82 分からないものを分かろうとする必要もなく
「考え方が違うからといって排除したのは正しいのか?」というのも似たようなものだ。
迷宮に中における粛正への反発としてどうしても出て来る。
だが、トモヒロからすれば無意味な騒動を起こす者達を残す理由がなかった。
必要性もない。
むしろ、存在させておく事の方の害が大きい。
そもそもとして、問題のある者達を残しておいたら、迷宮の外と変わらなくなる。
様々な意見があってしかるべき、というのは、娯楽殲滅派が跳梁跋扈していた世間と同じでしかない。
それでどうなったのかと言えば、漫画やアニメなどの娯楽が根絶させられていっただけ。
それの何が良いのかトモヒロにはさっぱり分からない。
また、様々な考えや行動を認める。
多様性を保つというのは、トモヒロからすれば最悪の状態でしかない。
つまり、どんな悪人悪党も存在させ、野放しにしろと言ってるのだ。
多様性というのは、結局そういうものでしかない。
それがどんなものなのかをトモヒロは子供の頃から体験してきた。
親に虐待され、同年代の者達に暴行を加えられ、暴言を叩きつけられ。
これが当たり前だという事でしかない。
多様性とはこのような暴虐を許す事でしかない。
そんなもの、認めるべきではない。
問題は排除するべきである。
そして、問題とは起こす人間がいるから発生する。
なので、問題を起こす人間を排除しなくてはいけない。
自分のいる場所からの排除だけで済ませるわけにはいかない。
生きていれば再びやってくる可能性がある。
そうなったら、再び悲惨な事が起こる。
トモヒロへの反発は、こういった問題を呼び込む事にしかならない。
問題を解決する事無く存続させる事にしかならない。
そうなったら、迷宮の外と何も変わらなくなる。
何のために外と隔絶した迷宮の中にこもってるのか?
トモヒロが迷宮を作った理由が無くなってしまう。
こういう事を言う者達は残らず処分した。
それでも、時間が経つと誰かが言い出す。
これで良かったのかと。
「良いに決まってるだろ」
わかりきった答えだ。
トモヒロからすれば何で疑問を抱くのか分からないほどだ。
しかし、分からない者には分からない。
トモヒロと同じ立場や視点に立てない、トモヒロと同等の思考が出来ないからどうしても分からない。
それはトモヒロも分かってはいる。
そんな者達には言うしかない。
「だったらお前が迷宮を作って、そこで思い通りにやれ」
他に解決する方法はなかった。
第一、トモヒロの迷宮はトモヒロの好きに出来る場所だ。
他の者がとやかく言う方がおかしい。
わきまえていて当然のこんな考えすら抱いてないのがおかしい。
その事にすら気付いてない事に、トモヒロもいい加減に頭にきている。
そういった者などさっさと処分するしかない。
さもなくば、自分が自由に采配できる迷宮を作るしかない。
迷宮でなくてもいい、自分の考えや行動で自由に出来る場所を確保するしかない。
その場においてなら、誰が何をしようと自由である。
そういう所で自分の言いたいことをやるなら良い。
トモヒロに影響があるわけではない。
好きにやればよい。
なぜトモヒロにやらせようとするのか?
それが分からなかった。
考えや思いをある程度知る事は出来る。
迷宮の中ならば、相手の内面を覗く事もトモヒロには出来る。
しかし、それでも分からなかった。
トモヒロにやらせようという行動が。
どうしてそうなるのか。
根本的なところでトモヒロと考えが違う。
その違いがトモヒロには理解が出来ない。
ソリが合わないどころではない。
同じ人間でありながら、全く違う思考をしている。
その違いは、同種の存在ではありえないものだった。
断絶と言ってよい。
それよりも大きな違いや差がある。
それを理解することをトモヒロは諦めた。
知る必要もないとも思った。
分かっても何の意味もない。
言い分が分かっても、それが役立つ事はないのだから。
知る事は出来ても、納得する事は出来ない、受け入れられないというべきか。
そんなもののために時間や労力をさいてられない。
それよりも、もう少し建設的な事をしていたかった。
暇潰しをするにしても、もう少し意欲が出て来る事をしたい。
無駄な問答をしかける者に付き合いたくはなかった。
「どうするんだ。
迷宮を作ってそこで好きにやるか。
ここで死ぬか。
選べ」
あれこれ言ってきた者に選択を迫る。
交渉は一切しない。
虐待や暴虐、悪事を働くものと交渉は出来ない。
妥協するべき点が一切ないからだ。
譲歩という事が出来ない連中である。
譲ればそれ以上に踏み込んでくる。
持ってるものを奪おうとする。
そんな連中と話しなど出来るわけがない。
だから徹底的に蹂躙するしかない。
でなければ、生き残る事は出来ない。
娯楽殲滅派がそうであったように。
トモヒロの迷宮に住みながら、あれこれ要求してくる奴もだ。
だから容赦しない。
「どうするんだ?」
目の前にいる者達に選択を迫る。
焦りを顔に浮かべる者達は言葉を失っていく。
自分の迷宮を作るか死ぬか。
どちらを選んでも地獄にしかならない。
今すぐ死ぬか、いずれ死ぬかの二つに一つ。
迷宮を作れば、上手くいけば生き残る事が出来る。
だが、迷宮を育てる事の難しさも彼等も話に聞いている。
上手く成功させられるとは思えなかった。
どちらも選べない。
選びたくない。
だが、選ばねばならない。
トモヒロは容赦なく結果と求めてくるのだから。
「どうする」
答える事も出来ない者達に、トモヒロは質問を重ねる。
「これが最後だ。
どうする?」
これ以上の逃げを認めずに。
この日、トモヒロに余計な事を言った者達は死んだ。
処刑も迷宮作りも選べないまま。
最後まで選択をする事も出来ずに、無意味に死んでいった。
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