仕事キャンプ、趣味もキャンプ
王都を出たワタルは、この後どうしようかと考えていた。
とりあえず、報酬を踏み倒したブリタニアにとどまるという選択肢はなかった。
別にお金に困っていたわけでも、魔王討伐の報奨金に執着していたわけでもないが、それでも、約束を反故にされて面白いことはない。
最後にクライアントであった勇者一行に挨拶して顧客満足度を上げて仕事を終えることができなかったことは心残りだが、ワタルにとって、何よりも、お客さんを安全に家まで連れて帰ることができたという満足感に勝ものはなかった。
冒険者にだって、その身を心配し安全を願う家族や友人がいる。
自分がガイドである以上、避けられる危険は避けて、安全にその人たちの元に冒険者を連れて帰り、感謝されることが何よりの報酬だ。
本来であれば、山や森の中、場合によってはダンジョンなどに経験の浅い冒険者をガイドすることがワタルの職業であり、長くても2週間程度だったのだが、その実績を買われて勇者の一行をガイドしてほしいと依頼され、勇者専属のガイドとなったのであった。
報酬は一月金貨30枚、支度金として金貨1000枚、無事魔王を討伐し外線すれば成功報酬として金貨5000枚という条件だった。今までに経験したことのないほどの危険が伴う仕事であるがゆえに、報酬は破格だった。
それでも足止めのために金貨2000枚を見せ金にしてあわよくばその支払いさえせずに済まそうとしたブリタニア王国のやり方はどうしても後味の悪いものになってしまった。
「まあ、今こうして無事に生きているし、王国とはもうかかわらないほうがいい。」
ワタルは自分に言い聞かせるようにして、また歩き出した。
「しばらくはガイドの仕事もいいかな。」
好きで始めた仕事ではあるけど、やはり客の命を預かる仕事の責任の重さ、緊張を強いられる時間を長く続けることは神経の休まらないものである。
「休暇が必要だな」
勇者と一緒に魔王討伐の旅に出たことで、得た報酬はすでに無駄な浪費さえしなければ一生暮らせるだけの金額になっていた。というのも、勇者一行が旅先で宿に泊まる間もワタルは野営を続けていたからである。
これにはワタルがケチだから、とかテント泊が好きだからという理由ではなく、まあテント泊が好きなことは否定しないけど、もっと大切な理由があった。
ガイドである以上、客を案内する場所の下見、安全なルートの確認は必須である。
ワタルは、旅先で立ち寄る魔物の討伐クエストや、魔王討伐のために欠かせない装備品などがあるとされているダンジョンなどへ勇者と共に訪れる場合には、まず、近くの町に勇者一行の宿泊場所を手配して、1週間ほどそこに滞在してもらい、一人で下見に行っていたのである。
トラップはいうに及ばず、崩落しそうな箇所や、手掛かりが必要なルートなどに前もってハーケンを打ち込みロープを設置するなどのルート工作をしておくのだが、襲ってくる魔物を討伐しては、素材の回収をすることで、合わせて路銀の足しにしていたのである。
当初のうちはそれほどでないが、魔王討伐に近づくにつれ、魔物のレベルも上がり、素材の価値はそれに輪をかけて跳ね上がったため、ブリタニア王国から支給される給付金には全く手を付けず、ギルドにお金がたまる一方だったのである。
「よし、しばらくは充電期間が必要だ。仕事はしばらくお休みしよう」
とはいっても根っからの自然好き、野営好き。仕事が冒険なら趣味も冒険なのである。天職とはまさにワタルのためにある言葉だろう。
結局仕事を離れてもキャンプがしたいワタルだった。
この機会にキャンプ道具を新しくして、仕事を離れて趣味のキャンプをしよう。
そう考えると先ほどまでの王城でのいやな出来事も気にならなくなり、心が弾むワタルであった。