秋の野山でキノコ祭り(1)
ワタルはフランフールの町の食堂で昼ご飯を食べていた。
そうただ食べていただけなのに・・・
「おう、あんたが盗賊を一人で一網打尽にした凄腕の冒険家ワタルか?オレはもうすぐBランクに昇格するというところまで来ているCランクパーティー『コンドルは小金をため込んどる』のリーダーのウェインだ。あんたのような実力者にぜひうちのパーティーに入ってほしいと思っているんだがどうだ。」
(何そのネーミング?この町はそんなのばかりなのか?)
「どーもー、冒険者のマイケル・ピートです。弟のトム・ピートです。二人合わせてツーピートでーす。」
漫才師か。
「俺はアレックス、こっちはサンドラ。パーティー名は『アレクサンドラ』だ。」
山〇君、座布団1枚。
(二人でパーティー名完結してるじゃん)
「ワタルにぜひパーティーに入ってもらって『アレクサンドラフィーチャリングワタル』として活動したい。」
{何その曲限定ユニットみたいなネーミング?いや、格好いいよ。格好いいけどさ。)
「私たちDカップスでーす。」
(うぉ、何それいいじゃん。)
思わず顔を上げるとそこには・・・
(いや、この流れで男っておかしくね?力士の集団て)
食事を止めて顔を上げた俺の時間を返せ。
そう、さっきからずっとワタルはパーティーへの勧誘を受けていた。
「過分な評価を頂いたのはありがたいが、俺は充電期間中で、それほど冒険者の活動に熱心ではないんだ。あんたたちの足を引っ張ることになるから、遠慮させてくれ。」
もう何度も断っているのだが、一向に止む気配がない。
それでも、冒険者落としてこれから一旗揚げようという人たちのペースはしんどい。何よりワタルはガイドであって、素人の誘導が元々本業であり、冒険者としてパーティーを組んでクエスト達成を目指すという、勇者のパーティーに参加し魔王討伐にを行ったケースのほうが例外なのである。
落ち着いて食事もできないと、ワタルは皿の上の昼食の残りを全部口の中に頬張ると、会計を済ませて足早に店を出た。
今日は大切な用事があるのだ。先日の護衛の依頼主であるベルクによってもたらされた情報、このフランフールの町のヴォルフガング商会に味噌と醤油が売っている。
一日も早く手に入れなければならない。勇者が聖剣を手に入れるがくらいの大切なミッションである。
ヴォルフガング商会フランフール支店は、フランフールの町の中央、町の入り口から、中心にある噴水広場まで続く町のメインストリートに面して噴水広場のすぐ近くにある。
さすがはゲルマニア共和国でも五指に入る大商会、一等地に店舗を構えている。
ベルクには、立ち寄るときには声をかけてくれと言われているが、まさか味噌と醤油を買いにきたくらいで手を煩わせるわけにもいかない。
それにしても、建物も大きければ中の食料品売り場の面積も今までに見た店とは文字通り桁違いだった。
世界中の珍しい食品などもかなり豊富に扱っている。
まずは、何はなくても味噌と醤油だが。
あまりに広すぎてどこに何が売っているのかわからないので、案内に訪ねて場所を教えてもらったところ、輸入食品を扱う一角の東の国の食品コーナーに求める品はあった。
そこには、味噌と醤油はもちろん、粒が短く粘り気のある米と、その米から作った酒も販売されていた。
「まんま日本の食材だな。」
どうやらこの世界にもワタルの故郷によく似た地域があるらしい。
ワタルは、懐かしい食べ物を目の前に、自我が崩壊してしまった。
味噌5kg、醤油30リットル、塩20kg、胡椒1kg、木の実油5リットル米30kg
飲食店のような量の食材を買い込んで、周りの客を唖然とさせた状態で会計で金貨20枚を払うワタルであった。
人前で異空間収納を使うところはできるだけ避けるべきであるが、味噌と醤油を手に入れたワタルには、そんなことも気にならない。
会計後、何もなかったかのように一般の人には持ち運べない量の品をすべて収納してしまったことで、再度周囲の客を唖然とさせたワタルだが、当の本人は全く意に介していない。
さて、せっかく手に入れた食材を使っておいしいものを食べたい。
ワタルは商会を出て、次の目標をどうしようかと考え言えた。
山はそろそろ秋の訪れを感じられる季節だな。
街中はまだ十分短い袖の服で過ごせる気温だが、標高の高い山では、さらに1枚羽織り、朝晩は厚めの防火暗愚も必要になってくる季節である。
そうだ、キノコ食べよう。
やはり山の秋の味覚といえば、木の実とキノコである。前世では登山ガイドとして山の中ではよくキノコを見かけながらも、キノコは中途半端な知識で手を出すのは危険な食べ物である。よく似た毒キノコがない、確実に判別できるキノコに限定して採集していた。
ところが、今は「鑑定」という便利なスキルがある。
食用か毒カを見分けることができる。お勧めの調理法まで教えてくれる。
