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32◆ 眼下の藍玉

 ――でも、まあ、そこまでとんとん拍子に話が進むなら苦労はない。


 “とんとん拍子”という言葉が俺たちに微笑んでくれるのならば、俺たちは今ごろ、トゥイーディアのお父さんとのんびりお茶でもして彼の苦労を(ねぎら)っていたであろうわけで。



「お通しすることは出来ません」


 と、衛兵の彼は言った。



 (ところ)は、絢爛豪華な王宮の奥。


 この王宮、謁見の間が三つあるらしく、それぞれ小洒落た呼び名を冠している。

 ひとつが、芙蓉の間。もうひとつが、六花の間。


 そしてここが、藍玉の間――その、前。


 今日の謁見は藍玉の間にて執り行われると聞いたトゥイーディアは、なぜだか物凄く嫌そうな顔をしていたが。


 かつての栄華を物語るが如くに絢爛な王宮の中を、廊下を渡り階段を昇り、進みに進んで到着した謁見の間である。

 来た道を戻れと言われれば可能だろうが、違う廊下に踏み込めば迷子になりそうだ。


 幾つも扉を潜って、俺たちは今、謁見の間のすぐ手前の控えの間にまで辿り着いていた。


 控えの間は風変わりにも五角形を成し、鏡や生け花やタペストリーで飾り立てられている。

 奥にある巨大な扉から謁見の間――藍玉の間に入場できるというわけだが、今、その扉は固く閉ざされ、衛兵が五人ばかり俺たちの前にずらりと並んでいるという状況。


 衛兵の彼らも、公爵の行く手を阻むという命知らずな真似をしているわけではない。


 ここで足止めを喰らっているのは、全部が全部俺たちのせいだ。


「お通しすることは出来ません。

 お通しできるのはヒルクリード公爵閣下とラング伯爵閣下、シューベンドルト卿、――リリタリス卿のみです」


 ――そういうことである。

 部外者はここで待っていろということである。


 ラング伯って誰だよ、と俺は一瞬思ったが、まあ考えるまでもなくアルフォンスのことだった。

 どうやらトゥイーディアの伯父さんは、ヒルクリード公爵位だけではなくて、他にも爵位を持っており、そのうちラング伯爵位を既に長男に譲っている、ということらしい。


 あと、リリタリス卿といえば現在勾留中のトゥイーディアのお父さんが思い浮かぶが、よく考えればトゥイーディアも叙勲された勲功爵。

 卿の敬称を以て呼ばれるというわけである。


 立ちはだかる衛兵さんを前に、トゥイーディアが俺たちを冷ややかな目で一瞥。


「――ここで待っていなさい」


「出来かねます。ガルシアからの命令です」


 カルディオスが応戦。

 ()()()()()()同行させるよう、トゥイーディアに迫る。


 ここで敢えてディセントラが前に出ないのは、単純に見た目の問題だ。

 絶世の美人が可愛い子に「連れて行け」と迫る絵面と、稀代の美青年が可愛い子に「連れて行け」と迫る絵面。比べてみて、可愛い子に同情票が集まりそうなのはどう考えても後者であるというわけ。


「ここはレイヴァスです。それとも、ガルシアの命令は我が主君の命令に優先すると、そう考えてでもいるの?」


「我々はレイヴァス国王陛下の臣下ではございませんので。ガルシアから命令の撤回がない限り、貴女さまについて護衛申し上げます」


 演技と分かってはいても、冷や冷やするような遣り取りを繰り広げるトゥイーディアとカルディオス。

 トゥイーディアが相手を睨む迫力は勿論だが、普段はへらへらしているカルディオスが真顔になって相手を見ていると、それだけで相当な迫力があるのだ。



 ――正直、胃の腑が痛い。


 ヒルクリード公爵のみならずアルフォンスも、「早く折れろ」みたいな目で俺たちを見ているし。

 それより何より、演技と分かってはいてもトゥイーディアの冷たい視線がすっげぇ堪える。


 とはいえそれを表に出してはここで置いて行かれてしまう。

 せめて()()()()()()()()()()トゥイーディアに同行できなければ、俺たちとしては都合が悪い。


 ハンスだけは、俺たちが救世主だと知っているせいか、おろおろしたような顔を晒している。


 おまえね、貴族ならもっと泰然としてろよ、と、俺はお節介にもちらりと思う。



「護衛は不要と再三言っているでしょう。救世主を如何に心得てか。

 あなたたち四人と纏めて決闘しても、私の勝ちは揺るがないということは自明の理。試してみますか」


「畏れながら、ガルシアからの命令がございますので」


 苛立った風に言い募る(演技だよな?)トゥイーディアに対し、カルディオスは「命令があります」の一点張りで譲らず。


 とうとうトゥイーディアが、苛立ちを抑えかねたように足踏みした。

 かつん、と靴音が高く響く。


「命令、命令とそればかり。あなたは軍人か、それとも木偶か!」


 カルディオスは平然たる無表情。

 徹底的に落ち着いた声音で言葉を返す。


「木偶と思っていただいて結構。我々四人でお供させていただきます」


 ここで、トゥイーディアが衛兵さんたちに困り果てたような目を向ける。


 ――人間、共通の敵がいると優しくなるものである。

 護衛と称するガルシア隊員に付き纏われ、ほとほと辟易しているトゥイーディアの内心を、衛兵の皆さんももう十分に察した様子で、めちゃめちゃ気の毒そうにトゥイーディアを見ていた。


