秋の野山でキノコ祭り(3)
ペチッ、ペチッ
頬に何かが当たっている感じがする。夢か?
少しずつ目の前の焦点が合ってきた。
ワタルがテントの中で目を覚ますと、シュラフから顔だけ出しているワタルの首のところに重しが載っていて、ペトッという触感が保保に触れていたのであった。
何・・・だ?
上半身を起こしたところえ、頭の上に昨晩スライムを載せたはずの籠があることに気づき、ワタルが上半身を起こしたことで、ずるーっとおなかに重しが移動することに気づいた。
眠い目をこすりながら目を向けたそこに、鮮やかな緑色のスライムがいた。
どうやら、一命はとりとめたのだろう。
それでも、昨日巻いた包帯はそのままであり、見た目にシュールな物体であることに違いはなかった。
スライムはワタルのおなかの上を顔に向かって近づいてきたので、とりあえず、シュラフの中から手を出して抑えたところ、スライムはそのまま動かなくなった。
「元気そうでよかったな」
言葉は理解できないはずだろうが、ワタルがそう声をかけると、スライムがプルルッと震えた。
とりあえずと、ワタルはテントの入り口においてあった靴をテント入り口で履くと、体全部をテントの外に出した。
嗣明忠に襲ってくる魔物はいなかったらしい。防音防臭そして何より防御結界が効いていたのであおる。
ワタルは自分がはい出たテントにもう一度上半身を突っ込んで、スライムを手に取り、テントの天上につるしていた籠に入れて、テントの外に出した。
スライムは、すぐに籠の外に出ようと内側をよじ登っていた。
うん、元気になったようだ。
ワタルは籠の縁まで登って乗り越えようとしたスライムを受け止め、包帯を解いてみた。
どうやら傷口はふさがっていて、体液が漏れることもなくなっている。
包帯で押さえつけていた傷薬の薬草と抗菌用の椿の葉はごみ用の袋に入れて、収納しておく。
山にごみと命は捨ててはいけない。前世からのワタルのモットーである。
スライムを地面におろすと、スライムはワタルの足元によってきて、触手を伸ばし、つついてきた。
「なんだ?」
そのしぐさが何を意味するのか分からなかったワタルはしばらく眺めていたが、つついているだけだった。
「なんかかわいいな。」
ワタルはスライムに話しかけるでもなく、そうつぶやいて、スライムをなでると、スライムは再びプルルッと震えた。
と、おなかがすいたぞと。
しばらくスライムを見ていたワタルだが、朝起きたところで空腹の自分に気が付き、昨晩の残り者である豚汁を温めなおして食べることにした。
鍋のまま収納していた豚汁を取り出し、コンロに火をつけて温めていく。
昨晩使った皿を取り出したところで。足元にいるスライムを見つめ、食べるかな?とスライムの分の皿も取り出すことにした。
豚汁がに立ってきたところで、火を止めて、さらに盛付、スライム用に地面においた。
すると、スライムはワタルの足元から皿の方に自分で移動していって、皿の縁まぅると、半回転した。
どこに顔があるのかわからないが、それはまるで、ワタルに向かって振り返り「食べていいの?」と確認しているようだった。
「食べていいぞ」
ワタルがそういうと、今度は反対方向に半回転して、触手が皿の中に伸びていった。とみるみるうちに豚汁の水面が下がっていって、スライムが豚汁を食べているのがなんとなくわかった。
ワタルはそれを見届けると、自分も皿を空にして、皿をきれいにふき取り、空にした鍋も中をふき取って収納した。最後にスライムもそろそろ食べ終わったかなと皿を回収しようとしたら、スライムが皿の上に乗り、体の中に取り込んで消化しているところだった。
「皿まで食べてしまった。」
昨日は豚汁だけで皿は無事だったのに、どうやら昨日は皿を消化する元気もなかっただけらしい。
まあ元気になってよかったとしておこう。
今日も一日山の中でキノコを採集する予定でいた。
自然の中で時間に追われず、まま小野にもおわれっず、まったりとした時間を過ごすと決めていた。
テントを収納したところで、ワタルは出発することにした。
スライムも元気になったようなので、この先再び魔物に襲われることもあるかもしれないし、それによって今度こそは命を失うのかもしれないが、それもまた自然のルールだと考えていた。
「じゃあ、元気でな。」
ワタルはスライムに声をかけて、池のほとりを離れ、森の中に入っていった。
今日もたくさん食べられるキノコを探そうと、地面すれすれや倒木の裏側、立ち枯れの木の幹など、キノコが生えていそうな場所を探し回りながら歩いた。
倒木の陰に、食べられるキノコの群生を見つけ、今日も朝から幸先がいい、としゃがんで一株ずつ、丁寧に採取していたとき、そのワタルの足元にぬるっとしたものが巻き付いてきた。
「毒蛇か?」
驚いたワタルは立ち上がり、足を振り払った。
すると、足に巻き付いていたものは、ぽーんと叢にはじかれた。
ワタルはさっきまで自分の足にまとわりついていたものが何かを確かめようと、飛んで行ったところを見ると、それは、もそもそと雨後出汁、ワタルに向かってきた。
「さっきのスライムか?」
鮮やかな緑色のスライムを見るのはワタルも初めてだったので、自分が助けたスライムと同じだと考えるのが自然である。テントのところで別れたはずで、ワタルのほうが移動する速度は断然早いはずだが、キノコを探しながら地面すれすれをのぞき込み、蛇行して歩いている間に追いかけてきたスライムが追いついたのだろう。
と、考えているうちに、足元まで戻ってきたスライムが再びわたるの足に体をこすりつけてきた。
これはどうみても懐いているのか?
この世界に魔物と心を通わせ従属関係に置くテイマーという職業があるのは知っている。
しかし、ワタルはアドベンチャーガイドであり、テイムのスキルはもっていない。むしろ自然の生態系を破壊しないように、自らが襲われない限り自然界の生物には干渉しないというのがワタルの新年である。昨晩は相手方ゴブリンであり害獣駆除対象だったことと、自分の方に向かってきたこと、退治すると決めた後にスライムが襲われているのを知ったので、ワタルとしては自分のルールによっても正当化できる内容だと考えていた。
まあ、そんなことより、
これどうするかな?
ワタルはしゃがみ込んで足元にいたスライムを捕まえて持ち上げ顔の前に持ってくる。
するとスライムが触手を伸ばしてきて、ワタルの保保をつんつんとつつきだした。
これにはさすがのワタルも笑ってしまい、それで勝負あった。
「ついてくるのか?」ワタルはスライムにそう尋ねた。
すると言葉がわかるかのようにスライムはワタルの手の中からとっびはねて腕からワタルの左肩に移動し、そのままワタルの左保保に体を擦り付けた。
「言葉がわかるのかもしれないな」と思いながら、ワタルはスライムを連れて帰ることに決めた。
ワタルはバックパックの天蓋と本体の隙間、普段はクライミングロープを破産で背負うところにスライムを入れて、とりあえず、個々で我慢してくれと告げ、再びバックパックを背負った。
スライムが旅の道連れになったとはいえ、キノコ探しはもう少し続けたかった。
再びワタルは、キノコを求めて広葉樹の森を歩き始めた。