スキレットでビーフステーキ
ワタルはその日、日が暮れる前にはテント場に戻っていた。先ほどまで、冒険者ギルドのワイガーダンジョン前出張所で、ギルド職員にワイガーダンジョンの異変について説明していた。
「このダンジョンを訪れるのは初めてなのだが」と前置きしたうえで、ダンジョンの割にはあまりに魔物の数が少なすぎること、特に出現箇所が固定されているフロアボスと、自ら動くことができない植物系魔物以外にほとんど見かけないのは不自然なことを報告した。
ギルド職員は、「同じような報告をほかの冒険者からも伺っています」と回答し、近日中にギルドとして調査を派遣するとのことであった。
もっとも「その調査をワタルさんにもお願いしたいのですが」という申し出は断った。
「見ての通り、オレはソロで活動している。2合目付近にいたメガトレントですらソロだと苦戦した。ダンジョンの性質からすれば、遠距離で魔法攻撃ができる冒険者と、奥深いダンジョンであることから回復役がいないパーティーには危険だろう。」そう伝えた。
「それもそうですね。貴重な情報ありがとうございます。」ギルド職員にお礼を言われ、そこで話が終わった。
ついでにテントの受付を済ませ、テント場で、今晩の寝床を確保すうると、テントの中に毛布をしいて、その上にシュラフを置くと、入り口を閉じて、カバンをあけた。
仲から、エメリーが勢いよく飛び出し、ワタルの前で飛び跳ねた。窮屈な思いをさせているのは承知しているのだが、スライムを連れて歩くのは変に悪目立ちしてしまう。
「今日はありがとう。」ワタルはそういってエメリーを撫でる。
2合目のフロアボスらしいメガトレントを倒したのはエメリーのおかげである。
エメリーは嬉しそうに震えると。
ワタルの前で、急に横に伸びたと思ったら、二つに分裂した。
先日、試してもらったときには、横に伸びるものの、そこで止まっていたあの分裂が、目の前で行われたのである。
「おお、やっぱり分裂できるのか。」本に書いてあったことは間違いなかったらしい。どうやらメガトレントにとどめを刺したことでレベルアップしたのだろう。
キマイラ30頭の討伐経験値も、マダーグリズリーとトレントの討伐経験値もパーティー扱いで経験値増加の恩恵を受けたようだったが、メガトレントは自分でとどめを刺したことによるボーナスの補正もあったのだろう。分裂できるようになっていた。
「今晩の語は庵はお祝いにステーキにしよう。」そういってワタルはコンロと手に入れたばかりのスキレットを取り出す。
スキレットを早く使いたかったのだ。
前世なら、スキレットは使う前に、油をひいて火にかけを何度か繰り返しさびにくくする下準備しなければならないのだが、この世界では便利な浄化魔法があるため、その作業が不要になる。ワタルは木の実オイルをスキレットに垂らしてスキレットになじませるようにコンロにかけて伸ばしていく。
スキレットから煙が出てきたころを見計らって、まだまだ山のようにあるショートホーンブルの肉をスキレットに入る大きさ分だけ切り分けて、5ミリほどの厚さに塩コショウしてスキレットに乗せる。
ステーキというには薄いサイズだが、せっかくの分厚い鉄板でもスキレット自体がそれほど大きくはないことから、鉄板自体が保有する熱量が多くないため、分厚い肉ではどうしても鉄板の温度が下がってしまう。むしろ肉の厚みを薄くして、手早く両面を焼く法が、肉のうまみを逃さずに熱を加えることができる。
厚い肉を1枚焼くくらいなら、薄い肉を3枚焼くほうがおいしく食べられるのである。
すぐにテントの中に肉が焼けるいい匂いが十万していく。テントの前室を開けて換気をしているせいか、テント場にいる冒険者がワタルのテントの方を見ている。
ワタルは自分の分としてステーキを3枚、エメリーにも同じ量を焼き終わると、すぐに浄化魔法で、スキレットの汚れと水分を落とし、テント内のにおいも除去した。
エメリー用の皿にステーキ3枚を載せて、エメリーの前におくと、エメリーは嬉しそうに飛び跳ねて、ステーキの上に乗り、消化していく。
「今日は特別だぞ、毎日は無理だからな。」そういってワタルも食べ始める。
食事も終わり、テントの中に寝そべって、体をほぐしていたとき、突然テントの入り口に人が立つ気配がした、と思ったら、テントの入り口の布がノックされた。
「ワタルさんいらっしゃいますか。」
ギルドの受付だった。テントの受付時に、テントの特徴を伝えてあり、受付済みであることを示す札をテントの見えやすいところにつけておく決まりになっていたので、それを頼りにワタルのテントを見つけたらしい。
「お休みのところをすみません。ギルド出張所までお越しいただけないでしょうか。」
「何かあったのか。」
「ここではお話しできませんので、どうかギルドまでお越しください。」
そういって受付がテントから離れていった。
ワタルは、調査の依頼は断ったよな、と思いながらも着替えてから、テントを出て、出張所の建物に歩いて行った。
建物の中に入ると、受付の人がこちらですと奥の部屋に半内した。
言われるままにワタルが部屋に入ると、そこには応接室らしいソファがあり、冒険者グループと思われる4人と精悍な体つきの男性が億の机の後ろの椅子に座っており、ワタルが部屋に入る前に話をしていたようだった。
ワタルが部屋に入ると、奥にいた男性が口を開く。
