81 それでも出て来る問題
トモヒロが見聞きする不満。
そのほとんどがトモヒロのやり方への反発になる。
トモヒロはとりたてて強圧的というわけではない。
それでも何かしら不満を抱く者は出て来る。
ソリが合うか合わないかという程度には。
迷宮での生活が不便というわけではない。
衣食住に困る事は無い。
また、必要最低限の生活しか出来ないわけではない。
贅沢が出来るとまではいかないが、不便はない、そこそこ快適な暮らしが出来る。
特に地下最下層なら、そこそこ良い生活が出来る。
上流階級のような事はさすがに出来ないが。
それでも、一般人の中では快適な部類の暮らしが出来るようになっている。
生きていく上での不便はほとんどない。
さすがに全員の細かい要望をかなえる事は出来ないが。
それでも、衣食住に困る事はない。
こうなると人間、娯楽を求めるものだが、それについても問題はない。
娯楽は住人が自分で作っているのだから。
だとしても今の状態に疑問を抱く者は出て来る。
今のままで良いのかと考える者はどこにでもいる。
的を射てる場合もあるが、そうでない事も多い。
トモヒロのやってる事への疑問を抱く者は、たいてい後者である。
そういった者達の言い分は、だいたい次のようになる。
「外から孤立したままで良いのか?」
「考え方が違うからといって排除したのは正しいのか?」
トモヒロの迷宮が外の世界と断絶してるのは確かだ。
この孤立状態を危険視してる者。
そして、内部においても違う考の者を区画整理のついでに処分した事。
これで良かったのかと考える者。
疑問を持つ者の多くがこういった事を口にする。
一見、もっともに思える考えだ。
だが、致命的な間違いでしかない。
では外との接点があるのが良いのか?
その接点が摩擦と衝突、どちらか一方が死に絶えるまで続く殺し合いであってもだ。
トモヒロの迷宮にやってくるのは探索者と娯楽殲滅派だ。
そのどちらとも妥協点を見いだす事は出来ない。
また、迷宮を危険視・敵視する者達がほとんどである。
迷宮があらわれてからの事を考えれば当然だ。
迷宮と共にあらわれた怪物が世界を荒らし回った。
その怪物が拠点にしてるのが迷宮だ。
そんな迷宮は攻略して破壊するしかないと誰もが考えてる。
話し合いなど出来るわけがない。
ましてトモヒロは漫画やアニメといった娯楽を保護してる。
これらを作ってる者達を招き入れている。
粛正したとはいえ、まだ多くの創作者・制作者がいる。
それらを娯楽殲滅派が許すわけがない。
あの手この手で殺しにかかってくるのは目に見えている。
こういった者達を殲滅しない限り、迷宮の外にいる者達と接触する事など出来ない。
交渉窓口を作る意味がない。
孤立を恐れる者達はここが見えてない。
それでも接点は必要というが。
無駄で意味のないものを作る理由がない。
こういった事を言うのは、交渉が好きな者だ。
結果がどうなろうと、ただ接点があるだけで良い。
無駄で不毛であっても、誰かとの接触を求める。
ある意味、孤独を恐れてる、疎んでる、忌避してるのだろう。
そういう性質なのかもしれない。
いってしまえば気分の問題だ。
そんなものに迷宮の今後を左右されるわけにはいかない。
だからこそ、トモヒロはこういう者達を処断する。
外との断絶は良い事なのかという者を。
完全に縁を切るのはまずいのではという者を。
多少は交渉の窓口を作っておくべきではという者を。
この全てが鬱陶しい戯言でしかなかった。
話し合いが出来るならとっくにやっている。
だが、娯楽を殲滅しようとしてる者とどうやって妥協点を見いだすのか?
出来ないからやらないのだ。
それを強いてくる者など、トモヒロからすれば邪魔でしなかい。
さっさと処分するかしかない。
さもなくば、自分で迷宮を作って好きにやれというしかない。
トモヒロにさせようというのが間違いなのだ。
考えが合わないなら、自分でやれば良い。
それが出来るだけの下地はある。
手間も労力も必要だが、考えた事を実行する場所を作る事は出来る。
そうしないのは、トモヒロにやらせようとしてるからだ。
その横柄さと横暴さ、傲慢さというべき性根にトモヒロは憤りを感じていた。
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