パエリアパンとホットサンドメーカー
誤字の指摘を頂きました。ありがとうございます。
現在目の手術中で、文字が見えないことが多々あるので、校正作業ができないことが多々あります。お見苦しいとは思いますがお付き合いください。
ワタルはギルドでキマイラの素材買取代金を受け取ると、ノインフェルトの町を後にした。
牛肉1年分の報酬は、ギルドの責任で取り立ててほしいと伝えたものの、人間なんてのど元を過ぎれば何もなかったかのようにふるまおうとするだろう。
ワタルには、ブリタニア国王の顔が浮かんでいた。
キマイラの素材だけで金貨106枚になった。岩で押しつぶしたキマイラは爪だけかろうじて売り物になったが、それ以外はダメージが大きすぎてワタル自身が売りに出していない。
しかし、1頭ずつ丁寧に退治したキマイラは素材の状態がほぼ完ぺきだったため、高い買取代金につながった。
放出系の全体魔法を持たないワタルにしてみれば、少しずつ討伐していくしかない。そのために、時間はかかったが、1か所に集中して討伐できる効率の良さも考えれば、討伐報酬などより素材買取で十分採算は合ったといえる。
もっとも、金目当てではなく牛肉目当てだったのだが。
まあのあとさらに1頭ショートホーンブルも手に入れたので、全部で200kgを超える牛肉を手に入れ、キマイラ討伐中に熟成させることができた。
あとは時間停止の異空間収納の中で好きな時に好きな量取り出して食べることができる。
まあ、行きがけの駄賃というやつだ。
「さて、次はどこに行こう。」
秋もだいぶ深まってきたし、山はそろそろ雪が降るころである。
雪山を堪能するのもいいかもしれない。
ゲルマニアの地図によると、ここから北東のところに、ゲルマニアで一番高い山ヴァイスホルンがある。そのふもとの町ツェルマーに立ち寄り、ヴァイスホルンを堪能しよう。
テント委は春先に完成予定だから、冬の間はツェルマーで過ごしてもいいかな。
食糧はまだ十分あるし。
ワタルはツェルマーを目指して旅を続けることにした。
ツェルマーはノインフェルトから馬車で1週間かかる。
道中をのんびり楽しんで立ち寄る場所もとくに見当たらなったので、ワタルは乗合馬車で移動することにした。
ちょうど中間地点にある中継疫の町で宿に泊まる以外は、馬車を止めて馬車を運営する商会の設営するテントで寝ることになる。
護衛の冒険者が5人同行し、料金は一人金貨2枚。結構いい値段だが、護衛を雇わなければならないことと、利用者がどうしても限られることからやむを得ないのだろう。
食事も一応商会が用意するが、正直携行食に毛が生えたようなもので、おいしくない。
ただ、異空間収納から食べ物を出すのは悪目立ちしそうなので、ワタルはだまって用意される食事をすることにした。
帰りは歩きだな。
正直な感想だが、口には出さないことにした。
道中懸念されていた盗賊には遭遇しなかった。
一度だけ、狼の襲撃があったらしいが、ワタルは気にもせずに爆睡していた。
商会が用意したテントではなく、ワタルは自分が使っているソロ用のテントがあるからと、ほかの浄化yくと一緒ではなく、一人でテントに寝ていた。
ただし、ミスリルのペグは、見た人間がよからぬことを考えても面倒なので、鉄のペグにしておいた。
これだと結界が弱くなるが、まあCランク程度までならこれで十分だろう。
いつものように防音防御の結界を張ったうえで寝たワタル。防音の結界は防御結界を超える攻撃力をもった魔物が接近しない限り、全て外からの音を遮ってしまう。
ワタルが爆睡できるのは、外に防御結界を超える敵がいなかったからである。
道中何のトラブルもなく、ワタルはツェルマーの町にたどり着いた。
