102 救うよりも効果的なこと
宗教などを通して国や地域を支配してる迷宮。
そのほとんどは秩序や倫理道徳をうちだしている。
これは善良な性格だからというわけではない。
自分達を攻撃しないように人間を操縦するためだ。
なので、闇雲に力でねじ伏せようとはしない。
そうしてる所もあるが、全てではない。
比較的穏便に人間を支配している迷宮。
その中にはトモヒロと決して相容れないものもある。
秩序や倫理道徳のために娯楽を否定しているものだ。
清く正しくと言って遊びを否定するものもいる。
よりよい人生のために娯楽にうつつを抜かしてはいけないと。
そんな人生の何が良いのかは分からないが、それに従う者もいる。
こんな考えにのっとってる国も確かにある。
支配者にとっては確かに都合が良いのだろう。
遊ぶこと無く仕事に邁進する者は。
民衆に仕事をさせ、その成果を税という形で奪えば、確かに楽して豊かになれる。
統治者からすれば、これほど都合のよい教えはない。
言うなれば、奴隷を作るための教義だ。
脇目をふらずに働けと。
それを良しとする考えは確かに魅力的だ。
自分に及ばない限りは。
もちろん、勤勉は決して悪い事ではない。
働いて糧を作らねば人は生きていけない。
やるべき事はやるべきである。
だが、これは奴隷のように働いてやる事ではない。
科学が発展して労働の負担は減ってるのだ。
短時間の労働でも、以前よりもおおきな成果をあげられるようになってる。
休む事無く働く必要がない。
そこまで人類は文明を発展させてきた。
奴隷を必要としない世の中になっている。
働く必要はあっても、脇目も振らずに仕事をしなくてはいけないわけではない。
娯楽を排除する理由はもう消えている。
完全に無くなってないにしても、必要性は薄れている。
それでも、娯楽を否定する連中はいる。
今までやってきたからという惰性であったり。
当たり前になりすぎて疑問を抱くこともなくなっていたり。
単に他の誰かが何かを楽しんでるのが気にくわないという傲慢さ故だったり。
おとしめるための理由が欲しいからこんな娯楽を否定していたり。
理由は様々だ。
しかし、不要で無駄な事をしてるのは変わらない。
娯楽を否定している迷宮の主人を崇拝してるというのもあるだろう。
望んで自ら服従し、手足となって動くことに生きがいを感じている者もいる。
迷宮から得られる利益が欲しいというのもある。
だが、たとえ利益がなくても、従う事に満足感や充実感をおぼえる人間もいる。
そういった者が娯楽を否定していく。
しかし、最も大きな理由はこれだろう。
──娯楽の良さを理解できない。
それの何が良いのかさっぱり分からない。
分からない事に没頭してる者が気味悪い。
これが最も大きな理由であろう。
勝敗がつくわけでもない。
優位性を競ってるわけでもない。
生きていくのに必要不可欠というわけでもない。
そんなものに何の価値も見いだせない。
何が良いのか分からない。
意味が無いから否定する。
不要と断定していく。
結局はこれが理由なのだろう。
迷宮の主人も、それに従ってる者達も。
波長が合うのだろう。
考え方や気持ち、好みに苦手などなど。
これらの中で特に重要な部分が似てるのだろう。
文字通りに同調している。
そんな連中の迷宮に探索者が向かっている。
レベルの低い連中ばかりだが、それでも数多くの探索者が行動している。
おかげで迷宮の行動を大幅に遮る事が出来ている。
活動を続けていく中でレベルもあがる。
強くなって、より深くまで進んでいく。
迷宮の活動をより大きく封じ込める事が出来るようになる。
それが自然と娯楽殲滅派の動きを阻害する事になっていく。
それだけでも充分だった。
トモヒロにとってはありがたい結果になっている。
攻め込まれれば迎撃しなくてはならない。
それが外部への支援・援助を滞らせる事になっている。
この為、迷宮を救うべく娯楽殲滅派が探索者と事を構えるようになっている。
それこそ迷宮の外でもだ。
なりふり構わなくなってきている。
トモヒロが加えた圧力のせいで、娯楽殲滅派にも余裕がないのだろう。
人間社会の中で娯楽殲滅派は居場所をなくしていっている。
そんな彼等がすがれるのは迷宮くらいになっている。
それこそ死活問題だ。
命綱になってる迷宮を守ろうと必死なのだろう。
ならば娯楽殲滅なんて事をやめてしまえば良い。
趣旨や宗旨をかえればよい、と思えるのだが。
深く食い込んでしまっている者はそうはいかない。
これまで熱心に活動してきた者は決して赦されない。
考えを変えた、もう辞めたなどと言っても今までやってきた分がある。
その清算が終わらない限り、追求が止まる事は無い。
そして、トモヒロは考えや心を入れ替えたなどという事を絶対にみとめない。
娯楽殲滅派だった者は永遠に追求される事になる。
そうであるからこそ必死になって食い下がる。
自分の生命がかかってるのだ、必死にもなる。
そこまで追い込むくらいなら、逃げ道を与えれば良いという者もいる。
逃げ道がないから死の者狂いで抵抗するのだと。
そうなれば損害が大きくなるだけではないかと。
だが、トモヒロは決してそうは考えないし思わない。
たとえ死に物狂いで抵抗したとしても、それで構わない。
損害が出るのも承知の上だ。
むしろ、ここで手を緩める方がよっぽど大きな問題になると考えている。
下手に許せば、やらかした者が生き残る。
生き残った者は今後必ず何かしらの問題を起こす。
娯楽殲滅のために邁進してきたのだ。
今後も似たような事をどこかで起こす。
そうなったら、新たな被害者を生む。
そうさせない為には、ここで一気に殲滅するしかない。
死んでしまえば二度と何も出来ない。
例えこの時点で損害が出ても、それはこの場限りで終わる。
生かしておけば、似たような問題を何度も起こし、その都度損害が増加する。
だからトモヒロは逃げ道を与えなかった。
最後の一人が死に絶えるまで追い込むつもりだった。
もうそういう段階なのだ。
許しは悪人悪党に与える最大の援助。
それは他の多くの者達の不幸を産み出し、被害を増大させる。
悪人悪党は殲滅するしかない。
実際、問題を起こす者達を殲滅した後には平穏が訪れる。
トモヒロの迷宮最深部や迷宮周辺部がそうなってる。
人間社会の中でも、問題を起こす者を殲滅した地域では無駄な騒動が起こらなくなった。
一時的に混乱は起こったが、それも問題を起こす人間が消滅するまでだ。
終われば平穏な日常がやってくる。
迷宮に与してる連中を倒してるのも同じだ。
これが終われば平穏な日常がやってくる。
途中で手を止めたら元の木阿弥になる。
やめるわけにはいかない。
探索者にだす依頼を更に増やしていく。
より多くの探索者が迷宮に入るように。
少しでも強くなって敵を倒すように。
多くの探索者が死ぬことになるが、それも望んだ展開だ。
出来るだけ潰し合うように仕向けていく。
自分の所にやってこないように。
今のところは思惑通りになっている。
探索者で迷宮の妨害をして、更に潰し合いもさせている。
トモヒロの方に向かってくる可能性は低い。
余裕が生まれる。
その余裕で迷宮の階層を増やしていく。
出費は金銭くらいなので、気力や霊気がかなり手元に残っている。
これを使って出来るだけ階層を追加していった。
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