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都会育ちの美少女が俺の郷土愛をズタボロに引き裂いてくれる日々  作者: 竜の心を宿すもの
第10話:虹蔵不見《にじかくれてみえず》
48/66

10 ― 2

「でもまあ山本くん。良かったじゃん? 無事にミカとより戻せて。最近、ミカ楽しそうだし」


 花染さんは、ほおずきの載った豪華なパフェをもぐもぐやりながら言った。


「どうも。おかげさまでまあ何とか。・・・それどうですか?」

「美味! 独特。トロピカル。珍しいよね。期間限定だって。ここ、果物屋さん直営だから」


 俺たちは珍しく、いつもとは違う場所にいる。おなじみ〈クレープ田んぼ〉から、大通りを隔てて向かい側にある老舗デパート。その地下にあるフルーツパーラーだ。季節の果物をあしらった巨大パフェが名物です。花染さんは、俺の「ザクロとプリンの盛合せ」を指して、


「そっちどお? 酸っぱい?」

「プチプチうまいっす。・・・今日はクレープ屋じゃないんですね?」

「うん。最近あっちは月島くん専用。それにちょっとクレープ飽きてきちゃって」

「店変えればいいじゃないですか」

「いいんだ別に。彼、クレープ好きだから。いつも美味しそうに食べてるし」


 はは。お互いに遠慮し合ってクレープを食べ続けている二人を想像して、ちょっと笑ってしまった。意外に微笑ましい。ようやく普通のカップルに収まったのか?


 改めて花染さんを観察すると、確かに月島の言うとおり、ぱあっと花が開いたように美しい。さすがステージ2。って、俺は別に、そんな分類を認めたわけじゃないけど。


 で、今日の俺は、月島の言うところの現状打破に向けて、対策を講じにやってきた――わけではまったくない。誤解しないでね。野郎の戯言たわごとにまじで付き合うほど、俺は暇じゃないんですよ。


「あの。で、花染さん。今日はどういうご用件で? あの。俺、ちょっと長居したくないっていうか。ナーバスっちゅうか。人に見られたくないっちゅうか。せっかく今、ミカさんと良い感じなので。また誤解されたりすると、ごたごたしますから・・・」


 でも正直言うと、そんな風にミカが妬いてくれたら死ぬほど嬉しい。てか死ぬ。うふふっ。


「はあ? ・・・とりあえずヨダレ拭けよ」


 花染さんはあきれ顔で、


「これだからもう。ちょっとミカと仲直りしたと思ったら調子こいちゃって。色男気取りかよ。誤解? あたしとあんたが? 普通にあり得ないからそれ」

「・・・ですよね。でも実際、そういう誤解するひとが・・・」

「いねえよ。それまたあんたの妄想。ちょっと注意した方がいいよ。そういうの、癖になるから。またミカに捨てられちゃうぞ」

「こ。怖いこと言わないでくださいよっ。・・・でご用件は? また月島がらみで?」

「他にあると思う?」

「いえ・・・でも花染さん、今うまくいってるんでしょ? クレープデートとか。楽しそうじゃないですか」

「うん。まあそうなんだけどさあ」


 花染さんはなぜか浮かない顔で、


「あのねえ。ちょっと気になることがあって――」

「やつのナンパ癖ですか? そりゃもう、ばんばんやってると思いますよっ」

「山本くん。あんたね。いつも思うんだけど、あんた、なんか明らかに彼に悪意持ってるよね? 親友のくせに」

「親友じゃないって、もう何度言えば――」

「月島くん、確かに昔はプレイボーイだったかも知れないけど、今はあたし一筋だと思う。あたしが言うのもあれだけど。だってそう言ってたもん、本人が」

「・・・そうですか・・・」

「言ってくれたもん。みどり最近一段ときれいになったって。もう目が吸い寄せられて離せなくなるって。他の女なんて目に入らないって!」


 まあ今回は珍しく、やつのその発言に嘘はない。ただしある種、花染さんの理解を超えた意味でだが。


「はい。確かに花染さんの美しさには、昨今、ますます磨きがかかっておりますですね。では俺はちょっと用事がありますので、これにて失礼を――」

「客観的証拠もあるよ。例えばね。・・・いつもじゃないよ。いつもじゃないけど、時たま、丸見るのね」

「はいっ?」

「全然怪しい動きしてないよ。普通の場所しか行ってないみたいだから。マックとかミスドとかケンタッキーとか」

「ばぶぶほっ」

「ザクロむせた?」

「ぶぶばはっ。・・・も。もちろんですっ。花染さんほどの美しい彼女がいれば、男が浮気などするはずもございません! たとえ月島ほどの救いがたいチャラ男であったとてっ」

