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カレーライスと蛇のから揚げ

ワタルは早速ログハウスを作り始めた。

まずは、整地である。

高原の平らな見通しの良いところにワタルは杭を打っていく。

建物の四隅を決めておく。

次に、その四隅で囲まれたところをワタルは土魔法で掘り返し、さらに重力魔法で固めていく。建物の底地を水平にしておかないと、ログハウスは基本的に上に積み上げていくだけなので、最初の地面が水平でないと上に行くほど斜めに傾いていってしまう。

昨晩、ログハウスを建てるために森の木の伐採の許しをドライアドに得るとき、ノームが家造りに協力してくれると申し出てくれたが、自分で家を作るのが楽しいのでと、うまくいかなかったらお願いすると気持ちだけ(のつもりで)もらって、ワタルは朝から早速取りかかり始めたのである。

前世なら大の大人4人で3日はかかる仕事を、魔法を使うことで半日で終わらせてしまっていた。


昼からは、木材の調達のために森の中に入っていった。

幹が堅いのは広葉樹だが、どうしても木そのものが曲がりやすいため、ログハウスには針葉樹が適している。まあ、何十年も耐久性のあるものではないし、平屋にするので、それほど固い木でなくても大丈夫だろうと考えていた。

ただ、雪がどの程度降るのか分からないので、念のため、屋根は鋭角にするのと、暴風壁を森に面している方角以外の三方向に設置し、風で倒壊しないように気をつけようと考えていた。地形からは雪崩で押しつぶされる心配はなさそうであるが、平たい高原の中に設置するため、山から吹き下ろしてくる風の通り道にはなっていそうだったし、遮るものがないので、強風には注意しておく必要があった。

もっとも、本当に暴風の直撃を受ける危険がある場合には結界を張ればいいだけのことなので、結局建物の強度をそれほど心配する必要はなさそうだった。

まあ、一応魔物の襲撃の心配もしておかなければならないのがこの世界っぽさだけど。

ワタルは森の中で目を付けていた針葉樹の一帯に行くとワタルにとっては、おなじみのコメツガの中から、比較的真っ直ぐ生えている木を選んで、切り倒していった。

樹齢が同じくらいの同じ太さのものを出来るだけ選んで、かつマザーツリーを残しながら、適度に間隔を開けて、木を伐採するようにしていった。

切り倒した木はエメリーに水分を吸収してもらい、その場で乾燥させる。

本来なら,この工程だけで半年以上かかるのがわずか10分で一本の木材から完全に乾燥した建築材となる。しかも乾燥の過程で木材が風雪に晒されないので、腐らない、虫もつかない、一級の建築材ができあがるのである。

そうやって伐採現場でそのまま急速乾燥させた木材を片っ端から収納したところで、初日の作業を終え、野営地に戻っていった。

この日大活躍のエメリーに、「何が食べたい?」とワタルは聞いてみた。

エメリーのおかげで生木にしか見えない乾燥木材が調達出来たのである。ログハウスの一番重要な工程が1日で完了した功績はまさにエメリーにあった。

「ボクねー、カレーライスが食べたい。」エメリーの答えはカレーライスだった。

スライムって辛い物が好きなのか?

ワタルは近くを流れる清流で汲んだ水でお米を研ぎ、火に掛けてご飯を炊くと、同時にスキレットでベーコンを厚切りにして焼いていく。

今日の夕飯はエメリーのリクエストによるカレーライス、ベーコンのトッピングである。焼いたベーコンからにじみ出る脂がカレーソースにコクを与え、味に深みが出る。ベーコンは軽くあぶったものをカレーと併せて最後に軽く煮込んだものと、カリカリに焼いて最後に乗せたものの二種類を用意する。

エメリーは盛りつけたお皿の上に乗って「美味しいー」と震えながら,体内にカレーライスを取り込んでいった。

ブランカも美味しそうには食べていたが、エメリーに食べたいものを聞いてリクエストに答えているワタルとエメリーのやりとりを見ていて少し寂しそうだった。

ワタルは「明日は、ブランカにがんばってもらうからな。そしたらブランカが食べたいものを夕飯に食べような。」と言いながら、ブランカの頭を撫でてあげた。

「きゅあう」ブランカは嬉しそうに目を細めながら鳴いた。

ワタルの言葉は理解しているようだが、まだ自分で人語を話すことは出来ずにいた。

翌朝、快晴だった。これなら一気にログハウスをくみ上げてしまい、雨が降らないうちに屋根を付けてしまいたい。

ワタルは夜明けからずっと昨日調達した丸太の積み重なる部分を水平に切る作業をしていた。電動ノコギリのないこの世界、代わりになるのはワタルが唯一使える放出型の風魔法であった。圧縮した空気を薄い刃状にして対象を分子のレベルで切り裂く魔法二発で木材の面取りが出来ていった。丸太を交互に組み合わせる部分の溝はミスリルのナイフを使うことでバターを切るように丸太に溝を掘ることが出来、背割りの作業もミスリルのナイフで同じように力をいれなくても、切り込みを入れることが出来た。

