19◆ 今回の貧乏くじ
俺は息を吸い込んで、如何にもカルディオスの説教が鬱陶しいのだというような声を出した。
わざとじゃない。強制されて、だ。
ずっと思っていることだけど、一体なんなんだこの代償。
俺がトゥイーディアのことをどう思っているか、どんな些細な情報も周りに与えてはなるまじというような。
「はいはい。
――ってか、今回の貧乏くじは誰が引いた?」
今回の救世主は誰か、というところを意図したその質問に、四人分の重い沈黙が応えた。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「……え?」
俺はきょとん。
四人みんなが、びっくりしたような顔で俺を見ている。
え、なんで?
しばらく無言で見詰め合ったあと、ディセントラが恐々と言った。
「……あの――、ルドベキア? あんたじゃないの?」
「へっ!?」
思わず大声を出す俺。
俺じゃない、誓って俺じゃない。
むしろ今回の俺は真逆だ。
そしてディセントラの質問の意図が掴めてくると、俺は大きく目を見開いて叫んだ。
「まさか――この中の誰でもないのかよ!?」
またあいつかよ!
俺の顔を見て、四人は重い溜息を吐いた。
「そうきたか……」
「二回連続って……あの子、運が無さすぎるでしょう……」
「というか初めてじゃないか? 連続で救世主を担当するのは」
「確かにねぇ……。直前に経験していれば、次ってなんだか高みの見物を決め込めるようなところがあったわねぇ……」
俺はそんなのんびりした感想は抱けない。
傍目には平然としているように見えるだろうが、内心は大嵐。
だって、トゥイーディアは救世主を経験した直後の人生において、最初はまっさらの状態で生まれてくる。
今もたぶん、まだ俺たちのことを思い出していない。
そんな中で救世主に任命されてしまったらどうする。
もう魔界に魔王はいないわけだけど、あいつが馬鹿正直に船を出してしまったら。
あいつが俺たちとの合流を待ってくれないなら、俺たちはあいつを助けに行けないかも知れない。
本音を言えば今すぐあいつを捜しに飛び出したいけれど、俺はそれを態度に表わせない。
内心と表情の乖離激しい俺は、どうでもいいようなことを訊いてみたりする。
「あっ、あれは? あの、ほら、俺たちの」
「ああ――」
コリウスが声を出し、ちらりとアナベルを見た。
アナベルはひとつ頷くと、軍服のズボンの右側の裾をちょっと上げて足首を見せてくる。そこに、黒くて細いアンクレットが嵌められていた。
「今回、これを見付けてくれたのはディセントラよ」
「ガルシアに来る道すがらに偶然、ね」
ディセントラはそう言って、疲れたように額を押さえた。
「正当な持ち主が今はいないから、取り敢えずみんなで輪番で持ってるんだけど」
「なるほどな」
俺は頷いた。
アナベルが嵌めているアンクレットは、“救世主専用の変幻自在の武器”だ。
仕組みはよく分からないが、持ち主の任意の形に姿を変える。
正当な救世主ではない準救世主でも扱えることは扱えるが、やはり真骨頂は正当な救世主が揮ったときだ。
俺たちの固有の力を底上げしてくれる便利な武器だが、毎回なぜか行方不明になった状態でスタートする。
魔王討伐への出発まで、この武器を探すためだけに五年掛けたこともあったっけ。
俺が持つときは、使わないときは細くて緩めのチョーカーにすることが多かった。トゥイーディアは指輪とか腕輪にすることが多かったみたいだ。
そんなことを話している間にサンドウィッチは片付いて、さあここから俺の番かというときになって、カルディオスが立ち上がって言った。
「ルド、こっち来い。髪切ってやっから」
ぽんぽん、と、今まで自分が座っていた椅子を叩くカルディオス。ここに座れ、の意味だ。
「ありがてぇ」