 彼女の視線が自分たちに向けられたことで、衛兵の皆さん側で協議が開始される。

 耳を澄ませて聞いていると、「護衛があまりに頑固」「トゥイーディア卿が気の毒」みたいな会話を拾うことが出来た。


 トゥイーディア、お父さんと区別するために、ファーストネームに敬称を付けて呼ばれることもあるんだね。


 衛兵の皆さんの中から、一人がちょっと顰め面ながらも、控えの間の横の方、タペストリーに隠されていた小さな扉を通って、その向こうのどこかへ向かった。

 恐らく衛兵や使用人の皆さん用の扉なのだろう。


 あの向こうに彼らの上官がいるのだろうが、早くしてくれないかな。

 ディセントラやカルディオスは場慣れしてるからいいけど、俺はこっそり腹痛と戦ってんだけど。


 ルインは大丈夫か――と思って横目で見ると、案外けろっとしていた。マジか。


 俺が苛々しながら待つこと数分。

 さっき扉を抜けていった衛兵さんが同じ扉から戻って来て、仲間に何事か耳打ちした。


 仲間内で驚きの声が漣のように上がり、それからお使いに出された衛兵さんが代表して、苦い顔でトゥイーディアに向き直った。


「――リリタリス卿。特例です。二名のみ帯同をお許しになるそうです」


 トゥイーディアがあからさまに溜息を吐き、俺たちを振り返った。


「だ、そうです。互選なさい。長くは待ちません。

 ――これほど我々に楯突いたこと、ガルシアにも報告を入れますから覚悟なさい」


 苦り切ったその声音に、衛兵さんたちからの同情の視線がいっそう強まる。

 対するカルディオスは、まだ頑張る様子で声を上げた。


「我々四人と申し上げたはずですが――」


「いい加減になさい!」


 トゥイーディアが声を荒らげ、それでとうとうカルディオスも折れた(演技)。

 ちらりと俺たちを振り返る。


 互選のための視線の遣り取りに見えただろうが、実際は違う。

 トゥイーディアに付いて行くのは、ディセントラとカルディオスで決定だ。


 ディセントラはそれこそ俺たちの頭脳に等しいから、いざというときに彼女がいるのといないのとでは、トゥイーディアの心強さも違うだろう。

 そしてカルディオスは、ここで矢面に立った以上、付いて行かないのは逆に不自然だ。


 問題は、俺とルインだ。


 ここでひたすら待つか、それとも事の経過を見守れるような位置があるならば、出来ればそこに行きたいが――


「――ハンス」


 トゥイーディアが、親しげな風情でハンスに声を掛けるのが聞こえてきた。


 今は全然、全く以て本当に、そんな場合ではないのだけれど、俺の臓腑を嫉妬の炎が舐めた。

 それもそのはずで、トゥイーディアはハンスに歩み寄り、不安そうな仕草で彼の腕に手を掛けたのだ。


 俺に代償が課されていなければ、危うく王宮内で殺人が起こるところだった。


「ちょっと、あの人たちを見ていてくれない? どこかへ無断で行かれてしまうかも知れないし、心配だわ……」


 片手で頬を押さえて、不安に思っていることをアピールするトゥイーディア。


 公爵やアルフォンス、延いては衛兵の皆さんに対するアピールだろうが、ぶっちゃけそんな顔は似合っていなかった。まあ、可愛いけどね。


 とにかく俺は、「聞こえてますけど」みたいな、不愉快極まるといった顔でトゥイーディアを見ておいた。

 これだけは演技が要らないのが悲しい。


 ハンスといえども、トゥイーディアの言わんとするところは察したらしい。


 つまり、俺たちと一緒にいて、どこか盗み聞きが可能なところへ連れて行けと。

 とはいえ、やはり父の裁可が必要だと思ったのか、ヒルクリード公を仰ぎ見るハンス。


 ヒルクリード公はここまでのトゥイーディアと()()の遣り取りにうんざりしていたらしく、また国王への謁見の機会は今日ばかりではないのだろう、あっさりと手を振って、「連中に付いていろ」と指示する身振り。



