでもひたすらに迷宮を深く深く掘り下げていく。
頭を使う事はもう捨てている。
考えて悩んでも良い事はない。
もっと良いアイデアが出て来るわけでもないのだから。
なのでひたすら階層を増やす。
もっと気力や霊気を集めるために。
それだけで充分だった。
気力や霊気は迷宮における資本だ。
これがあるから様々な事が出来る。
手数が増えるし、大きな仕事をこなす事が出来る。
50年ばかり迷宮を運営してきてつくづく思う。
気力・霊気が全てだと。
人間社会における財力と同じだ。
金がなければ始まらない。
それと何も変わらない。
金はあればあるだけ良い。
そんなに持っていてどうすんだ、などという事はない。
使い切れないほどあるならその方がよい。
無くて困るよりはよっぽど良い。
使い道が思いつかないほど有る方が良い。
使い道が見つからないなら貯めておけば良いのだ。
無理して使う必要などない。
なんで使う事ばかり考えるのか?
貯めておけば必要な時に使う事が出来る。
元手があれば取りかかりが早くなる。
金はあればあるほど良い。
気力や霊気も同じだ。
無いと困るが、有れば便利なものだ。
実際、今はいくら気力・霊気があっても問題ない。
迷宮の外にいる連中と戦うためには必要だ。
使い道は充分にある。
階層を増やすためにも必要になる。
身の安全のためにも迷宮は強化しなくてはならない。
その為に気力・霊気は必要だ。
持て余すわけがない。
そんな余力があるなら、さっさと階層増加に使う。
並大抵の探索者では攻略できない迷宮になってるとしてもだ。
迷宮もより強力にしておくにこした事は無い。
より大きな脅威がやってきても対処できるように。
これも金と同じだ。
あればあるだけ良い。
これだけあれば充分…………という事は無い。
そんな判断基準はどこにもない。
どれだけ強力な迷宮なら良いのかなんて、誰にも分からない。
ゲームなどと違い、攻略に必要な推奨レベルなんてものはないのだから。
実際に迷宮に入って確かめる以外に方法は無い。
それは迷宮を運営する側も同じだ。
どれだけ強化すれば良いのかなんて分からない。
明確な基準は無い。
知られて範囲で最高レベルの探索者などを参照は参考にしている。
なのだが、それで全てが解決するわけではない。
世間に知られてる情報が全てではない。
より高レベルの存在がいるかもしれない。
人知れず活躍してる者が居るかもしれない。
そういった者がやってきたら対処出来るのか?
対策は充分なのか?
気にしすぎかもしれないが、考えておかねばならない事だ。
世の中、何があるのか分からないのだから。
また、迷宮そのものにも何か問題があるかもしれない。
今のところ、突破されてはいないが、何らかの方法で最下層に侵入されるかもしれない。
そうなった場合に適切な対応がとれるのかどうか。
起こって欲しくない事だが、考えておかねばならない。
なぜなら、起こってほしくない事こそ起こるものなのだから。
それが最悪なら特に。
これだけやっておけば大丈夫だろう、などとトモヒロは思わない。
最低限の備えとして、これだけはやっておかねばとは考えるが。
どれだけ備えても、これで充分となる事はほとんどない。
必ずどこかにやり残しがあるものだ。
気付かなかった漏れや抜けが出てしまうものだ。
だから可能な限り余裕のある状態を作る。
出来るだけ最善を尽くす。
迷宮ならば、まずは階層を増やす。
気力や霊気を手に入れて、より強力な布陣が出来るようにする。
もちろん迷宮の構造を複雑怪奇にする事もその一つだろう。
簡単に突破できない造りというのは迷宮の条件だ。
だが、その為にはやはり気力・霊気が必要になる。
結局ここにいきつく。
元手が無ければどうにもならない。
だからトモヒロは元手を作っていく。
少しでも多く。
手数を増やすために。
やれる事を増やすために。
気力・霊気をためる。
ためて階層を増やす。
単純に地道に繰り返す。
それがトモヒロの迷宮を強力なものにしていく。
まずは身を守るために。
やりたい事をやるには、自分が生きてなければならない。
その為に防衛を強化しなければならない。
何はなくとも、生きていなければならない。
何かをやるためには。
そのやりたい事をやる機会が出来てくる。
迷宮を強化し、出来る事が増えた。
今のトモヒロなら、かなり大きな事が出来る。
かつて出来なかった事も。
それを実行する事を考えていく。
やりたくても出来なかったことをかなえるために。
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