36 めくるめく至福の時間
トモヒロの迷宮の奥にて、創作者・制作者が様々な作品を作っていく。
衣食住の心配がなくなり、仕事に専念できる環境だ。
しかも、規制も圧力団体もない。
好きなものを好きなだけ作る事が出来る。
やってきた者達はこれを幸いと思う存分好きなものを作っていく。
トモヒロは出来上がったものを楽しんでいく。
打ち切り同然で終わってしまったもの。
世情に合わせる形で、やむなく終わりにしたもの。
これらの続きに目を通していく。
他にも、創作者や制作者が作りたがっていたもの。
金にならないからと作られてこなかったものが生まれていく。
そういったもののほとんどはトモヒロにとって楽しいものではない。
だが、何かが生まれる、作られるというのは、次に繋がる可能性がある。
そういったものを見た者が、ならばと様々なものを作っていく可能性がある。
なので、トモヒロはそれらにあれこれ言う事はなかった。
そこから始まるかもしれない何かを期待していた。
そうではなく、誰かに見せる事、見た誰かが楽しめるものを作る者もいる。
迷宮の奥でのみ発表され、世間に流通するわけでもないのにだ。
それでも他の誰かに見せる事を考える者もいる。
そうしたいと思うのだろう。
何のために、誰に向けて作るのか。
これは人それぞれという事なのだろう。
何の気兼ねもなく、自分の作りたいものを作る。
誰が見てなくても、自分以外の誰かが見る事を意識して作る。
どちらも間違いではない。
どちらも正しい。
そのどちらであっても、トモヒロはとやかく言うことはなかった。
「面白ければいい」
トモヒロが求めてるのはこれである。
自分の作りたいものを作る。
それで面白いものが出来上がるなら良い。
人に見せる事を意識して作る。
それで面白くなるならそれで良い。
どちらであっても、トモヒロの損になることは無い。
面白くない、つまらないものが出来上がっても文句は言わなかった。
たとえトモヒロがつまらないと思うものでも、他の誰かにとっては面白いものかもしれない。
それならそれで良い。
面白いと思ったものが楽しんでれば。
それに、そうして面白いと思った事が原動力になり、新しい何かが出来上がるかもしれない。
何がどこに繋がり、どういった結果になるかは分からない。
分からないから、トモヒロはあれこれ言うことはなかった。
下手に手を出せば、可能性を潰す事になりかねないからだ。
トモヒロがやるのは、創作者や制作者が生きていける環境を作ること。
製作に必要な物を出来る限り調達していく事。
その為に迷宮の拡大拡張・整備を進める事だ。
社会基盤・インフラ作りと言うべきだろうか。
これがトモヒロの仕事だった。
その為にも、迷宮の階層を増やし、霊気を集めていく。
集めた霊気で迷宮最深部を機能的に、快適にしていく。
そこにいる制作者や創作者が活躍出来るようにする。
漫画・アニメ・ゲーム・ラノベはこうした中で作られるからだ。
迷宮の最深部、その奥にある屋敷。
他の一般人の住居よりは大きな、しかし、支配者の居城としては小さな家。
そこでトモヒロは出来上がった作品に目を通していく。
迷宮の主人になってからなかなか見る事が出来なかったものを。
続きを見る事無く終わっていたものを。
それらに続く続編を。
新たに生まれた新作を。
迷宮の奥に作った閲覧室で楽しんでいく。
「…………」
無言で画面にうつる映像を見つめていく。
音響も考慮された映写室で新作アニメを楽しんでいく。
山積みになったDVDを少しずつ消化していく。
感動をおぼえながらトモヒロは、新作アニメを閲覧していった。
最高だった。
出来上がったものをその場で即座に楽しむ事が出来る。
こんなに嬉しい事はなかった。
強いて問題を挙げるなら、出来上がる作品が多いこと。
たとえ出来上がっても、その全てを見るのは難しい。
24時間365日、年中無休で起きていられるにしてもだ。
今のトモヒロは、流れ込んでくる大量の霊気で生きている。
これらが不眠不休の生活を可能とさせていた。
食事も必要としないし、そのため排泄物もたまらない。
おかげで休むこと無く作品視聴に没頭出来る。
しかし、それでも出来上がってくる全てに目を通すのは難しい。
アニメだけでも数多くの作品がある。
漫画にゲーム、ラノベも含めれば膨大な数になる。
しかもこれらの同人誌もあるのだ。
時間がいくつあっても足りない。
「全部見る事が出来るのかな」
積み上げられたアニメ・漫画・ゲーム・ラノベを見て不安になる。
贅沢な悩みだ。
そんな贅沢が出来る今に満足していく。
地下迷宮の最下層で最新作を楽しめる。
それだけでもありがたい。
そんな地下で出来上がる作品が互いに影響を与え合いもする。
触発されて様々な作品も出てくる。
それがまた大きなうねりになって、作品の増加につながっていく。
数だけではない、質の増加と増大もしていく。
今までにないものが生まれる。
あるいは、今まであったものの洗練が促されていく。
どちらにしても、良作を産み出す土台になる。
受け取るトモヒロからすれば、何の問題も無い。
そんなトモヒロは、アニメを見ていてふと思う。
画面の中にいるヒロイン。
それを画面の中から引き出せないものだろうかと。
普通なら出来るわけ無いと一蹴する考えだ。
しかし、迷宮の主人であるトモヒロは、実現の可能性を真剣に考えていく。
「出来るか?」
迷宮の機能を調べていく。
それを利用してどうにかならないかと。
頭の中に様々な情報が浮かんでくる。
それらをまとめて整理して、可能性を割り出していく。
「似たようなのならいけるか……?」
全くおなじというわけにはいかない。
だが、近いものなら出来るかもしれない。
可能性はある。
ならば、試してみようと思った。
「やってみるか」
心の嫁、二次元嫁の実現を。
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