 斯くして俺とルインは、トゥイーディアが公爵とその長男、そしてディセントラとカルディオスと一緒に藍玉の間に入って行く背中を見送ることとなった。


 ようやく扉を開いた衛兵さんたちに、擦れ違いながらディセントラが申し訳なさそうに目配せ。

 それで、大体の衛兵さんはディセントラを許したようだった。



 採光に拘ったらしく、燦々と光溢れる謁見の間へ彼らが消えて行くのを見守って、ここから別行動。



 俺たちが自分から動くのは不信感を煽ることにしかならないため、最初の第一声はハンスから発される必要がある。


 衛兵さんのものすごい胡乱な視線に耐えつつ、俺は俺でハンスに圧力を掛ける。

 伊達に長く生きてない。少ないが貴族の経験もある。


 じっと見ると、俺の視線で自分のすべきことを察したらしいハンスが、ややわざとらしくも言ってのけた。


「――きみたち。ここで見張りよろしく立っているつもりか。下がりたまえ」


 よろしい。よく言えました。


 俺は、如何にも無礼なことを言われたとばかりに眉を顰めながらも、不承不承といった様子を作って、ルインを促して控えの間を後にする。


 俺たちの見張りを仰せつかっているハンスも、当然ながら俺たちに続く。



 斯くて控えの間を脱出した俺たちは、当然控えの間の前にも立っている衛兵さんの視線を避けるため、無言のまましばらく廊下を歩き――



「――で、どっかに盗み聞ぎ出来る場所とかある?」


 人目が途切れたと確信した瞬間に、俺はくるっとハンスを振り返って尋ねていた。


 ハンスは、覚悟を決めようとするかの如くに細く息を吸ってから、「こちらへ」と。


 足早に進むハンスに続いて足を進めつつ、俺は、「そういえばさ」と声を掛けた。


「さっきの、藍玉の間? ――で謁見って聞いたとき、あいつめちゃくちゃ嫌そうな顔してたけど、なんで? 曰く付きの部屋か何かなの?」


「ああ――」


 廊下を進み、角を曲がって手狭な通路に進みつつ、ハンスは声を低めて答えた。


「――藍玉の間は謁見の間でもありますが、国葬の場としても使われるのですよ」


 なるほどね。


 死者を祀る風潮はあっても、死を歓迎する風潮はないからね。

 墓場なら守護の源だし縁起もいいが、葬儀が行われる場所も縁起がいいかと言われると、微妙な顔で唸らざるを得ない。

 トゥイーディアが嫌な顔をしたのはそういうことか。


 俺、ここの国王も嫌いかも知れない。

 なんでそんな謁見の間を指定すんだよ。他に二つもあるんだろ。


 通路をしばらく進んだところで、腰を屈めなければ潜れないような小さな扉に遭遇。

 ハンスは膝立ちになってその扉を開け、「しーっ」と俺たちに合図してから、そろそろとその扉を潜った。


 かつかつと靴音が聞こえてくる。


 俺もハンスに続く。視界は薄暗い。

 ここは、重厚な深紅の垂幕で周囲から隔離されているようだ。


 ヒルクリード公の声が、朗々と国王への長ったらしい挨拶を述べる声が聞こえてくる。


 目の前に、象牙色の梯子がある。

 ハンスが足音を忍ばせてそこを昇っていく。

 俺も梯子に手を掛け、ルインがちゃんと自分に付いて来ているかどうかを確認してから、静かに梯子を昇り始めた。


 ヒルクリード公の挨拶は淀みなく続いている。


 梯子をしばらく昇ったところで、俺たちは謁見の間を見下ろす位置に設けられた回廊のような場所に辿り着いた。

 吹き抜けになっている謁見の間を、高処から見下ろす位置である。


 恐らく元は、シャンデリアの調整とかのために設けられたスペースではないだろうか――と思うほど、目の前にきらきらしたシャンデリアがあった。

 ここから見ると、シャンデリアもぎりぎり視界の下だ。

 ただし、シャンデリアを吊るす鎖が長いので、天井はなお上の方にある。


 回廊はぐるりと藍玉の間を巡っていて、藍玉の間が風変わりにも、まるで塔の中の部屋であるかのような円形をしていることがよく分かった。

 全体に象牙色を基調にしているが、天井は藍色に染め抜かれている。

 天井の縁は天窓になっていて、まるで天窓がぐるりと天井を囲んでいるかのよう。

 そりゃ明るいわ。

 天窓から燦々と差し込む陽光が、謁見の間を白く照らし出している。


 回廊は、彫刻を施された胸壁で転落の危険から庇われていて、胸壁の一部は刳り貫いてそこに欄干を嵌め込んだかのように、(くろがね)の柵になっている箇所もあった。


 藍玉の間の壁は、どこもかしこも、天井付近から下ろされ、幾重にも襞を描く深紅の垂幕で覆われていた。

 金の房飾りのついたその垂幕は、装飾の意味合いも強そうだが、この回廊に続く梯子を隠していたことも然り、護衛が幾人かその陰に身を潜めていたり、あるいは使用人や衛兵用の扉を隠していたりもするのだろう。


