53◆――雨の朝
肌寒さと降り掛かる細やかな水滴のために目が覚めたが、俺は目を開けることをしばらく拒否して、硬い寝床の上に横になったままでいた。
そうしているとまたうとうとしてきて、意識が遠ざかる。
ふわふわしている――こういう意識の心地は好きだな、と、俺はぼんやりと思った。
それからしばらくして、俺は今度は、自分に降り掛かる水滴が途絶えたことを違和感と捉えて目を覚ました。
怪訝に思って目を開けると、そこには驚いた顔で俺を覗き込むトゥイーディア。
彼女が俺の上に傘を差し掛けてくれていた。
――あれ、夢かな。
いや、違うな。
俺の想像力ではこうも可愛らしい人は想像できない。
トゥイーディアはいつもいつも、俺が想像しているより可愛い雰囲気で現れる。
俺は瞬きし、目を擦りながら長椅子の上で身を起した。
衣服が湿って微妙に身体に張り付く気持ち悪さがあった。
――あのまま庭園で眠り込んでしまったらしい。
今が真冬であれば、夜中の気温で凍死も有り得ただろうが、生憎と今は春。
ぼうっとしているだけで死ねるほど、俺は軟ではなかった。残念。
起き上がると、無理な姿勢で眠ったことが祟って、身体の節々が痛んだ。
とはいえこういう痛みは、島にいた頃なら当然のものだった。
俺は特段気にせずに椅子の上に座り直して、もういちど目を擦ってから、傘を差し掛けてくれているトゥイーディアを見上げた。
「――おはよう、トゥイーディ。濡れるよ。自分の方に傘を差して」
ぱらぱらと霧雨が降っていた。
風の中を泳ぐように降るささやかな雨が、東屋の下にも吹き込んできている。
辺りはもう明るい。朝だ。
俺の声を聞いて、トゥイーディアが眉を寄せた。
俺はなんだか泣きたくなった。
このうえトゥイーディアに嫌われるようなことがあれば、俺はさすがにどこか高いところから身を投げても許されるような気がした。
トゥイーディアは眉を寄せたまま、傘を持つ手と反対の手を、俺に向かってすっと伸ばした。
そのまま頬に触れられたので、俺はびっくりして目を見開いた。
「……トゥイーディア?」
顔を顰めたトゥイーディアが、俺と目を合わせて、少し責めるような声を出した。
「――ルドベキア、もしかして、ここで眠っていらしたんですか?」
俺も顔を顰めて息を吸い込んだ。
「別に……この辺を荒らしてたりしないけど」
「そんなことは分かっているんです」
トゥイーディアが若干つっけんどんにそう言って、飴色の双眸を細めた。
「――お風邪を召されますよ。春とはいえ夜は冷えますし、それに……」
憂い顔になって、トゥイーディアは呟いた。
「少し頬を擦り剥いていらっしゃいます。長椅子が硬かったんですね」
ふわっ、と、トゥイーディアの魔力が働く感覚があった。
俺は昨日の話をいよいよ鮮明に思い出して吐きそうになったが、その一瞬で俺の頬にあったらしき擦り傷は完治していた。
トゥイーディアは、俺のささやかな傷が治ったことを確かめるかのように、細い指先でなぞるように俺の頬を触った。
俺は目を閉じてトゥイーディアの指先を感じながら、ぼんやりと呟いた。
存外に眠そうな、ぼそぼそした声が出た。
「俺、風邪引かないよ。馬鹿だから」
「何を仰るんですか」
トゥイーディアがきつい声を出したので、俺は眉を顰めた。
トゥイーディアが手を引っ込めてしまったので、俺は目を開けた。
それから不意に気になって、唇から零すように呟いた。
「……雨なのにここに来るなんて珍しいな」
トゥイーディアは困った顔をして、しばらく何かを考えるように口を噤んだあと、首を傾げて俺を見下ろした。
