山のラーメンは正義(4)
こっそり自分の寝室に戻ったワタルは翌朝何もなかったかのような顔をして起きてきたふりをして、挨拶する。
見ればベルクは心なし過緊張しているように見える。
あまり、顔に出してほしくはないんだが。
それでもこれから起きるであろう出来事で、人質にされたら身動きが取れなくなる。
ある程度説明し、有事に際して馬車の中でカギをかけて安全を確保してもらうこと、そのタイミングは騒ぎになることで分かることを昨晩のうちに伝えてある。
無駄に動揺させることはないと、ワルダーとグルカンの二人が盗賊に内通していることは伝えていない。
馬が引けるだけの銀塊を積んだ馬車が町に向けて出発した。
こっそり護衛2名の様子をうかがってみるが、やはり挙動不審だ。当ぞ行のリーダーの合図を待っているのだろう。
襲撃ポイントは盗賊のアジトと山道を最短距離で結んだ場所、昨日ワルダーたちがほかの盗賊らと落ち合った場所だろう。
そのポイントが見えてきた。あらかじめ示し合わせていたのだろう。ワルダーは最後尾ニ、グルカンが最前列に移動していた。
ワタルはポイントの手前で荷馬車を止めるよう叫んだ。
「何かが林の中をこちらに向かって接近している。警戒態勢を取れ」
往路でも狼の襲撃を慈善に察知したワタルの合図であり、御者と行きに同行した作業員と交代で町に変える作業員の間に緊張が走る。ベルクはあらかじめの打ち合わせのとおり、馬車の中で内側からカギをかけて流れ矢に当たらないように身をかがめてもらっている。
護衛二人は自分らの仲間が見つかったと考えるが、往路でも狼の群れを察知したワタルのことだから、接近そのものを知られても逃げる場所も隠れる場所もないので問題ない、自分たちが背中から襲い掛かることまで予想できまいと考えていた。
しかし、ワルダーたちは当てにしている盗賊仲間が全員アジトで縛り上げられていることなど知らない。
何かが接近してくるというワタルの言葉にみおかかわらず、実際に何も接近してはこなかったのである。
ワタルは、ベルクの乗った馬車にベルクが内側からカギをかけたのを確認するとすぐに来るときも武器として用いたトレッキングポールを振りかざし、隊列の最前列に駆けていった。もちろんワルダーに見せるためのパフォーマンスであり、グルカンに「気をつけろ、来るぞ」などと言いながら、実際は、グルカンの背後から左手でグルカンの口を押え、右手でグルカンの首筋に雷撃を与え、その意識を刈り取った。
隊列の後ろでは、ワルダーが援軍が来ないことを知らずにベルクにカギを外しておとなしく荷物を引き渡せと脅している。、
ワタルは、グルカンがそのまま地面に倒れるところを担ぎ上げると、用意してあった矢羽根のついた某を先端を掌で包み込んでグルカンの背中にあたかも矢が刺さったかのように見せかけ、担いだまま「おい、グルカンがやられた、援護してくれ」とグルカンを担ぎ上げながられ隊列の最後尾、ワルダーのところへ駆け寄っていく。
「何っ、そんなはずは」
盗賊が間違えてグルカンを矢で射ったというのか。想定していなかった事実にワルダーの意識はワタルがワルダーの目の前で横たわらせたグルカンに向けられる。
その瞬間に
「うっ」
短いうめき声を残してワルダーも崩れ落ちる。
そこには右手に雷を纏わせてワルダーの首を後ろから手刀で打ち、その意識を刈り取ったワタルが立っていた。
ワルダーとグルカンは頭から水をかぶせられて目を覚ます。
そこには、馬車を急襲するはずだった自分たちの仲間が仲良く後ろでに縛られたうえ、1本のクライミングロープで数珠繋ぎにされていた。そしてその最後尾に自分たちも同じ姿で括りつけられていた。
「お前らはフランフールの町で官憲に引き渡す。ちゃんと歩けよ。一人でも抵抗すれば全員に電流が流れるぞ。
とワタルは盗賊全員にいきわたらせたロープの端をもって電流を流す。
「ぐっ」「ぎゃあああ」
もはや恥も外聞もない盗賊たちの悲鳴が谷をワタル風に乗ってこだまする。
盗賊たちは魂が抜けた状態だった。昨晩縛り上げたまま、結界の中に放置していた盗賊たちを襲おうと一晩中、デビルサーパントが結界を攻撃していたらしい。
そんな厄介な魔物も住んでいる森によくアジトなんて置く気になったな。
もちろん結界が破られるような攻撃力の魔物ではないが、そんなことを知らない盗賊たちはいつ襲われるかという恐怖心を一晩中恐怖におびえ、正気を失いかけていた。
それでも、こいつらに命を奪われた人のことを考えると同情はできんな。