 眼下の藍玉の間は、二人の衛兵に内側からも守られている扉から、真っ直ぐに深紅の絨毯(レッド・カーペット)が続き、その絨毯が奥の三段の(きざはし)に掛かって、最終的に玉座の足許に至っている。

 その絨毯が敷かれた一部を除いては、白大理石が剥き出しとなり、磨き抜かれたその床に、謁見の間に立つ人たちの姿が――まるで水面の上に立っているかのように――、歪んで不明瞭に映り込んでいた。


 玉座は大きく、風変わりな形をしていて、台座のように広がる座面に、反り返った背凭れと片側の肘掛のみが申し訳程度に付いているというもの。


 ――あれ、もしかしたら、国葬の際には棺を上に乗っけるんじゃないだろうか。


 俺がそう思ってしまったような形だった。



 俺たち三人は、並んで胸壁に肘を突き、眼下の藍玉の間を見下ろしている。


「――反響の具合か、ここからなら案外声がよく聞こえるんです」


 ハンスがこそっと囁いてきて、俺は「なるほどね」の意を籠めて頷いた。

 そして同時に、ここから俺たちが盗み見していることが露見すれば、そこそこの大問題に発展するだろうことを予見した。


「……ちょっと」


 ハンスの腕を叩いて注意を引き、「はい?」と振り返った奴の額を人差し指で突く。

 こいつに対する心情があって、割と強めに突いてしまった。


 俺の突然の挙動に目を白黒させ、額を押さえるハンス――その口が唖然と開いた。


 目くらましの魔法だ。

 光の屈折を魔法で捻じ曲げて姿を隠す、それなりの高等魔法。


 目の当たりにしたのは初めてなのか、ハンスはちらちらと輪郭の光る自分の手を、茫然とした様子で見ている。


 目くらましの魔法は、自分自身の目からも自分の身体が見えなくなるといったものではない――というか、そういうことのないように、俺が世界の(のり)を変更している。

 同時に、術者本人や同じ目くらましの魔法で覆われた人間同士はお互いの姿が見える。

 つまり、俺からはハンスの姿がしっかりと見える。


 とはいえ、ルインにはまだ魔法を掛けていないので、唐突にハンスが目の前から消えたように見えただろう。


 それでも一切騒がない弟を内心で自慢に思いつつ、俺は振り返ってルインの肩を叩き、ハンスと同じ目くらましの魔法を掛けた。

 そして、最後に俺自身を周囲の目から隠匿。


 これで心置きなく胸壁から身を乗り出せる。

 同時に、俺が魔法を使ったことで、トゥイーディアたちには魔力の気配から俺の居所が明確に分かったはずだ。



 改めて胸壁に肘を置き直し、俺は眼下を落ち着いて見渡した。



 ――風変わりな玉座には、既に国王と思しき人物が腰掛けている。


 肩まで伸ばした灰銀の髪、その上に輝く黄金の王冠、身に纏うのは象牙色の豪奢なガウン。

 長い王錫を手に、(きざはし)の下にずらりと並ぶ臣下たちを見下ろしている。


 (きざはし)のすぐ下、玉座に背を向けるような格好で、初老――というよりも、明確に老人と呼ばれる年齢に片足を突っ込んでいるような男性が立っている。

 身に着けている文官の制服がやたら豪勢なところを見るに、あれが宰相か。


 そして、玉座から見れば右側の壁際に、ずらりと貴族たちが並んでいた。

 俺たちから見れば、真下の壁際である。

 俺たちが何かをここから落っことせば、まず間違いなくその貴族たちのうちの誰かの頭を直撃するだろう。


 察するに、多分、俺たちの真下にいるのが王弟側の貴族たちだ。

 宰相と目を見交わしている感じが、多分そうじゃないかという直感を俺にもたらした。


 そして、トゥイーディアたちは、玉座から相当の距離を置いていたものの、その正面の位置で跪いていた。


 公爵と並ぶ位置にトゥイーディア。

 その後ろにアルフォンス。

 その更に後ろにディセントラとカルディオス。


 トゥイーディアは剣を剣帯から抜いて、右手に持っていた。

 右利きのトゥイーディアからすれば、「剣を抜きません」という意思表示になるだろう仕草だ。


 跪いて頭を下げているトゥイーディアは、やっぱり格好いい。


 眼下では、公爵が謁見を賜ったことへの感謝の言葉込みの挨拶を終え、トゥイーディアが帰国の挨拶を述べ終えたところだった。


 国王は鷹揚に公爵に応え、続いてトゥイーディアに、厳格な眼差しを向けて下問した。


「――騎士トゥイーディア。帰還の命は出してはいないが」


「お許しください、陛下」


 トゥイーディアではなくヒルクリード公が応じた。


「私めがレイヴァス(わがくに)の状況について書簡にて報せましたところ、ガルシアより本国へ帰還せよとご考慮を頂戴いたしました次第と」


