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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

少年は善行で強くなる?〜賢者と不死者と愚者の旅〜

作者: 青弥昌平

初のファンタジーものになります。

見渡す限りに広がる黄色の景色。

空から日照りが燦燦(さんさん)と降り注ぎ、地面はきらきらとその光を乱反射させている。

それはあたかも黄金郷を思わせるほど綺麗な情景であり、

また地獄を思わせるほどの過酷な、砂漠地帯であった。



その景色の中に、ポツンと並ぶ3つの人影があった。



「なーんにもありませんねぇ」


「そりゃ砂漠だからね」


「バウバウ!!」



一人は分厚いローブに身も包み、魔女のような、大きな鍔のついた帽子を深々と被った青年であった。


彼の名前はメタ。


かつてその名を大陸全土に轟かせた偉大なる賢者その人である。


膨大な知識と魔力に併せ、数多もの異能を保有しており、この世界で五本の指に入る実力者である。


また、かなりの変わり者としても知られていた。


今も異能を使用しているのか、服装の割に彼は涼しげな表情で胡座をかきながら頬杖を付いて、ぷかぷかと浮いて砂漠を進んでいた。



もう一人はまだ10代ほどの小柄な少年であった。


薄手のローブに身を包み、一見しては分かりづらいが、その実かなり引き締まった肉体がチラリと見える。


彼の名前はマオ。


彼は賢者からのサポートを受けていないのか、汗ばむ体を度々ローブで拭いながら、辟易としていた表情で砂漠を必死に歩いていた。



最後の一人は四つん這いに砂漠を這う痩せぎすの男であった。


何らかの中毒症状を患っているのか、その焦点は合っておらず、涎をダラダラと垂らしながら底なしの砂漠を懸命に掘り返していた。


そして何故か全裸であった。


彼の名前はヌル


曰く、その肉体は不死の呪いに蝕まれており、いかなる方法でも彼を殺すことはできず、太古の時代より存在する。

まさしく生ける伝説である。


数奇な運命により、彼らは出会い、ある目的のため、世界中を旅している。



「なあ」



気怠げに、ジト目で責めるような視線を賢者に向けながら、少年は開口した。


「いい加減ヌルで変な遊びするのはやめなよ」


「え?退屈だから面白いことやってくれって言ったのは彼ですよ?」


「その張本人が正気じゃなくなってたら意味ないでしょーが!」


「坊っちゃんは昔から冗談が通じませんねえ…」


「誰もわからんわお前のギャグセンスは!

