48 耐えるに耐えた4階を突破
探索者達の突入は続く。
トモヒロの迷宮を攻略しようと息巻いている。
精力的に突撃し、なんとか階層を突破しようと努力している。
だが、その全てが無駄に終わっていく。
空回りというか。
やる気があるのは分かる。
しかし、やる気だけしかない。
攻略のためにどうすれば良いのか考えたりしない。
そのせいで、攻略はほとんど進んでない。
普通、攻略が行き詰まってるならやり方を考えるものだ。
打開策はないか、何か用意した方が良いのではないかと。
そうして適切な方法を探して発見し、迷宮を攻略していく。
これが普通である。
少なくとも、トモヒロはそうしていた。
死ぬことなく生き残ってる探索者もだ。
しかし、娯楽殲滅派にそういった考えはないようだ。
失敗してるにも関わらずやり方をあらためない。
同じ事を繰り返していく。
相も変わらず突進しては返り討ちにあっている。
全員、3階の蚊の集団によって全身を噛まれている。
血を吸われた跡が膨らんでいる。
それが全身のあちこちに出来ている。
さすがにこれはまずいと思ったのか、一部が防護服を着込むようになった。
何十回と失敗を繰り返してやっとだ。
それが突入する探索者達の考えによるのが切ないものだが。
防護服の装着は娯楽殲滅派の上層部の指示によるものではない。
このままではらちがあかないと判断した者達が自主的に購入したものだ。
誰も用意しないから、自腹で購入したのだ。
おかげで、装着してる者は少数である。
ほとんどの探索者は防護服など身につけてない。
この為、探索者の大部分は2階の暗闇で足留めされる。
3階に突入できるのは、防護服を着込んだ者達だけ。
その数は本当にわずかだ。
全部で6人。
かつて調査にやってきた者達より少ない。
そのごく一部が3階に突入していく。
彼等は防護服に守られながら先へと進む。
蚊だらけの蛇行した道を通り、下の階層を目指す。
報告書通りで備えがあればさほど怖くは無い。
ただ、面倒で手間がかかるだけだ。
4階もそれは同じだった。
非常に気持ちが悪い。
だが、それだけでしかない。
強いて問題をあげると、気密服に食いついてくる事だろうか。
かじられて表面が削れる。
これへの対策が必要ではある。
救いなのは、特別でも何でも無い普通の虫であることだ。
殺虫剤で簡単に死ぬ。
おかげで道を開くのはそう難しい事ではない。
そもそも、足留めにもなってない。
床はおろか、天井も壁も覆い尽くす程多いだけ。
更に多くが宙を舞うというか、羽音をたてて多くが飛んでいるだけだ。
それらは視界を塞ぐが、障害になるわけではない。
水の中を進んでるような抵抗は多少はある。
前に進む度に身体のどこかに飛び回ってるのが当たる。
しかし、全く進めないわけではない。
怖いのは、視界が塞がれる事で罠に気付く可能性が減る事くらい。
それに気をつけていれば、さほど危険は無い。
それが分かった娯楽殲滅派の一部は、より強化した防護服を用意する。
かじられても削られないような頑丈な素材を表面にはる。
入り込まれるような隙間を無くし、安全性も高めていく。
来てる服の中にゴキブリが入り込んだら大変な事になる。
死ぬことも、手痛い負傷をする事もないだろうが。
それでも、おぞましい事この上ない。
そうならないようにだけ注意をしていく。
準備が出来たら探索者達は4階に再度突入していく。
殺虫剤を振りまき、視界を少しでも確保しながら。
4階の造りは3階と同じだ。
一直線に伸びる道が、奥で折り返しになっている。
縦横20区域を最大限に歩かせるような形をしている。
その間、ゴキブリがはびこる道を歩く事になる。
気分は悪くなるが、問題はそれだけしかない。
殺傷能力のある罠があるわけではない。
混乱や発狂を促すような精神的な罠もない。
ただひたすらに嫌悪感を高めるようなゴキブリの群れがいるだけだ。
「性格悪いな」
この迷宮を作ったものへの素直な評価を口にする。
そう言いたくなるような場所だった。
その嫌悪感を高めるのが、足から伝わってくる踏み潰した感触だ。
一歩進むごとに、床を這いずり回ってるゴキブリを踏んでしまう。
靴越しとはいえ、あまり気持ちの良いものではない。
そんなゴキブリを少しでも退散させるために殺虫剤を振りまいていく。
その瞬間だけ、視界と道が少しだけ開ける。
すぐに元に戻ってしまうが。
それでも探索者達は殺虫剤を使っていく。
前に進むためではない。
少しでも嫌悪感を排除するために。
こうした虫を一気に処分する為に、一度炎で焼き尽くしてみようともした。
魔術や超能力で炎を発生させたり。
なんなら、火炎放射器を調達しようという話も出た。
もっとも、火炎放射器を手に入れるのは難しい。
迷宮が一般的になっても銃刀法などは健在だ。
武装は簡単にはできない。
ただ、とにもかくにも試してみる必要はある。
比較的簡単に扱える魔術や超能力でどれほど効果があるのかを見ていく。
苦労して調達して、やっぱり使えませんでした、では話にならない。
無駄なものを手元においておく余裕は無い。
なので、霊気を消費するだけで良い魔術・超能力で試していく。
これなら調達費用も手間もかからない。
そうして試してみたのだが、効果はあまりない。
確かに広範囲にわたって、蚊もゴキブリも処分出来る。
それこそ念を入れて、1区域全部をまず燃やし尽くした。
しかし、殺してもすぐに別のところから押し寄せてくる。
どれだけ燃やしても、すぐに補充される。
効果がないとはいわないが、虫を全部処分するとなるとかなりの時間がかかる。
火炎放射器などを用いても結果は同じだろう。
燃やしたそばから押し寄せる。
そもそも、燃料が長続きしない。
持ち込むのも手間がかかる。
それならば虫の中を突っ切る方がまだ簡単だった。
気持ちの悪さに耐えるだけだから。
そうしてなんとか先へと進む探索者達。
幾分頑丈にした防護服の効果は大きく、問題なく先へと進める。
下に続く階段までどうにかたどり着けた。
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