↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
35/64

キマイラの切り身血のソースで

三人が古龍の背中に乗ってブリタニア王都に向かうのを見送った後、ワタルも出発することにした。

ワイガーダンジョンを正常化し、古龍の暴走を止め、ゲルマニア王国を滅亡の危機から救った事実と追加の報酬は、ヘルマンがギルド本部に交渉し必ず渡すと約束してくれたが、金額が金額なので、ギルドの口座に直接振り込んでもらうことになっていたことから、留まる理由がなくなっていた。なお、一人金貨1000枚のドラゴン討伐の報酬は、追加報酬さえ検討しなければならない状況なのでとりあえず、ということでクエストの報告時に、それぞれの口座に振り込み済みであった。クリス達3人は、ブリタニアがワタルの成功報酬を踏み倒した損害への補填に充てて欲しいと、今回のクエスト報酬をワタルに渡そうとしたが、ワタルは固辞していた。そもそもクリス達にそんなことをされる筋合いがないというのもそうであるが、プロの冒険者として、プロのガイドとして、誰一人犠牲を出すことなく、帰ってこれたことで満足を十分に得られていた。

ただ、問題は先ほどの古龍とのいきさつを、遠巻きながら見ていた人間が居るということであった。

古龍の重圧を直接受けてその場で気絶していたものもかなりの数に上るが、ワタルが幼龍の世話を引き受けたことは、ある意味悪目立ちしていたと言えるだろう。

言うまでもなく、竜は、生物界最強の生き物であり、討伐など夢のまた夢、一国の軍隊をもってそれでも全滅必至と言われる存在である。死してその素材ですらどれだけの値打ちになるか分からないほど高価なものであるのに、まして生きたままの子供の竜など、小国一つ買える値段でも金を出すという人間が片手で収まらないほどに居るだろう。

先ほどから不穏な視線もいくつか感じているワタルであった。

こんなことなら、古龍に途中まで乗せてもらえばよかったかな。

勇者一行が居る間は手が出せなくても、ワタル一人なら、そう考える輩が何人か居そうな空気だった。

ワタルは旅支度を調えると、ギルドの中に入っていった。

ヘルマンに、どうやら人気のないところで、白竜を奪おうと考えている不埒な輩が2,3居そうだからと、ギルドの裏からその場を離れることを求めた。

ヘルマンはワタルの要求を受けて、冒険者の足止めに一役買ってくれることになった。

「ギルドからの緊急依頼だ。Cランク以上の冒険者はギルドに集まってくれないか。ワイガーダンジョンから竜の脅威がなくなり正常化したことを確認して来て欲しい。今日から3日間、ワイガーの魔物から得られる魔石については、買い取り額を20%上乗せする。」

ヘルマンが割り増しの報酬でその場に居た上位ランクの冒険者に緊急依頼の説明をして足止めしている間に,ワタルは裏から、他の冒険者飲めに付かないように、林の中を抜けて、マリウス鉱山へと向かった。

ツェルマー、そして主要街道へ戻る道は早晩待ち伏せの対象になると判断し、ワタルにとって地理的に有意に立てる山岳地帯で、不穏当な冒険者に警告を発しようと考えていた。

ワタルは駆け足でマリウス鉱山に向かう林道から、すぐに脇道に入った。

坑道までは採掘した鉱石を運び出す作業用の道路が整備されてしまっているため、早晩追いつかれ、不毛な争いに巻き込まれる。

ワタルは、脇の道とも言えないバリエーションルートを持ち前のルートファインディングの能力で見つけ出し、標高を上げていった。

エメリーは鞄の中のいつもの位置でおとなしくしていたが、白竜は後頭部にしがみついた状態で、いくら小さいとは言え子犬ほどの大きさで地味に重い上に、肩周りが微妙に動かしづらかった。

短期決戦に持ち込まないと、バリエーションルートを登るのも危険だと判断したワタルは、しばらく登ったところにある小さな水平歩道を利用して、襲撃者を排除することにした。林道の終点にある採掘場から山頂方面に向かうのは物好きしかいないため、山頂までおルートは整備されておらず、崖を這うようにトラバースしてから、オーバーハングしている崖をクライミングで登っていくという難易度の高いルートをワタルは見つけた。

そこで、追っ手が来る前に少しルートに細工をしておくことにした。足が漸くおけるだけの幅しかない剱岳のカニのヨコバイのような地形に、鉄製の錆びたハーケンを打ち、劣化した麻のロープを通し、念入りに最後のロープの端に切れ込みを入れて置く。

元々ロープに頼って進む場所ではないが、人は便利なものがあるとそれに依存する。

ワタルは、この先は白竜を背中に抱えたままでは危険と判断し,白竜に「しばらく我慢してくれ。」といって、背中に背負っているバックパックの中に入ってもらった。普段は荷物全部を異空間収納に入れているので、バックパックは完全にカモフラージュでしかないのだが、生き物を収納出来ないというのが異空間収納のお約束のため、使ってないバックパックの空間はちょうど都合が良かった。

