テントを作ろう(前編)
肩の力を抜いて、趣味のキャンプをして過ごそう。
そう決めたワタルは方が楽になったような気持ちで、隣国ゲルマニア共和国に向かって歩き出していた。
しばらく趣味に浸るにしても、ブリタニア王国にとどまるつもりはなかった。
幸い冒険者は国境を越えて活動することも多く、ましてワタルは勇者パーティーのガイドを務めている間にいくつもの国が抱える悩み、その多くはそこらへんの冒険者には手に負えない魔物の討伐を達成してきたのである。
勇者たちを勇者と崇めるのはブリタニアだけではなく、ほかの国も同様でった。
街道を歩きながらワタルは、この機会にテントを最上級うのものに新調しようと考えていた。
冒険者として野営は避けて通れない。風雨をしのぐテントは冒険者にとって必需品ともいえる。
ところが、冒険者用に商会で売られているテントはコットンにオイルを刷り込んで多少水はけに強くしたものであるが、そもそも防水性にも撥水性にも難があり、何より重い。
ワタルは異空間収納のスキル持ちであり、荷物の重量など冒険の師匠にはならなかったが、やはり前世において登山家だったワタルにしてみれば、テントが重いとか、納得できない内容だった。
素材をどうするかだが。
この世界にはナイロンなどない。
軽くて丈夫で弾力性がある素材、ワタルは冒険者として魔物討伐を行い素材を回収するときも、現行の道具を改良する素材を探していた。
「やっぱりあれしかないか」
ワタルはつぶやいた。
「あれ」とはワイバーンの羽の皮下膜のことである。
ワイバーンは翼竜としては最低ランクの魔物であるが、鋭い牙と尾の先に猛毒の針を持ち、討伐ランクはAランクである。
いくら最低ランクとはいえ、世界最強生物である竜種において、という意味であって、何よりワイバーンは群れで行動するため、単独行動の上位種の竜と比較しても、危険性においてなんら引けを取らない。
ワイバーンは羽があるといっても竜種であり、羽の表皮にも細かい鱗がある。その鱗の小ささ故に、皮は弾力性に富んでいて、かつ竜の鱗はミスリル以上の硬度を持つ刃でなければ文字通り刃が立たない。
それゆえにワイバーンの羽は防具の素材として珍重され、その入手の難しさもあって、ギルドの買取価格も表皮に傷があってなお金貨50枚をくだらない。無傷のものなど誰もみたことはなく、どれだけの値段がつくのかもわからないという代物であった。
「ワイバーンかあ。どこにいたっけっかなあ」
前回魔王討伐の旅をしていたとき、ワイバーンの群れを討伐したことがある。しかしながら、王国からの指名依頼であったため、討伐の証明としてワイバーンの牙、羽、尾の毒針はすべてギルドに収めた。
まあ、討伐報酬は金貨500枚と極めて高額だったけど。
あの時はなぜかワイバーンが町のすぐ近くまで襲ってきたため、偶然その町に滞在していたワタル達に指名依頼が入ったのであった。
「普段はどこにいるのかな?」
冒険者ギルドならわかるかもしれない。そう思い立ち、ワタルはまずは隣国ゲルマニアへの道途中にある次の町チェスターを目指すことにした。
王都を出てから3日後の昼
ワタルはチェスターの町についた。
王都に比べれば小さいとは言え、チェスターも比較的大きな町であり王都に向かう人と物の流通拠点にもなっている。
この町にも冒険者支部がある。
ワタルは、この時間ならまだギルドも開いていると、町に入ると真っ先にギルドに向かった。
ギルドの中はどの町のギルドも統一仕様になっており、入り口を入って真正面に受付がある。
もし受付が混んでいたら磯gでもないし食事でもしてから改めよう、そう考えていたワタルであったが、昼という時間が幸いし、受付に冒険者の姿はなかった。
ワタルは受付にまっすぐあるいていくと。栗色の髪の女性が「こんにちは。本日はどういったご用件で」と笑顔で迎えてくれた。
丁寧な物腰で,気性の荒い冒険者の対応をするには不安になりそうなくらいの気品さえうかがえるが、もとより何の不満もない。
「私、冒険者のワタルと言いまして、ワイバーンの羽をある道具の素材とするために探しておりますが、冒険者ギルドでは魔物の生育区域などを情報としてお持ちではないかと思いましてお尋ねっしようと参った次第です。」
冒険者とはいえ、前世では登山家であり山岳ガイドを生業にしていたワタルである。営業スマイルと接客の対応くらいは社会人のたしなみとしてできる。
むしろ冒険者とはあ思えない言葉遣いで返されてしまった受付の女性は驚いて一瞬言葉を失ったがすぐに笑顔で、「少々お待ちください。調べてまいります」と言って奥の部屋に入っていった。
10運くらいして部屋から受付の女性が出てくるとワタルに向かい、
「現在ワイバーンの討伐依頼が出ているギルドはないようです。最近ワイバーンの素材買取の実績があったのおはリバープルの町のギルドです。」
そこまで行った後受付の女性は少し顔を曇らせながら「ですが、ワイバーンは討伐ランクAランクです。失礼ですが、素材の値段も相当高額になりますけど」
どうやらギルドの受付はワタルがワイバーンの素材部位を買おうとしていると思ったのだろう。
「あ、ワイバーンがどの辺に生息しているか教えていただければ自分で狩りに行こうかと思っているのですが・・・」
「・・・」
受付の女性が黙ってしまった。
「あの?何か」ワタルは受付に訪ねてみる。
「・・・あ、失礼しました。あのーワタル様、ワイバーンは先ほど申し上げましたとおり、討伐らなくはAランクですが、その群れの数によってはAランク冒険者グループでも全滅しかねない危険な存在です。見たところおひとりのようですが、ワイバーンの討伐とか冗談ですよね?」
「あ、一人ですけど、煮え菓子だけは早いのでダメそうだったら逃げます。教えていただきましてありがとうございいました。」
ワタルは、とりあえずリバアープルの町に行くことにした。