 トゥイーディアが独断で戻って来ましたというよりも、だいぶ聞こえがいいように事実をさらっと改変している。

 お父さんの存在を匂わせもしていない。

 まるで、レイヴァス王国のために無理を押して帰って来ましたと言わんばかりだ。


「――何やら他国の人間を連れているようですが。陛下への謁見に際し無礼では」


 王弟側の貴族の塊の中から声が飛んだ。


 どうやらこいつら、先に国王に謁見していた様子。

 ヒルクリード公の約束の時間になっても退いていないといったところか。


 国王の権力の衰退が案じられるところだ。


「畏れながら」


 と、これに応じたのはトゥイーディア。

 顔を上げて、発言者の方をしっかりと見て、言葉を作った。


「如何にわたくしから離れるよう言い聞かせても、ガルシアからの命令を優先する者たちです。わたくしに付属する()()か何かと思ってくださって構いません」


 トゥイーディアも伊達に長生きしていない。

 口調に籠められた迫力に、王弟側の貴族たちも口を噤んだ。



 この遣り取りが終わったところで、ヒルクリード公が国王への陳情を開始。



 どうやら表向き、今日は「領内の小麦の価格の高騰について」という(てい)で謁見の機会を獲得していたようだ。

 まあ、素直に「オルトムント・リリタリスの冤罪を晴らすため」という理由では謁見に至るのは難しいんだろうね。傍に宰相がいるしね。

 多分夜にでも、個人的に国王と会う機会を採り付けようとするんじゃないかな。


 領内の小麦の価格について、ヒルクリード公とラング伯が二人して陳情する。

 まあ、これは儀式みたいなものだ。

 今年の税の取り立てについて説明して、貴族から王家へ納める税や献上物について説明している。


 国王は鷹揚に頷いてそれを聞いていたが、俺はずっと宰相の方を見ていた。


 老獪極まるといった顔をした宰相は、蛇のような目で公爵の方を見ている。

 少しでも論に綻びがあれば即座にそれを突こうとしている目だ。


 現王派の人々が、迂闊にトゥイーディアのお父さんのために動けないのも納得した。

 ちょっとでも弱味を見せれば、そこから喰い付いてきて離さない奴の目だ。


 奴の視線がすうっと動いてトゥイーディアを見たことが分かったとき、俺は背筋に鳥肌が立つのを感じた。


 危機感があったとか不安になったとかではなくて、ただただ不快だった。



 そういう、俗な目でトゥイーディアを見られることが厭だった。


 トゥイーディアという一個人ではなくて、トゥイーディアに付随する情報と価値しか見ていないような、商品を見るかのような視線の上に彼女が置かれることが、鳥肌が立つほど疎ましかったのだ。



 小麦についての陳情が終盤に差し掛かって、ヒルクリード公がちらりとトゥイーディアを見た。


 まるで、そこに彼女がいるかどうかを確かめるために見たと言わんばかりのさり気ない眼差しだったが、トゥイーディアはきっちりとその合図を受け取った。


「――陛下」


 出し抜けに声を上げて、トゥイーディアが国王を仰ぎ見た。


「王国の宝たるフレイリーの近隣を永らく守ってまいりましたが、フレイリーの恩恵あってなお、我らが荘園も小麦の高騰の例外とは成り得ないようです。侍女が嘆いておりました。

 特に今はあるじも不在、不安を宥めるに苦労いたしましたが――」


 小さく息を吸ってから、トゥイーディアは背筋を正した。



「――我が荘園の主、リリタリスの当主にあらぬ嫌疑が掛けられていると耳にいたしました」



 その瞬間、藍玉の間が水を打ったように静まり返った。


 俺の隣で、ハンスがびくりと肩を震わせる。


 国王は僅かに息を詰めたように見えたが、宰相や王弟側の貴族たちには、まるで鼠が鼠捕りに向かって進んで行くのを、息を殺して見守っているかのような、そんな雰囲気があった。



 ――俺も無意識に息を止めていたが、トゥイーディアが下手を打ったとは微塵も思っていなかった。


 なぜなら、後ろにいるディセントラの顔色が変わっていない。

 淡紅色の目に、いつもと同じ冷静さと機知を煌めかせて、ディセントラが平然とトゥイーディアの背中を見守っている。



 しばしの沈黙ののち、国王が静まり返った空気に向かって声を落とした。


「――然様。()()()嫌疑か否かは、これから判断の下るところ」


「陛下」


 トゥイーディアがまたも呼び掛けて、跪いたまま、じり、と前に出た。

 サーコートの裾が大理石の床に打ち広がっている。


「これまでのリリタリス卿の忠義忠心、お忘れになったわけではありますまい。――ニードルフィアの乱のみならず、叙勲されて以降、彼が立てた武勲は数えるに余りある。全て陛下への忠心のゆえ」


