38 そこにいる架空の人物
目の前にアニメで見たメイドがいる。
その事にトモヒロは感動していた。
設定すればほぼその通りの存在を産み出す。
そういう機能を使って作った。
だからほぼ望み通りの存在が作り出される。
そうだと分かっているが、実際に目にすると感動する。
現実には存在しない者だ。
アニメの中にしかいない。
あとは、原作漫画の中だけにいる。
それが現実に存在している。
こうなるようにしたが、実際に出来上がると驚きと感動がこみ上げてくる。
「どうしましたか?」
呆けてるトモヒロにメイドが声をかける。
その声もアニメで聞いたものと同じ。
有名女性声優と寸分違わぬ声質にも感動していく。
直立不動で硬直するのもむべなるかな。
そんなトモヒロを不思議そうにメイドは見ていて。
そんなメイドに、
「いや、なんでもない」
とトモヒロは釈明をする。
「ただ、感動しただけだ」
正直に自分の気持ちを告げて。
メイドは不思議そうな顔をした。
そんなメイドをつれて屋敷へと帰る。
途中、特に話らしい話はしなかったが、それでも構わなかった。
やってもらいたい事を伝えはした。
メイドも「かしこまりました」と頷いている。
それ以上、特に喋る必要もないので黙っている。
その沈黙が心地よい。
人間が相手だったら、あれこれと気をかける必要もあるだろう。
だが、相手は人造生命体だ。
気を回す必要がない。
無体な扱いをするつもりはないが、無駄に気を回す事もない。
その気楽さがトモヒロにはありがたかった。
そんなメイドを連れて屋敷に戻り、仕事をさせていく。
既に屋敷には作業員寮から出て来る作業員がいる。
マネキン人形のようなそれらに混じり、作ったばかりのメイドが活動を始めていった。
特に問題もなく、アニメキャラクター型メイドは行動していく。
見た目はともかく、中身はマネキン人形のような作業員と同じなのだ。
機能において違いがあるわけではない。
無機質な姿をしてる他の作業員と同様に、屋敷の中を片付けていく。
それを見てトモヒロは満足していく。
家の中が快適な状態に保たれてる。
これだけでもありがたい。
それをしてるのが、自分の好みのキャラクターなのだ。
楽しみも加わっていく。
マネキン人形のような作業員達に文句があるわけではない。
やる事をやってくれてる。
それだけでもトモヒロには充分だ。
見た目がそれこそ人形そのものだとしてもだ。
そういった事を気にするような性格ではない。
だが、それでも好みのキャラクターの姿があれば、その方がありがたい。
見てるだけでも楽しい。
この効能を見て、トモヒロは他の作業員も改造する事にした。
既に存在する作業員も、新たに設定を追加する事で変化させられる。
見た目や性格、考え方など。
作業員という性質は変えられないが、それ以外はある程度望み通りに出来る。
その作業を進めていく。
好きな登場人物を見繕い、それらをマネキン人形に注入していく。
変更・改造にやはり一週間ほどの時間がかかるので、一気に全ての作業員を変える事は出来ない。
屋敷の片付けが滞ってしまう。
なので、一人ずつ変えていく。
一か月もすると、屋敷の中は様変わりしていった。
マネキン人形が好みのキャラクターに変わったのだ。
生活が一変する。
あくまで見た目の印象が変わっただけではあるのだが。
それでもトモヒロの生活は潤いのあるものとなっていった。
好みのタイプが身のまわりにいて、それらが無駄口叩かず作業をしてくれる。
基本的にはマネキン人形、作業用のロボットなのだから当然だろう。
だが、たとえそうだと分かっていても、声優の声で「ご主人様」などと呼びかけられれば悪い気はしない。
オタクならば一度は夢に見るだろう、「このキャラクターが現実にいたら」という願望。
それがかなってるのだ。
「良かった……」
迷宮の主人になって本当に良かった。
トモヒロは心からそう思う事が出来た。
こうして身のまわりの作業員を好みの姿に変えていく。
それが終わると、迷宮の階層を増やしていく。
更に霊気を得て、出来るだけ多くの作業員を改造するために。
マネキン人形から、好みの見た目にするために。
等身大フィギュアでも出来ない楽しみだ。
これを増やすために、トモヒロは手に入れることが出来る霊気を増やしていった。
増えた霊気で作業員を改造していく。
それらはすぐに最下層の住人達の目にとまるようになった。
各施設・設備の運営で目にするのだ。
気付かれないわけがない。
すぐに「あれは誰なんだ」という疑問が出てくる。
それらにトモヒロは「作業員を改造した」と伝えていく。
気に入ってくれたら、ブックマークと、「いいね」を