79 ここで生きていくならば
加害者制裁の当日。
その日は、被害者も集められた。
隔離施設として使われた建物の中、加害者が手足を縛られて転がされている。
それらの前には被害者が並んでいる。
手に鈍器を持って。
野球バットに大木槌などなど。
様々な撲殺道具を握った彼等は、目の前に転がる加害者に向かっていく。
「この野郎!」
叫びながら押し寄せ、手にした道具を振り下ろしていく。
この日のために呼び集めた被害者達は、これまでの鬱憤を晴らしていく。
不毛で不当な言い争い。
怒鳴り声などによる威圧。
時に拳や蹴りなどにもよる暴虐。
その全てへの復讐が行われていく。
オタクを集めた地下世界であっても、こういった問題はなくならない。
自分のやりたいことを強行する為にバカをやる連中がいる。
そうした者達の全てが、今ここで報いを受けていた。
何もおかしな事ではない。
袋だたきにされてる者達がこれまでやってきた事だ。
それをやりかえされてるだけである。
むしろ、こうされねばおかしな事である。
暴虐をほしいままにしてきた者達が、何の報いもなく生きている。
これほど邪悪な事があるだろうか?
報復があってしかるべきである。
そうでなければ、暴虐と悪事が延々とまかり通る事になる。
そして、誰かが手を下さねばならない。
天罰などこの世にはないのだから。
因果応報、自業自得の自滅などこの世にはない。
誰かが復讐して初めて暴虐と悪事の清算がなされる。
それを今ようやく為してるのだ。
今になってようやく、と言う方が正しい。
トモヒロもこれまで放置していた事を悔やんでいる。
出来るかぎり騒動はおさめてきていたのだが。
問題の根っこから解決するまでには至ってなかった。
そこまで手がまわらなかった。
迷宮の拡大が最優先だったからだ。
それが一息ついたところで、ようやく内側の問題に取りかかる事が出来た。
問題の一掃にのりだす事が出来た。
この問題を起こす連中の処分にあたり、もう一つ行った事がある。
被害者による復讐だ。
憤りを抱いてる者は数多くいる。
これらの気持ちを晴らさせるために、自分の手による復讐をさせていった。
人間、やられた事をやりかしたいと思うもの。
他の誰かの手によって問題が解決されても欲求不満になる。
出来れば自分の手で片づけたかったと思うのが人情だ。
そんな不完全燃焼な気持ちを無くすためにも、被害者の手による報復をさせていく。
これには問題発見も兼ねている。
中にはこうした報復・復讐を拒否・否定する者もいる。
理由は様々だが、やらかした連中への反撃を忌避する者がいる。
こうした者を見つけて処分する為に、様々なものへの打診をしていった。
報復や復讐を拒むというのは、加害者の行動を黙認してるという事だ。
何をやっても黙って従う。
奴隷としか言いようがない。
そんな連中は暴虐や悪事への加担者だ。
やってる事を止めない、やってる者を排除しない。
そうであるならば延々と暴虐と悪事が行われる。
しかも、こういった者達は反撃や復讐をたいていは否定する。
「そんな悪いことをしてどうする」と。
トモヒロの迷宮に不要な連中である。
悪事を野放しにし、それを止めようとする者達の邪魔をする。
こんな事をしてるから問題が解決しない。
トモヒロの迷宮に問題が延々と残る事になる。
そんな連中を生かしておくわけにはいかなかった。
悪事への報復・復讐・反撃をしない悪党など残しておくわけにはいかない。
この機会に全員処分していく。
まずは加害者への報復を拒否した者達をとらえた。
これの家族なども同様に。
こんな考えをする者達の血筋も含め、何一つ残すわけにはいかない。
子供だけでも助かるなら、となりふり構わず行動する者も出てくる。
自分一人が犠牲になるなら、と行動に出る者も出てくる。
それを防ぐ為でもある。
「お前の言動行動一つで、縁者も全て皆殺しにする」
これがはっきりと分かれば、わざわざ逆らおうという者は消える。
それでも行動に出る者もいるだろうが、まずは大きく抑制出来ればそれでいい。
余計な面倒を迷宮の中で起こさせない。
トモヒロが求めてるのはただこれだけだ。
邪魔になるものはさっさと処分するしかない。
他に方法は無いのだから。
そして、これからの方針も伝えていく。
何をしたら処分対象になるのかを教えていく。
「余計なことをいうな、するな。
そう思えたら処分する」
単純明快だ。
殺す、傷つける、壊すといった分かりやすいものはもとより。
騙しや暴言、挑発などに見える行為も。
疑いのあることは全て処罰対象としていく。
そうでなくても、迷宮の中であるなら、考えて思ったこと全てがトモヒロには分かる。
不穏なことを考えれば、それだけで処罰対象になる。
言い方を変えると、おかしなことを考えなければ良い。
馬鹿げたことをしなければ良い。
普通に生きていくなら何も問題は無い。
問題だと思うのは、こういったことがおかしいと思う者だけだ。
「難しくはないだろ」
普通に生きていれば、誰かを詰っておとしめる事もない。
傷つけたりする事もない。
これらが当たり前になってる方が問題だ。
大多数の人間には問題になる事もない。
「そのつもりで生きていけ」
残った者達にそう告げていく。
言われた方も受け入れていく。
特に問題はないからだ。
普通に生きていれば処分対象になる事はないのだから。
そして処分対象になった者達だが。
被害者達の鬱憤晴らしの道具になったあと、最終処分が行われる。
転移用の魔術・超能力が設置された区域に放り込まれていく。
転移先は迷宮の壁の中。
区域全体が物体で満たされた場所。
その中に放り込まれ、分子や原子の水準で同化していく。
霊魂も迷宮に吸収され、気力・霊気として取り込まれていく。
問題を起こした連中は、最後の最後で迷宮に貢献して消滅していった。
その家族・縁者ともども。
こうして迷宮最下層の区画整理は終わった。
建物や施設も、人も再配置が終わる。
以前より効率的に、すっきりと整理された町並が出来上がる。
同時に、今後の移住者の扱いも変えていく。
基本的に迷宮最下層ではなく、地上の町に人を入れていく。
移住者はまず、そこで生活してもらう。
その中で、人柄を見極めていく。
適切な人間であれば、最下層に居住させていく。
地上でまずは選別していく。
でなければ、また問題のある人間を取り入れてしまう。
処分が面倒になる。
問題も起こるし、そういった者はあらかじめ入れないようにしておきたかった。
また、地上の町でも取り締まりを開始していく。
町の中に紛れ込んでる人間型の怪物などに警戒をさせていく。
問題を起こす者を可能な限り地上で発見していく。
決して最下層に入れないように取り締まる。
トモヒロの迷宮とその周辺に取り決めが出来上がっていく。
明確な基準はないが、おおまかな方針が示される。
やらかした者は処分するという。
これによりトモヒロの迷宮で余計な面倒は減っていく。
やればどうなるかがはっきりしたからだ。
それはトモヒロにとって最善の環境作りになっていった。
完璧ではないにしても、よりよい状態になっていく。
その中でトモヒロは、新たに出来上がってくる漫画やアニメを楽しんでいった。
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