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自家製ソーセージとベーコン

ワタル達が採集クエストから戻って辺境領のギルドに採集クエスト完了の報告と共に行った、Aランクの魔物出没の報告によって、季節限定の常設依頼だった低ランク向けの採集クエストが現状が確認されるまで凍結されることになった。

領主でもあるクリスは調査をワタルにさせたい、というか自分も一緒に行きたいと言っていたが、領主自らではクエストにならないこと、冒険者にとっては大切な稼ぎ口であることなどをワタルに諭され、渋々領主の名前で調査依頼をギルドに大規模な討伐依頼を出すことに同意した。

本来であれば調査を踏まえて、危険な魔物の存在が確認されれば、その危険度に応じて討伐報酬を設定し,クエストとして処理することになるが、調査の危険度自体の判断が難しいため、むしろ対象領域での魔物掃討作戦に切り替え、割り増しの討伐報酬と素材買取を設定することで、自らのリスクで参加する冒険者に制限を設けないことにしたのである。此に伴い ギルドの臨時出張所が山の麓の広場に設置され、冒険者の滞在するテント場所の管理と素材及び討伐報酬の受付、救護所が設置されることになった。

ワタルは、新しく手に入れたテントでの生活が楽しくて仕方なかったことと、せっかく手に入れたスモーカーやフードプロセッサーとスタッファーでソーセージを作る時間が欲しかったことから、ギルドの臨時出張所の夜間警護をクエストとして受注した。

クリスは自分で討伐出来ないならとワタルによる警護にパートナーとして参加しようとしたが、これもワタルの反対にあってプーっとふくれていた。

「領主が領地にいて領主としての仕事をしないのは示しがつかないだろ。」

ワタルにそう言われると、正論だけに反論が出来なかった。もっともクリスは「ソーセージ?ベーコン?何それ?おいしいの?」という直前の質問からして ,本音が別のところにありそうだというのは容易に想像がついたが。

なお、救護所には治癒術士が常駐することになるのだが、大聖女でもあるマリアが引き受けることになった。これに面白くないのがクリスとリディアで、自分たちもワタルの料理を食べたいと言い出した。

そこで、クエストの期間中、クリスは領主として出張所を視察し、冒険者の激励をすること、リディアはクリスの護衛として同行すること、現地で一晩滞在し、昼と夜と翌日の朝のご飯はワタルが作ることが妥協案として示され、渋々ながらクリスとリディアは承諾した。

ちなみに提案をしたのはマリアで、ワタルの意思はそこにはまったく反映されていなかった。


それから数日後、領主クリスの特別依頼による辺境領都南の山の大規模な調査兼魔物掃討作戦が開始された。

冒険者にとって魔王討伐の勇者クリスはあこがれの存在であり、その特別依頼に冒険者達の士気は極めて高かった。

腕に覚えのあるものが元々集まってくる辺境の地にあって、普段の2割増しで討伐報酬も素材も買い取ってもらえ、かつそれなりに高額になるかもしれない高ランクの魔物が居るとなると、冒険者のやる気につながるのも無理はなかった。

ワタルは夜間の警護があるので、日中は自分のテントで調理と睡眠に専念するつもりだった。なおワタルも冒険者が寝泊まりするテント設営場所にテントを設営するが、ギルド職員の警護もあるため、他の冒険者達のテントから少し離れたところにギルド職員の簡易宿泊場所と隣接して設営することを許された。

このことに一部のあわよくば聖女マリア様と、という無謀な高望みというより邪な妄想を抱いていた冒険者から反発を受けたが、ギルド職員と何よりマリア本人の反感を買う訳にはいかないので、他の冒険者のヘイトの矛先はワタルに集中することになった。

目的地の山は辺境領の都から歩いて半日のところにある。クリス達とであればその半分手度の時間で到着するが、歩き慣れていないギルド職員の足ではコースタイム通り、半日を要したため、道中は簡易な昼食となった。ギルド職員も旅の間のワタルの料理がどれだけ楽しみかという話をクリスやマリアに散々聞かされていたため、今回の出張で、ついにそのお相伴に預かれると期待していたらしい。昼はギルドが用意していたサンドイッチであったことに不満をもらしていた。

