17 ようやく成し遂げる1階攻略、しかし、先はまだ長い
調査に来た探索者達が浮かべる疲労の色。
それをトモヒロは迷宮の奥で眺めていた。
「疲れてんな」
感想を素直に口にする。
喜びを含んだ調子で。
目にしてる探索者の様子は、トモヒロの狙ったものだった。
徒労感を感じさせる。
これを意識した迷宮造りは成功している。
それが分かって安心した。
回転床の通り方を見つけたものの、それでもかなり苦労している。
しかも、通り抜け方が分かっただけだ。
下の階に辿りついたわけではない。
入り口から一直線に進み、向かい側の壁の前まで進んだだけだ。
ここから無駄にひろい1階で下に向かう道を探さねばならないのだ。
回転床への対策をしながらだ。
時間を大量に使う事になるだろう。
それが分かってるからなのか、探索者達はうんざりした顔をしている。
「頑張れよ」
気持ちのこもってない激励の言葉をトモヒロは呟く。
相手に伝わる事もないし、伝えるつもりもない。
それでも言わずにはおれなかった。
探索者達は少しずつ作業を進めていく。
とにかく早く仕事を終わらせたかった。
だが、そうもいかないのも分かってる。
これが普通に迷宮攻略に来たのなら、下に続く階段でも見つければ良い。
そこで1階の探索はおわる。
だが、今回の仕事はそうではない。
役所からの依頼だ。
迷宮の中を調査しろという。
なので、下に続く階段を見つけて終わりではない。
求められるのは、1階全ての調査。
迷宮の形を明らかにしなくてはならない。
どこにどんな仕掛けがあるのかも。
その為、1階全てを歩き回る必要がある。
でなければ、地図を完成させられないからだ。
それが探索者達の精神を圧迫する。
たった2000メートルを進むだけで普段の数倍の時間がかかってる。
それをまだ繰り返さなくてはならないのだ。
苦痛では無いが嫌気がさす
この苦痛のなさも逆につらかった。
痛みで気を紛らわせる事も出来ない。
ただただ疲労による消耗を強いられる。
だんだんと頭や身体の動きが悪くなっていく。
ストレスを感じるからだ。
精神的な圧迫というのは様々な働きに影響を及ぼす。
少なくと作業効率の悪化にはつながる。
この場にいる探索者の場合、5パーセントから10パーセントほど能力が低下している。
苛立ち、集中力を失い、冷静さを欠いている。
そんな状態だから、つまらないシクジリを繰り返す。
それ自体は何の問題もない。
失敗と言えるような大きな問題ではない。
だが、小さな失敗が連発すれば、それが更に大きな問題に繋がる事もある。
迷宮の中だと、命を失う事にもなりかねない。
そういう状態になっている。
これが他の迷宮だったら致命的な事になっていたかもしれない。
トモヒロの迷宮にはそういった罠がないから大きな問題にはならない。
怪物もいないから危険な戦闘になる事もない。
だが、余計な手間を延々とかけていく事になる。
妨げる者もいないのは良いのだが、手間のかかる作業を続けていく事になる。
それはそれで苦痛でしかない。
誰もが無言になっていく。
表情も強ばっていく。
それでも8人の探索者達は与えられた仕事をこなしていく。
さっさとこの仕事を終わらせたいと思いながら。
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