14 探索者達のぼやき、危険を好む者にとっては最悪の場所
探索者達の間でもトモヒロの迷宮は話題になっていく。
面倒な仕掛けだけが設置された場所として。
「最悪だ、あそこは」
誰もが口を揃えて言う。
「1階は回転床だらけ。
どっちに進んでるのか分からなくなる」
「魔術も超能力も使えない。
方位磁針も使えない。
進む方向が分からなくなる」
そんな愚痴があちこちからこぼれる。
発見されてから1年。
その間に何人かの探索者が挑戦をした。
だが、その多くは即座に撤退した。
実りが全くないからだ。
先に進めない。
怪物も出てこない。
死ぬ危険はないが、成果も出ない。
収入は全く見込めない。
なまじ戦闘がないのも問題だった。
死ななくて良いのはありがたい。
だが、緊張感もなくしてしまう。
張り詰めないのは良いのだが、だらけてしまう。
集中力が途切れてしまう。
そうなると気だるさを抱くようになる。
どうしても堪え性がなくなる。
ここで踏ん張って頑張ろうという意欲がなくなる。
そんなものがないと駄目になる人間が多い。
探索者の多くにはこういった気質の者が集まる。
命がけの緊張感が好きな者が大半だ。
スリルを求めてると言うべきか。
そうでない者ももちろんいるが、それは決して多くはない。
いないというよりは、探索や攻略の最前線には少ないというべきか。
性格がのんびりしてる者達は、探索が済んだところで、程よく怪物と戦って生活費を得ている。
無謀な挑戦をしようとしない。
だからこそ、無理なく生活費を稼ぎ、長続きするのだが。
そうでない、緊張感や挑戦が大好きな者達はトモヒロの迷宮に耐えられない。
スリルを求めてる者達は危険を望んでいる。
危ない橋を渡りたがっている。
そういう性質の者達にとって、トモヒロの迷宮は最悪だった。
不毛な努力を強いられる。
そのくせ命の危険はない。
死にそうな罠などはない。
だから意欲がわかない、持続しない。
やる気がどんどん消え失せていく。
では、命の危険がないなら、性格が穏やかな者達にはうってつけなのか?
残念ながらそうではない。
こういった者達が求めてるのは、無理なく稼げる場所だ。
スリルはいらないが、安定を求めている。
そんな者達にとって、怪物の出ない迷宮などこれっぽっちも価値がない。
求めてるのは生活費だ。
その生活費が稼げない場所に魅力などない。
無理して探索しようなどとも思わない。
怪物がいないという安全は魅力的だとしてもだ。
全く稼げないなら意味が無い。
こういった理由でトモヒロの迷宮は敬遠されていく。
スリルを求める者達にとっては最低最悪。
安定を求める者達からしても旨みが無い。
迷宮の中枢まで攻め込み、核玉を手に入れねば利益が出ない。
そんな迷宮に無理してまで突撃するような暇人はそうそういない。
そんな功成り名遂げた者達からしても、無理して挑むような場所ではない。
命の危険がなくても、特に利益も得られないような迷宮なのだ。
がんばって挑戦する理由がない。
既に手に入れてる資産や名声を無駄にする必要もないのだから。
おかげでトモヒロは危機にさらされずに済む。
探索者という最も忌むべき存在が近づいてこないのだ。
求めていた安全が手に入るというもの。
静かにのんびり暮らしていける。
だからといって手は抜かない。
更に迷宮に手を加え、撃退準備をととのえていく。
さっさと帰りたくなるように、二度と来たくないと思えるように。
一生懸命頑張って嫌がらせを考えていく。
その成果が出てるのか、4年目も相変わらず探索者はあまりやってこない。
このまま何事もなく過ぎていけばと願っていく。
だが、そうは問屋が卸すわけが無い。
5年目の中頃にわざわざ突入してくる探索者があらわれた。
「わざわざ来なくてもいいのに」
そう思うが、トモヒロの気持ちが届くわけもない。
その探索者の様子を見ながら、トモヒロはため息をもらした。
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以前、こちらのコメント欄で俺の書いた話を話題にしてくれてたので、覗いてみると良いかも
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