蜂蜜色の髪が肩から滑って胸に落ちて、その上で雨の水滴がきらきらと煌めいているのが見える。
俺は溜息を吐いて、トゥイーディアの傘を持つ手を彼女の方へ押し遣った。
トゥイーディアは、ぐぐ、と手に力を籠めて抵抗しようとしたようだったが、力は俺の方が強かった。
若干不服そうな顔をしつつ、トゥイーディアは口を開いた。
「――きみがいらっしゃるかと思って……」
俺は首を傾げた。
保身がどこかへ飛んで行って、俺はぽろっと口を滑らせた。
「……俺に会いたかったの?」
トゥイーディアはむっと顔を顰めた。
頬がさっと赤くなって、飴色の瞳が俺を軽く睨む。
「もう、ばかもの。からかわないでください。
――昨日のことが心配だったんです。宮殿の傍までご一緒してしまいましたから、どなたかに見られなかったかと」
俺は瞬きして、ぼんやりとトゥイーディアの顔を見上げていた。
トゥイーディアは心配そうに首を傾げた。
「――大丈夫でした?」
その口調が、変な形のままで固まっていた俺の心を溶かしたようだった。
俺は息を吸い込んで、さっきまで俺の頬に触れていたトゥイーディアの手を取って、もういちど自分の頬に当てた。
トゥイーディアが驚きに硬直した。
「る――ルドベキア?」
俺は鼻を啜って、目を閉じた。
「……ごめん、大丈夫――大丈夫だったよ。
だけど、ちょっと嫌なことがあったんだ。別のことで」
トゥイーディアはしばしきょとんとしていたようだったが、そのうちにおずおずと指先を動かして、俺の頬を撫でてくれた。
――トゥイーディアの指先は冷えていた。
雨のせいだ。
冷えた指先は、それでも心地よく柔らかかった。
「――そうですか」
トゥイーディアが呟いて、もういちど、傘を俺の方に差し掛けてくれた。
俺は目を開けた。
「――自分の方に差せって。風邪引くぞ」
「きみの方が長い間雨に打たれていたんですから、まずはきみが優先です。――こんなに冷えて」
俺の手の辺りをじっと見ながらトゥイーディアがそう言ったので、俺は眉間に皺を寄せた。
「だから大丈夫だって。俺は風邪引かないって」
「駄目です」
断固としてそう言って、トゥイーディアは不意打ちで微笑んだ。
「確かに、馬鹿は風邪を引かないとはいいますが――きみは、頭のいいところも素敵ですよ」
「…………」
俺は素直に、こいつは煽てたら俺が何でも言うこと聞くと思ってんのかな、と考えてしまった。
俺はぼそりと呟いた。
「――俺、結局、おまえの魔法も分かんなかったじゃん」
トゥイーディアは瞬きして、また微笑んだ。
笑窪が浮かんだ――俺の好きな笑顔。
「私の説明が悪かったんですよ。それに、この先はどうなるか分からないでしょう?」
俺はしばし息を止め、それからゆるゆると息を吐き出して、トゥイーディアの顔から視線を逸らせて呟いた。
「……いや、もう、いいよ。あれ、なかったことにして」
トゥイーディアが、どきりとした様子で表情を強張らせて、俺の顔を覗き込んできた。
大きな瞳に俺の影が映った。
「――ルドベキア? ごめんなさい、長く中断し過ぎました?」
俺は首を振った。
「違う。おまえのせいじゃない。――もう必要なくなったんだ」
どのみち、お役目を怠れば俺が〝えらいひとたち〟に殺されるだろうし、お役目を完遂すればヘリアンサスはいなくなる。
このお役目の目的が世界を救うことならば、世界にとって害悪であり敵であるヘリアンサスは淘汰されるべきだ。
――それでもまだ、〝えらいひとたち〟はヘリアンサスを守っているみたいだけど。
つくづく矛盾だらけで嫌になる。
