勝負メシは焼肉
誤字脱字は少しずつ修正していきます。
ブリタニア王都にて
王城から出てきたクリス達は、国王がワタルの殺害を目論んだことを認めた事実に愕然とし、また強い怒りを覚えていた。
「この後だけど、ワタルに会いにいかない?」
「でも、どこにいるか分かっているの?」
「リバープルの町ではブリタニアを出て行くって行ってた。」
「だからその後よ。」
「・・・わかんない。」
衝動的に発言するクリスに、慎重な対応をするのはいつもマリアの役目であった。
それでもいつもはもっと口数の少ないリディアも、ワタルに会いに行くという考えには賛成しているらしい。
問題はどこに居るか知らないだけで。
「まあ、とりあえずここに居てもやることないし、ゲルマニアに行ってから考えましょう。」
「クリスってとりあえず動いてから考えるタイプ?」
「人を脳筋みたいに言わないで,マリア」
「・・・違うの?」
「何か言った、リディア?」
「・・・何も」
三人は、ゲルマニアを目指して王都を出て行った。
時とところ変わって、再びツェルマーのワイガー前テント場
2日ぶりに寝ることが出来たワタルは念のためにテント周りに防音防御防犯の三重の結界まで張り、昼まで爆睡していた。朝になってエメリーがワタルのシュラフから這い出し、遊んでもらおうとワタルの顔をペチペチ叩いていたのも気がつかず、そのまま昼まで寝ていた。
突然、テントの外から強い殺気がワタルを襲った。
ワタルは今まで爆睡していたのが嘘のように目を開けると、異空間収納からアックスを取り出し、テントの中で身構える。
「ようやく起きたか、寝ぼすけ。」
外から聞き慣れた声がするが、まさかそのはずは。
「ワタル、起きてるんでしょ、出てきなさい。」
ワタルがおそるそるテントの中から顔を出すと、そこには、
「なんでここにいるの?」
ワタルが率直な疑問を投げかけた相手、それは現代の勇者であるクリスだった。
横には形だけ申し訳なさそうな顔をしようとして失敗し、笑いをこらえているヘルマン、クリスの後ろには、マリアとリディアも居た。
「おはよう、クリス。朝からこんなところまで何の用?」
ワタルは努めて冷静に対応しようとしたが、横にヘルマンが居る時点で、この際の展開は想像が付く。何より昨日クリスの名前を出してしまったのはワタルだ。
それにしても、ブリタニアに居るはずのクリス達をどうやって昨日の今日で呼ぶことが出来たのか。
「あー、何を考えているかなんとなく想像つくが、ギルドまで来てくれ。寝起きのところ悪いが。」ヘルマンがしたり顔でそう告げ、ギルドに戻っていく。
10分後にはワタルはギルドの所長室に居た。昨日と同じ顔ぶれに、新たたにクリス達3人が加わった。
ヘルマンが口を開く、「昨日調査隊が持ち帰ったワイガー山頂付近に居るドラゴンの件だが、勇者様達が応援に駆けつけてくれた。
当ギルドにとっては隣国を拠点にされている勇者様一行が「たまたま」この地を訪れていたのは神のもたらした奇跡とも言うべき僥倖だが・・・」もうすでに笑いをこらえ切れていないらしい「何でも旧交を温めに来た」ところに我々の危難に遭遇し、見過ごすことは出来ないとのことだそうだ。やはり勇者様はこの世界の希望でいらっしゃる。」
相変わらずの英雄的思考の持ち主め。自分たちで対処出来るだろうに。
ワタルは心の中で毒づく。
「さすがに勇者様達、人々をお導きになるべく,この地に降臨されたんですね。よかった、これで安心できます。どうか勇者様達の手でドラゴンを討伐し・・・」
「何言ってるの、あなたも来るのよ、ワタル。」
クリスがワタルの言葉を遮る。
「オレ、関係なくね?ていうか、クリス達はなんでここに居るんだ?」
「私たち、ワタルに会いに来たの。」マリアが頬を赤らめながら言った。
「君たちのお金はちゃんとギルドにそれぞれの分預けてあるぞ。遠征中の魔物素材も全部換金した上で。何も忘れ物はないと思うが。」
「バカ、鈍感、忘れ物とかじゃないわよ。ワタルから聞いた王城での出来事、国王を問い詰めたら、事実を認めたので、私たちもブリタニアを出てきたの。」マリアが急に怒り出した。
「いや、ブリタニアを出てきたって、あんたら貴族だろ?簡単に国を出ましたとか言える話じゃないだろ?」
「いいのよそんあの」これ以上はその話はしないという意思をもってクリスが話を断ち切る。
「それよりドラゴンよ。山を下りてきてからでは町の人に被害が出るわ。今のうちにケリをつけるの。」クリスはもう戦うと決めたようだ。こうなってはもう止まらない。ミスリルゴーレム百体が道をふさいでも、なぎ倒して進んでしまう。
「そうか、無事を祈る。がんばってな。」ワタルは死地に向かう友を送る言葉を掛け、テントに踊ろうと考えていたが、
「何言ってるの、あなたも来るのよ。」クリスがワタルの思惑を見逃すはずもなかった。
「大体、ワタルが否かったら野営中のご飯どうするの、トイレは、お風呂は?」
何真顔で失礼なこと言っているんだ?その程度なら2,3日ちょっと不便な状況を我慢すればいいだけじゃん。
「そんな理由で他人に命の危険を要求するのはおかしくないかい?」
「魔王より簡単でしょ?」
「戦ったことのない相手を過小評価するのはやってはいけないことだぞ、クリス」
「すげえ、勇者様相手にタメ口・・・」アレンがポツリと口にした。
勇者リスペクトなのは分かっているけど、感心するところ、そこか?
