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ワタル、勇者と遭遇する。

「やっと見つけたわ」

背後からの声にワタルが振り向くと、そこには聖剣を抜いた勇者が・・・


いや、あまりの剣幕に一瞬そう錯覚してしまったけど、そこには魔王も土下座して怯えそうな勢いのクリスが立っていた。

「なんで黙って立ち去るのよ」

クリスが近づいてきてワタルの胸倉をつかむ。

「そうですわ。失礼じゃありませんか」

「・・・ひどいと思う」

クリスの後ろにはマリアとリディアもいた。

「あの、何があったか知りませんが、往来で大声出すのは勇者様の評判にかかわるかと」

おそるおそるワタルが言うと、どうやら火に油を注いだだけだったような。

「何よその言い方。一緒に魔王を討伐した仲じゃないの。突然いなくなるってひどいと思わない」

こうなるともう魔王軍すら蹴散らした勇者を止めるすべはない。

「とりあえず落ち着いて話のできるところに行こうか」


ワタル達はリバープルの町の入り口にほど近い宿屋の1階に併設された食堂にいた。

今日中に国境の町にたどり着こうと思ってたけど無理かな、これ。

ワタルはクリスに向かって切り出す。

「で、話はなんでしょうか」

だいぶ年下ではあるが、相手は勇者、見てないけど叙勲されて貴族の地位を与えられたはず。うかつな態度で不敬罪になっても面倒なので、営業スマイルを添えて接客モードで尋ねる。

怒りの収まらないクリスは再び「なによそれ、馬鹿にしてんの?」と怒り出す。

仕方がないので、三人の中で最年長でお姉さん役のマリアに、「何があった?」と尋ねる。

マリアはため息をつきながら「ワタルが黙って急にいなくなったので怒っているのです。私もそうですよ。」と答えた。

「えーと、それ王城ではどういうことになってんの?」と聞くと

国王は、「あなたが金さえもらえばもうこんな場所に用はないといって去った」って。

その説明には苦笑するしかなかった。

「何笑ってんのよ」

再度怒られる。

仕方ないので、実際にあったことを説明する。一人だけ別室に通されたこと、魔王討伐まで勇者を安全にガイドする約束で受けた任務の成功報酬が金貨5000枚だったにもかかわらず、麻袋に石を詰めてまで報酬を偽装していたこと、手前から確認するであろう袋にだけ金貨が詰めてあったが、自分に鑑定のスキルと異空間収納のスキルがあることを知らなかったことで、足止めになると考え最終的には市は厄介払いとして消そうとされたため、窓から降りて、城壁から森の中にロープで滑り降りたこと、など。

3人は黙って聞いていたが方が震えていた。怒りを押しとどめているようだった。

「何よそれ、悪いのは国王の方じゃない」

「・・・ひどい」

クリスが感情に正直なままに不敬罪を働けば、チーム最年少で言葉の少ないリディアもぼそっと呟く。

「それで王都ではオレどういうことになってんだ」

ここに来るまでの冒険者ギルドでは特に指名手配にもなっていなかったが、念のためワタルは聞いてみる。

「金さえもらったらさっさと出ていくようなやつだって言ってたわ。」

マリアが代わりに答える。

・・・ひどい話だな。けど、それなら特に国境を強行突破しなければならないようなおたずね者扱いにはなってないか。

普通にゲルマニアにはたどり着けそうだな。

場合によっては街道の関所を避け山を越えて隣国に入らなければいけないかとも考えていたワタルはちょっどだけホッとする。

あ、そうだギルドで思い出した。

「遠征中の旅費の精算分なんだが、冒険者ギルドに預けておいたカードと一緒に確認してくれたか?」

「確認したわよ。ていうか、ワタルがチェスターのギルドに立ち寄ってリバープルの近くにいるかもっていうワイバーンの情報を聞き出したっていうからこの町に来たのよ」

・・・ギルドに守秘義務ってないのか?まあ勇者に問い詰められたら黙秘できないかもしれんが。

「それよりあのような大金どうしたんですの?」マリアが口を開く。

「ああ、何度か遺跡やダンジョン巡りをしただろ?主にその時の素材やアイテム、魔王討伐に必要ないたからなどの売却とクエスト達成の報奨金を俺が管理してたから、ブリタニアからの援助がなくてもやっていけたけど、ブリタニアからの毎月の手当もギルドを通じて渡されてたから基本お金は増えるだけだったけどな。で、遠征終わったからちゃんと3人の分を清算しておこうと思って」