トゥイーディアは不安そうに眉を寄せたものの、それ以上は何も言わなかった。
それから彼女が突然、すっと俺の隣に滑り込んで来たので、俺は慌てて左に寄った。
いつもは俺が右側に座るので、普段と逆の位置関係だった。
ついでに俺はしつこくトゥイーディアの手を取ったままだったので、彼女は若干不自由そうな姿勢になっていた。
それでもトゥイーディアは、少しばかり得意そうに、二人の上に差した傘を微かに揺らして見せた。
「――はい、傘の件はこれで解決です」
「…………」
俺はにっこりするトゥイーディアの顔をしばし眺めていた。
そんな俺を見詰め返して、出し抜けにトゥイーディアが尋ねた。
「……魔法をお教えするお話をなかったことにしても、きみはここにいらっしゃいますか?」
咄嗟にその意味を取りかねつつ、俺は呟いた。
「――来ていいなら」
「それは良かった」
トゥイーディアが閃くように微笑んだので、俺はなんだか、変な風に胸が苦しくなった。
――息を吸って、吐く。
ちゃんと呼吸をしてから、俺は吐き出すように尋ねた。
「――トゥイーディ、魔法は好き?」
俺の突然の問い掛けに、トゥイーディアは首を傾げた。
「私の――あの魔法のことですか?」
俺は首を振った。
「いや、魔法全般」
「全般、ですか」
戸惑った様子で瞬きしてから、トゥイーディアは小首を傾げて少し考え、それから答えた。
「――そうですね、好きか嫌いかと訊かれれば、好きだと思いますよ。便利ですし、面白いですし」
心臓を針で刺されたように感じつつ、俺はちょっと笑ってみせた。
いや、自分ではそのつもりだったが、もしかしたら唇が引き攣ったように見えただけかも知れない。
トゥイーディアが、心配そうに俺の顔を覗き込んだ。
「――ルドベキア?」
「なんでもないよ、大丈夫」
呟いて、俺は軽く目を閉じた。
「今って何時? ――俺、時計持ってないんだけど」
トゥイーディアが首を傾げ、「ルドベキア、私の手を離すか、あるいは傘をお持ちください」と。
今の彼女は両手が塞がっていた。
俺は目を開いて苦笑して、空いている方の手で、トゥイーディアの冷えた手から傘を受け取った。
トゥイーディアはまた閃くように微笑んで、空いた手でドレスのかくしから懐中時計を取り出して、ぱちんとそれを開いた。
それから、彼女は穏やかな声で告げた。
「六時前です」
「そっか」
俺は背凭れに身体を預けて、大きく息を吸い込んだ。
冷えた雨の匂いがした。
ぱちり、と懐中時計の蓋を閉じてそれを仕舞い込んだトゥイーディアが、俺が持った傘を再び自分で持ちながら首を傾げた。
そのまま、すすっと傘の重心を俺の方に傾けようとしたので、俺は手を伸ばしてそれを阻止。
トゥイーディアは、むぅ、と不服そうな顔をしつつも、それを声には出さずに他のことを口に出した。
「まだ眠いんですか? ちゃんとした寝台でお休みになった方が、きっとお身体も休まると思いますけれど」
「――兄貴と喧嘩中。今日は予定もない」
言い訳を考えるのが面倒になって、俺は以前も言っていたことで誤魔化した。
予定がないのは本当だった。
トゥイーディアは、「またですか」と言ったが、どうやら俺が何かを誤魔化したと気付いた様子だった。
声は柔らかくて、俺はうっかり泣きそうになる。
何があったのかを訊いてこないところが、トゥイーディアらしい優しさだった。
目を閉じて、軽く仰向く。
風に飛ばされて傘の下に滑り込んできた小さな雨粒が頬で跳ねた。
――魔法を殺すお役目は、確実にトゥイーディアの立場を悪くする。
