7 情け容赦のない人間という生き物
探索者の容赦のなさ。
それはトモヒロも理解している。
自身が探索者として活動してきたからだ。
迷宮と怪物出現で混乱した世の中である。
まともな就職先などあるわけがない。
優れた能力を示すか、人脈でもなければ、一般的な仕事に就くことが難しくなっている。
そんな世の中で、探索者は常に人員の募集がかかる仕事だった。
当然、ここに流れ込む者は多い。
子供の頃からの虐待、育児放棄。
同年代の者達からの暴行・傷害・恐喝など。
これらにさらされ、ろくに勉強も出来なかったトモヒロもその一人だ。
もとより凡人で能力もたいしたものではない。
そこに加えて、まともに勉強も出来ない環境だったのだ。
否応なしに落ちぶれるというもの。
そうして流れついた探索者界隈は地獄だった。
強くなければ生きていけない稼業だ。
強い者がもてはやされる。
人格・人間性がかえりみられることはない。
悪い意味での弱肉強食だった。
弱い者は同業の探索者でも虐げられる。
強ければ、それらに何をしても良いとされている。
警察なども介入してこない。
迷宮・怪物退治の者達だ、下手に手を出してへそを曲げたら面倒になる。
そうでなくても、迷宮探索で強くなってる。
経験値を使ってレベルをあげれば、生身でもかなりの強さを持つ。
それを無理して取り締まろうとはしない。
治外法権扱いして放置している。
そんな探索者だけに、態度も柄も悪い。
迷宮探索も、どちらかといえば蹂躙といってよいものだ。
新たに迷宮の主人となった人間に対してもそれは変わらない。
迷宮なんだから破壊すれば良い。
そんな単純な考えで迷宮の主人になった者を殺す。
命と連動してる核玉を奪い、命を奪う。
それを何とも思わない冷酷さの持ち主ばかりだ。
そんな連中がこれからやってくる。
これから、そんな連中と戦わなくてはならない。
容赦など出来るわけがなかった。
殺さなければ殺されるのだ。
勝たねば殺されるのだから、トモヒロも殺しにかかるだけだ。
そして、そんな連中が相手だから長生き出来るとも思わない。
いつかどこかで殺される事も覚悟している。
それを避けられるとは思ってない。
だから、それまで楽しく生きられればいいと思っていた。
諦観にも似た悟りを開いてる。
それでもかまわなかった。
少しでも世間と縁を切れるのならば。
ろくでもない人生を歩んできたから、世の中に何も期待していない。
だとしても自殺しようなどと思ってない。
死んで楽になるなどとは思わない。
生まれてきたこの世で精一杯楽しむ。
面白いと思うことをしていく。
それをしないで自殺などしたくはなかった。
自殺に追い込む奴がいたとしてもだ。
それくらいならば、自殺に追い込む連中を殺して生きていく。
その方がマシである。
なんで自分を苦しめた奴を生かしておく必要があるのか?
どうして自分を苦しめた奴に殺されねばならないのか?
ただ、そこまでの力もない。
残念ながら自分を追い込んだクズを掃討出来ない。
このあたりがトモヒロの限界だ。
なので、迷宮の中で少しでも長生きする。
鬱陶しい連中のいない場所で少しでもよりよく生きていく。
その為にも、死ねなかった。
いつか殺されるまでは。
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