それに掘り返してる砂が飛んできて鬱陶しいんだよ!ぺっぺっ!」


何を隠そう、不死者の奇行の正体は賢者の魔法<精神干渉>によるものであった。


「しょうがないですねえ」


名残惜し気に、賢者は幾何学的な模様を空中に描き出し、不死者へと手を向ける。


たちまち、不死者の体が発光しだし、光が止んだ先には



四つん這いの彼が3人に分裂していた。



「「「バウバウ!!」」」


「お前話聞いてた!?」


「あっはっは!すみません間違えちゃいましたー」


少しも悪びれない賢者はケタケタと笑いながら今度こそ不死者を元に戻した。


光が収まり、先ほどの焦点の合っていなかった目とは打って変わり、

貫禄のあるどこか冷たい視線の不死者がそこに立っていた。


「お、見つかったのか?」


ようやく正気を取り戻した彼は周囲をキョロキョロと見て回り、現在の状況把握に努めている。


「まだだよ。てかいい加減変な魔法の実験に付き合うのやめなよ」


「だってよお、なんか面白そうじゃん?」


「呑気だなあ…数分前のお前の姿を見てもらいたいよ…ったく」


「まあまあ坊っちゃん。ほら見てください。彼が掘った穴から何やら出てきましたよ」


賢者の指差す方向を見るや、確かにさきほど不死者が掘った穴から何やら黒い物体が顔を出していた。


「ほんとだ。村長が言ってた特徴とも一致してるね」


「私が何の意味もなく彼に地面を掘らせていたとでも?」


「何の意味もなく分身させたばかりだろが!息吐くように適当な嘘つくのやめろ!」


「とりあえずさっさと起こそうぜ。暑くて敵わねえや」


「いえ、その必要はなさそうですよ」




―瞬間―




その黒い物体はウゾウゾと動いたかと思えば、大量の砂の激流を伴いながら立ち上がり



その全容を露わにした。



全長20メートルはあろうその巨体に、大量の脚がぬらぬらと黒光りしており、一つ一つが意思を持つようにバラバラと動く。


先端の鋭い爪からは明らかに触れてはいけない体液がごぽごぽと常に滴り落ちていた。


「グガアアアアアアアア!!!」




それはあまりにも、あまりにも巨大な蜈蚣(むかで)であった。




「思ってたより気持ち悪ぃな!はは!」


「服の洗濯が今から憂鬱だよ…」


彼らがなぜ今、広大な砂漠地帯にいるのか。そして何故巨大蜈蚣(むかで)と対峙することになったのか。事の発端は少し時間を遡る必要がある。


………………………………………


「…して、村長。わざわざ私たち“賢者の時間”にどのような依頼を寄越しにきたんですか?」


「いつから俺たちそんなおバカなパーティ名になったんだよ!あと何でお前がメインな感じなんだよ!絶対世に広めるなよそんな名前!」


「坊っちゃん、話の腰を折るのはやめてください!」


「お前…言ったな?次また変なボケかましたらわかってんだろうな??許さねえからな???」


「…そろそろ宜しいですかな?そのう…一人、現代アートみたいな、四肢が曲がっちゃいけない方向に曲がってる人がいますが…」


「気にしないでください。いつものことなので」


「いつものことだぜ!」


「は、はあ…わかりました…」


その村の村長は混乱しながらも、重々しくその口を開き始めた。



人食い蜈蚣(デス・ロード)



砂漠に住まう凶悪な魔物として、それは恐れられている。


その名の通り、この魔物が通る道は大量の生物の死体で埋め尽くされる。


その体表は非常に頑強で、並みの剣では傷をつけることすら叶わない。


「間違いなくS級モンスターですね。通常の冒険者ではまず歯が立たないでしょう。」


「ええ…なけなしの資金でギルドに依頼もかけましたが、誰も受けてはくださらなかった。」


「そんな時に彼が現れたんですね。S級冒険者“閃光のツルツル侍”が。」


「ええ…しかしツルツル侍様でもあの魔物を倒すには至らなかった…惜しい人を亡くしました。」


会話の内容に露骨な違和感を覚えた少年は(おもむろ)に賢者の手に視線を向けた。


するとそこにはうっすらと幾何学的な模様が浮かび上がっており、村長が何かしらの精神攻撃を受けていることは明白だった。


「大事な説明してるときに変な魔法で勝手に過去を改変するなアホ賢者!」


「あはは。なんか肩の凝る話だなと思ったのでユーモアを一つまみしました」


「俺いったよなぁ?次変なボケ挟んだら許さないって」


「悪かったですって!ほら村長!続き続き!」


「あ、あぁ…そうですね。魔物の所為で交易は滞っており、村民は日々困窮しております。

なにとぞ、なにとぞ…」


「どうしますか?坊っちゃん」


「…決まってるだろ。ここで逃げ出す俺らじゃないさ」


………………………………………


「何逃げてんだお前らああああああ!!!」


その巨大な体躯からは考えられないようなスピードで何度も攻撃を繰り出す魔物に対して、

必死に避け続ける少年をよそにゲラゲラと笑いながら逃げる賢者と不死者。


「坊っちゃん頑張って、次クロスいけますよ!クロス!」


「お、俺は全裸で絵面がよくねぇからなぁ。ぷぷぷ」


「お前ら後で覚えとけよ!!!」


加勢する気がないのか、遠巻きに茶菓子まで出して優雅に寛ぎだした2人に呪詛を振りまきながら、

少年はすんでのところで魔物の攻撃をいなし続ける。


右の爪、左の爪、噛みつき、薙ぎ払い。


そのどれもが一撃必殺の勢いで少年を殺そうと繰り出され続けている。


「坊っちゃんまだー?」


「ああ!?」


思わず煽ってきた賢者を見た瞬間、


魔物はこの好機を逃すつもりは無いらしく、


その口を大きく空け、大量の毒液を少年に振りまいた。


「しまっ!」


ビチャッ!