「ワタルがもらっておいてよかったのよ。さっきの話の後ならなおさら。」

「いや君らのお金からもらうのは筋が通らない」

「けど約束した報酬踏み倒されたのでしょう?」

「まあ、それはプロとして面白くないし、もうこの国とは縁を切ろうと思っているけど、現実のところ、五体満足で戻ってこれたし、遠征中にたまったお金だけでももう一生暮らせる程度にはあるしな。」

「金貨2000枚で一生というのはちょっと言いすぎじゃない?」

あ、知らないか。まあ2000枚でも一生暮らせるような気がするが。1年の半分以上テントで生活していたし。

「いや、もう手持ちの金は金貨1万枚を超えている。4人で遠征していたとき、町に立ち寄るたびに3人だけ宿で1週間くらいゆっくりしてもらってたろ?」一つには3人とも絶世の美女だからむさくるしいおっさんがついてまわるのは評判悪くなるから別行動というのもあるんだが、」

「いやー絶世の美女とか照れるなあ」「・・・うれしい」「よくわかってらっしゃいますわ」

「この後の話続けにくくなるから、話の腰を折るのはやめてくれないかな、で本当の理由は・・・」

「本当の理由って何よ。私たちを絶世の美女とかいったのはただのお世辞なの?」

「・・・2番目の本当の理由はダンジョン踏破に向けて調べることがあるからって説明してたろ?実際にダンジョンの下見をしてたんだ。魔物と戦って危険が生じるのは責任の範囲外だけど、道中の危険はガイドの責任だから、ルートの下見をね。」

「え?一人で?」

「まあ仕事だし。それでどうしても避けられない魔物は戦わなきゃいけないし、せっかく倒したら素材は回収しておきたいし。まあでも、勇者が手に入れなきゃいけないアイテムとかあるから、ラスボスは倒さないのと途中の宝箱は明けないで最深部のラスボスの手前まで行ってそのまま戻ってくるという感じ。踏破しちゃうと勇者の功績に差しさわりがあるから、最深部まで行って歩いて戻ってこないといけないので、結構面倒だったけどね。あと下層部でしか入手できない魔物の素材とかは、クリス達とダンジョン踏破してからしれっとその時の素材と一緒に買い取りに出してたけど、自分だけで回収してた素材は自分の取り分にしてたから。もちろんパーティーで得たものはパーティーの資金に入れてちゃんと分けて管理していたよ。」

「え、いままでのダンジョン全部?

「ああ、あと遺跡と山と森も」

まあよく生きてたなあと我ながら思うけど。この後はちょっとくらいオフを楽しんでも罰は当たらないだろ。

「で、このあとどうするのよ?」

心の中を見透かしたようにクリスがわざわざ顔を斜めに向けてから横眼で尋ねてくる。

あ、いや、まっすぐ顔を向けて澄んだ瞳で尋ねてくれてもいいんだが

とは思ったけど口にすると取り返しのつかない未来が待っているような気がしたので、口に出さないでおく。

「この後はゲルマニアに行って、そこからあてのないキャンプの旅をする。男のロマンというやつだな。」

「馬鹿なの?死ぬの?」

「ひどくない?」

「ねえ私たちと一緒に王都に戻りなさいよ」そうクリスが言えば

「お風呂とトイレ付の野営を知ったら戻れないわね」とマリアが相槌を打ち、

「一緒がいい」リディアも言葉少なめに同意する。

「悪いけど、俺にも人生を楽しむ権利があると思うんだよ。クリス達はこの後も世界を救った英雄として協力してくれた各国を外交使節として周り、もしかしたらほかの人には手に負えない魔物討伐とかにも駆り出されるだろ?オレはそこまでの義理はないし、魔王討伐で十分危険をかいくぐったと思うんだよ。それに美人ユニットとして売り出すのに、おっさんは邪魔にしかならんぞ。」

「最後のは何?」

リディアに言葉少なめにぼそっと言われると破壊力大きめのツッコミに聞こえるな。異世界のネタはさすがに通用しないか。

「まあ、いずれにしろそれぞれの道があるということだ。もしこの先どこかで会ったら、その時は無視しないで声かけてくれたらおじさんはうれしい。」

「馬鹿なの?死ぬの?」

2回目だよ。ひどくねえ?しめっぽいの避けようと思ったのに。

クリスがまだ何かいいかけたが、少しして口を閉じた後、再び開いた。

「じゃあ、また」

そう言ってワタルと3人は分かれた。

その日国境下での途中で野宿したワタルは翌日にはゲルマニアに入国していた。




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