ワタルが前世で拠点にしていた長野県白馬村と雰囲気が似ていた。
いいところだな。
馬車の乗降場所であったツェルマーの町の門の前で降りると護衛と御者にお礼を言い、町に入るときに門番に冒険者ギルドの場所を尋ねた。
この町はそれほど人口も多くないため、冒険者ギルドは商業ギルドと同じ建物の中にあるとのことである。
また、ツェルマーの町はヴァイスホルンを始めとして、いくつもの山で構成される山塊の玄関口になっており、様々な鉱石の採れる山も、ツェルマーが採掘拠点になることから、ツェルマーでは鍛冶が盛んで主要な産業でもある。高ランクの冒険者が持つ業物の剣から生活用品までなんでも手に入るとのことだった。
その話を聞いたワタルは、すぐに腕のいい鍛冶師の情報を商業ギルドで尋ねた。
「冒険者様ですね。剣をおっ探しでしたら、いい鍛冶師がおりますよ。」
「いや、探しているのはそこの深い銅製の鍋だ、あとはちょっと珍しい形をしている鍋、これは見たことがないので、注文したい。それに厚みのある鉄のフライパンと逆に薄くて広く浅いフライパンを探している。
「見たところ冒険者様に見えますが、料理ギルドの方ですか?」
「いや冒険者だが、俺は剣は使わないんだ。幸い荷物の収納は便利な物を持っているので大きなものもあまり気にならない。保存方法も結構便利な魔法があるので、一度にたくさん調理をしておくとなんども調理をしなくて便利なんだ。」
異空間収納だとか時間停止機能があるだとかは公にしたくないので、あいまいに説明し、ワタルは商業ギルドで名前のあがった鍛冶師の工房を訪れた。
銅製の大きく垂直の苗はすぐに手に入ったが、肉厚のフライパンは、腕の悪い鍛冶師が均等に薄く鉄をたたき伸ばせない品物として扱われることから、鍛冶師の気に障ったらしい。
「そうじゃなくて、鉄が厚いほど、熱が冷めにくいんだ。熱したフライパンに食材を入れると、その時フライパンの温度が下がるだろう。その温度差が大きいと料理がまずくなるんだ。」
悲しいかなこの世界にはスキレットというものがない。しかも鋳造で大量生産という技術もないので、全部が鍛造品となる。腕が悪いとかじゃなくて、目的に合った形があるという説明を一からしなければならなかった。
逆に薄くて平たいフライパンは、鍛冶師の腕の見せ所らしく、注文制作になるが、快く引き受けてもらえた。
パエリアパンで話が通じればよいのだが、パエリア自体が存在しないこの世界にパエリアなどという言葉はない。パエリアパンでは当然伝わらない。
そして銅の打ち出しで土鍋の形にしてもらうのは、もはや絵をかいて説明するしかなかったが、これも湾曲を滑らかに打ち出す技術がなかなか難しいらしく、鍛冶師の意欲につながったらしく、快く引き受けてもらえた。
最後に、ギルドでは説明しようがなかったので、縁の付いた鉄板を重ね合わせて火にかけることができる調理器具、前世では重宝したホットサンドメーカーも詳しい図面と機能を伝えて注文した。鋳造なら蝶番の綴じ目の付いたものが作成できるが、鍛造だとフックで制作するのが限界だろう。それでも用途は満たすので、フックで2枚の鉄板を合わせるもので依頼した。
全部で金貨5枚、高額ではあるが、全部手作業の鍛造品であるからその値段も当然だろう。
何よりワタルは金に困っていなかったし、キャンプ生活を豊かにする道具に金を惜しむつもりはなかった。
「全部だと、1週間ほど時間をくれ。あとわしの名前はスミスだ。」
「わかった。楽しみにしている。オレはワタルという名前だ。」
ワタルは寸胴と銅鍋とスキレットとパエリアパンとホットサンドメーカーを手に入れるのが今から楽しみだとスミスの工房を後にした。