と少年の全身に粘性の高い毒液がかかった。


ポタポタと糸を引きながらしたたり落ちる毒液はしゅうしゅうと音を立てて地面を焼く。


当の少年は―


「だからちゃっちゃと3人でケリをつけたかったのにさあ…」


静かに。したたる毒液で見えない表情から、静かに視線だけが光っていたー


言葉の通じない魔物が、ここで少年に対して初めて恐怖を覚えた。


いつもと同じ、取るに足らない、ただの食べ物。今の今までそんな甘い認識だった。


気づいた時にはもう


ー遅いー


焼け落ちるローブから覗かせる筋肉をより一層隆起させ、無骨な剣を抜刀。


少年は一気にトップギアに入る。


「俺だって、昔散々あいつの悪ふざけに付き合わされたんだ。」


音を置き去りにする少年の動きについていけず、

一つ、二つと、魔物の体に小さくない傷が見る見るうちに増えていく。


並の剣では傷をつけられないはずのその体に、ナマクラのような剣でもってして。


―魔物には、もう少年を視界にとらえることはできなかった―


「今更、虫の毒なんか効くかよ」


気づけば既に幾千もの傷が出来る満身創痍の魔物がそこにいた。

 

「グ…ガ…」


「おいお前ら、もう命令。ちゃっちゃと終わらせろ」


「仕方ないですねぇ」


「いっちょやりますか」


十分面白いものは見れたとでも言いたげに、軽口を言いながら立ち上がる2人


「ヌル、腕を突き出してください」


「ん?こうか?」


理解はせずとも、おずおずと魔物に向け、不死者は手を突き出す。


「坊っちゃんも頑張りましたからね、さっき思いついた必殺魔法でとどめを刺しましょう。」


ニヤリと笑いながら賢者は幾何学模様をその手に浮かび上がらせる。


やがてその模様は不死者の突き出す手首にも浮かび上がり、徐々に発光しだす。


それはもはや発光というより、赤熱していき、


「必殺魔法<腕爆発弾(ロケットパンチ)>!」


ー視界がホワイトアウトした―


直後、耳をつんざくような爆音。


避けることなどできるはずもなく、目の前の魔物は既に消し炭と化しており、ついでとばかりに不死者の腕と顔も吹き飛んでいた。


「…いやいやお前なにしてんの」


「やりすぎちゃいました☆」


「…いやいやお前なにしてんの!?!?」


首無し状態で棒立ちのまま蒸気をあげる不死者の体は、ぎちぎちと欠損部位から膨れ上がり、やがて元の状態に戻り、ニタリと笑った。


「これは少年の夢だぜぇ…!」


「そうかなぁ?ほんとにこれが少年の夢かなあ??」


「なんてったってロケットパンチですからね!」


「俺納得いかない。こんなのロケットパンチじゃない。てか生身の手でやるものじゃない!」


「まぁ何はともあれ」


「一件落着。だな!」


「何気持ちいい顔してんだ。お前らのせいでベトベトだ。絶対許さん…」


彼らはどの冒険者ギルドにも属さない。パーティ名すらない伝説のパーティ。



人々は彼らを天啓(リベレイションズ)と呼び、おそれ、讃えた。



彼らの目的は…


「いやはや、さすが伝説のリベレイションズ様ですな」


「それ周りが勝手に言ってるだけだから」


「おかげ様でこの村も救われました。何とお礼を言えばいいやら…」


「好きでやってることだから、気にしなくていいよ」


「そうは言われましてもですな…」


「村民も苦労してるんでしょ?お金もいいから。俺たち困ってないし」


「お、おお…!何たる慈悲…!ありがとうございます。ありがとうございます!」


大げさだと苦笑しながら、3人は村人たちから感謝されながら、次の目的地へと進む。


「しっかし、こんなことして本当に強くなれてるのかな」


「昔に比べれば随分とお強くなりましたよ」


「まぁ確かにそうなんだけどさ」




少年には昔の記憶がない。



3人での旅が始まる前の記憶が。