「だから、そのにじみ出る悪意やめろよ。・・・でもありがと」


 花染さんは、これまた珍しく、はにかんだような少女の笑顔を見せた。


「あたしね、月島くんのお陰で、どうにか自分に自信が持てるようになってきた。最近。前より、鏡よく見るの。あたし――月島くんに出会う前はね、正直、鏡見るの嫌いだった。あたしどうしてこんなあか抜けないんだろうって」


 俺は慌てて、


「いやっ。そんなことは決してなくっ。前からきれいですからっ」

「山本くん、そういうとこは優しくていいね。・・・でも最近はね。驚いちゃうの。あたしって、こんなにきれいだったんだ! って」

「・・・は・・・」

「最近すごくきれいになれたなって。もうね。ひょっとすると、もう、ミカをも超えちゃうんじゃないかなって」

「いや・・・さすがにそれはちょっと言い過ぎでは?」

「ふんっ。あんたのそれ、だいぶ主観入ってるから。まあいいけど」

「ではこれにて失礼を――」

「まだザクロ残ってるじゃん。・・・あたしが気になってること、知りたいでしょ?」

「いや別に」

「なんかね。月島くん、あたしのこと、じ~っと見つめてるの。うっとり、みたいな。それってすっごく嬉しくて。もうとろけちゃうくらい嬉しい。だけどね。何て言うか――なんか、遠くを見る目なんだ。あたしを透かして向こう側を見てる、みたいな。分かる? これ」

「はああ」


 分かりすぎる自分が嫌だ。月島。死ねよ。


「あたし、月島くんのこと信じてる。信じてるけど、やっぱりちょっと思っちゃう。誰か他の人のこと考えてるんじゃないかって」

「いやっ。それないと思います。花染さんも今言ったばっかじゃないですか。月島、花染さん一筋だって」

「そうだけど。だけどさ、例えば、そうねえ・・・ミカのこと考えてるとか? 月島くん、花火のときに、あたしのためにミカを振ったわけでしょ? でもまだちょっと未練あるとか? そんな可能性ないかな?」

「きっぱりないですね。そもそもやつがミカさんを振ったという事実もない、と。そう俺は確信しておりますけれども」

「あんたがそう思いたいのも分かるけどさ。でも主観入ってるよね。あたしだってミカ大好きだけど、もしかして魔性の女かも。男を狂わせる。ファムファタールってやつ?」

「いやっ。ミカさんそんなひとじゃないっすよっ」


 まあ俺は狂ってるかもですけれども。でも俺、それでいいもん。・・・とか、のんきに構えていた俺は、花染さんの次の一言で凍った。


「まあミカじゃないかもだけど。他の女かも。とにかく、ちょっと考えたんだ。いちおう念のため、丸を補強したらどうかなって」

「は!?」

「お守りの入ったバッグ、いつでも持ってるわけじゃないでしょ? だからさ。例えば、最近流行ってるじゃない? アプリで。ゼンリー? 友だちの居場所分かりますみたいな」

「・・・ああぁぁ・・・」

「あれって使えないかな? 月島くんのケータイにそっと入れて――」

「ちょ! ちょっ。まずいっす! 花染さん! それまずい! それダメっ」


 ヤバいですっ。美しさ満開のスポーツ系美少女が、満面の笑顔で爽やかにGPSを語る。これ超絶怖い。スポーツ系はヤンデレにならないはずなのにっ。


「絶対ダメ! 法律的にも倫理的にも完全にアウトですっ。しかもバレます絶対。通知とか来ちゃいますから絶対。気持ち分からなくもないですけど、花染さんこらえてください! 踏みとどまってください。あっち側行っちゃったら、もう帰還不能点ポイント・オブ・ノー・リターン。戻れませんからっ」

「そうかな~。そんな大げさな。大したことじゃ――」

「ありますっ。大したことじゃあります! 絶対にまずいですっ。人としてっ」

「融通が利かないなあ山本くん。公務員」

「いやこの際それ関係ないからっ」

「あんたもおひとつどお? ミカも見張っとくべきでは? 二人でやれば怖くないよ」

「要らんっ」

「ググろうかな」

「やめろおおおっ!」


 さらなる俺の必死の説得で、花染さんはしぶしぶながらもどうやら諦めてくれたみたいだった。はあああ。胸なで下ろし。・・・もう~。油断した俺が悪かった。どこが普通のカップルだよ! いい加減にしてくれっ。




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