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49 5階もまた不快でしかない場所だった

「ようやくだな」

 ゴキブリをまといつかせた探索者達は、4階の最後の区域に入る。

 そこには下に続く階段があった。

 これでこの階層から抜け出せると思った彼等は、ゆっくりと慎重に下におりていった。



 その途中でゴキブリが身体から剥がれていく。

 階層をまたぐ事はできないようで、ゴキブリとはこれでお別れだ。

 その事に探索者達は胸をなで下ろす。



 しかし、それも5階に入るまでだった。

 階段を下りて5階に入った者は、すぐさま苦しげに悶えていく。

 そして、階段を戻って4階に。

 再びゴキブリにまとわれながら、大きく肩で息をしていく。



「どうした?」

 尋ねる仲間に、大きく息をする者はゆっくりと答える。

「駄目だ、下はここより酷い」

「なにがだ?」

「臭いだ」

 予想外の答えだった。

「この下は、とんでもなく臭い」



 その言葉の意味を他の者達もすぐに理解する。

 5階に入った途端に凄まじい臭気が鼻を突き刺す。

 それは臭いを通り越し、痛いとすら思えるものだった。

 あわてて全員が4階に戻っていく。



「なんだありゃ」

「すげえ臭いだった……」

「あの中、通っていくの?」

 ゴキブリにまとわりつかれながらそんな事を言う。

 とにかく酷いものだった。

 ゴキブリが気にならなくなるくらいに。



 異様な臭気。

 それは耐えがたいものだった。

 その中を突破するのは難しい。

 我慢して進むのも不可能だ。

 それが出来るならば、4階に戻ったりしない。



「とにかく、一旦戻ろう」

 リーダーはそう言って帰還の魔術・超能力を使っていく。

 他の者もそれにならう。

 さすがに対策もなしに進む事はできない。

 身を以て知った事だ。

 無理して突破するには、鼻への刺激が強すぎる。



 そうして戻った者達は、即座に5階のもう一つの問題に直面する事になる。

 迷宮の出入り口の周辺にいた者達が一斉に顔をしかめたのだ。

「なに、これ?」

「酷い臭いだ」

 それを聞いて帰還した者達は察する。

 臭いがついてる事を。



 蚊にしろゴキブリにしろ、それらは迷宮で生きるものだ。

 外に出る事はない。

 だが、染みついた臭いは別のようだった。

 生物ではないから、探索者についていく。

 外に出ても周囲に異臭を突きつける事になる。

「…………やってくれる」

 迷宮を作ったものの底意地の悪さをあらためて感じていった。



 染みついた異臭は簡単にはとれなかった。

 洗剤で洗い流してもだ。

 やむなく消臭剤やら魔術・超能力などを駆使する事になる。

 どうにか問題の無い程度に落ち着くまで時間がかかった。



 ただ、異臭がとれても問題は解決してない。

 耐えがたい異臭の中を突っ切らねばならない。

 それをどうやって解決するかだ。



「酸素ボンベとか持っていくしかないか。

 それか、防毒マスクを使うとか」

 解決方法はそれしかなさそうだった。

 ただ、そうなるとかなりの装備が必要になる。

 もし3階や4階と同じように、長い通路になってるなら、通り抜けるだけで結構な時間がかかる。



「時間短縮のために、身体強化で移動速度をあげるか?

 それか、転移で一気に移動するとか」

 今現在の有力な解決方法はそれくらいしかなさそうだった。

 どちらも消耗が大きい。

 だが、酸素ボンベなどを持ち込むのも手間がかかる。



 そもそも、3階と4階を通過する時にだって、酸素ボンベを持ち込んでる。

 気密性の高い防護服に空気穴はない。

 下手すればそこから虫が入り込むかもしれないのだ。

 密閉性を高めるために、酸素ボンベなどの手段をとってる。

 第一、目の細かい網などを使った場合、虫で塞がれる可能性もある。

 安全性を考えると、どうしても空気を別に用意した方が良いとなった。



 その酸素ボンベを更に追加するのか?

