19 1階をこえてようやく2階に、しかしそこもやはり面倒な場所だった。
気だるさを重ねながら迷宮探索を進めていく。
無駄に広い1階を歩き回り、何がどこにあるのかを調べていく。
これにより、1階が縦に100列、横に101列の四角形をしてるのが分かった。
その途中で下に降りる階段も見つけた。
怪物は一切いない。
少なくとも探索者達が遭遇することはなかった。
罠らしい罠もない。
階段のある区域以外は全て回転床になってるだけで。
「面倒な迷宮だな」
何度もそんな声が出てきた。
誰もがそう思っていた。
戦闘は無い、怪我を負うような罠もない。
だが、ただひたすらに疲れた。
回転する床に対処するためにゆっくり進まなければならない。
それだけが面倒だった。
依頼による調査という事も今回は足を引っ張った。
なにせ、迷宮の状態を確かめるのだ。
可能な限り隅々まで探っていかねばならない。
おかげで、階段を見つけたあとも、踏み込んでない場所をさぐり続けた。
そこにお宝でもあれば報われるのだが、当然そんな物があるわけもない。
結局、1階の地図を作るだけで一週間を費やす事になった。
それから休みを1日はさんで、これから2階である。
ここまでが長かった。
それがこれからも続くかと思うと、気が更に重くなる。
それでも進まなければならなかった。
のろのろと階段を降りて2階に。
そこに何があるのかを警戒していく。
さすがに階段をおりた直後に何かあるという事はなかった。
だが、視界が塞がった。
いきなりだが、それで探索者達が慌てる事は無い。
「暗黒地帯だな」
「ああ」
落ち着いて声をかけあっていく。
暗黒地帯。
文字通り、暗闇が広がってる状態だ。
この場所では、様々な明かりが効果を失う。
蝋燭や懐中電灯から、魔術・超能力によるものまで。
様々な光が消されていく。
その為、目の前に何があるかすらも分からない。
明かりそのものは、暗黒地帯を抜ければ戻ってくる。
この空間が光を吸収してるだけなので、光が消えてるわけではない。
灯っているがそれがかき消されてるだけなのだから。
だが、見えないというのはかなり面倒だ。
どの方向を向いてるのかも分からない。
何があるのかも分からない。
それこそ、目の前に何かがあっても気づけない。
怪物から不意打ちを受ける可能性が高い。
仕掛けられた罠に気づかない事もある。
なのだが、レベルが上がればこういった問題はある程度解消する。
ようは目で見えなくなるだけだ。
他の感覚までおかしくなるわけではない。
耳は聞こえるし、触れれば何かを感じる。
レベルが上がればこういった能力も強化される。
目が見えなくても、こういった感覚である程度補えるようになる。
明確な超能力とまでいかなくても、気配を察知する事も出来る。
何かが迫ってくれば気配を感じる事も出来る。
障害物などもある程度把握できるようになる。
察知できる範囲は限られるが、全く何も分からないわけではない。
探知系の特殊能力を持ってる者にも、さほど怖いものではない。
迷宮・怪物と共に人に備わったものに、レベルがある。
人の能力を示すもので、これが上がるとゲームのように能力があがる。
その際に、一般的なものとは別に特殊な能力を得る事も出来る。
たとえば、常に方位が分かるとか、歩いた距離が分かるとか。
目が見えなくても、どこに何があるかを把握出来る直観とか。
こういった能力を獲得する事も出来る。
おもに探索探知をもっぱらとする者達が獲得する事がおおい。
いわゆる、斥候・偵察を担う者達だが。
迷宮探索に必要なこういった能力を身につけてれば、暗黒地帯もそう怖いものではない。
そういった者達にとって、暗黒地帯は障害にすらならない。
この探索者達にもそういった能力を備えた者がいる。
そこそこレベルを上げているので、ある程度必要な能力は獲得している。
そんな斥候・偵察役の者が先導して進んでいく。
その気配をたどって、他の者も続いていく。
「こっちだ」
先に進む斥候・偵察役の声に従い、他の者も続いていく。
あとはこの階を調査するだけだ。
だが、1階の事があるので、誰もが懸念を抱いていた。
「ここも、1階と同じくらい広いのかな」
「かもなあ」
「やだな、それは」
誰もが1階の広さにうんざりしていた。
仕掛けのせいでやたらと手間をかけさせられた。
同じようにこの2階も広かったら、調査に手間がかかる。
その可能性を想像して、8人は早くも気を滅入らせていった。
そうでなくても何も見えないのだ。
気配や特殊能力で行動に支障はないとはいえ、簡単に慣れるものではない。
五感の一つが使えないのだから、負担も大きい。
そんな状態を続ければどうしても調子が悪くなる。
1階のような広さでそれを続けさせられたらどうなるのか。
考えたくもなかった。
「最悪だな」
「まったくだ」
この迷宮が、と誰もが思った。
しかし、続く言葉は少々違うものだった。
「この迷宮を作った奴や」
「まったくだ」
「その通り」
力強く誰もが頷いた。
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