すっくと立ち上がってそっちに向かう俺に、アナベルが唐突にほっとしたような吐息を漏らした。
「どうした?」
そっちを向いて尋ねると、アナベルは珍しく素直に微笑んだ。
「いえ、歩けるようになったんだって思って。良かったわね」
なんだそれ。
昨日も俺は歩いてただろ。
そう思ったことが顔に出たのか、俺はコリウスに溜息を吐かれた。
「ルドベキア、昨日のきみは歩いていたというよりはずっとふらついていた」
え、マジで。
椅子に座りながら目を丸くする俺の背後に立って、カルディオスがアナベルに向かって掌を伸べた。
「アナベル、あれ寄越して。鋏にするから」
「えええ……」
ドン引いた声を出しながらも、アナベルはふっと手を振った。
途端、右足首からアンクレットが黒い霞に姿を変えて分離し、アナベルの手に収まる。アナベルに明確なイメージが無かったためか、簡単な形状の短い杖のように見えた。
それを、アナベルがカルディオスに投げ渡した。受け取って、カルディオスはどこ吹く風と言わんばかりに鼻歌混じりに言う。
「だって他に鋏ねーんだもん」
カルディオスの手の中で、黒い杖が一瞬にして姿を変えた。
華奢な造りの鋏である。
今まで、大剣やら槍やら勇ましい姿で戦ってきたそいつを知っているだけに、俺としても微妙な表情をせざるを得ない。
しゃきん、と鋏の刃を鳴らして、カルディオスは笑顔。
「じゃールド、いつもの感じでいい? 結構ばっさりいくことになるけど」
「そうしてくれ」
「切った髪は自分で燃やす? それかアナベルに始末してもらう?」
「痕跡が残らないのはアナベルだな」
俺が髪を燃やした場合、どうしても灰が残るが、アナベルは違う。
ちらっとアナベルを見ると、構わないと言うように手をひらひら振ってくれた。
――アナベルの固有の力は、〈状態を推移させること〉。
俺の固有の力に比べて随分抽象的で、絶対法に抵触している力だ。
救世主である以上、アナベルもまた破壊の方向で法を超える。だから切り落とされた髪を朽ち果てさせることなんて余裕なのだ。
正当な救世主の地位にあるときのアナベルは、人の年齢や潮の満ち干きまで操ってみせたものである――とはいえ、破壊の方向でしか法を超えられないから、若返らせることは不可能みたいだったけれど。
人がこいつと握手した瞬間に急速に老いさらばえて息絶えた光景は、今でもちょっと忘れられない。
他にも、水を氷にしたり、逆に一気に蒸発させたりと、めちゃめちゃ使い勝手のいい能力で羨ましい。
対象物の頑丈さによって、魔法の効き目がころころ変わるのが不便だと本人は言っていたけれど。
ひとつ頷いて、カルディオスが俺の髪に鋏を入れた。
じゃきん、と音がして、ふぁさりと漆黒の髪が一房床に落ちる。
そうしながら、カルディオスが軽い口調で訊いてきた。
「――で? ルドおまえ、今までどこにいたの。なんでこんなに合流に時間掛かったんだよ?」
「それなんだよ、聞いてくれよ」
俺は頭を動かさないようにしながら拳を振った。
やっときた、俺の番。やっとみんなに聞いてもらえる。
「今回の俺、魔王なんだよ」
「――――」
「――――」
「――――」
「――――」
四つ分の沈黙が俺に応え、次いでカルディオスが鋏を取り落とし掛けてはっとした様子でそれを握り直し、
「あっぶねーな! 人が鋏使ってるときに驚かせにくんなよ!」
理不尽だ。
「生まれた瞬間に『あなたは次期魔王です』って言われた俺の驚愕の比じゃねえだろ!」
力説した俺に、「待って待って待って」とディセントラが両手を振りながら割り込んできた。
「えっ、待って、どういうこと? ルドベキアが、えっ?」
「だから俺、魔王なの!」
なんでこんな反吐の出るような事実を力説してんだ、俺。
