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54 ここに来てボーナスタイムなのかと思ったが、そんなわけがない

 17階を進む娯楽殲滅派。

 警戒しながらの侵攻。

 きっと何かがあるという確信にも似た予想を抱きながら。



 これまでがこれまでだったのだ。

 警戒して当然だろう。

「どうせ、ここも何かあるはずだ」

 そう呟く彼等の考えは正しい。

 全く何もないと考える方こそ危険だ。



「今度はどんな手で来るんだろうな」

「さあな」

「何も無いのが一番だよ」

「そんなのあると思うか?」

「いや、全然」

 そんな事を言いながら進む。

 気分は最悪だった。



 そんな彼等の予想は正しかった。

 この17階にも罠はあった。

 ただ、方向性は逆だった。



「……なあ」

「おう」

「なんかさ、こう」

「なんだ?」

「身体が軽くないか?」

「そうだな」

 歩いて進むごとに彼等の調子は良くなっていった。



 体力や気力が回復していく。

 歩いて進むごとに焦燥や憔悴が消えていく。

「これ……」

「回復空間だな」

 迷宮にある不可解な機能の一つだった。



 回復空間。

 文字通り、怪我や疲れなどを消していき、体調を回復させていく場所。

 命がけの戦いを強いられる迷宮にあって、不可解な場所だった。

 殺しにかかってくるのが当たり前の場所に、なんで回復のための場所があるのか?



 怪物が利用してるならまだ分かるのだが。

 そういうものでもないとも言われる。

 あまりにも探索者に有利な場所。

 これもまた迷宮の不思議の一つだった。



 だが、その機能はありがたい。

 体力や気力、霊気が回復して困る事は無い。

 娯楽殲滅派達も恩恵はありがたくいただいていく。

 今になってどうしてこんなものを設置するのかと疑いながら。



 その意味はすぐに分かった。

 体調も霊気も完全回復し、全てが万全になる。

 これはありがたいと先に進んでいく。

 だが、それがだんだんと意識がおかしくなる。



 気分がどんどんと昂揚していく。

 完全回復してなお霊気などが流れこんでくるのだ。

 それらが様々な作用をもたらしていく。

 気分が高ぶるのもその一つだ。



 体力が漲りすぎていく。

 身体の各器官が必要以上に稼働していく。

 血管を流れる血液がいつも以上に早く流れていく。

 細胞が普段以上に活動していく。

 新陳代謝が異様に加速していく。



 その全てが本来の機能以上の能力を働かせていく。

 本来の能力上限以上の能力を発揮していこうとする。

 当然、身体も心も霊魂もそれに耐えられるわけがない。



 人間の持ってる能力。

 備わってる器、許容量。

 それらを超えてあふれる霊気などのエネルギーが身体の中で暴走していく。



「まずい!」

 即座に彼等は察知した。

 今、自分達がどうなってるのかを。

 このままでは身体がもたないと。

 風船が限界以上に膨らんで破裂するように、自分達も崩壊すると。



「逃げろ!」

 気付いた者から叫ぶ。

「ここにいると死ぬ!」

 即座に誰もが近くの階段を目指そうとする。

 だが、歩いていては間に合わないのもすぐに理解する。

 加速した思考能力がすぐに答えを見つけていく。



 ならば魔術・超能力で、と思うがそれも使えない。

 この階層は魔術・超能力が使用不可能になっている。

 やれるのは、脱出の魔術・超能力で迷宮の外に出る事だけ。

 ここに来てそれは、という思考が頭をよぎる。

 だが、躊躇っていれば身体が崩壊する。



 それを避けるには、即座に脱出するしかない。

 あるいは、もう一つの方法を使うしかない。

 膨大なエネルギーで底上げされた能力が、答えを導き出す。

 それを彼等は躊躇わずに実行していく。



 手に持ってる武器。

 それで己を傷つけていく。

 腕を、足を切り裂き、腹に刃を突き刺す。

 痛みを当然おぼえる。

 だが、出来た傷はすぐにふさがる。

 流れ込んでくる霊気などのエネルギーによってすぐに身体が修復される。



 あふれるほどの大量のエネルギーを、そうやって消費する事ができる。

 身体にかかる負担が一時的に減る。



 身体を傷つけ続ける事。

 それが、この階層を突破するもう一つの方法だった。

 流れ込んでくる膨大なエネルギーを、これで一気に消費していく事ができる。



 ただ、常に自分を傷つけ続けねばならない。

 傷はすぐに塞がる。

 致命傷になるほどのものでもだ。

 だから常に自分を破壊し続けねばならない。

 それほど膨大なエネルギーが流れこんでくる。

 身体の傷を簡単に塞ぐほどの霊気がだ。



 異様な光景だった。

 自分を傷つけながら進むのだから。

 やらねば死んでしまうが、その為に死ぬほどの傷を自分につけていく。



 逆手にもった刀剣を自分に突き刺し続けながら進む。

 ナイフで体中を突き刺しながら進む。

 修復に時間がかかる重要部位を破壊しながら進む。

 凄まじい痛みをおぼえる。

 だが、誰もやめようとはしない。

 やめたらそれこそ死ぬからだ。



 そうしながら先へと進む。

 身体が暴走するほど回復したのは、全体の半分を超えたあたり。

 戻るより、先に進んだ方が良い。

 その為、自分に苦痛を与えながら先に進む事になった。



 最悪だと誰もが思った。

 回復手段として重宝するはずの場所。

 それがこのような凶悪な罠になるのだから。

 しかも、進むために自分を傷つけねばならない。

 それでも即座に回復するから、何度も何度も自分を傷つける。



 必要以上の回復、流れ込むエネルギー。

 これらが害にしかならないと知った。



 膨張しそうなほどのエネルギー。

 それを逃すために行う自傷行為。

 この二つに苛まれながら、娯楽殲滅派は先へと進んだ。



 そんな彼等の前に階段が見えてくる。

 すぐに突入するのは危険と思いながら、彼等はそこを駆け下っていく。

 限界ギリギリのところで荒れ狂う身体の中のエネルギーから逃れるために。

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