「――トゥイーディア卿、お言葉が過ぎるのでは」


 宰相が、飛び付くようにして声を上げた。


「リリタリス卿の罪状についてはこれから審判されるところ。

 救世主さまとはいえ、一国の司法に口を出されるおつもりか」



 トゥイーディアが立ち上がった。



 驚きの声が四方から上がった。


 ハンスも、声を上げそうになったところを口を押さえて堪えていた。

 こいつが声を出していたら、気絶させることも一考に入れていたところだった。


 だが、その驚きは尤もだ。


 主君の前にあって、その許しなく立ち上がることなど本来は有り得ない。


 右手に、鞘に収めた細剣を杖のように握ったまま、トゥイーディアが宰相に向き直った。

 距離を挟んでなお、明瞭に彼に向き直ったと分かった。


 そして、改めて膝を折った。


 主君に対するものとは違う、簡易的な礼だ。

 跪いて拳を床に突き、頭を下げるのが主君に対する正式な礼であるが、今のトゥイーディアは膝を折ったものの、細剣は杖のように突いたまま、左手も膝の上に乗せている。


「――そのようなつもりはございません、お許しを。

 ただ――」


 宰相はなおも蛇のように目を細めていたが、王弟側の貴族連中の間には、小さく驚きのざわめきが走っていた。



 ディセントラの指示なのか、それともトゥイーディアの機転だったのかは分からない。


 だが、敵対する陣営に向かって救世主として頭を下げるという行為は、幾許か相手側の意表を突くことに成功した。



 トゥイーディアは真っ直ぐに宰相を見据えて、口を開いた。


 声は僅かも震えていなかったが、膨大な感情が籠もっていた。



「――どうして、罪を量る天秤に載せられるのが罪人だけであると思えるのですか」



 俺は息を止めていた。


 ――これは、多分、ディセントラの指示だ。


 昨夜のうちか、今朝のどこかのタイミングだったのかは分からないが、トゥイーディアに助言していたに違いない。



 トゥイーディアのお父さんは、政治的な(しがらみ)によって、言い掛かりの嫌疑から抜け出せない状況なのだ。


 ならば、辛うじてそこから脱出する一手に成り得るもの――それが、トゥイーディアが中立の立場に立つということ。


 現王の陣営から如何に声高に叫ぼうと、陣営の間の亀裂を跨ぐ声は届かない。


 だから、現王の権益を損なうことをトゥイーディアが容認できるのならば、リリタリス家は政争から手を引き、中立の立場にあることを示す必要があるのだ。

 その上で国益を損なう意思がないことを示さなければならない。



 ――ヒルクリード公の眼差しが、一瞬だけ懐疑の籠もったものとなった。

 当然だろう。ここまでトゥイーディアを連れて来てやったにも関わらず、土壇場で逃げ出されたようなものだ。


 だがすぐに、ヒルクリード公はトゥイーディアの行動の裏を読んだようだった。


 今、優先すべきはどう考えても、トゥイーディアのお父さんの嫌疑を晴らすこと。

 彼にあらぬ嫌疑が掛けられていることが、現王陣営にとっても痛手となっているのだから、一時的に切り離すのは手としては()()なのだ。


 お父さんを助け出せさえすればこっちのもので、リリタリス家がしれっと現王陣営に戻ることも可能だしね。


 アルフォンスの方は顔色を変えていたが、これは別にいい。

 こいつは恐らく、父親に追従して行動するはずだ。


 俺の隣のハンスは言うに及ばず。

 むしろ声を上げそうになったので、先回りしたルインが背後からその口を塞いでいた。ナイス、俺の弟。



 宰相も、素早くトゥイーディアの意図を計った様子だった。


 王弟側の貴族の間ではざわめきが走り続けていたが、連中を束にしたよりも、この宰相の頭が切れるのは間違いなさそうだ。


 ――宰相からすれば、トゥイーディアを中立の立場だと認めることは避けたいに違いない。

 救世主であるトゥイーディアがずっと中立の立場でいるという保証さえあれば、その状況は垂涎の的だろうが、その保証はないのだ。


 ならば、現在の有利な状況を守ることに固執するだろう。


 トゥイーディアと面会でもして書状を取るという手もあるにはあるが、それは出来ない。


 なぜなら、今、宰相自身が、かつて自分が認めた書状の存在を、なきものとして扱っているからだ。


 トゥイーディアが同じことをしたとしても、不義理を責めることが出来ない立場になってしまっている。



