10 ついにやってきた侵入者
「来たか」
最下層の地下10階。
その居室で侵入者の姿を確かめる。
迷宮内の出来事は、いつでも好きな時に好きな角度から見ることが出来る。
自分の正面に、霊気でつくった画面を開き、そこに起こってる出来事を表示出来る。
監視だけは完璧に出来る。
迷宮の主人にもたらされてる能力の一つである。
その能力を使って、トモヒロは侵入者の姿をとらえていた。
若い探索者だった。
二十歳にもなってないかもしれない。
それが5人。
入り口から侵入してくる。
その5人は、階段をおりてすぐの扉をくぐり、中に入る。
入ってすぐに5人は部屋の中央に強制移動。
そこで魔力に包まれる。
とはいえ、傷を負ったり状態異常になるわけではない。
「なんだ?」
不思議そうな顔をして互いに見つめあう。
だが、その理由にすぐに気がついていく。
縦横20メートルずつの一区画全部を使った部屋。
そこには四つの扉がついてる。
その一つ、正面の扉へと向かっていく。
その先に進むために。
だが、開いて見えたのは、上に向かって続く通路。
5人が入ってきた道だ。
「回転床か」
すぐに何が起こったのかを理解する5人。
迷宮によくある罠の一つに自分達はかかったのをすぐに察した。
回転床はその名の通りの罠だ。
その区画に入った瞬間に、瞬時に部屋の中央に引き寄せられる。
そして、魔力によって進んできたのとは違う方向を向くことになる。
これにより、進行方向を間違えることになる。
床が実際に回転するわけではないが、その性質から回転床と呼ばれていた。
実害はないが、探索の手間が増える。
面倒な仕掛けの一つだった。
ただ、解決方法もちゃんとある。
まず、回転するのは部屋に入った瞬間だけ。
一度発動してしまえば、再び同じ区画に入るまでは発動しない。
なので、慌てず騒がず方向を確認すれば良い。
魔術でも超能力でも、それこそ方位磁針でも良い。
方向が分かっていれば対処はしやすい。
なのだが、それを彼らはくじかれる事になる。
まず、方位磁針が狂ってる。
磁力が阻害する何かがはたらいている。
ならば魔術や超能力を使って、と思ったがそれも出来ない。
そういったものも妨害されている。
この為、方向を確かめながら進むことが出来ない。
それでも探索者達は奥へと向かっていく。
入り口の回転床を超えれば問題ないと考えて先に進む。
だが、隣の部屋に入った瞬間にすぐにそれが間違いだと気付く。
そこにまた回転床が仕掛けられていたのだ。
そこからが大変だった。
方向も分からないまま先に進むものだから、自分がどこにいるのかも分からなくなる。
先に進めてるのか、それとも同じ所を回ってるだけなのか。
自分達が今どこにいるのか分からない。
完全に進行方向が分からなくなっていた。
しかも、無駄に広いのも手間を増やす。
一区画の縦横が20メートルだから、割と移動距離がある。
そこを延々と行ったり来たりしてるのだ。
迷いながらということもあり、だんだんと歩くのも億劫になる。
「なあ、どうする?」
「どうするってなあ」
探索者達はさすがに疲れてへたり込む。
あてもなく歩き回ってるのだ。
今、どこにいるのかも分からない。
さすがに考えることになる。
このまま先に進むべきかどうかを。
5人の探索者は互いに顔を見合わせていく。
いずれも疲労の色が濃い。
ろくに成果も出せないまま迷宮をさまよってるからだ。
しかも、まだ1階である。
戦闘しているわけでもない。
にも関わらず、無駄な労力を強いられている。
精神的な負担はかなりのものになっていた。
人間、無駄な労力というものが一番辛く感じるという。
徒労ほど人を疲弊させるものはない。
精神的にも肉体的にも追い込んでいく。
今の5人はまさにその状態に追いやられていた。
探索時間そのものはさほど長くはない。
せいぜい1時間といったところだ。
しかし、この1時間で何の成果もあがってない。
これが重要だ。
たった1階に1時間もかけている。
しかも、突破出来てない。
ならば、この後どれだけの時間を使うのか?
どれだけの労力を注ぎこむのか?
先が見えない。
戦闘があったわけではない。
たいそうな罠があったわけではない。
行き止まりがあるわけでもない。
通行するのに何かしらの謎や仕掛けを解かなければならないわけでもない。
なのだが、突破できるかどうか分からない。
こうなると考えこんでしまう。
このまま頑張っても上手くいくのかどうか。
たとえ1階を突破したとしても、その先に労力に見合う何かが手に入るのか?
それに1時間かけても1階すら突破出来ない。
今後もこんな事が続くなら、先に進めば進むほど大変な事になるだろう。
しかも、仕掛けられてる罠は難しいものではない。
たんなる回転床だ。
方向が分からなくなるだけだ。
たったそれだけの事で、探索が全く進まなくなってる。
これから頑張っても先に行けるかどうか分からない。
なら、ここで引き返した方が良いのではないか?
そう考えるのも当然だろう。
実入りが何もないのに時間を費やすのはもったいない。
「帰ろう」
5人を率いる者が決断を下す。
「これ以上ここにいるより他の迷宮に行った方がいい」
他の者も頷いていく。
得るもののない迷宮で頑張っても無意味だ。
これで怪物でも出てくれればまだ良かった。
怪物を倒せば、魔力や霊気の塊の結晶が手に入る。
霊気結晶と呼ばれるこれは、売れば金になる。
霊気を自分に取り入れれば経験値とする事も出来る。
これすら手に入らないなら、迷宮に挑む意味はない。
そこで全員、霊気を使ってとある魔術を使っていく。
帰還の魔術と呼ばれるものだ。
どんな探索者も身につける事になってるものだ。
自分一人が対象で、使えば迷宮の入り口に戻る事が出来る。
魔術や超能力を阻む場所でも使う事が出来る緊急避難の手段でもある。
それを用いて迷宮の外に出る。
こうしてトモヒロの迷宮に挑んだ5人は、何も得る事なく退散していった。
それを見てトモヒロは、安堵のため息をもらしていった。
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