表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
220/464

64◇ 断章



63と同時更新です。

最新話からきた方はご注意ください。












 夫は火事で亡くしました、と、その声は言う。



 真っ暗な中に灯火が点っている。

 ちいさな球の形に闇を払うその灯火の、闇と光と境目のところに、その()()はいる。



 顔を伏せて、微笑んで、自分のおなかを撫でている。



 私を助けてくれたんですよ。熱かったでしょうね……



 音は声であり、声は言葉。


 意味も分からずそれを聞いて、しかし思う……



 ……熱さが痛みと同義であるならば、それは知らない方がいいのだろうな、と。





 やがていつものように番人が代わった。



 その新しい番人は、本当に綺麗な目の色をしていて、灯火の傍ではいっそう美しく映えるその目の色を、あの日におれに教えた。





◇◇◇





 その目の色の番人が、ゆっくりと倒れていく。



 何かをおれに言おうとしていたが、今は聞きたくなかった。


 おれが聞きたい言葉があるとすれば、この後だ。





 ――おれの魔力は無尽蔵だが、存在しない魔法までをも自由に使えるわけではない。



 だから『対価』を考えた。


 かつてこいつらが『対価』を捧げたように、おれだって『対価』を捧げればいい、と。



 こいつが『対価』に捧げてしまって消えたものを、おれが『対価』を捧げて取り戻せばいいのだ、と。




 ――本当ならそれで片が付くはずだったけれど、やっぱり物事は上手くいかない。




 おれが呼び戻したはずの、かつて捧げられた『対価』であった()()()は、古すぎて霞んでしまっている。



 だから、〈内側に潜り込んで〉、ちゃんと呼び覚ましてやらないといけない。


 ――そして、〈内側に潜り込む〉魔法を使った()()()()()()()()()()()()()()()()()、呼び覚まされて戻ることになる。



 ――だから、おれでは駄目だった。



 ()()()()()()()()()()()()()()()()()



 だからおれがその魔法を使えば、全生涯に亘る()()()を再び得ることになってしまう。



 ――ルドベキアはそれでいいけれど、もう一人は、それでは駄目だ。








 顔を上げる。

 馴染んだ気配が近くにあった。


 おれとルドベキアがずっと近くにいたから、もしかしたら寄って来てしまったのかも知れない。



 ――目の前にいる救世主たちが、およそ想像がつかないだろう感情を、息を吸い込むと同時に空っぽの胸の奥に仕舞い込んで、おれは呟いた。



「……ちょっと(まず)い風向きだな」



 視線を、もう一度おれの番人に向ける。


 倒れ込んだルドベキアはぴくりとも動かないが、その命に支障がないことを、おれはちゃんと知っている。



 ――この千年の妄執が果たされるときだ。



 思わず笑って――しかし、傍にある気配のために、その笑みでさえ硬くなったけれど――、おれは囁いた。



「――ようこそお帰り、おれの番人」







 全部を知ったあと、おまえは何を考えるだろう。


















評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] ヘリアンサスはルドベキアを特別扱いするというか、いくら君でも、みたいな発言が多かったので、昔はどんな関係だったのか気になっていましたが、ここ最近の活動の全てがルドベキアの対価を取り戻すため…
[良い点] 連続更新嬉しいです。 いつも楽しみにしています。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