ワタルが白竜を入れたままバックパックを背負い直した時、足下の方角から人の声が聞こえて来た。

ソナーで確認したところ、どうやら敵意をもった歪んだ魔力の波長の存在が8名、林道を走って登って来ていた。

その後ろは特にいないようなので、おそらくは自発的なのか、白竜の噂を聞きつけ良からぬ企みをしたのか、二つのパーティーがワタルの後を追いかけてきたのだろう。

ここまであからさまだと闇討ちにもならないが、人気のない場所はかえって都合がよいとしか思わないのだろう。

ワタルが林道の終点からわざわざ見えるような位置で待っていると、息を切らした悪人面の冒険者が現れた。

これもテンプレの展開だろう。きっとこの後「痛い目に遭いたくなかったら竜の子をこっちに引き渡せ」とか言うのだろう。

戦闘に居た山賊面の冒険者が一歩前に出て薄笑いを浮かべながらワタルに向かって「おい、命だけは助けてやるから、竜の子を引き渡せ。」

惜しい、ちょっと外れた。

「悪いが、俺はこの子のおじいちゃんみたいな父親と約束して成竜になるまで面倒見ることになっているんだ。申し出は断る。」

ワタルはそう言うと顔を引っ込め、そのまま崖を登っていった。

ワタルにとって、手がかりも足場もなくても、オリハルコンのアックスとミスリルのアイゼンがあれば、石で出来た崖など、はしごを登っているようなものである。

後ろから「追いかけるぞ。」という声が聞こえる。

こういうとき、まず、そもそもロープは信用しない。利用してもバランスを取るためだで全体重を掛けない。まず、ロープを引っ張ってみて強度を確かめる。最後に同じロープに何人もつかまらない。

登山ガイドであればお題目のように繰り返す登山者の心得、一つでも守っていればなあ。

そんなことをワタルが頭の中で考えていると、下から悲鳴が聞こえてきた。

声からすると一人だけでなく何人かが滑落したらしい。

まあ150m位滑落したら、打ち所が良くても二度と意識は戻らないだろう。普通は死ぬよな。

一応ソナーで確認すると、今の悲鳴で5人が崖下に転落したらしい。

残りの3人は、これで戦意を失ってくれると手間が省けるんだが。

いずれにしても、武器を持ったままでこのルートを登って来れるはずもない。ワタルは武器とクライミング用のアックスが同じだという特異な存在である。それだけにこした残が朽ちたいでは無類の強さを誇る。

追っ手も居なくなったので、ワタルはほとぼりが冷めるまで、この山で過ごすことにした。

おにぎりだけでもあと1週間は持つ上、水も米も肉も野菜もストックは十分残っている。

とりあえず、追っ手だけでなく魔物が近くにいないかも含めて、もう一度ソナーを使うが周囲には何の反応もない。

この山も何かあるのか、と首をかしげるワタルであったが、何のことはない。白竜の存在が、周辺の魔物をおびえさせ、辺りから魔物が消えてしまっただけであった。

崖の途中でも、支点を作ってテントをつり下げることは出来るがそれは最後の手段にしたかった。とりあえず、テントを張れる場所を探し、山を登っていくと山頂直下にようやくテント一つ分くらいのスペースのある場所があった。

前世であれば、こんな場所寝ている間に落石に襲われる危険があるため、テントなど決して張ってはいけない場所だが、この世界には魔法があり勝手が違う。ワタルはそのスペースをこじ開けるようにテントを張ると4隅をミスリルのペグで固定し、防御結界を張る。

これで熟睡しようが不在にしようが、落石など、当たる石の方が砕け散る強度を確保したことになる。

それでも防水だけはどうにもならないので、雨が降ったらテントの中から魔法ではじき出さなければならなくなる。

早くワイバーンのテントが欲しいと思うワタルであった。

テントを設営したワタルは、中に入り、毛布とシュラフを敷くと,バックパックの中から白竜を,鞄からエメリーを取り出す。

エメリーと白竜は昨日一日でずいぶん仲良くなったらしい。目の前でポンポン跳ねながら白竜にエメリーがぶつかっていきはじき飛ばされては、またポンポン跳ねてバット使っていくというのを繰り返していた。

とりあえず、昼だし、何か食べよう。

エメリーは最近はワタルと同じものを食べたがり、実際に食べていたが、今は仕方が無いし、分かってくれるだろうと、ずっと収納の中に残って居たキマイラを適当に切り刻んで、エメリー専用のお皿に乗せた。

白竜も、ってそろそろ名前とか居るよな。

キマイラの切り身をお皿に乗せて、白竜の前に出してみながらワタルはそう考えた。

白竜だし、それにしても白い竜って初めてみたな。

白だから、娘っていってたから、メスのドラゴンということだよな。名前って大事だしな。

定番なのはブランシュとかブランカとかだけど、何となく乙女チックだなあ。

「きゅあっ?」ワタルがぶつぶつと独り言を言っていたら、白竜が食べるのを辞めて顔を上げてワタルをのぞき込む。

「?」ワタルは白竜がワタルの方を見ているのに気付いて、独り言を辞め、候補を並べてみようと考えた。

「シロ」「・・・」「ホワイト」「・・・」「ブランシュ」「キュ・・・」「ブランカ」「きゅあっ」

これってブランカという名前が気に入ったということでいいのか?

「ブランカ」「きゅあっ」

よしブランカにしよう。「今日からお前の名前はブランカな」

ワタルはブランカをなでながらそう告げる。目を細め江ワタルに頭をこすりつけるブランカ。うん、小さいと竜も可愛い。

ワタルは、ブランカが皿の中のキマイラを引き千切りながら食べるのを見ながら、自分は最近結構続いてしまっているおにぎりを二つ食べて、とりあえずまだ日も高いながら最近ゆっくり寝られなかったと、シュラフに潜り込んで寝ようとしたのだが・・・

鞄の中でおとなしくしていてようやく外に出られたエメリーと自由になって飛び回りたいお年頃のブランカに顔の上を歩き回られ、寝ることも出来ずに、二匹が満足するまで、テントの中で遊び相手になったのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。