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29 苦労の果ての今

 自宅で漫画を読み、ラノベに目を通す。

 誰かに遮られるわけでもない。

 生活のために仕事に追われるわけでもない。

 そんな平穏な日々を過ごしていく。



 自分の迷宮の地下最下層。

 そこでトモヒロはようやく落ち着いた生活を得る事が出きた。



 かつては生きるために迷宮に挑まねばならなかった。

 食っていく手段は他にはない。

 そこで怪物をたおし、霊気結晶を得て金にする。

 そうしてどうにか食いつないでいた。



 生きるので精一杯だった。

 食いぶちを稼ぐので限界だった。

 迷宮攻略とか、世界を怪物から守るだとか考えてられなかった。

 そんな大志を抱けるほど強くなかった。



 もともと、能力に恵まれてる方では無い。

 決して無能でも非力でもないが、秀でてるというわけではない。

 平凡な成績の平凡な人間だった。

 そんな人間が、迷宮で生き残るのは楽な事ではない。



 全国でも上位に入る運動能力。

 全国でも上位に入る頭脳。

 そうしたものを持ってる者でも最初は苦戦するのが迷宮だ。

 平々凡々なトモヒロが活躍できるわけもない。

 生きるための食いぶちを手に入れ、わずかな経験値を確保するのが限界だった。



 それでもどうにか生きのびて、レベルを少しずつ上げていった。

 迷宮・怪物と共にあらわれた、レベルというもの。

 人の強さをあらわす段階である。

 これを上げることで、より大きな能力を手に入れることが出来る。



 トモヒロはただひたすらにレベルを上げることに専念した。

 それだけが、平凡な能力を持った者が生きのびる道だったからだ。

 幸い、それは上手くいった。

 うだつは上がらなかったが、着実に強くなる事が出来た。

 その為に、多大な時間を費やす事になった。



 他の多くの者達と違い、トモヒロが求めたのは平凡だった。

 立身出世とか、成功栄達とかではない。

 そんなものより、目先の問題を片付けるのが先だった。

 怪物をたおし、生きて帰る事が優先だった。

 どうにかして迷宮を攻略しよう、名を上げよう、富を手に入れようとするその他多くとは違う。

 これが原因で、多くの探索者となじむ事が出来なかった。



 探索者をやるような者達の大半は、栄達や立身出世にしか興味がない。

 成り上がる事だけを目的に迷宮に挑んでいる。

 そうでない者は、そうそうに諦めて迷宮に寄りつかない。

 たとえゴミ箱をあさろうとも、迷宮の外で生きようとする。



 そんな二極化の中でトモヒロは異端だった。

 迷宮に挑むが、成り上がりには興味がない。

 いわゆるハングリー精神とか強烈な上昇志向がない。

 かといって、迷宮に踏み込まないほど惰弱でもない。

 辛くて苦しくても、決して迷宮からは逃げなかった。

 わずかな生活費と、ささやかな経験値を手に入れる為に迷宮に挑み続けた。



 しかし、それは迷宮探索者とは相容れない考えでもある。

 大半の迷宮探索者は、危険を承知で飛び込んでいく。

 生死の境に身を置いて稼ぎを得ようとする。



 トモヒロはそういった事には否定的だった。

 無難に倒せる範囲で怪物をたおす。

 手に入る分で今を生きる。

 無理をして死ぬ可能性を高めたりはしない。

 その分、実入りは他の探索者よりも少なくなる。

 だが、命を失う危険を極力回避した。



 そんなトモヒロを探索者の多くが腰抜けと罵った。

 それでも迷宮に挑むトモヒロを、挑むのを諦めた者達は狂気の沙汰だと恐れた。



 どちらの人間からも距離をおかれていった。

 当然、仲間として一緒にいく者も消えていく。

 ついには一人で迷宮に挑む事になる。



 危険な迷宮での単独行動。

 それは死ぬ可能性の増大でしかない。

 そんな危険な活動を、それでもトモヒロは続けていった。

 比較的安全なところで活動を続け、時間をかけてレベルを上げていく。

 そうしなければ生き残れなかったからだ。



 状況が好転していったのは、ある程度レベルを上げてからだ。

 単独で行動しても問題がないくらいの強さ。

 それを手に入れてからは、迷宮探索も楽になった。

 食いぶちも経験値もある程度楽に確保出来るようになった。



 全ては平穏な生活の為だった。

 その為に迷宮を手に入れようとしていた。



 迷宮にいてもろくな事がない。

 他の探索者にはバカにされ、迷宮に挑まない者達からは忌避される。

 強くなったとはいっても、そこに至るまでに長い時間がかかった。

 同じ時間をかけた他の探索者は、もっと高いレベルになっている。

 そんな者達からすれば、時間をかけてもたいして成長してないトモヒロは嘲笑の対象だった。



 しかし、生き残った者達は気づきもしてない事がある。

 同じくらいに時間を費やした者達の多くが死んでる事。

 トモヒロが高い死亡率を掻い潜った生存者である事。

 生き残ってるという事そのものが、凄まじい成功である事を。



 だからこそ、迷宮から立ち去った者達も恐れた。

 なんだかんだで迷宮の怖さを理解してる者達である。

 迷宮に挑み続け、生き残り続けてる。

 それがどれだけ凄まじいことなのか。

 嫌と言うほど理解出来てしまう。



 迷宮に挑む事を諦めた者達からすれば、トモヒロもまた成功者の一人だった。

 それに、多くの探索者からすればレベルの低い人間かもしれない。

 しかし、それでも一般人よりははるかに高いレベルにいる。

 そんな人間の持つ強さがどれほどなのかも分かる。

 気安く近づく事など出来るわけが無かった。



 そんなトモヒロが求めた平穏な生活。

 それは人類社会の中では到底望めないものだった。

 探索者達からは見下されバカにされる。

 時に暴行を受け、成果を強奪される事もあった。



 それ以外の者達から、レベルの高さゆえに恐れられ、忌み嫌われる。

 たとえ嫌ってなくても避けられる。

 トモヒロ自身にそのつもりがなくても、周りは危険な存在とみる。



 そんな場所でまともに暮らせるとは思わなかった。

 また、人類社会で生きていきたいとも思っていなかった。



 問題は探索者達だけではない。

 トモヒロの周囲にいた多くの人間が原因である。

 探索者になってからだけではない。

 なる前の人生もまた、酷いものだった。

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