57 文字通りに行く手を阻む壁
階段の先にある地下20階は、壁だらけだった。
区域を区切る、扉のない壁。
それが目に飛び込んできた。
透視・遠視を用いてその先を見る。
そこには、区域ごとに区切られた壁がひろがっていた。
わかりやすい造りだった。
下への階段まで行くには転移するしかない。
ただそれだけだ。
途中に特におかしなものはない。
ただ、霊気を消耗する。
それだけが嫌みったらしい。
ここに来るまで強行軍をしていれば、霊気もかなり消費してるだろう。
転移に必要な霊気が残ってない場合もありうる。
なので、ここで一旦帰還しなくてはならなくなる。
そうでないなら、転移で一気に進める。
この迷宮にしてはひねりの少ない構造だ。
いっそ楽とすらいえる。
何か仕掛けがあるんじゃないかと思うほどだ。
しかし、仕掛けらしい仕掛けはない。
転移で一気に飛んでいける。
娯楽殲滅派は下の階段のある区域まで転移していく。
特に妨害される事もなく、21階へと続く階段にたどりついた。
「…………」
下に続く階段。
その前で娯楽殲滅派は足を止めた。
ここから先に進んで良いものかどうか。
それを考えてしまう。
進めばどうせろくでもないものが待ってるのだろうし。
急いで進みたいとは思わない。
だが、先に進まねばならないのが使命である。
この迷宮の最下層に到達し、核玉を破壊しなくてはならない。
その為にやってきてるのだから。
「行くか」
「おう」
「そうだな」
「はいはい」
いやいやながら進んでいく。
階段を下りた先に何があるか考えたくもなかった。
しかし予想に反して21階は簡素な造りだった。
あるのは、上下をつなぐ階段のある区域。
その隣に下に続く区域がある。
この2区域しかない。
拍子抜けするほど単純な構造だ。
本当にこれだけかと思い、透視や遠視も使う。
すぐにここ以外に部屋がない事が分かる。
地下21階層は、上下をつなぐ手段だけが存在する、非常に簡単な構造だった。
ただ、下に向かう手段が問題だった。
それは滑り台状になってる。
そこに入れば、強制的に下層に向かうことになる。
行けば確実に下の階層に向かうことになる。
階段で上に戻るという事ができなくなる。
下った先に何があるのか分からない状態では警戒するしかない。
透視と遠視を使って下の様子を探る。
探知出来る限界まで見ていく。
そのおかげで分かる事があった。
「これ、滑り台がずっと続いてる」
地下21階から先、その下はずっと1区域だけの部屋が連なっている。
連結された滑り台が下の階に、その更に下の階に続いている。
透視と遠視で見渡せるところまでずっと。
最低でも十数階層はそのようになってる。
「どうする、行くか?」
さすがに誰もが考える。
この先何階も下る事になる。
その先に何があるのか分からない。
そこに無理して踏み込むのかと。
さすがに全員、難色を示した。
今までが今までだ。
何も考えずに進んだら、とんでもない事になりそうだった。
「一度戻ろう」
誰もがそう思った。
普通に出向いてこれるのはこの21階まで。
その先はどうなるか分からない。
下手したら、行った先で死ぬかもしれない。
そうなる前に一旦戻って報告をした方が良い。
誰もがそう考えていた。
それに、ここに来るのも大変だ。
転移で一気に飛ぶなら面倒を避ける事もできる。
その為にも、地下21階の様子を知ってる者が必要になる。
そういった者を増やすためにも、転移が使える者を何人か連れてきた方が良い。
でないと、悲惨な努力をまた繰り返す事になる。
なので、ここで一旦帰還していく。
更に下に向かう為の準備をするために。
脱出の魔術・超能力で一気に外に出る。
帰還した彼等は、迷宮の事をすぐに報告。
転移出来る者を集め、再挑戦が簡単になるように申告していく。
話を聞いた者達も、早速それを仲間に伝えていく。
転移能力を持つ者を集め、迷宮の下層まで行ける者を増やすために。
さすがにすぐに人を集める事はできない。
どうしても2日か3日はかかってしまう。
その間はトモヒロの迷宮を攻略するのを休む事になる。
それならばと他の迷宮に出向いて怪物退治に勤しんでいく。
このところ、怪物を倒せてないので儲けがない。
このままでは生活に支障が出るので、少しは稼ぎを作っておかねばならない。
トモヒロの迷宮に突入してる時も、何度かこうして他の迷宮に出向いていた。
生活費と活動費用を手に入れるためだ。
他の迷宮で稼いで、漫画・アニメを放出するトモヒロの迷宮攻略の費用にしている。
こうした涙ぐましい努力をしてまで、娯楽殲滅派は迷宮を攻略しようとしていた。
そこまでする必要があるのかどうかも分からなくなりながら。
そうして他の迷宮の攻略をしつつ。
集まってきた者達を地下21階まで案内し、転移をする下地を作っていく。
トモヒロの迷宮攻略を少しでも進めていけるように。
どこかで途切れたりしないように。
最初からやり直しにならないように。
これらにも数日ほど費やしていく。
転移で先に進める者を増やすために。
それが終わってから21階からの滑り台に向かっていく。
地下に向かう一方通行の進入路。
通称、滑り台。
それは一方通行の壁と同じく、通り過ぎると上に戻る事が出来なくなる。
そうした仕掛けのために、飛び込むのには勇気や度胸がいる。
先に進めば戻ってこれなくなるのだから。
たとえ脱出の魔術・超能力があったとしても、これは怖い。
しかし、進まなければ攻略も出来ない。
戻ってこれない可能性。
それを覚悟して踏み込んでいく。
この迷宮に集まった者達の中では最強の精鋭が突入していく。
総勢6人が滑り台に入っていった。
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