 ――ゆえに、素早く宰相が口を開いた。

 同じく口を開こうとした国王の機先を制した。


 蛇のように目を細めて、如何にも感じ入ったといった風情の声を作っていた。


「……なるほど、さすがは救世主さま。博愛のお言葉、感銘の極み」


 しかしながら、と言葉を続けて、宰相は人当たり良く微笑んだ。

 目が笑っていなかったが、それを除けば好々爺といった風な笑顔だった。


「幾許かの()()は否めないご様子。

 罪を量る天秤に載せられる者には、それだけの理由があるものです」


 実を言えば、トゥイーディアの方がこの宰相よりも数十倍は年上だが、(まつりごと)の最前線に立った経験を比べれば、遺憾ながら宰相の方が上手(うわて)だろう。


「――お若いとはいえ、いやはや、それでも」


 宰相が国王を仰ぎ見た。


 自分のあるじであるはずの男を見て、トゥイーディアの手を封じる言葉を発した。

 その声が、藍玉の間の天蓋に響いて跳ね返った。



「幼くとも、(あるじ)はさぞかし誇らしかろう。

 これまで、救世主が世に現れたこともなければ、救世主を騎士として擁した王もおりませなんだゆえ」



 明確に、トゥイーディアを現王陣営の人間であると印象付ける言葉を。



 トゥイーディアが、次の言葉に迷ったのが分かった。


 ――トゥイーディアは反論できない。

 逆心と捉えられて揚げ足を取られる危険を冒す言葉は発せない。


 あるいはディセントラやコリウスならば、咄嗟に言葉を返せたのかも知れないが、トゥイーディアは三秒ほど押し黙った。




 そして、その三秒で、状況が塗り替わった。




 ――おもむろに、藍玉の間の扉が開く。



 これに驚いたのはその中にいた全員だった。



 特に国王と宰相、そしてヒルクリード公は眉を顰める。


 今この場に、登場を許された闖入者がいないことは明白だった。



「誰ぞ――」


 宰相が言い差し、しかし押し黙った。



 深紅の絨毯を踏む足音が藍玉の間に響く。



 扉を開け、しかし誰の入場なのか、宣言することも出来ずに頭を下げる衛兵たちが、無言のままに()()を通した。




 ――俺は息を呑んだ。



 見間違えるはずもない。


 ――無垢な雪原の色の髪、歪んだ鏡面のような黄金の双眸。

 小柄な体躯を飾る、堂々たる深青色の一揃え。

 国王の前に進み出るというのに、外套を無頓着に脱いで腕に掛けている、その無造作な立ち姿――




 トゥイーディアが絶句した。


 ディセントラとカルディオスが、堪りかねたように立ち上がった。

 そしてそれにすら、咎める声さえひとつもない。



 ただ現れるだけで、謁見の間から全ての声を奪い、動きを奪い、


 ――魔王ヘリアンサスがにっこりと微笑み、トゥイーディアのすぐ隣にまで進み出た。



「――やあ、国王」



 にこやかに言い放たれたその一声を以て、藍玉の間の時間が再び進み始めた。

 そう錯覚させるほどに、全員が息を止めてヘリアンサスを見ていた。



 ――俺たちは、ヘリアンサスの異常性を知っている。


 救世主を六人まとめて相手取り、なお傷一つなく勝利する異様さを知っている。

 相手の腕であろうが脚であろうが、顔色ひとつ変えずに引き千切る、その揺るがぬ残虐性を知っている。


 だが、それを知らない貴族をさえ、為政者をさえ、姿を見せるだけで圧倒する異様な圧迫感があった。


 ガルシアにおいても、隊員は一様にこいつを恐れていた。

 それと同じ――まるでこ()()()()()()()()()()()とでも言わんばかりの、異常極まる空気を纏って、平然とヘリアンサスがそこに立っている。



 ――可能性は考慮していたはずだった。


 ディセントラも、ヘリアンサスに遭遇する危険があるからと言って、俺とトゥイーディアを一緒に王都へ向かわせることにしたのだ。


 だが、覚悟は出来ていなかった。

 こうして白髪金眼の魔王を目の当たりにする心の準備が、まるで出来ていなかった。



 手が震えるのを誤魔化すために、胸壁の縁を握り締める。

 指関節が白く浮かぶほどに力を籠めてなお、震えが収まらない。




 国王が、僅かに玉座から腰を浮かせた。

 瞳が泳いだ。


 見下ろすこの視点からですら、それが分かった。


「――ロベリア卿」


「うん、そうだ」


 頷いて、ヘリアンサスがちらりと()()()()()()