ワタルは容赦なく電撃を与えながら、フランフールの町まで、途中の村で早馬を出してもらってフランフールの町かもんの前で憲兵隊に盗賊、そしてその一味であったワルダーとグルカンを引き渡し、合わせてアジトで押収した証拠の金品を合わせて憲兵隊に渡すと、その量と額に憲兵隊は驚いていた。
そんなものは放っておいて、ベルクに護衛任務終了のサインをもらって冒険者ギルドに報告にいった。
ギルドの建物にワタルが入ると、受付のエレナがワタルよりも早くワタルを見つけて声をかける。
「おかえりなさいワタルさん。聞きましたよ盗賊全員捕縛して引き渡したとか。さすがあ急冒険者ですね。」
「まあ、運がよかったみたいだ。」
「またまたご謙遜を。あ、今回の報酬ですが、ベルクさんから早馬の伝達でヴォルフガング商会として報酬を上乗せするそうです。盗賊の一味が護衛に扮していたことで、命の危険にさらされたところをワタルさん一人で助けてくれたということで。ただ、これに関しては盗賊と知らずにクエストを受注させたギルドの責任もあるので、ヴォルフガング商会が上乗せしようとした分は、ギルドが肩代わりすることになりました。」
エレナはそういって、カウンターに金貨15枚を置く。
「金貨3枚が元々のワタルさん分の報酬です。そして残り2名分の報酬も当然彼らには受け取る資格がないので、そのままワタルさんの報酬に充てられます。さらに、護衛すべき2名が敵方に回ったことにより、ワタルさんを危険にさらしたギルドからのお詫びとして、さらに金貨6枚を追加します。まあ、本当はこんな少ない金額では不十分ですが。」
「いや、盗賊が捕まってよかったと持っているのでお金は気にしなくていい」
と従前の報酬だけで辞退しようとしたワタルだが、その言葉を遮ってさらにエレナはカウンタの下からずっしりという言葉が適切な見るからに重そうな麻袋を持ち上げてカウンターにおいた。
「今回ワタルさんが捕縛した盗賊は、このあたりで多大な被害をもたらしていた有名な盗賊で、懸賞金がかかてtましたので、ワタルさんには懸賞金が支払われます。全部で金貨150枚です。」
「150枚?」
さっきまで辞退していた護衛の報酬の割り増し分がお釣りか何かに見えるような金額がつまれた。
あ、いや魔王討伐の報酬からすれば微々たるものだけど。
それでもありがたく受け取ることにする。
盗賊がいなくなったことで救われる人がいることは確かだし、同業者のためにも、仕事の成果が報われる実績は残しておく必要がある。
ワタルは仕事が無事に終わって肩の荷が下りた心地よさの余韻に浸りながら、今晩の宿を探しに出ようとギルドを出た・・・そこにベルクが立っていた。
「出てくるのをお待ちしてましたワタルさん。この度は手前どもの身を守っていただきましてありがとうございました。商会として大きな損失を出さなかったことよりも、何より従業員の命を危険にさらさずに済んだことが幸いでございます。もちろんわたくし自身の命もワタル様がいなければおそらくはなかったmのと思われます。このご恩は一生忘れません。」
「あ、それほど改まっていただかなくても、ちゃんと報酬は受け取りました。」
「いえ、私個人としてもわたるさまのオンに報いなければ」
「いえ、冒険者であり、護衛の任務が危険を伴うものである以上、それを承知で引き受けております。改めて何かをする必要は感じていただかなくて結構です。」
「そうは言いましても」
「では、一つだけお願いがあります。」
「なんなりと。」
「以前から、味噌と醤油を探しております。味噌と醤油というのは、遠い私の生まれ故郷で用いられていた調味料で、こちらに来てからというもの、口にする機会もなくて」
「あ、それ売ってます。」
「そうですよね、ご存じないですよね・・・ってえー?売ってる?」
「はい。手前どもはゲルマニア共和国でも名の通った商会と自負しておりまして鉱山の所有だけでなく、貿易も広く手掛けております。ここフランフールは首都ベルリーの本店にこそ及ばないまでも、ブリタニア王国との交易の拠点の町で、国内でも片手で数えられる大きな町です。味噌は本店にしか負い置ておりませんが、お時間を頂戴できるのであれば、本店よりこちらに運んでまいります。醤油はこの町の支店でも取り扱いがございます。」
いや、その情報だけで、今回の護衛の報酬としては十分ですが。
「ベルクさん、今の情報は今年の重大ニュースにランクインするくらい私にとって大切な情報です。ありがとうございます。近日中に醤油は買い求めます。味噌については、お取り寄せをお願いできないでしょうか。」
「はいかしこまりまあした。」
こうして金貨150枚よりもはるかに貴重な醤油と味噌の入手方法を得たワタルは幸せいっぱいに宿を目指したのだった。