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万年雪の山へ、スライムドライシチューのフィールドテスト

辺境領に月2回、スライムドライのシチューを完成させ、冒険者ギルドに卸すことになったが、食料主に野菜や果物の買い出しもかねれば特にワタルの生活に支障はないだろう。

ワタルは、家に戻ってきていた。

季節は初夏になり、標高の低い平地ではそろそろ汗ばむ季節となっていた。

ブランカもほぼ成竜の大きさに育って居る。生後1年で成竜になるのは、犬や猫と同じようだが、生誕も初夏だったらしい。ワタルがブランカと出会った特異ないきさつからは生まれた時期が分からなかったが、コルが教えてくれた。

もっとも、生後1年で成竜というのはあくまで人間サイドの感覚に過ぎないため、当の本人(本竜?)であるブランカは気にする様子もない。まあ、寿命1000年とも5000年とも言われる古龍にとって、生後1年かどうかなど誤差にすらならないほどの期間であろう。

ワタルは、標高の高い山の上でも、ブランカが過ごせるようになったら、麓に小屋の建つ山、辺境領の人たちが、万年雪の山と呼んでいる山に登ろうと考えていた亜。その名の通り、山頂付近は通年雪に覆われ、気温も最高で10度、日が沈めば夏でも氷点下であり、ブランカには厳しい環境だろうから、雪のないところまでだが。

ワタルは、早速山に行くための準備を始めた。

コルやブランカに乗っていけば、数分でたどり着いてしまうだろうが、そんなのはもとより面白くない。

歩きながら自然を楽しみ、ゆっくりと登っていくところに楽しみがある。

ワタルは、天候の悪化により停滞する場合も想定して1週間分の食料を食材とは別に調理して持つことにしていた。

正直、異空間収納はチートどころの話ではない。際限なく、それも調理済みの料理を収納出来て、かつ時間停止のため、何年経過しても腐ることがないどころか、出来たての状態で取り出せるのである。

こんな技術があったら、ヒマラヤ8000m峰14座をそのまま一筆書きで踏破してしまえる。ボールドヘッドのアドベンチャーレーサーもびっくりである。

ワタルは、もはや遠足にしかならない大陸最高峰への登山を前に、それでもやはり高峰を目指すわくわく感を抱えながら、準備を進めていた。

そんなワタルの横では、旅の前にするワタルの作業から、近いうちにまたどこかに行くのが理解出来ているエメリーとブランカがじっとワタルの作業を見ている。

「ご主人ー、次はどこに行くの?」エメリーが尋ねてきた。

「きゅあう?」ブランカはまだ人間の言葉が話せない。コルによればそのうち話せるようになるだろうが、まだワタルの言葉と行動の法則を見ながら人語を理解しようとしている途中だとのこと

「うん?南にある大きな山の雪がないところまで行ってみるぞ。」

ワタルが答えた。

「ご主人ー,ボクも一緒に行くー」「きゃう!」エメリーははっきりと自分も行きたいと言い、おそらくブランカも一緒に行きたいと申し出たのだおる。

「おう、一緒に連れて行くぞ。けど、山の上は寒いからな。大丈夫なところまでだぞ。」

「我も付いていくぞ。」気がつけばリルも部屋に入ってきていた。

「おー?別にいいぞ。食べ物は多めに用意しておくしな。水も念のため1年分くらいは収納してあるしな。」

山なのだから、どこかに沢やわき水はありそうだ。山頂は万年雪に覆われているのだから、その雪解けの水が、どこかで湧き出しているだろう。それでも飲めるかどうかは分からないので、飲料水は用意しておくに越したことはない。

まあ、最終手段としては泥水ですら浄化出来るのだから、飲料水に困ることも想定できない。

この世界だと、登山ってそれほど命がけにはならないのだろうなあ。

ワタルはため息をつきながらそう思わざるを得なかった。

食べ物は行程に予備日を含めた分とさらに非常食を何日か分足して持つのが限界だった前世、今は1年分でもまとめて収納に入れ、重さも場所も取らない。水に至っては、ルート上に水場があるかどうか、水場が枯れていないかどうかを慎重に判断して、過不足なく持たなければ遭難のリスクが急増した前世、荷物が重ければそれだけ行動に時間がかかり疲労も比例的に増加していく。まあこの世界でも異空間収納はチートでしかないが、前世と比較したら登山はもはやアドベンチャーにすらならなさそうだ。

まあ、前世では命を脅かす魔物は居ないのだが。前世でも熊は居たけどな。

翌日、ワタルとエメリーとブランカとリルは小屋を出て、山に向かって歩き出した。といっても、実際に歩いているのはワタルとリルで、エメリーとブランカはワタルの背中に背負っているバックパックのポケットの中に収まっている。