 目くらましの魔法が継続しているはずの俺を、間違いなく視線で捉えて微笑んだ。

 それから頓着なく国王に目を戻し、柔和に微笑む。


「……あー、何て言うんだっけ。

 ああ、そうそう。――家督の相続だ。そのために来たんだ」



 ――敬意も恭順も欠片もないその口調を、当然のものと思わせるその声を、一体何と表現しよう。



 トゥイーディアが、ヘリアンサスから離れる方向へ一歩動いた。

 いつの間にか、その右手にあった細剣は左手に移っていた。


 ディセントラとカルディオスもまた、立ち上がったまま凍り付いている。


 ヒルクリード公も、アルフォンスも、跪いたまま動かない。

 ヘリアンサスを見て、息を潜めて動かない。


 壁際の貴族たちもまた、ヘリアンサスの一挙一動を見て、息を止めていることが分かる。


「――本日いらっしゃるとは、失礼、聞き及んでおりませなんだ」


 宰相が、喉に絡んだ声を出した。

 蛇のように見えていたその瞳も、今では蛇に睨まれた蛙のようなものになっていた。

 視線が忙しなく泳いで、ヘリアンサスの足許辺りを掠めている。


「うん、そうだね。言っておく必要があった?」


 ヘリアンサスは微笑んで、宰相の方へ視線を滑らせた。

 まるで、道端に小石が積まれているのを見付けて、少しだけ興味を引かれたかのような眼差しだった。



 ――ロベリア卿の訃報から今日までに、俺たちはエレリアを出発してここに至っている。


 俺たちよりも数日の遅れを以てガルシアを出発したヘリアンサスは、通常の手段でここへ至ったにせよ、オールドレイに立ち寄った俺たちに比べて、なお余裕を持って旅をする猶予があったはずだ。

 今日ここへ至っていることには、何の不自然さもない。


 むしろ、俺たちを待っていたと言われても納得するほどの――



 ヘリアンサスが、宰相から視線を外した。

 興味が失せたようだった。


 そしてにっこりと微笑んで、壇上の国王を見上げて目を細めた。


「邪魔して悪いね。二つ用事があるんだ。二つとも、難しい話じゃない。

 ――ひとつめだ」


 左手を上げて、その親指と人差し指を立てて、人差し指で国王を指す。

 しゃらん、と、不透明な青い宝石を連ねた腕輪がその手首で小さく鳴った。


 国王は動かない。

 ヘリアンサスを促すこともなければ、無礼を咎めることも出来ていない。


 そしてそれは、藍玉の間の全員に言えること――


「ロベリア卿を襲名していた彼が亡くなった以上、次のロベリア卿は僕だ。いいね?

 ――相続とやらにはきみの承認がいるんだろう? 頷いて」


 まるでごっこ遊びを楽しむかのようにそう言って、ヘリアンサスは嬉しそうに笑った。



 こいつが地位や財産に興味を示すところなど、欠片も想像できない。


 だからこれは多分、自分がトゥイーディアの先手を打っていることを――盤面を有利に進めていることを確信しているがゆえの、嬉々とした笑顔だった。



「それから、ふたつめだ。

 ――ここにご令嬢がいるからね、話は早く済むだろう。

 きみもいるなら承認も楽でしょ、国王」



 平然とそう言って、ヘリアンサスはくるりとトゥイーディアを振り返った。


 蒼白になった彼女の、今だけは自分と対等であると認める盤上遊戯の指し手の顔を見詰めて、蕩けんばかりに微笑んだ。



 そして、す、と、国王に向けていた指を動かして、トゥイーディアを指差した。

 瞬きもせず、真っ直ぐに彼女と目を合わせる。


 声は朗らかに、状況を確認して、ひとつひとつの事実を拾い上げて彼女に突き付けるかのように。



「きみのお父さん、随分と不利な状況にいるようだね? 反逆となれば重罪だ。

 きみは彼の潔白を証明しないといけないんだろうけれど、それも当然だろうね。きみ自身が国益に背いて他国に身を売ったとなれば、()()の潔白は即ちきみ自身の身の潔白だ。

 ところで、どうだい? 彼の身の潔白の証明も難しそうだね」



 深さを測ることも難しいほどの悪意を籠めて目を細めて、ヘリアンサスは首を傾げる。


 ただそれだけの仕草で、吐き出されようとしたトゥイーディアの反駁の声を封じてのける。


 さらりと揺れる新雪の色の髪に、天窓から差し込む陽光が照り映える。



「なら、致し方ないね。()()()()()()()()()()のが、きみたちの流儀でしょ?

 ――国王、承認して」



 にっこりと、毒のある花のように美しく表情を綻ばせて、ヘリアンサスは宣言した。


 言葉は壇上の国王に向けられたものだったが、眼差しも、意識も、声も、何もかもがトゥイーディアに向けられた棘だった。




「――トゥイーディア・シンシア・リリタリス嬢と僕は、今このときを以て婚約解消だ」
















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