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テントを作ろう(後編)

ワタルはテントの中で目を覚ますと、「よく寝た」と一人呟いた。

王城であった不愉快な出来事以来、これだけ快適に眠ることができたのは初めてだった。

シュラフから上半身を抜き取り、大きく伸びをした後、テントの入り口のひもを解いてめくるとテントの中にも光が差し込んできた。

シュラフからもぞもぞとはい出したワタルがテントの外に顔を出すと、そこには無数の狼のものと思われる足跡がついていた。

夜のうちに狼に襲われていたのか・・・

それにしても気づかないというのも冒険者失格だな。ワタルは自分に失笑する。

防音の結界まで張った覚えはないのだが・・・

どこかで疲労がたまっていたのだろう。狼の襲撃に気づくこともなくぐっすり寝てしまっていた。

まあ、狼程度じゃ結界を破るのは無理なんだが。

けど、やっぱり川辺のキャンプも好きだな。

テントを撤収しながらワタルは独り言つ。

朝ごはんをパンとスープで済ませると、ワタルはっさらに谷のお香へと足を踏み入れることにした。


それにしても、ワイバーンいないなあ。

ワイバーンどころか、朝方足跡だけ見つけた狼も、ここまでに遭遇していない。

ま、キャンプをしにきたと思えばそれはそれで。

もとより仕事ではなく、男のロマンのためにワイバーンを求めてきたので、見つからなかったからといって特に誰に責められるわけでもない。クエストが失敗になるわけでもなければ、ワイバーンに襲われた人の命がかかっているわけでもない。

こういう生活もいいな。

よし、もうワイバーンはいないので、引き返すまえにもうちょっとだけ。

ワタルは大きな滝の前でワイバーン探しをやめ、滝を登るシャワークライミングを楽しもうと考えた。

滝を登りきるまで帰らない。なんならここでもう一泊

そう決めたワタルは、ロープを取り出し、滝から少し離れた地面にミスリルのピッケルを深々と打ち込んでセルフビレイを通ると、ロープとクライミングギアをもって目の前の大きな滝に挑むことにした。

といっても激しく水が流れる滝の中を登るのではなく、水しぶきがかかる程度に濡れた滝の脇の崖を登るのが滝登りである。

1秒間に一トンくらいはゆうにある水量の滝の中を登るなど鮭じゃあるまいし、いやそりゃ重力魔法と身体強化魔法を使えば登ることはできますよ、でもそんなことしたところで、達成感が得られるわけないじゃないですか。己の体一つで自然と対峙するから沢登りも山登りも楽しいんです。

説明っぽい独り言と共に、滝の半分まで来たところで、突然ワタルの目の前が暗くなった。

背後から接近する何かの影によってそうなったことに気づくのに、ほとんど時間がかからなかった。

ワタルは瞬間つい先ほどロープを通したばかりのカラビナが自分の体重を支えてくれることを祈りながら横っ飛びに滝の中に向かって飛んだ。

その瞬間ほんのちょっと前までワタルがいたところを先がとがった何かが通過していく。

ワタルは背後からの襲撃者の初撃を交わすと、そのまま懸垂下降でセルフビレイのポイントまで戻り、ロープを体から話すと同時に、収納からワタルの武器であるアイスアックスを取り出した。

「グギャア」攻撃を外したことが悔しかったのかのような鳴き声がする方を向けば、そこにはワイバーンがいた。

群れではなく、幸い1匹だけだったが、たとえ一匹とはいえ、腐っても竜種、その大きさはワタルの5倍以上ある。一匹でテント一張り分の素材採れるかな?

そう考えながら、ワタルはアイスアックスを構えながらワイバーンと対峙する。

そのとき、少し離れた場所から、唸り声と共に、さらに2匹のワイバーンが現れた。

「うわーやっぱり群れるのか」

一匹ずつ相手なら羽根に傷をつけずに倒せるとは思うんだけど、3匹同時だとその余裕あるかな。

どこまでも余裕ぶっこいたワタルであった。


5分経過後、ワタルは足元に転がっている3体のワイバーンの素材回収を行っていた。

ワタルの居た場所は幸い狭い渓谷の滝の前であった地形が幸いし、一度に多方向からワイバーンに襲われるということがなかったため、ワイバーンの攻撃をかわしながら、すれ違いざまに両手にそれぞれもったアイスアックス二丁使いで、まず攻撃してくるワイバーンの尾を根本から切り落とし、空中でバランスを崩したワイバーンの首をもう片方のアイスアックスで切り落とし瞬時に絶命させるという普通の冒険者が見たら口を開けたまま茫然としてしまう連撃であっという間にワイバーンを屠ってしまったのである。

地面に落下するとき羽根から落ちてたけど、まあワイバーンの羽根はそれこそミスリルのナイフでもないと傷つけるのすら難しいという丈夫さなので、地面に落ちて巨体で引きずられた程度では傷一つついてなかった。

「よし、テントの素材ゲット」

ワタルは、素材回収用のミスリルの小型ナイフで、時間をかけて丁寧に羽根を切り落としたあと、表皮とその下の薄い膜を切り分けていた。

あとついでに買い取ってもらえるワイバーンの尾と牙と胴体の皮も回収しておくことにした。


それから3日後、ワタルはリバープルの町にいた。

冒険者ギルドでワイバーンの尾と牙の胴体の部分の皮を買い取りに出していた。

窓口の女性からは、一番高い素材であるワイバーンの羽根もお持ちでしょう。ぜひ売ってくださいと懇願されたが、自分で使おうと思っているので、申し訳ないですがと断った。

もっともその前に3匹分のワイバーンの素材の買取を求めた時点でしばらく言葉を失っていたようだが。

ギルドに立ち寄った後、冒険者用の道具を販売している商会にも立ち寄り、ワイバーンの羽根、その表皮の部分と皮下膜の部分を使って、テントの制作する場合の費用と工期を尋ねてみた。

費用は素材持ち込みだったことと余った部分は切れ端とは言えワイバーンの羽根は貴重品のため、そのまま工賃としえ十分だといわれたがいかんせん、完成までに半年かかるといわれてしまい、それまでこの胸糞悪いブリタニアに滞在するつもりもなかったので、ゲルマニアに入ってから別途テントの制作を依頼することにして、リバープルもあとにしていよいよゲルマニアに向けて出発することとした。

ワタルがリバープルの町を出ようとしたその時、

ワタルの背後から「やっと見つけたわよ」という声がした。



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