「疲れているところを申し訳ない。私はツェルマー冒険者ギルドワイガー出張所の所長で、つえるまー冒険者ギルドの服ギルド長をしているヘルマンという。以後よろしく頼む。」
「えーと、私はなんで呼ばれたのでしょうか。」
冒険者であるが、サービス業が長く板についているワタルは、とりあえず警護で応対することにした。
「ワイガーダンジョンについての報告の件で、ギルドとして調査隊を派遣することになってな。」
「祖の件でしたら、先ほど私には荷が重いのでとお断りしたはずですが。」
「聞いていたのは、ワタルがソロだから、という内容だったが。そこで、ここにいる冒険者パーティーと合同以来という形で調査をお願いしたいのだが。」
そのときソファに座っていた冒険者の一人が口を開く。
「俺たちだけで十分です。」
ワタルは渡りに船と「こちらの方もそうおっしゃってますので、私としてもそれでよいのではと。」
と申し出を辞退しようと試みる。
それでもヘルマンは一切意に介さない様子で
「いや、ギルドとしては、今回のダンジョンの異変については、慎重な対応が必要と判断している。万全の体制で臨む必要があると考えるのだ。」
「ですから、我々のパーティーだけで十分かと。」
なおもその男は続ける。パアーティーのほかのメンバーも言葉には出さないものの、ワタルを値踏みするような視線を置こうって来たかと思うと、その男、おそらくはリーダーなのだろう、の言葉に賛同しているようである。
「ああ、おっしゃってますので、私はこれで。」そう言って退出しようとするワタルをさらにヘルマンが「そう言わずに協力してくれ。」
続いて、ソファに座っていた冒険者グループに向かって「あんたらのパーティーが実力のあるパーティーだということは承知している。今この地にいる冒険者パーティーでAランクなのはあんたたちのグループだけだ。ただ、冒険者のランクだけでいえば、そこにいるワタルも個人としてAランクのうえ、そいつはSランクへの昇格を自ら辞退しただけで、実質Sランクだぞ。」
ヘルマンが爆弾を落とすと、ソファに座ってワタルなど邪魔だと発言した男は驚いて立ち上がった「Sランク、だと!?」
「いや、冒険者としてのランクはAだ。(強制依頼が面倒だからな)」後半部部bんは口に出さなかったし、嘘は言ってない。
「それより、ここにいる冒険者パーティーが自分たちだけで十分だと言っているようですし、先ほどお伝えしたとおり、私はソロだから、ダンジョンの奥まで進むには苦労するだろうと申し上げたのであって、パーティーに遠距離攻撃できる魔術師と状態異常を回復できる治癒士がいればそれほど難易度の高くないダンジョンだろうとも猛威下げたので、私は不要ではないかと。」
もちろん、嘘である。確かにワタルはソロで活動する冒険者でらり、遠距離攻撃のための放出系魔法は使えない。それでも、アドベンチャーガイドとして勇者のパーティーに参加し、BランクどころかSランクの魔物がひしめくダンジョンの下見とルート工作をしてきたのである。むしろ下手に実力のない冒険者パーティーと組まされるほうが足手まといになる。
「そう言ってくれるな。あんたが、勇者のパーティーと一緒に魔王を討伐した4人目のメンバーで英雄の一人であることは承知している。」
「ゆ、勇者ぁ?」その言葉を聞いたソファの男が悲鳴にも近い驚きの声を上げる。
うわー行っちゃったよ、この人
「いや、あれはクリス達が優秀なだけで・・・」
「勇者様を名前で、しかも呼び捨て」
うん、収拾がつかなくなってきたぞ。
「ご一緒させてもらいましょう。私たちにもいい経験になります。」ここでソファに座っていた女性が口を開いた。服装と装備からは治癒士だろう。治癒士がいるならワイガーくらいのダンジョンは十分攻略できそうだ。実力はマリアには及ばないだろうが。
「違憲もそろったことだし、それでは以来の方だが。」
ヘルマンが話を進めようとした。
人の言葉に耳を貸さずにマイペースで話を進めるのか、この男は。
「条件がある。」ワタルはあきらめて依頼を受ける条件を告げることにした
「行ってみろ。」
メンバー一人につきHp回復用のポーションを10個ずつと治癒士及び魔術師、そこのソファに座っている二人がそうだろうにはMP回復ポーションを10個、冒険者ギルドで用意してもらおう。それらのポーションが残り3つになったら、調査は途中でも雨域って引き上げること、ダンジョンに出てくる魔物のランクに応じて報酬は決めること、わかっている範囲で少なくとも2合目までBランクの魔物が出現する。最深部である10合目つまり山頂までにはどれだけ弱くてもBランクの間も尾を最低9体は討伐しなければならない。調査とはいえ、そこまで進むのであれば、それだけの魔物討伐報酬も上乗せしてもらう必要がある。そして、そこのパーティーも俺も冒険者ランクはAだ。ランクAを超える魔物が現れた時点で調査は打ち切り、生還をかけて撤退する。この条件が受け入れられないのであれば、俺は断る。」
警護はやめたワタルであった。
「ふむ、それはもっともだ。ギルドからの依頼の報酬として、討伐した桃ののランクに応じて、Bなら金貨10枚、Aなら50枚を追加する。調査そのものの依頼は一人につき金貨30枚。これでいいか。」
「俺たちはそれでいい。」
言い出したワタルが口を開く前にソファにいた男がそう答えた。
「仕方がない。ただし、ランク以上の討伐は無理だからな。」
やむを得ずワタルも依頼を受けることになった。