――魔法を殺すお役目は、俺の命綱であるヘリアンサスを殺すことを意味する。
――だが事によれば、魔法そのものがトゥイーディアを殺しかねない。
――そしてヘリアンサスは、世界そのものの害毒だった。
虚偽の良心、欺瞞の誠実さ。
それら全部がハルティの先人の尻拭いのためのもの。
ハルティの古老衆ですら、このお役目に対する意見を一致させていないというのに、ここにいる俺には迷うことすら許さない傲慢さ。
俺は息を吸い込んで、トゥイーディアの手を握った指に力を籠めた。俺の手とトゥイーディアの手の間で、ちゃんと温かさが生まれつつあった。
吹けば飛ぶような――でも確かな温かさ。
――さっきトゥイーディアは、なんでわざわざ俺がこの庭園にこれからも来るかどうか確認したんだろう。
そんなことをぼんやりと考え、彼女の手をぎゅっと握って温かさが逃げないようにしながら、俺はぼろっと言葉を零した。
「――なあ、トゥイーディ。俺のこと好き?」
思わず尋ねたその一言に、隣のトゥイーディアが軽く飛び上がったようだった。
「はっ――はあっ?」
思いっ切り訊き返されて、俺は少々落ち込んだ。
目を開けて、仰向いていた顔を戻し、トゥイーディアの顔を見る。
彼女は俺を見て、絶句した様子で顔を赤くして、口をぱくぱくさせていた。
怒らせたのかも知れない。――俺は素早く逃げを打った。
「……いい友達だろ。ちょっとは好きって言ってくれよ。俺は今、結構落ち込んでるんだ」
低い声で呟いた、我侭放題な俺の台詞に、トゥイーディアは飴色の大きな目をぱちくりさせた。
彼女の頬から、赤みがゆっくりと引いていった。
それから彼女は短く息を吐いて、困ったように微笑すると、呟いた。
「――ええ、好きですよ」
その言葉がまるで本当のことのように聞こえたので、俺は小さな幸せを感じて、そのままもういちど目を閉じた。
◆◆◆
再び俺が目を覚ましたとき、隣にトゥイーディアはいなかった。
目を覚まして初めて、どうやらまたも眠り込んでしまったらしい、と遅まきながら気付いた形になって、俺は目を擦る。
そのとき、長椅子の肘掛を上手く使って、俺の上に傘が差し掛けられていることに気付いた。
――トゥイーディアの傘だ。
戻らないといけない時間になって、トゥイーディアは自分の邸宅に戻って行ったのだろう。
自分の務めを怠らない真面目な人だし、俺はそういうところも好きだ。
いや、トゥイーディアがある日突然怠惰な人間になったとしても、嫌いになれるかどうかは分からないけれど。
ただ、彼女が傘を置いて行ってしまったことが気に掛かる。
雨に濡れた彼女が体調を崩さなきゃいいけど。
更に首を巡らせると、俺の隣に銀色の懐中時計が置かれていた。
懐中時計は、畳んだレースのハンカチの上に置かれている。
どうやらトゥイーディアが、目が覚めた俺が時間を把握できないと困るだろうと思って置いて行ってくれたらしい。
更には石造りの長椅子に、白亜で「気にせずここに置いて行ってください」と掠れた走り書きがあった。
俺が明らかな女物を手に部屋に凱旋しようものなら、要らない詮索を受けると思ってくれたんだろう。
気が利く余りに自分の持ち物に執着が無さ過ぎる。
あるいは夕方にここに来て回収していく算段なのだろうか。
俺は小さく欠伸をして、懐中時計に手を伸ばした。
傘の下に吹き込んだ雨のせいで水滴の散った銀の懐中時計はひんやりと冷たい。
懐中時計を取り上げると、しゃら、と長い鎖が長椅子の上に垂れた。
ぱちりと時計の蓋を開くと、磨き上げられた蓋の裏側に俺の顔が湾曲して映った。
時刻は八時過ぎ。
