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山岳系ダンジョン

朝起きてテントを片付けて収納し、一つ大きく背伸びをするとワタルはダンジョンの入り口でギルドカードを職員に見せ、ダンジョンの入り口、つまり森の中に入っていった。

朝もやのかかる森の中はワタルにとって前世以来の懐かしい心地よさだった。

やっぱり、こういうのいいなあ。

5年にワタル勇者パーティー同行による魔王討伐の旅はどこか気が休まらなかった。

人類のために魔王を討伐しなければならない。その強迫観念にもにた使命感に追われる毎日はワタルにとっても息苦しかった。パーティーメンバーと一緒に食べる食事、日常の何気ない楽しい会話、そういうものが一服の清涼感を与えてくれたことは否定しないものの、ただあてもなく、テントから起きて、ゆっくり朝もやのかかる森の中を歩く心地よさには比べようもなかった。

・・・とはいえ、ここはダンジョンだから。

見た目には山の中にある森の木々の間を散策しているようにしか見えないが、実際にはダンジョンである。

ただの木に見えても魔物かもしれない。植物系の魔物もいるらしいし、油断するとけがをしかねない。

ワタルはノスタルジックな気分になった自分に苦笑しながらも、気を引き締め、森の中を探索することにした。

どうせ今日一日歩いたら、今晩は同じテン場で野営して明日はツェルマーの町に戻り、注文した調理器具を受け取って、またこの場所に戻ってくる予定だった。

ほかにも鉱山やヴァイスホルンなども見て回ろう。冬はこの地で過ごし、春になったら一度フランフールの町にテントを受け取りにいく。そう考えていた。

ワイガーのゼロ合目から1合目、迷宮型ダンジョンでいうフロアは比較的平坦で、どの方向にむかっても歩けそうだったが、ルートファインディングに優れたワタルには、冒険者の足跡が同じところに同じ方角についているのを見つけるのは容易だった。

冒険者はまっすぐ山頂に向かうルートを通って早めにこのゼロ合目を抜け出すらしい。

ゆっくり見て回ればここも面白い場所かもしれないのい、と思うのだが後から来る冒険者が、自らルートを確認せず先行する自分の後をついてきてしまうのは遭難させてしまう危険性があるので、あまりルートから外れた方向へ歩くわけにもいかなかった。

ソナーを使って周囲にだれもいないことを確認し、足跡がつかないような場所を選んで脇道にそれていくことにした。

このあたり一帯はツェルマーの町自体北緯の高いところにある町なのだろうか、標高の低いところにあるこの森も、寒冷地の植生がひろがっている。

ダケカンバやシラビソの原生林が広がっている。

これでダンジョンか・・・ここが八ヶ岳だといわれてもオレなら信じるけどな。

思わず前世の懐かしい地名が口に出てきてついつい口元が緩んでしまう。

八ヶ岳も前世で登山ガイドを生業にしていたワタルが仕事でよく訪れた場所である。

ワタルは八ヶ岳が大好きだった。

登山者のレベルに合わせた楽しみ方を提供してくれる懐の深い山だった。

ま、感傷に浸るのはこれくらいにして、脇道に逸れてはみたものの、特に目新しいものもなかったので、再びルートに戻り先に進むことにした。

1時間ほど歩いただろうか。斜度が少しずつ上がり、前方に岩壁が見えてきたところで、少し開けた場所に、岩壁の手前に、何かが動いているのが見えた。

近づいていくと、体長は3mくらいはあろうか、目が真っ赤に光っており、どう猛な牙がのぞく口元からは、唸り声と同時によだれが湧き出していた。

その正体はマーダーグリズリーである。ワタルの収納の中に入っている熟成済みのキラーベアより危険度主討伐ランクも上がる存在で、cランクの冒険者なら最低でも4人で対応する、それも前衛と後衛のバランスがとれたパーティーでなければ全滅のおそれさえある、というBランク上位の魔物である。

いわゆるフロアボスというやつか。

ただの山の中にしか見えないのだが、ギルドによればどうやらダンジョンらしくダンジョンのルールが当てはまるらしい。

つまり、倒しても素材回収ができない代わりにドロップ品があれば討伐後にその場に残るのだという。

食べられないものを倒す趣味はないのだが。

ワタルは収納から武器も兼ねているアイスアックスを取り出しさらに接近していく。

マーダーグリズリーがいる少し開けた場所に足を踏み入れた途端にマーダーグリズリーが襲い掛かってきた。

どうやらその開けた場所がフロアボスの部屋という扱いなのだろう。

マーダーグリズリーはゆっくりワタルの前まで歩いてくると、ワタルの手前5mくらいのところで立ち止まり、後ろ足で立ち上がった。

やはりワタルの身長の倍以上ある。

唸り声と共に右前足を振り下ろした、がその一撃はマーダーグリズリーの予想に反し、ワタルを頭らk地面に押しつぶすことはなかった。

ワタルは体を少しずらすことでその初撃を躱すと、手に持っていたアイスアックスを一閃、地面にめり込んだマーダーグリズリー右まあ江足を切り落とした。

さらに、長時間苦痛を与えるのは残酷だと、そのままもう片方のアイスアックスで目の前にあったグリズリーの首を切りつけると、さすがに切り落とすほどアイスアックスの刃渡りは長くなかったが、アックスの刃は皮膚の下にある頸動脈を断ち切るには十分な長さであったため、マーダーグリズリーはそのまま絶命し、地面に崩れ落ちると、そのまま消えてあとにはこぶし大の魔石が残った。