バックパックはもはや雰囲気だけのためで、エメリーとブランカの収納用である。本当に収納する荷物は異空間収納にまとめて入っているためである。

見通しの良い草原を歩いて行く。索敵も不要なほど遠くまで見通すことが出来る。

この辺りには、魔物が居たとしても、羊や牛の魔物で、それほど危険な魔物は居ない。またそうした魔物はブランカのみならず、フェンリルのリルの気配も加わったことで、見渡す範囲には見かけることはなかった。

狩りに行くときには微妙に面倒な従魔になってしまった。フェンリルだのドラゴンだのが従魔になっているのも善し悪しということだろう。

それでもヨーロッパアルプスの景観を思い起こさせるカール地形になった草原は、時折草原を渡る風が、山歩きで汗ばみほてった体に清涼を与えてくれる。

気候も穏やかで、のどかな日差しに、こんなところで昼寝するのもいいなあ、と考えるワタルであった。

草原には色とりどりの草花が生えており、冒険者ギルドの低級クエストである薬草収集の対象となる薬草もいくつか確認することが出来た。まあ、今日は仕事抜きだし、好きこのんで生態系を荒そうとは思わないが。

草原を過ぎたところから、広葉樹の森が始まる。

季節は初夏で、新緑がまぶしいほどに重なり合い、森の中は湿度が少し高くなっているが、それでも不快なほどではない。

登山道と呼べるほど整備された道はないが、それでも地形から瞬時にルートを見つけることくらい登山家としての歴史が前世と合わせて30年を超えようというワタルにとって苦もないことであった。ワタルは念のため、魔力発信器を森の入り口に設置しておく、手元の受信機で所在地を確認するビーコンである。

今となってはブランカに乗って空に上がってから帰ってくればいいのだが、単独での下山手段を用意しておくのは登山家として当たり前のことである。

広葉樹の森は生命力にあふれていた。

リルとブランカの気配に近寄ってくることはないまでも、小動物の存在はソナーで確認出来ていた。

熊や鹿、狼といった中型から大型の魔物は今のところ見当たらない。

狼が出てこないのは、リルがいるせいもあるだろう。

自分より上位の魔物が居るのに突っかかってくるほど知能の低い魔物ではない。

知能が低いで思い出したが、オークやゴブリンとも今のところ遭遇はしていない。もっともやつらは村や人を襲うので、居るとすればむしろ深淵の森の方だが。

このまま何もなく森も抜けるかなと思っていたころ、ワタルの左前方から蜂が飛んできた。

縄張りに進入したと攻撃してきたのだろう。

前世では初夏と秋口にスズメバチの行動が活性化し、ハイキング客の被害が多く報告される。この世界でもその辺のウールは同じなのだろう。女王蜂を中心に巣を作る今の時期と産卵の時期は巣に近づく物を攻撃するのだろう。

とはいえ、黙って攻撃される訳にはいかないので、ワタルは結界を発動させる。

ゴブリンやオークと異なり、虫系の魔物は、防衛の意図で襲ってきているに過ぎない。避けられる殺生は避けたい。ワタルは蜂を殺したいなどという気持ちなど微塵も持っていなかった。

「主殿は優しいのだな」リルが口を開いた。風魔法に乗せた暫撃で攻撃してくる蜂を一瞬にして屠ろうと構えていたところだった。

「まあ、避けられる殺生は避けるに越したことはないからな。」ワタルはそう答えると、何事もなかったかのように歩き続ける。

ワタル達を襲ってきた蜂は、何度もワタルに向かって突進し、結界にはじかれていた。が、ワタル達が歩き続けてテリトリーを抜け出たのだろう。そこからは特に追いかけてくることもなかった。

3時間ほど歩いて、もうすぐ森を抜け、低灌木帯に入ろうかというところに、少し開けた場所があったので、ワタルたちは食事休憩にすることにした。

3時間歩いた程度では疲労も感じないワタルとリルであるが、それでもお腹はすいていた。屋外で食べる食事は格別である。行動中は、水分も合わせて取れる食事が好ましい。

ワタルは、せっかくなので、先日初めて開発したスライムドライのシチューをお湯で戻して全員のお昼ご飯にすることにした。

まずはフィールドテストしないと。

「これボクが作ったのー」エメリーはワタルが収納からお湯で戻す前の固形シチューを見て、嬉しそうに話す。

「なんと、そうであったか。」リルがエメリーの言葉に続く

「きゅあう」相変わらずブランカが何を言っているのかは分からないが嬉しそうなのは伝わってくる。

ワタルは魔石コンロでお湯を沸かすと、深めのお皿に乗せたスライムドライシチューの上から熱湯を掛けていく。

シチューはみるみるうちに溶けて、元のとろみのあるシチューになっていった。

「熱いから気をつけて食べろよ」ワタルはそういって全員の前に一つずつ皿を置く。

「「「おいしー」」」皆が一斉に一口食べた後叫んだ。

ワタルもスプーンで掬って口に流し込む、うん、フリーズドライのシチューだ。

我ながらよく再現出来たと思う。

肉は量販用のオークではなくミノタウロスの肉に換えている。この辺も加算ポイントだろう。オークの肉もまずくはないのだろうが、二足歩行で人を襲い、人間の女性を犯す豚野郎を喜んで食したいとは思わない。まあ食べ物がなく餓死しそうになったら分からんが。