現地についたのは日没までそう長くはない頃だった。

すでに一度来ているワタル達は、拠点に適した場所の目処もついており、到着するとすぐにギルドの出張所となるテントを設置し、討伐の確認、素材の買取の受付と職員の滞在するテントを手早く設営していく。ギルド職員は受付の女性一人と素材の買取と査定、解体の職員の男性が二人だったので、受付の女性はマリアと同じテントに寝泊まりすることになった。いつものように、女性3人が宿泊するテントを女性用として設営し、男性従業員用はギルドが用意していたテントを使うことになった。

ワタルが普段使っているテントはワタルが新調したワイバーンのテントほど高級素材ではないにしても、それなりに過酷な環境下で使う琴を想定したワタルのテントであり、その辺の冒険者のテントよりもギルドの常備品であるテントよりも遙かに強靱なテントであった。

食事と風呂は例によってマリアと女性職員のテントの中ですることになるので、順番に交替でする必要があった。

特に風呂で言えば、テント1枚隔てた向こうにマリアの入浴姿があるというのは冒険者であふれる野戦場での光景として望ましくないというより冒険者が仕事に手がつかなくなるということになりかねないので、マリアは救護の業務の合間に日中入浴することになり、ワタルがその間は外を警護することになった。

無論、夜間の結界はワタルだけでなく聖女マリアの重ね掛けである。魔物に襲われても、最も安全な場所と言えるものであり、不埒な考えを持つ冒険者を寄せ付けない不落の要塞となっていた。

全員のテントの設営が終わると、気の早い冒険者は前日から野営場の便利な場所にテントを張って拠点を設定しており、狩りに出かけていて、獲物を携えてギルドの受付を待っている状態だった。

事前の告知により、受付自体は明朝からということにしてあったので、その日は自分のテントに戻ってもらうつもりでいたが、中には素材となる部位だけでなく解体出来ずに丸ごと持ってきた冒険者も居たため、急遽買取を始めたのだった。討伐した魔物の死体をそのまま野営場においておくことは設営場に他の魔物をおびき寄せることになりかねず、また衛生上も危険といえたためである。

ワタルは、自分とマリア、そしてなぜかは知らないがギルド職員全員の食事を準備することになり,その準備に追われた。マリアの入浴が昼になったことと、初日のため、風呂は明日以後となった。

ワタルは、さすがにギルド職員の分として払われる食事代でベヒーモスを使うつもりはなかったので、手持ちの食材と相談し、初日の晩はバトルシープの肉を使ってジンギスカンを作ることにした。量の調整が容易であり、辛味のある味噌ダレにつけ込んだ羊肉は屋外で食べると一層美味しく感じられる。

前回の野営から活躍しているご飯炊き用の鉄釜も男性2人を含む4人分で念のため多めに炊いておいた。余れば翌朝にと思っていたが、残念ながらギルド職員の食欲はワタルの想像以上だった。


その日持ち込まれた魔物の素材は以前からその場所で確認されているような比較的危険度の低い魔物だけであった。

解体に回されるほどの大物はなく、解体場所は閑散としていた。


二日目朝

マリアと同じテントで寝泊まりしたギルド臨時出張所の職員、名前をリリーと言った、はテントから出てくるなり、ワタルの客用シュラフの寝心地を絶賛していた。

一つ欲しいというところまで口にしていたが、材料となる寒冷の高山帯にしか住まないサンダーバードの冬毛が余っていないので、売ることは出来ないと告げると気落ちしたが、すぐに気持ちを切り替えた。

朝ご飯は定番のパンとスープとスクランブルエッグであったが、スクランブルエッグにワタルがストックしておいたトマトソースを大さじ1杯掛けて出したところ、その組み合わせがギルド職員にとって初めての体験のため、初めて食べる、美味しすぎると騒ぎになった。

ギルド職員の食費としてクリスからは一人1日銀貨3枚がワタルに支給されていて、この予算の範囲内で食事を出して欲しいという話だった。

もっとも自分のときは予算に関係なく美味しい焼き肉を出せというクリスだったが。

ベヒーモスの焼き肉セットなんて一体いくらになるのか。

ワタルは遠い目をしながら、ギルド職員の食事についてのクエストの依頼を出す際のクリスの発言を思い出す。

ベヒーモス1体の討伐報酬が金貨3000枚、素材買取だと、皮や角を除いて肉だけでも金貨1000枚はするかな。金貨4000枚を材料原価として元を取って利益を乗せるとなると、1食あたり金貨10枚くらいか?

