2
王宮にて
魔王を討伐し王都に凱旋した勇者の一行は、王宮でも拍手で迎えられ、謁見の間に通された。
ただし、国王の前に現れたのは、勇者クリス、聖女マリア、賢者リディアの3名でありワタルは、謁見の間の入り口を警護する近衛騎士に止められ、一人だけ別室に通された。
別室には近衛騎士長のマルコがいた。
騎士長は、ワタルの前に麻袋25袋を床に積み上げて、騎士2名にワタルが脇を抱えられて入室するのを待っていたようだった。
部屋に入るとすぐに騎士長は、「此度の勇者一行への従軍大儀であった。勇者ほか3名にはこの先も王国の大切な任務がある。貴殿には約束の金貨5000枚を支払う故、このまま立ち去るように」と言い渡し、岸2名と共に退室していった。
「ずいぶんな扱いだな」
ワタルはそうつぶやいたが、同時にこれまで幾多の危険を乗り越えてきた第六感が、違和感を伝えていた。
なぜ、騎士長が対応するのか、なぜ報奨金の受領を目の前で確認しないのか、なぜ部屋に一人残して全員が体質するのか。
それらの疑問が示す事実はただ一つしかなかった。
「俺は邪魔者ということか」
即座に長年苦楽を共にした勇者たちしか知らない固有スキル「鑑定」を発動したところ、目の前に積まれた麻袋のうちワタルの手前に積まれて10袋だけに金貨が入っており、残りはただの石が入った麻袋だった。
「やれやれ、どうせ殺すなら金を払うのももったいないということか」
振り返り、部屋のただ一つの出入口である扉も鑑定してみた。
果たして、魔法による封鎖の処理がしてあった。
つまり、腐っても勇者と行動を共にしたメンバーであるから、万一の仕損じもないように兵を集める間、警戒されないように手前から数えるであろう袋にだけ金貨を詰めて、それもわざわざ小金貨にすることで重量を増やし、持ち出せないようにして、加えて部屋に閉じ込めようということか。
ワタルは一つ大きなため息をつくと、最大火力の魔法で壁ごと穴をあけて出ることは可能だが、反逆との好日を与えるだけで面倒だ。
ワタルは金貨の入った袋だけを異空間収納に姉妹、部屋を見まわしたが、使えるものが何もなかったので、石の入った麻袋15袋を寄せ集めると、愛用の位民g府ロープを収納から取り出して袋に巻き付け、2本を束ねた状態で、左肩から右わきに背中を通して胸の前でS字カラビナで左肩を通す前のロープと右わきを通した後のロ^ぷを固定し、窓を開けて下に誰もいないのを確認し背中から乗り出して懸垂下降で地上まで降りた。
窓の下から地上までは約15mほえどあったが、ロープは60mであり、2本束ねることで30mまでしか使えないがそれでも地上に降り類は十分な長さを確保できた。
地上にお律とワタルはすぐに固定していたカラビナを外し、体に巻き付けていたロープを解いて体の前に持ってきて、2本のうちの1本だけを引き寄せ、麻袋のうしろを通していたロープを回収し、すぐに物陰に隠れた。
ここから窓を閉める方法ないが、おそらく、窓から、壁を伝って隣の部屋に入ったか屋根伝いに逃げたと考えるだろう。飛び降りるにはちょっと距離があるうえ、ロープを使って降りたことにはすぐに気づかないだろう。
物陰に隠れると、すぐにロープの片方の端を手にもって左肩から右わきを通すように巻き付けていき、反対のロープの端が手元に来た時点でエイトフィギュアノットで括って束ねたロープを収納に戻した。
それでもまだ往生の敷地内であり、堀の外に出るには城門を通るしかない。
と向こうも考えるだろうから・・・
ワタルは城の裏手に回ると城壁から堀を見下ろした。
水面まで約20m、堀の幅は15mくらいかな。
40mもあれば足りるか。
ワタルは収納から弓と返しの付いた矢、矢じりに鋼線ウを縛り付けると弓を引き絞り、対岸の多いな木に向けて矢を放った。
「ヒュッ」と金切り音を立てて矢は次の瞬間に的にした木に深々と刺さった。
ワタルは、さらに滑車の付いた金具を取り出してピンと張った鋼線に引っ掛けると、そのまま城壁から飛び伊織、そのまま鋼線を伝って対岸に飛び移った。
着地するとすぐにワタルは、手を鋼線にかざし、初級の火の魔法を発動させると鋼線は一瞬で城壁に結わえたところまで燃え移り、灰も残さず空中に消えた。
その30分後、
「せめてクリス達にはちゃんと別れを言ってから出ていきたかったな」とつぶやきながら町を後にするワタルがいた。