そろそろレイモンドが発狂しているかも知れない。
――いや、どうだろ、分からないな。
時計をまたハンカチの上に置いて、俺は手を伸ばすと、上手いこと差し掛けられていた傘を手に取って、丁寧に閉じた。
トゥイーディアが俺を起こさないように気を付けつつ、そうっとこうやって傘を差し掛けてくれたのだと思うと、短絡的にも俺の顔にはちょっとした微笑が浮かんだ。
雨はまださらさらと降っている。
雨が霧の籠を編んでいるようで、目を転じてもこの庭園の向こうの光景はよく見えなかった。
俺は傘を手に持ったまま、ぼんやりと霞んだ光景を眺めていた。頭上の葉っぱを雨粒が伝って落ちてくる。
葉っぱの上で雨粒どうしが寄り添って落ちてくるものだから、割合に大きな滴が時折頭の上に落ちてきた。
しばらくそうしてぼうっとしていると、不意に俺の腹が鳴った。
俺はぎょっとした。
自覚こそしていなかったものの、こんな場合であってもきっちり俺の身体は空腹を覚えているらしい。
傘を両手で持ち替えながら、俺はぼんやりと一考した――いっそこのままここで座り込んでいて、餓えて死ぬのを待つのも一手だ。
とはいえ、その手を採ってしまうと、ここに来たトゥイーディアがびっくりしてしまう。
はあ、と息を吐いて、俺は長椅子から腰を上げた。
どっちにしろ、ずっとここにいるわけにはいかない。
さすがにトゥイーディアが俺を邪魔に思うだろうし、彼女が一人になれる貴重な時間を完全に奪ってしまうことになる。
立ち上がって、俺は首を傾げる。
――これ、どうしよう。
傘と、時計と、ハンカチと。三つもトゥイーディアの持ち物がここにある。
走り書きにあるように、ここに置いて行くか?
でもそうすると雨曝しになってしまう。
傘を開いておいて、さっきトゥイーディアが俺にそうしてくれたように、ハンカチと時計を庇っておくというのもありだけれど、風が強くなって傘が飛ばされないとも限らない。
そもそも、傘とハンカチはともかく、時計はそんなに長いこと雨に濡らしたら駄目だろう。
トゥイーディアが今日の夕方にでもここに来て回収するというならばともかく、俺からは彼女の予定が分からない。
彼女が俺に気を遣って、しばらく忙しいにも関わらず、こんな走り書きを残したという可能性も無きにしも非ずというもので――
俺は片手で頭を掻いた。
トゥイーディアのこの書き置きは、まず間違いなく、俺が変な詮索を受けることを憂慮してくれたがゆえのものだろう。
実際、俺が明らかな女性ものを部屋に持ち込もうものなら、使節団に激震が走るだろうが――
――だが、なんかもう、どうでも良くなってきた。
投げ遣りな気持ちで溜息を吐き、俺はハンカチと時計を一緒くたに長椅子の上から取り上げた。
しゃら、と時計の鎖が垂れる。
俺は周囲を見渡して、トゥイーディアが走り書きに使ったらしい白亜が転がっているのを発見した。
屈んでそれを拾い上げ、俺はトゥイーディアの字のすぐ傍に、自分の字を書いた。
――預ってる
これで、トゥイーディアは自分の持ち物が消えたと思って狼狽することもあるまい。
白亜をころんと足許に放り出しつつ、俺は自分の字をまじまじと眺めた。
――トゥイーディアの字に比べれば汚いし、子供っぽい。
だが、蚯蚓がのたくったみたいな字からは少し成長していた。
チャールズがたくさん手本を見せてくれたお陰だ。
欺瞞のお役目だろうと何だろうと、彼らが俺にくれた親切は本物だった。
砕いてくれた心は確かにあったし、それは事実のまま変わらない。
俺は小さく鼻を啜って踵を返し、霧雨の中にある庭園を後にした。