Bランクの魔物の魔石が一つあれば野営中のパーティーが入るお風呂のお湯を沸かすには十分である。

この世界では薪を燃やすほかに、魔石を使ってコンロで調理をしたり、お湯を沸かしたりなど、ガスカセットや電池のような使い方をするため、一部魔法で代用できるとしても、魔石を備えておくのは便利である。

どうせギルドに売ったところで、使うときはさらに割高な値段で買わなければならないので、解体する手前が省け、死んだら魔石に代わってくれるダンジョンで積極的に魔石集めをするようにしていた。

それにしても、この場所は魔物が少ない。

ダンジョンというからにはもう少したくさん魔物がいてくれると魔石を集めるのに便利だが、ここまでに一体とも遭遇していないのは、初めての場所とは言え、ここがダンジョンと呼ばれている以上、違和感を感じざるを得なかった。

それでも危なげなくボスを倒してしまったため、もう少し先まで進む時間がありそうだと、ワタルは1合目の標識の横を通り抜け、さらに先に進むことにした。

1合目からはほんっかう的な登山道となっていた。

ときおり、大きいく貼りだした根本が道を大きくえぐり、段差が大きくなる箇所なども出てきた。

「両手両足を使って、一段一段の歩幅を小さくして登ってください」仕事でガイドをしていたワタルは、登山客に無会って何前回もそのセリフを口にしていた。

もっとも、ここは異世界、魔物が普通に存在する場所、もとより油断するつもりのないワタルは進む方向にむかってソナーを定期的に発動しており、目の前の一見手掛かりに見えそうな位置にある枝を伸ばしているのがただの樹木ではなく、樹木に擬態した魔物=トレントであることに気付いていた。

トレントは木の形をした魔物でありながら、炎属性の魔法に耐性を持つというイメージに反した魔物であり、実際は雷属性の魔法が弱点である。ランクはDであるのは弱点属性の攻撃であっさり倒せるからであるが、そのことを知らないと逆に高ランクのパーティーでも苦戦する。下手すれば犠牲者まで出る。

どうやらトレントはワタルが気づかずにてをついたらそのまま彼めとって攻撃してくるつもりだろう。

樹木に擬態するトレントの攻撃はかなりの高確率で決まるため、その初撃で冒険者の機動力を奪うという戦術で攻撃してくる。

まあ、山岳を主戦場として冒険者を続け、勇者のパーティーにまで同行していたワタルにそんな手が通用しないのは言うまでもないが。

ワタルは気づいていないふりをしてキラーベアを一撃で葬り去ったあの、AED強力バージョンの雷を左手の比良に集めると、段差のある登山道を乗り越えるふりをして、そのトレントが伸ばした枝に掴まり・・・と同時に高圧の電流を流すと、トレントはそのまま姿を消し、あとの刃魔石が残った。

これは便利だなとワタルは、今日の目的をトレント討伐による魔石集めに切り替え、1合目から2合目の間をソナーを使ってトレントの位置を割り出し、近づいては雷撃で瞬殺sし、魔石を回収するというルーチンを繰り返した。

ワタルがテント場に戻るころには、ゼロ合目のフロアボスマーダーグリズリーの魔石一つとトレントの魔石が12個手に入った。

テント場に戻ると、ワタルはテントの前に折り畳みの椅子とテーブルを出しすと、カバンに入っていたエメリーを取り出し、てーっぶるの隅に置いて、魔石コンロでホーンブルの肉を焼いていく間に、収納から、エメリーの食事用に残してあるキマイラ1体をテーブル横の地面におくとエメリーに「エメリー、まず地抜きをして」と話しかけた。

エメリーは昨日と同じように何度か苑まではねた後、キマイラのか¥上に乗って動かなくなったと思うとしばらくしてプルルっと震えた後でワタルの方に飛び乗ってきた。

ワタルが確認のため、キマイラを切り開いてみると、やはり血が出てこなくなっていた。

完全に血抜きの指示が理解できているらしい。

キマイラはいったん収納し、昨日のキマイラの肉片をエメリーの皿にのせて、さらにホーンブルの肉も少し焼いてエメリーのさらに載せると。エメリーは何度も飛び跳ねて、皿の上に乗り、消化していった。皿ごと消化することももはやなくなっていた。

食事が終わると、皿とテーブルと椅子を片付け、同じようにテントのペグを境界として結界を張り、そのまま眠ることにした。

翌日、ツェルマーの町に戻ったワタルは先日調理器具を注文したガンツの工房で寸胴とスキレットと鍋とパエリアパンを受け取って残代金を支払い、再びワイガーの天とばに戻ってきたのだった。

思ったよりも楽しいところなので、もう少し滞在し、ワイガーの攻略を進めようと考えたのだった。


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