何故自分がここまで人間離れして強くなれるのか、何故この伝説ともいえる2人に見初(みそ)められたのか。


ただ一つ。


わかっていることは



自分は善行を積むことで強くなる特異体質だということ。



賢者にそう説明され、不死者と共にその覇道を見届けたいと。


理由はそれだけでよかった。それほどまでに、この3人での旅は、楽しかったから。


そしてそれはきっと、全員同じ気持ちなんだと確信している。


「次の目的地は涼しいところにしたいな」


「いいですねぇ。砂漠で粘液ドロドロはもうこりごりです」


「それ俺だけな!?お前いい加減にしろよまじで」


「あっはっは!すみません!」


「バウバウ!!」


「だからなんでまたこいつおかしくなってんだよ!」


おかしな組み合わせだと少年自身も思うが、この奇妙な旅の先の果てを見てみたい。


賢者と不死者を連れた不思議な少年の旅は、これからも続いていく。



⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎


「…マオのやつはもう寝たか?」


「ええ、流石に今日は疲れたようですね」


「そりゃよかった。じゃあさっさと始めてくれ」


「はいはい」


賢者の片手を挙げると、腕に赤黒い幾何学文字が怪しく光り、


やがてその光は先ほど救った“村の方向”へと、ものすごいスピードで飛んでいった。





デスロードに悩まされていた村は救われ、まさに勝利の宴の最中であった。


交易が回復するまでしばらくは苦しい状況が続くかもしれないが、デスロードの素材もそのまま3人が残してくれた。


この素材を売ればさらに村は豊かになる一方だろう。


誰もがそう信じて疑わなかった。




音もなく、村人の半数が倒れ伏すまでは。




恐る恐る見れば、倒れた村人は一様に側頭部を穿(うが)たれていた。


それはまさしく、神による不可視の一撃のようであった。




ー“天啓”とは良くも悪くも平等に降りかかる。ー




村の様子は歓喜の声から一変、絶望の悲鳴に染まっていた。


間も無くして、その悲鳴も止み。静寂だけが残されていた。





「終わりましたよ。そっちはどうですか?」


「おう、こっちもバッチリみたいだな。」


不死者自身はただ事の終始を見ていただけだが、その実確信していた。


一見すると何も変化はなく見えるが、今この瞬間。




“少年は強くなった”




それは目に見えないオーラとも言える凄みからして、ひしひしと二人に伝えていた。


「相変わらず意味わかんねえスピードで強くなるなあ」


「どこまで行くか楽しみで仕方ないですよ。」


少年という名の愚者は善行で強くなると信じていた。




だが結論は違う。愚者の特権はいつの世も“蛮行”である。




例えば「幸せの絶頂から絶望へと陥れる」こと。




必死に積み上げたドミノの塔を、気が変わったとばかりに壊すように。




まるで意味のない行為だが、こと愚者にとってそれは大きな意味を成すのだ。


「早く私たちの高みまで、上り詰めてください。」


ニヤニヤと楽しげに、赤子の育つ様を(つぶさ)に観察するように賢者と不死者は愚者の成長を待つ。


来るべき戦いの日のために。


    

最後まで読んでいただき、誠にありがとうございます。

ちまちまと改稿していきますので、誤字脱字報告頂けますと助かります。

感想頂けますと大変励みになります。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 少し小難しい雰囲気はありましたが読みやすかったです。 [一言] 何かもうひとつ盛り上りがあるとよかったかなと思いました。
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