「魔界で生まれたの! そこから箱入り育ちだよ! なんでか分からねえけど十八年間暗殺されそうになりながら生きてきたの! やっと脱出して海をはるばる漂流して来たの! そしたら何だよ? なんでこんなに世の中様変わりしてんの? 帆船どこいった? 汽車ってなんだ? あとレヴナントって何だよ!」
溜まりに溜まったものを吐き出す俺に、みんな驚愕の目を向けてくる。
そして、口々に俺の言ったことを繰り返し始めた。
「ま、魔王……」
「暗殺……?」
「漂流……」
「びっくりすることいっぱいあったんだな……」
ぽかんと口を開けたカルディオスが、「待てよ?」と声を上げた。
「あいつは? いつもの魔王はどうした?」
「知らねえ!」
俺は半ば涙目。
「知らねえけど今回は俺だった! あいつは影も形もなかった!」
白髪金眼の魔王、ヘリアンサス。十回超えで俺たちを殺してきた諸悪の根源。
「そ、そうかそうか……」
茫然としたままカルディオスが頷き、俺の頭をおざなりに撫でる。
アナベルは驚きを脱却したらしく、相当に剣呑な声を上げた。
「ちょっと、暗殺ってどういうこと?」
「それも分かんねぇ」
俺はやっぱり涙目。
「魔王としてやる気がなさ過ぎたせいだろうけど、食事には毒仕込まれるわ寝込みは襲われるわ、息つく暇もなかった」
「思った以上に悲惨すぎる……」
ディセントラが呟く一方、めちゃめちゃ現実的なことをカルディオスが言い出した。
「おまえ、魔王だったってことは、あれは? 前回俺たちを殺し掛けたあのでかい兵器。イーディも全壊はさせ損ねてただろ? 結構ぼろくなって回収されてったけど、あれにトドメ刺してきたか?」
「出来るわけねーだろ!!」
俺は絶叫。
「殺されそうになる魔王だぞ!? あんな超重要な兵器の前に、どこのどいつが俺をほいほい通してくれると思うんだよ!」
「えっ、じゃああれ、まだあるの? イーディのお蔭であと一押しで壊れそうだったとこ、修理とかされてたら嫌だな……あれ、イーディがいないときに遭遇したら俺たち全滅するぜ」
呑気に述懐するカルディオスに、アナベルが剣呑な目を向けた。
「ルドベキアが殺されそうだったって聞いた直後に、他に何か言うことはないわけ?」
物騒な薄紫の目に見据えられ、カルディオスは素早く頭を下げた。
「ごめんなさい」
そんな二人を他所に、コリウスがすっと手を挙げた。
「待て、一方でこれは朗報だ」
「はあ?」
わざとらしく目を剥いてアナベルが凄むのを、カルディオスが「まあまあ」と宥める。
それを見つつ、コリウスが人差し指を立てた。
「考えてもみろ。ルドベキアが魔王だ。
ならば今回、魔王討伐は必要ない」
「――あ」
アナベルが目を見開く。
コリウスは思いっ切り拳を握った。
「つまり――今回、僕たちは、自由だ」
そう言い切ってから、コリウスは少しだけ痛まし気な目をアナベルに向ける。
声こそ掛けなかったものの、魔王討伐が必要なくなったのが今更であることを、アナベルにとって魔王討伐が生涯の足枷になった一度を知っているからこそ、気遣っている。
「いや待て、安心するのはまだ早い」
カルディオスが顔を強張らせながら言った。
「トゥイーディアだ。あいつが今の状態で救世主であることがバレてみろ?」
今の状態――すなわち、俺たちを忘れている状態。
カルディオスの言わんとするところを悟り、俺は若干蒼くなる。
「その上でルドベキアが魔王だって知ってみろ? 下手したら――」
「トゥイーディアがルドベキアを殺しに来るわね……」
ディセントラがぞっとしたように言い、俺を横目で見た。
「犬猿の仲のお二人ですけど、殺されるとなったらどう?」
「俺、死ぬだろ」
普通に考えてそうだろう。
トゥイーディアの固有の力は強すぎる。
何が強いって、防御を全く度外視して攻撃に徹することが出来るのが強すぎる。
しかも今、あいつが救世主であるならば、その力が底上げされているはずだ。
