53 普通に進ませてくれないのが迷宮ではあるが
13階。
ここは階層全てに水がはられていた。
ただそれだけで、水が毒だとかいう事はない。
しかし、進むには潜水器具か魔術・超能力が必要になる。
娯楽殲滅派達は魔術・超能力で水中呼吸が出来るようにして進んでいった。
14階。
ここでは床一面に粘液があふれていた。
粘着力が強く、一歩一歩進むのがつらい。
足に接着剤やのり付けされてるようなものだ。
足を剥がせないほど粘着してるわけではないが、一歩一歩が辛い。
それを覚悟で歩いていくか、浮遊していくか。
はたまた転移していくか。
浮遊を選んだ娯楽殲滅派達は、足下の粘液を憎々しい目でにらみながら進んでいった。
15階は少しばかり脅威だった。
全体に霧が覆っており、視界が悪い。
とはいえ、全く見通しがきかないわけではない。
通路も今まで通りに一直線に進んで折り返すもの。
歩く距離が長いだけで、特に何か変わった構造をしてるわけではない。
だが、この霧に問題があった。
腐食性の物質なのだ。
人体に悪影響が出るほど危険ではない。
だが、武器防具などの物品には効果がある。
金属はさびるし、布や革などは腐っていく。
これを避けるためには、風の魔術・超能力によって霧を吹き飛ばすしかない。
それか、ある程度の威力を持つ防護膜の魔術・超能力で身を守るか。
どちらにしても、それなりの消耗は避けられない。
今回、娯楽殲滅派は風を周囲に張り巡らせ、霧を拡散していった。
そして16階。
ここも一直線に伸びて、奥で折り返すというのを繰り返す長い通路。
一見して特に変わったところはない。
だが、進んでみて分かった。
ある地点まで進むと、強制転移で元来た道に戻ってしまう。
気付かなければ、同じ場所を延々とくり返し進む事になる。
強制転移はその瞬間に浮遊感というか、独特の感覚を味わう。
だから自分達が転移してる事に気付けた。
すぐさま現在地を確かめようとしたが、これは失敗に終わる。
事前に分かっていた事だが、16階では魔術・超能力が使えない。
なので、現在地を把握する事ができない。
やむなく一旦帰還し、翌日に探索をする事にした。
16階の攻略のために、直前の15階の階段の上で待機する。
下りればすぐに16階だが、すぐには進まない。
まず、ここで透視・遠視をして、16階の終点を見つける。
そして、転移で一気に終点に移動。
そのまま17階へと向かった。
「なんとかここまで来たな……」
17階に向かう階段の前。
娯楽殲滅派はうんざりした顔をして先を見下ろした。
意気揚々と進む意欲などない。
目に力は無く、疲労をあらわすようにクマができている。
顔もどこか痩せこけた印象がある。
実際に体重が減ったとかいうわけではないのだが。
だが、疲れていた。
体力的にではなく精神的に。
気力がごっそりと削られていた。
戦闘もない、致命的な罠もない。
避けて通ろうと思えば通れる程度の障害しかない。
霊気吸収はさすがにこたえるものがあるが。
それでも、死に至らしめるような凶悪な罠は無い。
だが、疲れてしまう。
一つ一つはちょっとした障害でしかない。
だが、それによって体力を奪われ、気力を削られ、時間を浪費させられる。
それを避けようと思ったら、転移など霊気を消費する手段を使うしかない。
それか、便利な道具を用意するか。
手に入れるために金を使い、持ち込むため引っ張ってこなければならないが。
こうした手間がかかりすぎる。
それが連続する事で、とてつもない疲労感をおぼえていく。
なんでこうなってるんだと思うくらいに。
おそろしい事に、ここまで一階も怪物に出会ってない。
戦闘は全くしていない。
本来ならありがたい事だ。
だが、怪物を倒す事で手に入る報酬がないのは既に述べた通り。
おかげで、探索の見返りが一切無い。
ひたすら労力を注ぎ込むだけになる。
疲れていた。
とにかく疲れていた。
娯楽殲滅派の者達はただただ疲れていた。
なんでこんな事してるんだ、と思うほどに。
これがこの先どれだけ続くのかと思うほどに。
それでも引き返さないのは、確固たる信念や主義主張があるからだ。
漫画やアニメといった娯楽を拡散する原因になってるのがこの迷宮だ。
これを放置するわけにはいかない。
そんな思いや意思が彼等を動かしている。
だが、それでも疲れていた。
気力はなくなり、注意力も落ちる。
集中力などあるわけもない。
表情はうつろで、明確な思考や意思など感じられなくなる。
ゆらがない理由があるとしても、成果が得られなければ人は摩耗する。
ここまでやってきた娯楽殲滅派はそういう状態だった。
強いて成果をあげるなら、到達した階層くらいだろうか。
なんとか16階を突破し、これから17階に入ろうとしている。
ここまでやってきたのは確かな成果だ。
しかし。
それに何の意味があるのか?
意識するかしないかは別として、ここまでやってきている娯楽殲滅派にはそんな思いを抱いていた。
確かにここまでやってきた。
しかし、それに何の意味があるのか?
どんな成果になってるというのか?
怪物退治の成果報酬もない。
日々の活動に必要な費用は自腹の持ち出し。
それでいて、到達したのはようやく17階。
迷宮周辺の変化などから推測される迷宮の深さを考えれば、この程度ではまだまだ序の口にも到達してないと考えられる。
最低でも1000階層はあると考えられてる迷宮だ。
そんな迷宮の、たかだか17階である。
攻略は進んでいるが、確固たる成果と言えるかどうか悩ましい。
ここにたどり着くまでに費やした労力を考えると、更に気力が萎えていく。
これからも同じくらい辛い思いをするのかと思うとだ。
それが1000階と推測される迷宮全てで行われるのだ。
ため息も出るというものだ。
そんな萎えかけた気力を奮い起こして、娯楽殲滅派は進む。
進まねば目的を達成する事はできないからだ。
そんな彼等が進んだ17階。
そこも今まで通り直進通路と折り返しによる長距離移動を強いる構造だった。
見て分かるような罠はない。
しかし、警戒しながら娯楽殲滅派は進む。
どうせ何か仕掛けられてると思いながら。
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