食事を終えて、ワタル達は山登りを再開した。今日のうちに低灌木帯のどこかで野営地を見つけ、テントを設営するところまでは行きたい。

まあ、ここまで順調すぎて、森林限界まで超えそうだが、そうなると風も強いだろう。

独立峰であるこの山は風も強いはずである。ペグダウンするだけでなく結界まで張るワタルのテントを吹き飛ばそうと思ったら古龍の羽ばたきか、リディアの最上位風魔法が必要だろうが、それでもその辺の山など問題にならないくらい標高の高いこの山に吹く風がどの程度の威力なのは分からない。慢心することなく、安全な手段を確保していく必要があった。

森を抜けたことで、周りの木々がワタルの背丈くらいになった。植生も広葉樹から針葉樹、に替わっていった。カラマツやハイマツのような高山帯の風の強いところに生える木々のようだ。

人があまり入らない場所のようで、ルートだけ木々が途切れているということがない。面倒だが、横に伸びる木々を乗り越えて前に進まないとならない。

さすがに登山道を切り開いて、モーゼの十戒のように木々が割れて道が通っているという現象はなかった。

ここにきて、ワタル達の進行速度は急激に下がった。

ワタルの胸辺りまで生えている木々は、下をくぐるにも上を乗り越えるにも適さない、どちらのルートもつぶしてしまう厄介な生え方をしていた。

足元も多い茂った木々が胸まで来るため、見えない。時折地面から突き出た根に足を取られて、バランスを崩すワタルだった。

ところが、歩きづらそうにしているのはワタルだけで、リルは、そのまま木に飛び乗ると、木々の上を飛び移り、前に進んでいた。

「フェンリルすげえなあ」ワタルは感嘆のため息を漏らさずに居られない。

ワタルが30分掛かって進む距離をリルは一瞬にして駆け抜けるのである。

得てして、こんな足場の悪いところになると、厄介な魔物に襲われるものである。

広葉樹の森にもその手前の草原にもワタル達に突っかかってくる魔物はいなかったのに、動きにくい場所に来た途端に、ワタルのソナーに反応があった。

灌木の枝に巻き付きながら次から次へと飛び移り、滑るようにワタル達に接近してきたのは蛇の魔物であった。

初めて見る種類であり、鑑定してみると「ロック・サーペント」と出ていた。

「ここでは動きにくいので,後よろしく」ワタルは低灌木帯をものともしないリルと蛇が大好物のブランカに目の前の蛇の魔物との戦闘を任せることにした。

「任された,主殿」「きゅあう」

リルとブランカはそう言って、蛇に向かって行く。

そして次の瞬間

まあ、そうだよね。うん、分かってた。

リルとブランカに一方的に刻まれて息絶えるロックサーペントがワタルの目の前に居た。

討伐ランクがどれだけとか、弱点属性がとか、そんなプロセスを全て省略し、目の前のものを全てなぎ倒す圧倒的な暴力が目の前にあった。

欲を言えばもう少し綺麗に直してくれると蛇の皮は素材になったかもしれないのだが。

今日初めて向こうから向かってきてくれた魔物にテンションがあがったブランカとリルによるオーバーキルだった。

唐揚げのために一口大に切る手間が省けたことになるのか、これ?

ワタルは目をきらきらさせてワタルを見るブランカに苦笑いしながら、サーペントだった肉塊を収納していく。今晩にでも、小麦粉と香草をまぶして油で揚げなければならないのだろう。山の中で揚げ物とか、前世ではあり得ない調理法なのだが。


この日の戦闘はこの1回だけだった。しばらく進んだところで、ワタルは周りの灌木を申し訳ないと思いながら、切り払い、野営地を作り出してテントを張った。

もちろん夕飯はサーペントのカラアゲ付きでどうせならとラージボアのとんかつも作った。

作り置きの料理がそれこそ大量にあるのに、現地で手に入れた食材で調理もしてしまう。まあ腐らないのでいつかは食べるのだが、収納の料理が減らないなあとこの日何度目かのため息をつくワタルだった。




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