まさに、アドベンチャーガイドとして仏用不可欠なスキルと言えよう。
幸い食糧も山のように買い込んだので、しばらくは山の中にこもることができる。
思い立ったら即実行
翌朝、ワタルはフランフールからベル理に向かう乗り合い馬車の中にいた。
そこから半日、途中の村で乗り合い馬車を降りて、北に徒歩で1日、フランフールから一番近い山のふもとにいた。
この山には、標高の低いところで広葉樹の森が、y中腹から森林限界までのところに針葉樹の森が生育している。
標高の高いところでは、収穫量のきわめて少ないハシラタケが生えている可能性があり、広葉樹の森では、酒類も豊富な様々なキノコが期待できる。
まずは、信用j九の森で幻のキノコを1日かけて探した後、残りはふもとの森の中でキノコ探しをする。
3泊ぐらいあれば、秋の野山を思う存分楽しめるだろう。
ワタルは背中に背負ったリュックから、小さな杭を取り出すと、森の入り口の脇に刺して、そのまま埋め込む。
これはワタルが前世の記憶を生かして制作した魔道具であり、埋め込んだ杭には魔石の魔力を取り込んで魔道具固有の周波で魔力を波形に発生させる発信機としての役割を持たせ、ワタルが自分で所持する受信機には、発信機までの距離を、受信用に設置された指向性のある突起と発信機が同一直線上になることで強く光り、また距離が近づくと音が鳴ることで、発信機の接近を知らせるようになっている。
つまり、前世で雪崩に遭遇した場合に要救助者としても救助者としても使用するビーコンをこの世界にアレンジしたものである。
標高の低い里山は、ふもとの人たちが、薪や山菜、キノコや木の実など山の恵みを求めて入山するため、府都跡があらゆる方向についてしまい、道に迷いやすくなる。
まして、登山そのものを魔億滴とっした入山の慣習などはないので、多くの場合登山道などというものはない。大気中にある魔力の濃度により影響を受けるため、魔導コンパスすらも、強い魔物が出没するだけで影響を受けてしまうため、むしろ魔力の個性に着目し、出口に設置しておくことで、こうしたトラブルを未然に防止することができるのである。
これが冒険者を無事に帰還させることを職務とするワタルの信用と名声につながっている。
では、そろそろ行きますか。
「よろしくおねがいします。」
山に入るときはまず、山の神に挨拶し、無事のげ下山を祈念するのがワタルの習慣である。
ワタルは迷いのない足取りで、目指す針葉樹の森に向かって、どのルートを歩けば、筋肉疲労を抑えることができるか、植生にダメージを与えないか、そう考えながら進んでいた。
森は、ブナ、ミズナラ、といった木の実がなる広葉樹が広がり、適度に湿気を含んだ森の空気はワタルの心を落ち着かせるだけでなく高揚させるものであった。
「最後に山登り辞退を楽しみながら登ったのっていつだろう。」
もう長いこと、自然の中で自然と戯れるという機会に恵恵まれなかった。
「これからはこうした時間を大切にしていこう。」
感謝はしないけど、ブリタニア王国の裏切りは、ワタルにとって人生の転機となり、新しい人生のスタートに、それもおそらくは望ましい方向に舵を切るのによい機会だったのかもしれない。
そう考えると、ワタルの心は晴れ晴れとしてくいるのだった。
山の中を3時間歩き、目的のトガリマツの群生地に出た。
すでにここおに至るまでに広葉樹の森の中を歩いてくる途中で、いくつものキノコは最終していた。
特にハシラタケとならんで、今回の大きな目的の一つであるドロタケの群生地を見つけたワタルは大喜びで傘の開いたものだけを採集した。
傘が開く前の幼菌は胞子ごと取ってしまうので、翌年同じ場所からキノコが生えてこなくなってしまう。
山の恵みに感謝して取りすぎない、来年のことも考える。山を仕事場として大和生きるワタルにとって、それは当たり前の習慣であった。
これで、ハシラタケも見つけることができればいうことなしなのだが。
トガリマツの根から生えるそのキノコは、ほかにもよくわからない条件がないと生えないらしく、木が生えていればその根元に生えるというものではないらしい。
結構時間をかけて探してみたが、結局一般も見つからなかった。
まあ、そんなこともあるさ。
ワタルは、日が沈む前に、今晩の野営地を探してテントを設営するべく、森林壽の森を抜けて、再び広葉樹の森に入った。
魔物との遭遇も考えると、少し開けたところの方がいい。
ワタルは周囲の地形を見渡し、山に振った雨が集まりそうな、場所を目指して歩き始めた。
30分後、ワタルは小さな池のほとりに出た。こんばんはここで野宿しよう。
早速テントを張り、毛布を敷いてそのうえにシュラフをおく。
早速晩御飯にキノコを。
そう考えてコンロを取り出し、鉄の鍋を取り出したとき、後ろの森の中で「ギギャア」という叫び声がした。