47 順調に難航していく迷宮探索
迷宮攻略は簡単には進まなかった。
1階と2階はどうにかなる。
手間と面倒がかかるだけだからだ。
道筋がわかればそう怖いものではない。
少しばかり手間ではあるが、3階までは簡単に進める。
問題なのは3階からだった。
事前の情報通りに蚊が飛び回ってる空間。
そこに娯楽殲滅派は飛び込んでいく。
そして、すぐに退散していく。
彼等が予想してるよりも遙かに多い蚊。
それらが一気に襲いかかり、血を吸いだしていく。
全身から耐えがたいほどの痒みが起こっていく。
あわてて2階に逃げ込み、あるいは魔術・超能力で脱出していく。
最初の一歩目を失敗に終わらせていく。
娯楽殲滅派もバカでは無い。
事前の情報からある程度の防備は考えていた。
ただそれは、厚手の服や手袋などをしていく程度。
そこに防虫スプレーをふりかけ、携帯用の防虫器具を取り付ける程度だった。
これが蚊が飛び回る時期の野外なら充分だっただろう。
しかし、視界を妨げるほど大量の蚊を撃退する事など出来るわけがない。
今となっては古い記録だが、そこに書かれてる防護措置を舐めた結果である。
「ここまで必要ないだろ」
「大げさだな」
と勝手に判断して、簡単に手に入る程度の防護でおさめようとした。
その結果、即座に撤退する羽目になる。
しかも、同じ事を二度三度と繰り返す。
突入して酷い目にあった者達が進言しても聞き入れようとしない。
「馬鹿な事を言うな!」
「そんなこと、ありえるわけがないだろ!」
そういって、統括・指揮を執る立場の者達は上がってくる意見を排除した。
これは、指揮を執る者達が現実を見てない、というわけではない。
起こってる事実を無視してるのは確かだが、他にも理由がある。
実際に作業をする者達が、仕事から手を抜くためにいい加減な事を報告する事が多いからだ。
終わってもいない作業を終わったといい。
うわべだけととのえて、実際には機能しない状態で終わらせたり。
こういった事が過去においてかなり見られたからだ。
特に、「この作業は大変だ、対策をたてないと」と言って作業を止める事がおおい。
もっと効果的な道具が必要だと、必要の無いものを要求してくる事もある。
こういった事がそれなりの件数になるほど発生している。
だから統括する者達も、報告を簡単には信じなかった。
なお、実際に作業する者達がこんな事をいうのにも理由がある。
そもそも、作業量がこなせないほど多かったり。
本当に必要な道具や材料が揃ってなかったり。
人手が揃ってなかったり。
こういう事も多いのだ。
だから、作業量を減らすために手を抜いていく。
仕事を仕上げる事ができないほど少ない道具と材料だけで、見せかけだけをととのえる。
どっちもどっちである。
指揮を執り指示を出す方も。
実際に仕事をしていく者達も。
どちらもやるべき事をしていない。
その両者が手を携える事で、悪循環に陥っている。
自業自得としか言いようがない。
これにより実際に迷宮攻略に携わる者達は被害を拡大していく。
作業の手を止めていく。
指揮を執る者達は成果を上げる事無く、闇雲に突入指示を繰り返す。
迷宮攻略がはかどるわけが無い。
「ばかだなあ」
迷宮の最深部で事の次第を見てるトモヒロは呆れる。
相手がおろかなのは、迷宮の主人としてはありがたい。
なのだが、相手のあまりの愚かさにため息がもれる。
杜撰さに頭を抱えたくなる。
こうはなりたくないと痛烈に思ってしまう。
いっそ手助けでもしてあげようかと、いらぬ情けすら抱いてしまう。
だが、バカがバカをしてるなら何も問題は無い。
それが敵ならば大歓迎である。
せいぜい、無駄な行動を繰り返して無意味な仕事を続けてもらう。
そうしてもらってる間は安心できるのだから。
彼等が味方でなくてつくづく良かったと思う。
無能な味方ほど恐ろしいものはない。
彼等が敵であって本当に良かったと思う。
迎撃に頭と心を悩ませずに済む。
放置は出来ないが、しばらくは無視しても良さそうではある。
そう思い、トモヒロはやるべき作業に意識を向けていく。
迷宮の主人としてやらねばならない事はまだ多い。
趣味の漫画・アニメ・ゲーム・ラノベなどにも目を向けねばならない。
希望者を外から招く必要もある。
地上での工作活動も考えていかねばならない。
やらねばならない事はこれだけある。
先に進むことが出来ないでいる敵に関わってる場合ではない。
それらをしっかりと片付ける為に頭を使っていく。
突入してきた敵は、とりあえずはその程度の存在だ。
定期的に様子は見るが、あまり気にする必要もない。
それが分かったのが、とりあえずの収穫だった。
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