第5話
かかりつけ医のお姉さん登場です
瞬きすると、左右にはリーダとファナが立っていた。
「随分と熱心に祈っていたな。そろそろ帰るよ」
リーダの声で我に返り、慌てて立ち上がる。すると、リーダが私を横抱きにして持ち上げた。
「リ、リーダ姉様!何をして......」
「サナは自覚が無いのか?少し顔色が悪い。やっぱり外に出るのはまだ早かったんじゃないか?」
呆れたような声で言われる。確かに少し頭が痛いかもしれない。そう言えば部屋を歩き回ることすらしていなかったのにいきなり外を歩いていたのか。
「リーダ姉様は力持ちですね!」
ファナが無邪気に言っている。
「サナは軽いし、私は騎士の訓練に参加しているからね、これくらいは出来るよ」
頼りになりそうなリーダを見るとユリィの甘えなさい、という言葉を思い出す。甘える、小さい頃のように抱きついても良いのだろうか。妹になりたいと願った姉のように我慢しているのではないか、本当は疲れているのではないか。そんな事を考えてしまって素直に甘えられない。
「先生が来てるようだね、急ごうか」
リーダは私を抱いているとは思えない軽い足取りで歩き出した。その視線の先には馬車から降りてくる医者のお姉さんと助手らしき女の人がいる。予定より少し早く来ているようだ。
「あら、姉妹揃ってお散歩に行ってたの?仲良しね」
先生はこちらに気づくと手を振ってそう言う。やたらフランクなお医者さんだ。
「少し早いのではありませんか?診察の前にサナは少し寝た方が良いかもしれません」
リーダは私の顔色を見ながら言う。するとお姉さんは呆れ顔で首を振った。
「早く来過ぎたのではなくて、旦那様からのお呼びだしよ」
それを聞いた瞬間、ファナは口を押さえて笑い、リーダは頭を下げて謝り出す。
「本当にお父様がご迷惑をおかけしてすいません!いつもの過保護ですよね?今日はお母様が大人しかったからこうなるとは思っていたのですが止められませんでした......」
ここで私は転生する前に見せられたデータを思い出した。私のお父様、ルーン=エルダスの説明の書き出しは“妻のアルスリネを溺愛”だったはずだ。きっと些細な変化で心配して医者を呼んだのだろう。
「先生はサナを連れて先に部屋へ向かって下さい。私はお父様と少しお話してきますから」
リーダが満面の笑みで言っている。いつもは優しいはずの笑顔がとてつもなく恐い。自業自得だとは思うけれど御愁傷様、お父様。
「体力が戻るまで無理はしちゃダメよ。私は激しく動く許可は出してませんからね」
ベッドに運ばれながら先生に言われる。外を歩くくらいは大丈夫かと思っていたが、予想以上に体力がない。
「さて、そろそろ診察を始めましょうか。しばらく過ごしてみて何か違和感は無かった?」
「視界がぼんやりしてます。たまにほとんど見えない物もあるの」
ユリィに言われた通り、視界のムラについて伝える。すると先生の鋭い視線が突き刺さった。
「具体的にどんなものが見えにくい?例えば......これは見える?」
「文字は読めないけど縁取りの装飾は見えます。綺麗な模様ですね」
先生に見せられた紙には美しい蔓草模様の装飾がされていた。文字が全く読めない程ぼやけているのに対して装飾は細かい部分までよく見える。よく見るとふわふわと魔力らしきオーラが線から溢れているようだ。魔眼の力恐るべし。
「ファナちゃんは見えるかしら?」
先生は私に見せていた紙を私の近くに座っていたファナに渡す。定期検診をついでにやると言っていた。
「サナ姉様の言うとおり綺麗な装飾ですわね。でも私にも文字が読めません」
「......ファナちゃんは見えないものがあるなんて言ってなかったわよね?」
ファナがサッと目をそらす。どうやらファナは視力について隠していたらしい。
「ちょっと2人で待っていてね。旦那様と奥様を呼んでくるわ」
困ったように頭を抱えた先生は立ち上がって部屋を出ていく。医者の間では認知されていると言っていたが、魔眼は重要なことなのだろうか。
「ファナも見えないの?」
「見えなかったです。寝込んでいた分ぼんやりしているだけだとおもっていましたわ」
寝起きにぼんやりするのはおかしなことではない。そのうち戻るだろうと思って特に報告しなかったらしい。
「サナ様は今まで視力が悪い様子は見せていませんでしたね。この前の高熱で異常が起きてしまったのかもしれませんよ」
私とほとんどの時間を共にしているハイナがそう言う。転生の時に授けられたというのは本当のようだ。
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