まあこんな目が飛び出るような価格でも、一生に一度食べられるかどうかという料理に王族貴族が行列を作るのだろう。

頼むから派手に吹聴してくれるなよと思うワタルであった。

全員の食事が終わるとワタルは、テーブルを片付け、マリアや受付職員が入浴するための風呂を準備する。

冒険者が出払って手が空く午前中に入浴を済ませる予定になっている。

ワタルは、その間は不埒な冒険者が出ないように外を警護することになっており、マリア達の入浴が済んだら、徹夜の警護に備えて寝ることになっていた。

また、マリアとギルド職員だけが入浴出来るというのはやはり不満が出やすいので、野営場の一角に天幕を設置し、料金をとって冒険者も入浴出来るようになった。

午後から夜に掛けて時間を区切って男性と女性とで入浴出来る時間を設けた。

同じ湯船を使う関係で、ワタルのヒノキ風呂はほぼ活動中ということになってしまった。


一日目から南の山は 冒険者であふれかえっていた。

中にはマリアを一目見たいという何しにきたのか分からない輩も含まれていたため、救護所の前は負傷の判別を行う担当が出来、高額の治療費が設定された。そうでもしないとかすり傷でマリアに治療を求める冒険者であふれかえってしまうためである。

重症患者に限定し、どれだけキズが重くても一人金貨1枚として上限を設ける一方、かすり傷で治療するのを躊躇せざるを得ない価格にしたため、マリアに治療してもらいたいという雑念の冒険者に対する抑止力としては十分機能した。


辺境領南の山の臨時クエストで、意外な活躍を見せたのはエメリーだった。

ギルドの出張所が出来て、狩猟場の近くに解体場所が出来ると、自分で解体せずに丸ごと持ち込む冒険者が増えた。解体の手数料を支払っても、他人に任せて,むしろ解体に取られる時間を魔物の討伐に充てる方が割がいいと考えるのだった。

ギルドの解体費用には、売り物にならない部位の処分代金も含まれており、通常は焼却処分になるが、屋外だと延焼の危険があるため、少しずつ穴を掘って,その中で焼却し、残った骨などはそのまま埋めるという作業が必要になる。

それを見たエメリーが手伝うと申し出て、魔物の死体を片っ端から消化していったのである。炎も出ず焼け残りの骨も残らず跡形もなく処分出来るので、廃棄物が出なかった。

これによりギルド職員も買取部位の解体に専念出来ることから、仕事の効率が格段に上がっていた。

エメリーはその功績から解体費用の中から20%を支払うとギルドが申し出たことにより、クエスト期間中、多額の報酬を得ることになった。

なお、クリスがクエストのために用意した資金は莫大な額になるため、ワタルが異空間収納で管理することになり、その都度支払調書をギルドが作成し,ワタルに渡して冒険者に払うお金を受け取っていた。終了時に街のギルドに戻って清算し、クリスは自ら準備した資金をギルドが買い取った素材の転売利益から元本と利益に応じた配当を受けることになっていた。


3日目

初日から大きな出来事もなかったが、それでも魔物の脅威度は少し増えていたような感じだった。冒険者にも少しずつ被害が拡大しており、命を落とすものも何人か生じていた。

命さえ落とさなければ、マリアのところに生きてたどり着けさえすれば、マリアの治癒魔法は絶大だった。戦闘場所と救護所の距離が近かったことから、普段なら間に合わない重傷者も一命は取り留めていた。

冒険者が協力することで、討伐される魔物のランクも以前より高い物が見られるようになった。

やはり危険性が増しているということが言えるのではないか。

クリスの視察に併せてその程度の報告は出来そうだった。

そう、領主クリスがギルド出張所を訪れていたのだった。

クリスはギルドから犠牲者も出てしまったことや負傷者も散見されることなどを聞かされ顔が曇った。

自分が最前線に出て討伐に当たりたいという気持ちを強く持っているようだった。

それでも、ワイガーの邪竜のような決定的な契機が訪れない限り、冒険者を制限することは出来ない。誰しもが冒険者としてのリスクとそのリスクに見合うハイリターンを求めてこの地を訪れているからだ。

