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テントを作ろう(中編)

チェスターの町を出てから5日、ワタルは現地の人たちの間で「死の谷」と呼ばれているテーム川の源流に近い渓谷に来ていた。

リバープルの町できいたところによると、テーム川流域にある村の者が山菜取りに川の上流に踏み入れたとき、ワイバーンがさらに奥へと飛んでいくのを見かけたとのことである。

冒険者であってもワイバーンに見つかればほぼ絶望的である。村人は生きた心地がしなかったそうでかなり動転していたらしいが、ワイバーンだったと話していたとのことである。


なんで、頼みもしないときには襲ってくるのに、探すとなかなか見つからないのか・・・

そんな冒険者あるあるに思いを馳せながら、谷の入り口から上流に向かって歩くこと6時間、そろそろ日も沈もうとしていた。

今日はここを野営地にしよう。

ちょっと開けた川原に出たところで、ワタルはテントを設営することに決めた。

異空間収納の中から年季の入ったテントを引っ張り出し、手早く設営していく。

アドベンチャーガイドとして長年のキャリアをもつワタルにしてみれば、明かりがなくても、それこそ目をつぶっても設営できるほどに何千回と張りなれたテントである。10分でテントを張り、8か所ある隅をペグで止めた。

テント本体こそ、オイルドコットンの安物だったが、これはこの世界にこの素材でしかテントがなかったっため、そういうものかなとあきらめていた。しかしながらテントを固定するペグは早くからミスリルで特注していた。

というのも、テントを固定するだけでなく、ペグを結界の触媒として用いるというもう一つ大切な役割があったからである。

ワタルはソロで野営するときはもちろんだが、ガイドとして客を案内する場合であっても、何より大切な安全の確保にお金を惜しんではいけないという冒険者の鉄則を固く守っていた。

結界は、その境界となる杭の素材によってその強度が異なる。術者の魔力と結界魔術の位階に大きく依存するものであることは間違いないが、そもそも位階の高い結界魔術は、それに応じた触媒を要求するものであり、ミスリルのペグは最上級結界魔術の触媒であった。

まあ、ワイバーンくらいなら襲われてもびくともしないしな・・・

ワタルはそうつぶやきながらテントの設営を終えて、ペグをうち、結界を張る。

・・・なんならこれフラグになって、寝ている間に本当にワイバーン来ないかな

ちょっと期待しながら、続いて収納からシュラフを取り出す。

この世界にはシュラフはなかった。冒険者の野営といえば、地面にマントを敷いて、毛布をかぶって寝るというものだった。

それでは疲れが取れないだろうに。

ワタルがアドベンチャーガイドを生業にすると決めて真っ先に準備したのはテントもさることながらシュラフだった。もともと存在しないものだから、説明して作ってもらうのも難しく、ワタルは縫製のスキルを取得し、シュラフを自作した。

ここでも、素材となるダウンが市販されていなかったので、わざわざ取りに行くことになったが、幸いワタルが主戦場にしていたあ山域には冬になると越冬のためふわふわした冬毛に抜け替わる野鳥が生息していたため、食料ついでに羽もためておいた。

シュラフ一つに30羽分の鳥の冬毛だけを使うというとっても贅沢な仕様のため、顧客の分も合わせて5つ準備するのに3年かかったが、その甲斐あって、顧客には好評で、中には売ってくれだの商品化してくれだのと迫ってくる顧客もいたが、商売の差別化のために「手間のかかるもので採算が合わず、高額になりすぎるものでして」とやんわり辞退し続けていた。

テントの中に毛布を引いてそのうえにシュラフを敷いた。

本当ならマットがあると便利なんだが・・・

当たり前だけど、この世界にウレタンはない。気密性に優れたナイロンもないのでエアマットも無理だ。

そのうちなんか作れないかな。そう思いながらも今は毛布で我慢する。

さて、暗くなる前に薪を集めてこなければ。

ワタルは川辺のテントを離れて、森の中に入り、枯れ枝や枯葉を拾っていく。

30分もしないうちに両腕で抱えきれないほど薪を集めることができた。

ワタルはテントに戻り、焚き火台を取り出す。

この焚き火台もワタル自慢の品だ。

ミスリルの脚を3方向に開くと天台が張り、薪を載せて天台の上で焚き火ができる折り畳みでコンパクトになる焚き火台である。

ギルド関係者が見たら頭を抱えそうなミスリルの使い方である。人が加工できる金属として最強度を誇るミスリルは、冒険者が一生かかっても得られるかどうかという武器、それも短剣ですらAランク冒険者の年収に匹敵する価格である。ミスリルソードともなればSランク冒険者の年収1年分か、もしくはダンジョンの宝箱に運よく入っているのを見つけるか、もしくはラスボス級のスケルトンキングを倒したときに運よくドロップアイテムとして入手するしかない。

そんな冒険者憧れの素材をテントのペグだとか焚き火台の脚に使っているのである。

冒険者の常識の斜め上を行く使い方であるが、ワタルは物の価値なんて使う人が決めるものだ、とどこ吹く風である。

焚き火台の脚にミスリルを使うのほあ理由があるのだ。ミスリルは固くて軽いという特性のほかに、耐熱性に優れているだけでなく、熱を通さないという特徴があるため、焚き火で熱くなった脚が冷めるまで片付けられないという不便がないのである。

さらに、天台は人に聞かれても言葉を濁してごまかしているがベヒーモスの皮でできている。

ベヒーモスとはご存じダンジョン最下層のラスボスの一つで、勇者パーティーでの魔王討伐遠征の際にダンジョン踏破クエストで挑戦したダンジョン最下層にいた。

勇者を案内する前にガイドとしてダンジョンの形状や罠などの下見に行った際にいたので倒したときに解体して、その角と皮と肉を入手したのである。もっともっそのあともう一度ダンジョンに勇者を連れて行った時にはなぜか復活していたため、もぷ一度討伐することになり、その時の素材は路銀にするため、ギルドに買取をお願いしたが、とんでもない金額になったことは言うまでもない。

脱線したが、焚き火台に枯葉を載せ、空気が通るように薪を載せていって人差し指を突き立て、初等の火属性魔法で点火するとすぐに薪は燃え出した。焚き火台の上に設置できる焼き網を載せて、少しだけ厚めに切ったラージブルの肉に塩と胡椒をまぶして焼き、夕飯にした。

明日も晴れるといいな。

食事を終えたワタルはくべていた薪が燃え尽きるのを見ながら、焚き火ではなく魔法で沸かしたお湯で紅茶を飲み満天の星空を見上げた。

焚き火の火が消えているのを確認して、ワタルはテントに潜り込み、そのまま朝まで熟睡した。


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