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25 勇気ある決断

 リーダーも疲れていた。

 無駄に精神を削ってくる迷宮。

 そこにこれ以上付き合う気になれなかった。



 やたらと面倒な構造。

 実害はないが、精神的な疲弊を強いる造り。

 避けて通るのが困難な仕組みの数々。

 それらにうんざりしていた。



 しかも、今度は生活害虫があふれる階だ。

 その中を突破する気にはなれない。



 害があるかどうかでいえば、おそらく無いだろう。

 防護服を着込んでいれば、直接触れる可能性は無い。

 たとえ着込んでいなくても、直接的な負傷などになる可能性も低い。

 もっとも、何万もの生活害虫にまとわりつかれ、身体をかじられていく可能性はある。

 その場合、もしかしたら生命の危機に陥る可能性もあるが。



 たとえそうでなくても、とても突入したいとは思えなかった。

 何十万とも何百万とも。

 あるいはもっといるかもしれない生活害虫の巣窟。

 そこを突破していくなど、想像したくもない。



 仮に突破したとしてもだ。

 その先にはさらにいやらしい何かが待ってる。

 これまでの経過を考えればそうなってる可能性は高い。

 そんな所に無理して突入するつもりなどこれっぽっちもなかった。



「もう、あそこはやめよう」

 そうも言う。

 踏み込んだ迷宮は、あまりにも質が悪かった。

 直接的な害は少ない。

 だが、対処が面倒な造りになっている。

 そんな所に無理してこれ以上踏み込みたくはなかった。



 第一、得られるものがない。

 怪物も出てこないから、稼ぐ事も出来ない。

 最下層にまで到達出来れば、迷宮の中心である核玉が手に入るだろう。

 それを手に入れればかなりの儲けになる。

 だが、それしか利益になるものは無い。



 まだ迷宮の3階までしか攻略していない。

 4階も目で見ただけだ。

 しかし、それでも思う。

 この先も似たようなものだろうと。

 おそらく、怪物らしい怪物は存在しない。

 あるのは、徒労を生むような何かだけ。



 そんな所に出向いても、何も得られない。

 あと5日探索を続ければ、200万円は手に入る。

 だが、それだけだ。

 その為にあと5日も挑戦するなど、冗談では無い。

 その5日で他の迷宮に行って稼いだ方が効率的だ。



 無駄な精神的な圧迫を受けないで済む。

 1日でそれなりの稼ぎを手にいれる事が出来る。

 先に進むための対策であれこれ悩まないで済む。

 対策のためにあれこれ準備しないで済む。



 彼らはそれなりに出費もしていた。

 特に3階を進むにあたり、防護服やその他の道具を揃える為に。

 それらの出費も痛い。

 この先進むなら、更に出費をする事になるだろう。



 そうなると、200万円が報酬では利益にならない。

 赤字にはならないにしても、利益も薄くなる。

 そこまでして、意地の悪い迷宮に挑むつもりはなかった。



「依頼は断ろう。

 報酬も手に入らないが、あそこに行くよりはマシだ」

 そう判断したリーダーに、誰も異を唱えなかった。

 せめて依頼料だけでもと言っていた者達も黙る。

 彼らもこれ以上苦労したいわけではない。

 せめて元を取りたいとは思っていたが。



 それでも、リーダーが決めたのならばそれに従っていく。

 無理してでも迷宮に挑みたいと強烈に思っていたわけでもない。

 損をしてもかまわないというなら、それを飲み込む事は出来た。



 こうしてトモヒロの迷宮から探索者達がまた撤退した。

 そんな彼らは自分達の体験を吹聴していく。

 特段、守秘義務が課せられていたわけでもない。

 調査した部分までは役所にも伝えてある。

 その中に公表してはいけない重要機密があるわけでもない。



 失敗を喧伝するようなものなので、口にする探索者達の評価が下がるだけ。

 なので、あえて口止めする必要もない。

 しくじったのならば、あえて話を広める事もないからだ。

 探索者自身が自分の利益の為に口を閉ざすので。



 そもそも、迷宮の内部情報は可能な限り広めたいというのが役所の考えだ。

 それをもとに、どこかの探索者が挑戦してくれるなら、その方がありがたい。

 忌々しい迷宮を攻略する足がかりになるからだ。



 そういった思惑もあるので、特段守秘義務などはない。

 ないからトモヒロの迷宮の酷さが伝わっていく。



「最低だ!」

 挑戦した探索者が説明をしていく。

「回転床に、真っ暗闇!

 おまけに、虫が這いずり回ってやがる!」

 より詳しい内容を添えて、探索者達はあちこちに喋った。

「なんなんだ、あの迷宮は!」

 怒りと憎しみと嫌悪感。

 それらが入り交じった声で伝えていく。



「あの迷宮は最悪だ!」

 事あるごとに。

 何もなくても。

 行く先々で。

 かつての失敗談として。

 警告として。

 酒の肴として。

 誰にも彼にも伝えていく。



 伝えていく事で誰もが知る。

 あの迷宮は最悪だと。



「いいねえ」

 そういった情報を様々な伝手で入手する。

 トモヒロは迷宮の最下層でご満悦になる。

「その調子でもっとひろめてくれ」

 この迷宮が最悪だと。

 誰も行きたがらないように。

「そうしてくれると助かる」

 誰も来ない。

 誰も踏み込まない。

 そうしてくれると助かるから。



 トモヒロが求める安全と安息。

 それを手に入れるために、迷宮の悪評を高めてもらう。

 その方がトモヒロにとってはありがたい。



 それには探索者自身が語ってくれる方が良い。

 事の当事者の間で話題になってくれるのが良い。

 誰もが嫌がり、誰もが手を出さなくなる。



 今、トモヒロはそういう状況を手にいれつつあった。

 出来ればこのまま更に悪評がひろまってくれるよう願った。

 苦労が大きくて何も手に入らない場所として。



 その間にトモヒロは、迷宮の拡大と拡張、整備を続けていく。

 更に酷い迷宮にするために。

 更に悲惨な挑戦になるように。



 その奥で。

 トモヒロにとって最高の居場所を作っていく。

 誰もやってこない。

 誰も触れられない。

 これ以上ない安全地帯の中で。

 安全地帯にした自分の居場所の中で。



「さーて」

 意気揚々と声をあげていく。

「もっと深くするぞ」

 より多くの霊気を得るために。

 その霊気を使って、快適な場所を作るために。

 その元手を作るために、トモヒロは迷宮を深くしていく。

 それまでは、必要最低限の生活環境で我慢しながら。



 そうして深く掘っていく地下迷宮。

 その深さは地下100階を超えていこうとしていた。

気に入ってくれたら、ブックマークと、「いいね」を



以前、こちらのコメント欄で俺の書いた話を話題にしてくれてたので、覗いてみると良いかも

http://mokotyama.sblo.jp/

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