『ちょっと待て。先ほどからあんた達だけで話をしているが、俺たち『賢者の剣じゃ』がドラゴンを討伐する。あんた達よそから来た者は地元の冒険者に対する敬意を示す必要がある。」ワイズだったっけ?無謀と果敢を取り違えないほうが良いと思うぞ。
「いや、正直言って、お前らでは荷が重いと思うぞ。」ヘルマンがワイズを止めようとした。が、逆にその一言はワイズに油を注ぐ結果にしかならなかった。
「そこにいるアレン達と一緒にしないでくれ。俺たちはSランクに昇格するのも時間の問題と言われている実力上位のAランクだ。」
「何だと。」その言葉を聞いてアレンが気色ばむ。
「俺たちも勇者様と一緒にドラゴン討伐に加わりたい。」アレンがクリスに向かって懇願する。
「やめておいた方がいい。」クリスのことだから、承諾してしまうと考え、ワタルが先回りして制止する。
「一昨日のことはまだ覚えているだろう。あんたらでは何も出来ないまま、蹂躙されておわる。別にあんたらが弱いと言っているのではない。相性の問題で場所が悪すぎることと、あんたらの攻撃方法とも合ってないだけだ。第一、知らないだけで偉そうに言っているあいつらのほうが未熟だろう。」
「その発言見過ごすことは出来ん。」ワイズがワタルに噛み付く。
「クリス、ドラゴンと戦うのであれば、おそらくは7合目付近にあった避難小屋の跡地になるが、それでも前衛と後衛が邪魔にならないほどの広さはない。そんなところへ、他のパーティーと競合すれば、攻撃防御の邪魔にしかならない。お前らが行くというのであれば止めない。お前らに無理なら、この世にあのドラゴンを止める方法はないと言って間違いない。ただ、普段の実力が出せる場所ではないことだけは頭に入れて、その上で、こいつらをドラゴンから守りながら戦うというのであれば、ドラゴン相手にハンデを背負って戦うといっているのと一緒だ。」
ワタルは真剣な口調で話した。魔王討伐の旅でワタルの分析が正しいことを身を以て知るクリス達は、ワタルの真剣な態度は決して無視できないものであることを知っている。
「私たちでドラゴンを退治します。他のパーティーが手を出さないこと、そしてどうしてもワタルの強力は不可欠です。依頼に応じる条件はその二つです。」クリスがヘルマンに向かっていう。
続いてワタルを向き、「私たちにはワタルの力が必要、協力して。ブリタニア国王がワタルにしたこと、国王が認めたの。ドラゴン討伐の報酬は私たちの分も全部ワタルにあげる。そしたら国王が踏み倒した残金とちょうど同じ。だから協力して。」
「お前らからお金を取ろうなんて思ってねえよ。」ワタルは観念するしかなさそうだと悟った。
「死にそうになったら逃げるからな。」ワタルがあきらめて同行を承諾した瞬間だった。
クリスが嬉しそうに「今晩は焼き肉にしてね。」と言い、マリアが「ヒノキのお風呂もつけてね」と付け加え、リディアは「・・・羽毛のお布団」とポツリと言った。
「遊びに行くんじゃないんだぞ。」ワタルはため息をついた。
次の日の昼過ぎ、ワタル達はワイガー七合目の避難小屋跡地に居た。
ドラゴンに跡形も無くつぶされた避難小屋は小屋だった者があちこちに散らばっていた。
風雪に耐えるため、石造の小屋だったため、瓦礫の山と化していたことから、リディアに頼んで、撤去してもらい、整地したところにダイニング用、お風呂用、トイレ、ワタルの寝る場所、それぞれのテントを設置する。夜になるとおそらくまた魔物が襲撃してくることから、リビング用早めに食事をして、3人には先にお風呂に入ってもらい、その間にダイニングのテーブルや食器、コンロを片付け、3人分のシュラフを用意する。
3人が風呂から出ると、入れ違いにワタルも簡単に入浴を済ませ、お風呂用のテントはそのまま収納してしまう。
ちなみに夕食はクリスのリクエストに応じてショートホーンブルの肉を塩とこしょうで焼いたものを出した。クリス達はワタルが醤油と味噌を手に入れたことを知らないのだが、醤油と味噌が口にあうかどうかは分からなかったので、焼き肉といわれ、別に断る理由もなかった。
普通なら交替で見張りを、となるところだが、ミスリルのペグでテントを張ってそこにワタルの結界だけでなく、大聖女マリアが重ねて結界を張ることで、ドラゴンのブレスさえはじいてしまう防御結界ができあがる。
明日この場所がドラゴンとの決戦の場になるなら、正直このテントは避難場所にしてもいいかもしれない。
こうして魔獣に襲われているのに、誰一人見張りを置かず,誰一人起きないという冒険者の常識を覆す野営の夜が静かに(?)過ぎて行くのだった。