そんな中でもワタルはマイペースだった。

初日こそ、ベースキャンプの準備に時間を取られていたが、2日目からは当初の目的のとおり、スモーカーを使ってベーコンを作っていた。

またフランフールの街で急遽製造してもらったミスリルの筒にハンドルのついたものは、ワタルがハンドルを握って氷魔法により筒内に飛び出た棒の先に氷の刃を創出し、ハンドルを回すことで中で回転させ、肉をミンチにする道具だった。つまり手動のフードプロセッサーだったのである。挽肉を作るとき、最大のポイントは肉に熱が移らないようにすることである。脂が分離してしまい、熱したときに脂が全部抜けてしまって食感がぱさついてしまうのだ。

そのためワタルは熱が伝わらず、魔法の伝導率の極めて高いミスリルで製造した手動プロセッサーで大量の挽肉を作ったのである。ショートホーンブルやラージボアの肉をミンチにして、合い挽きも含めて3種類の挽肉を大量にストックし、バトルシープの腸にフランフールの街で製造した注射器の器具で挽肉と香草を混ぜたものを詰めて適当名ところでねじる作業を繰り返し、生ソーセージをひたすら作り続けたのである。

またラージボアのバラの大きな塊を塩に付けて水抜きし、ソーセージを燻製で製造した後は、ベーコンを作る予定にしていた。

ワタルは二日目にラージボアの肉100kgを全部ミンチにして、うち半分をハンバーグ用に残し、残りの50kgをタイムやローズマリーなど主に肉の臭み消しに使われる香草を刻んで挽肉に混ぜ併せると,桜の木の大鋸屑をスモークチップとして使用し、スモーカーに入るだけ詰めて全体の半分をスモークソーセージにした。

同時並行で寸胴でお湯を沸かし、残りの半分を塩ゆでしたソーセージとした。

3日目の朝ご飯にスクランブルエッグに添えて出したところ、マリアもリリーも他のギルド職員も全員が初めて食べるその料理に驚愕し、どこで売っているのかと聞いてきた。

全部自家製だと説明して、ギルドで販売したいので卸してくれと言い出した。

マリアはクリスが来た時に、ソーセージの話をして、初めて食べたが非常に美味しかったと自慢したものだから、クリスとリディアが突然不機嫌になり、自分たちがいない間にこっそり美味しい物を食べるなんて許せないと、しばらくふくれっ面をしていた。

が、翌朝の食事に出したところ、突然機嫌が良くなった。ファンタジー世界の女はチョロいらしい。

塩漬にして水抜きするために一日おいておいたバラ肉は3日目にひたすらスモークされてベーコンが大量に製造された。3日目の朝ご飯のソーセージの焼けるにおいは他の冒険者の話題になったらしく、ワタルが野営場の隅の方でスモーカーを使ってベーコンを作るのを物珍しそうに横目で見ている冒険者もちらほらと出てきた。

クリス達が陣中見舞いに来た日の夜、そもそも何しにきたのかという勢いでクリスはワタルに焼き肉をねだったが、マリアからソーセージの話を聞かされ、ふくれっ面になったので、ワタルはソーセージは翌朝に回して、今晩は作ったばかりのベーコンを使って料理をすると説明した。

取り出したのはツェルマーで作ったホットサンドメーカーである。ベルリーで大量に柔らかいパンを買っておいたので、ホットサンドメーカーに併せてスライスし、トマトソースを塗ってチーズとゆでて牛乳、塩、バターを混ぜながらマッシュしたポテトとその日作ったばかりのベーコンを重ねて、火であぶりホットサンドを作った。

夜のメニューというより屋外で昼に食べるようなものだが、それでも初めて食べるベーコンとトマトソース、自家製のマッシュポテトの織りなす絶妙なハーモニーは、全員が食べ終わるまで無言になった。

テーブルも要らないので、野外でたき火を囲みながらクリス達とギルド職員と全員で食べることは出来たが、その代わり周りの冒険者からうらやましそうな視線を集める結果となった。

何事もなく、特別クエストは中間点を折り返したのだった。

クエストの期間は残り3日となっていた。




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