救世主になって別方向の力を授かる俺と違って、トゥイーディアは救世主になれば固有の力が強化されるのだから。
あと単純に、俺はトゥイーディアを殴ったりできないし、いわんや殺したりなんてとんでもない。
よって、トゥイーディアが敵に回った瞬間に俺の死亡は確定する。
「でしょうね……」
ディセントラが嘆息。頭が痛いとばかりに蟀谷を揉んでいる。
「まあ、トゥイーディアといえども、前回も魔王――ああ、ヘリアンサスのことね――には敵わなかったみたいだけれど」
アナベルが言って、俺は思いっ切り顔を顰めた。
傍目には、ヘリアンサスのことを思い出したから顔を顰めたように見えただろうが、実際は違う。
――トゥイーディア、痛い思いをしたんだろうか。苦しかったんだろうか。
前回、俺は確かに一度はトゥイーディアを庇った。
まあそのせいで早々に死んだわけだけど。
絶対にトゥイーディアに気持ちを伝えられない代償を背負う俺が、命を擲って彼女を守るだなんていう、全身全霊で愛を叫ぶような行為が出来るのには理由がある。
トゥイーディア一人だけを庇うのでなければ可能なのだ。
多分、トゥイーディアが「ルドベキアは自分ではなくて一緒にいるこの人を庇った」と勘違いするからだろう。
この抜け穴に気付いたときは嬉しかったね。
「――そういえば、前回は誰が最後まで生き残ったんだ?」
話を逸らすことにはなるが、俺はふと思い付いて尋ねた。
すかさず挙手するアナベル。
「あたしは最初に死んだわよ」
「知ってるよ。直後に俺が死んだわ」
確か、トゥイーディアとディセントラを庇ったんだったな。
ディセントラ、そこにいてくれてありがとう、と思ったことを覚えている。
「その後、僕だった気がする。乱戦だったからよく覚えていないが」
コリウスがあっさりと言った。
まあ、身内に騙し討ちされて魔王討伐云々の前に死んだこともあるこいつは、今更大抵のことでは動揺しないか。
「コリウス、その順番で合ってるよ。おまえ、頭潰されて死んだから。その直後に俺。心臓に穴空けられて即死」
カルディオスが苦々しげに吐き捨てる。
自ずとみんなの視線が集中したディセントラが大きく溜息を吐き、手を挙げた。
「はい。カルディオスが死んだ後、私とイーディでしばらく頑張ったわ。だけど力及ばず私が先に死んだ。そのときまだイーディが立ってたから、前回最後まで残ったのはイーディね」
ディセントラは眉を寄せて続けた。
「私も虫の息だったから確証はないけれど、魔王が――ああ、ヘリアンサスのことよ――イーディに何か言っていたわ。聞き取れなかったけれど」
「どうせ嫌味でも言ってたんじゃねえの。俺も救世主に当たって最後まで残ったとき、あれこれ嫌味言われたわ」
カルディオスが吐き捨てるように言い、ディセントラに目を向けた。
「てかトリー、結構毎回最後の方まで残るよな」
ディセントラが目を見開いた。ぎょっとした様子で、もしかしたら言われるまで意識していなかったのかも知れない。
特にこいつは、魔王の城に乗り込むや否や、ヘリアンサスにはびびりながらも死ぬことを恐れず、率先して単独で先陣を切ろうとする。
そのくせいつも最後の方まで生き残っているのだから、運気というものは侮れない。
「確かに。――あたし五回くらいあなたを庇って死んだ気がする。運が強いわね」
アナベルが感心した様子で呟き、ディセントラは乾いた笑い声を上げた。
まあ確かに、恨み節にも聞こえる言葉だろう。
特に、毎回運の悪さが目立つアナベルに言われたとあっては。
今回に限って言えば俺の方が遥かに運が悪いけど。
「――話が逸れたな。――つまりだ」
コリウスがぱちんと指を鳴らす。注目を集めたいときのこいつの癖である。
「今やるべきことは一つ、トゥイーディア捜索に本腰を入れることだ」