そうして、昼までには、ワタルの胸の高さまでログハウスは組み上がっていったのである。

昼からはブランカの出番だった。順調に成長していったブランカは普段はワタルの肩に乗るくらいに小さくなっているが、本来の大きさはもはや二階建ての建物くらいあった。まあそのため、弱い魔物が近寄らなくなってしまい、食料調達も大変なんだが。そのブランカに牙でキズを付けないように甘噛みで丸太を持ち上げてもらうと、ワタルが調整しながら丸太を組み合わせ提起、ワタルの胸より高い部分から天井までをくみ上げていった。

そして最後の屋根の部分、長辺の丸太は壁と同じ長さなので問題はないが、短辺の方は屋根に傾斜を付けるため、少しずつ短くしなければならず、これは長さを

正確に測る器具がないため、事前に切ってしまうのはためらわれた。それでもワタルに勝算があったのは、ブランカにクレーンの役割をしてもらいながら、丸太を組み合わせたところで、余剰の部分を切って調整することが出来たからである。竜の首は壁の外から丸太を加えて、持ち上げても、十分天井に当たらずに内側に届いた。そうやって長辺の丸太を支えてもらいながら短辺の丸太の余剰部分を切り捨て、溝を屋根の形状に合わせて切って丸太を組み合わせていった。

最後の工程にあっては、1本を組むのに30分くらいかかってしまうが、それでも全部で10本程度であるため、日没までには屋根も完成した。

屋根まで組んでしまえば、後は部屋の中に床を付けたりという作業である。薪ストーブの煙突を外に出す部分は後で、屋根の一部を切ることで調整出来るので、部屋のどこに暖炉を設置するかなども含めて屋根さえとりあえずついてしまえば今晩から同じ地面でも屋根付きの地面にテントを張って寝ることも出来る。

ワタルはわずか2日でログハウスの外形ができあがったことに大いに満足し、約束通り夕飯はブランカのリクエストに応じるとブランカに話しかけた。

もっともエメリーと違いブランカは人語を話せないので、ワタルは、収納からいくつか食材を取り出し、ブランカに選ばせるという方法を採った。

その結果、竜の大好物と聞いて売らずにとっておいたタイラントパイソンの肉を使うことになった。

もっとも蛇の肉といっても背骨側に薄くついている程度で、お腹の側は骨と皮だけ、それも膜の内側の薄い肉に小骨が複雑に絡みついているため、じゃりじゃりしてとても人間には食べて美味しいという代物ではないのだが。

ワタルは、衣を付けて、低温で長時間揚げることで、骨せんべい風に蛇の唐揚げを作ることにした。

作った状態で収納しておけば、いつでもできたてで取り出せるので、ワタルはその日の夕食分の他、持っていたパイソンの肉を全部唐揚げにしていった。

ログハウスをくみ上げる並の重労働だったが、何度も作ることを考えたら,一度に全部やってしまうことで、将来の時間を節約出来るほうがずっと効率が良いと考え、揚げたてをブランカとエメリーに与えながらも、その間ずっと揚げ続けた。

ブランカはいつものサイズより少し大きめの状態で、唐揚げを飲み込んでいった。

蛇が竜の大好物だというのはどうやら本当のことらしい。エメリーの倍は食べていた。

その日の夜は、せっかくくみ上げたログハウスの中で、まだ床はなかったものの風がテントを叩かない室内でのテント泊を楽しむことになった。

まだ完成していないので、常設の結界は設置せず、テントの時と変わらない簡易結界ではあるが、それでなくてもブランカの気配は周囲から弱小の魔物を遠ざける結果になってしまっていたので、夜中に魔物が襲撃してくるということも特になかった。


3日目、できあがったログハウスの室内の床を張る作業と室内の壁を付けて、間取りを決める作業があった。水回りの部分は出来るだけ集中させて、それ以外の箇所は全部床を張ってから、簡単な壁をつけて、部屋を区切った。

水回りは、一応濡れてもいいように、キッチンは銅板でシンクを造り、魔石のコンロを3口設置し、トイレは便座に座り、穴の中には付与魔法により消臭と浄化を瞬時に行うと同時に排泄後に陰部を洗浄する水が出るようになっていた。

そして何よりお風呂は脱衣場と扉1枚隔てた空間にヒノキの浴槽を設置しており、水魔法で浴槽に水を貯め、火魔法で適温まで温めるという方法でお風呂には入れるようにした。テントのときと場所が室内に変わるだけで他は何も変わらなかった。トイレも同じである。

こうしてログハウスがわずか3日にして完成した。

こうなると欲が出てくるのが人間でワタルもその例外ではなかった。

ワタルは時間を見つけては、ウッドデッキのテラスを設置し、ゲスト用の家屋を追加していくのだが、それはまた少し先の話


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