 だとすると、持ち込むだけで大変な労力になる。

 現実的とは言いがたい。

 運搬要員を専用で用意するならともかく。

 そこまで人手が余ってるわけでもない。



「もう、ここまで来たら転移した方がよくないか?」

 誰もがそう思い始めた。

 霊気を用いた瞬間移動。

 これが一番良いのではないかと。



 霊気を節約するために、移動は出来るだけ足を使っていた。

 しかし、こうも労力が大きくなると、それも考えなおしていく。

 時間を節約し、疲労を少なくするなら、転移をした方がまだ良い。



 ただ、転移をする場合、目標地点の状態を可能な限り正確に知っておく必要がある。

 一度行った場所であるのが一番良い。

 それが無理でも、例えば望遠鏡で覗いたりして、少しはその場がどうなってるか分かってる事。

 写真などでも良いから、そこの情報や情景が多少は分かる事。

 魔術や超能力の透視・遠視でも良い。

 これらが転移の成功率をあげる。



 全く何も情報がないと、何処に飛ぶのか分からない。

 転移が発動しないならまだ良いのだが。

 下手すると、何処へともなく飛ばされる事もある。

 実際、そういった事故も起こってる。

 特に目標を定めずに転移の魔術・超能力を使って、空の上に放り出されたり。

 海中深くにあらわれたり。

 中には何処に行ったのか分からない者も居る。

 冗談交じりに、土や壁の中に飛び込んだのでは、とも言われている。

 あるいは、この世界とは別の異次元・異空間、異世界とも。



 とにかく、情報が無い場所に行くのは危険だった。

 幸い、今なら4階の最後まで転移は可能だ。

 その先に進むには、一旦5階を突破しなければならないが。



「透視と遠視を使える奴をつれていけないか?」

 打開策としてこれも提案されていく。

 5階を突破するのもかなり大変だ。

 ならば、最初から転移で瞬間移動をする事を考える。

 転移が出来るほどの魔術・超能力を使えるものなら、大抵は透視・遠視の魔術・超能力も使える。

 そういった者に奥まで運んでもらうのだ。



「でも、協力してくれる奴がいるか?」

 これが問題である。

 転移を使えるのはそれなりにレベルを高めた者だ。

 そんな探索者はそう多くは無い。

 頼むとなると、相当な謝礼を用意する必要がある。



 仲間の、つまり娯楽殲滅派にそういう人材がいれば良いが。

 それにしても、頼むとなれば簡単にはいかない。

 謝礼などは必要ないにしても、相手の都合に合わせる必要がある。

 これも当然だが、高レベルの探索者はそう暇ではない。

 様々な迷宮の攻略に勤しんでるのが普通だ。



 残念な事に、この迷宮に来てる者達にそこまで高レベルの者はいない。

 あと幾らかレベルをあげればどうにかなるのだが。

 そのレベルをあげようにも、この迷宮には怪物がいない。

 倒して経験値を得る事ができない。



「つくづく嫌な迷宮だな」

 口がこぼれていく。

 意地の悪い醜悪な造り。

 実害はないが生理的な嫌悪感を抱かせるものがうごめいている。

 それでいて報酬になるようなものは一切無い。

 頑張っても得られるものがない最悪の迷宮だ。



 それでも放置は出来なかった。

 このままでは漫画やアニメなどが出回ってしまう。

 娯楽を殲滅しようとしてる彼等にとって、それは見過ごせない出来事だ。

 その根源となってる目の前の迷宮はどうあっても攻略しなければならない。



 個人的な意思や意地だけではない。

 主義主張や思想といったものによる使命感が彼等をつきうごかす。

 それはもう、いっそ宗教的とすら言えた。



 その使命感に従い、彼等は迷宮に挑んでいく。

 攻略方法を考えながら。

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