願ったり叶ったり。
気を取り直したように鋏を握り直して、俺の髪に向き合いながら、カルディオスが軽い口調に戻って言った。
「とはいえ、どこに居んのかね。ガルシアに来てないってことは、もしかしたら西の大陸なんじゃないか?」
コリウスが頷く。
「可能性はあるな」
腕を組んで、ディセントラがぼそりと呟いた。
「西ね……。今回、私たちが長く生きていくつもりなら、考えなしにここを飛び出して西に向かうわけにもいかないわね」
後のことは後で考えればいいだろ! と俺としては叫びたかったのだが、代償が俺の口を開かせなかった。
代わりに、カルディオスがきょとんとしたように訊いてくれた。
「え、なんで?」
「あのねえ」
と、これはアナベル。
「長生きするつもりなら、色々と要りようでしょ。お金とか仕事とかね。ここを考えなしに飛び出して、あなたとコリウスに関しては家も捨ててしまったら、そういうもの全部が空の彼方に吹っ飛ぶって話をしているの」
「別にいいじゃん」
カルディオスはじゃきじゃきと俺の髪を切り落としながら、躊躇いなく言った。
「みんないれば何とかなるだろ。そんなことよりさ、ここに酷い目に遭った実例がいるんだから。イーディが今どうしてるか心配じゃねえの」
よく言ったカルディオス。
内心で俺は大喝采。
「トゥイーディアがそう簡単に酷い目に遭わされるとは思わないけれど……」
ディセントラが呟く。
いかに記憶がないとはいえ、別人格になるわけじゃない。
だから毎回、記憶を失っていてもトゥイーディアはトゥイーディアだった。
強くて折れない。友達を作るのが苦手で、他人の前では愛想のいい仮面を被る。
――確かにそう考えると、あのトゥイーディアが俺みたいにやられっぱなしでいるとは考え難い。
「そうだな、だから――」
コリウスが指を鳴らした。
「――三箇月後のリリタリスの令嬢ご来訪まではここにいよう」
俺は首を傾げたが、カルディオスはあからさまな不満の声を上げた。
「ええっ、俺、あれから逃げたいのに!」
「え? ごめん、何のこと?」
ぽかんとしている俺のために、アナベルが肩を竦めて解説してくれた。
「三箇月後に、西の大陸のレイヴァスからお客人が来るのよ」
「レイヴァス――聞いたことある、西の最大国家だろ?」
俺の更問に、アナベルは首を振った。
「西の最大国家だったのは百年前まで。今では新興国に押されて国土は縮小ぎみ。
――そんな状況を打破するためにね、レイヴァス随一の騎士の一家のご令嬢が留学の名目でガルシアに来るのよ。まあ、技術を盗みに来るスパイみたいなものね。国家同士色々あるらしくてアーヴァンフェルン帝国もそれを断れないみたい。
――で、その準備であたしたちは忙しくさせられるわけ」
「詳しいことは一切教えられないのに働けって理不尽じゃね? 俺、別にここで働きたいわけじゃなくて、ここならみんなと再会できるかも知れないから入隊しただけなのにさ」
カルディオスが憤然と言いながら、じゃきんじゃきんと俺の髪を切り落としていく。
時折アナベルが、思い出したかのように床に落ちた髪を朽ち果てさせている。
「まあ、時期が延びたり何だかんだで士気は下がりぎみだけどね……」
カルディオスを見ながらアナベルが言葉を締め括り、俺は眉を顰めた。
リリタリス――どっかで聞いたような気がするんだけど。
「まあ、唐突に四人も辞めたら怪しまれる。僕とカルディオスに関しては実家とガルシアの間で揉め事にも発展しかねない。せめてリリタリスのご令嬢の来訪を無難にこなしてからにしよう」
コリウスが言って、俺を見た。
「そしてその間、ルドベキアをどうするかだが――」
「俺、どっかで遊んどくよ? 金くれれば」
首を傾げてそう言った。
四人全員が一斉に首を振り、そして声を揃えた。
「働け」