17◆ それは待ち望んだ――
それから少しして、本当にコリウスとアナベルが駆け付けてきた。
アナベルは両手に毛布を抱えていて、コリウスは後ろにどでかい籐細工の籠を従えていた。
宙を飛ぶ籠はなかなかシュールな絵面だ。
ディセントラとカルディオスに両脇から慰められている俺の姿を見て、アナベルはきっと唇を引き結び、無言で俺に毛布を掛けてくれた。
こんなときでも無口な奴だ――と思っていると、アナベルは信じられないくらい低い声を出した。
「――ルドベキア、あなたを酷い目に遭わせた奴が誰だか分かっているなら言いなさい」
めちゃめちゃ物騒な口調だったが、俺は思わず泣いてしまった。
毛布が暖かったこともあって気が緩んだし、普段は冷淡なまでにクールなアナベルがこんなことを言ってくれて感激したのだ。
アナベルは、やっぱりいつもと顔は変わっていなかったけれど、俺の記憶にあるどの姿よりも髪を短くしていた。
薄青い艶やかな髪は癖ひとつなく、肩より少し上で綺麗に切り揃えられている。
額髪を眉の高さできっちりと揃えて、その下に煌めく薄紫の目は、いつもは儚いほどの色合いだというのに今は憤激に燃えている。
なんて優しい奴なんだ。
とうとう泣き出した俺を、駆け寄って来たコリウスが膝で滑り込むようにして抱擁した。
俺やカルディオスの癖のある髪とは違う、真っ直ぐでさらさらした銀髪を少し伸ばして、後頭部で黒い絹のリボンで結っている。
濃紫の目を痛ましそうに細めて、コリウスはよしよしと俺の背中を撫でた。
「よし、分かる、分かるぞ。僕も同じだったからね。不安だったね、よく頑張った」
経験者斯く語りき。
余りの頼もしさに俺の涙腺はますます緩んだ。
そういえばコリウスは二十三歳で俺たちと再会したことあったんだよな。
震えながら泣く俺の目の前に、コリウスが自分の後ろに従えてきた籠をどんっと置いた。
その籠の蓋を開けると、香ばしい匂いがふわっと広がる。
一秒で俺の涙は引っ込んだ。
籠の中には清潔そうな布巾が敷かれ、その上に食べ物がわんさか詰められていた。
パンとか肉の塊とかパイとか。小さな紙袋に詰められたクロケットもある。クロケットから染み出す油が滲み、紙が薄らと透明になっている。
現金にも泣き止んだ俺に、コリウスが優しく声を掛けた。
「腹が空いてるんだろう、ルドベキア。ディセントラから、ルドベキアが飢え死にしそうな顔で現れたと聞いて慌てて搔き集めたんだ」
「え、トリーおまえ、そんな大袈裟なこと言ったの」
カルディオスがからかうように言ったが、ディセントラは小声ながらも憤然とした口調で返した。
「仕方ないでしょ! やっと出て来たルドベキアがこんな有様なのよ。動揺するなって方が無理でしょう!」
「ゆっくり食べるんだよ」
ディセントラとカルディオスの遣り取りを後目に、コリウスが穏やかに言った。
それを合図に、俺は両手にソーセージと香草を挟んだパンと、香ばしく焼き上げられた肉の塊を持って食べ始めた。
――泣きそうになるほど美味かった。
口の中に広がる肉の旨み。かりっと焼かれたパンの風味。ちょっと冷めたソーセージの歯ごたえ。
すげえ、俺の舌がやっと仕事してる。
パンと肉を平らげると、今度はクロケットを手に取ってかぶり付いた。
じゅわっと広がる油。さくっとした歯切れ。
美味すぎてがっつく俺に、コリウスが籠の中から水の入った瓶を取り出して勧めてくる。
ごっくんと口の中のものを飲み込んで、俺はありがたく瓶を受け取って水を飲んだ。ただの水なのにめちゃめちゃ美味い。
涙ぐみながら無言で食べる俺を、しばし全員が黙り込んで見守ってくれていた。
寒さと安堵が相俟ってめちゃくちゃ身体が震えた。
それに気付いたカルディオスが、ずっと毛布越しに背中を擦ってくれていた。
一方でアナベルの目付きはどんどん不穏になっていく。
食べることに必死な俺は、しかしここに足りないもう一人のことを考えている。
あいつはどこにいるんだろう。
まだ合流できていないんだろうか。
俺たちのことを、まだ思い出していないんだろうか。
無事でいるだろうか。
気になって仕方ないのに、俺は自分からそのことを言い出すことが出来ない。
気になっている素振りさえ見せることが出来ない。
――籠が空になる頃には、さすがの俺も満腹になっていた。
そして同時に、今生で初めて安心して美味しいごはんが食べられたことで、急速に眠くなってきていた。
俺の様子からそのことを察したであろうみんなが、額を突き合わせて何やら相談している。
「どうする? 寝ちゃいそうだけど」
「取り敢えず見付かるのは拙いだろうな。ここに部外者が立ち入ったことが知れれば、時期が時期だ、大ごとになる」
「多少の大ごとは別にいいじゃん? ルドのためだぜ?」
「そのルドベキアが、きちんと休むためには大ごとになったら困るんでしょ。いつものことだけど頭が軽いわね」
「おいおいアナベル、俺泣いちゃうよ?」
「そこ、うるさい。しかし、ルドベキアには悪いがあの格好、風呂には入ってもらわないとさすがに……」
俺は眠気で頭がぼんやりしていたが、聞こえてきたコリウスの声にはうんうんと頷いておいた。風呂、大賛成。
それが見えたらしく、ぽんぽんとカルディオスが頭を撫でてきた。
その様子を見て、ふふ、とディセントラが笑う。
「和むことしちゃって。――着替えはどうするの?」
「僕の服――」
「いや、身長からして俺の服のが合うはずだ。
コリウスおまえ、毎回俺たちよりちびに生まれつくよな」
「――僕の背丈は平均的だが」
「はいはい、ちびでものっぽでもどっちでもいいから。とにかくルドベキアを連れて行きましょう」
アナベルの声を合図に、よいしょ、と掛け声を上げてカルディオスが俺の腕を引っ張った。
「おい、立てるか相棒」
辛うじてまだ起きている俺は、のそのそと立ち上がる。
俺の身体から滑り落ちた毛布を、ぱちん、と指を鳴らしてディセントラが空中に留めた。そうしてからその毛布を腕に抱え、ディセントラは小首を傾げる。
「お風呂までは無事に連れて行けたとしましょう。その後どこに寝かせる?」
「俺の部屋」
「僕の部屋」
がっつり被ったカルディオスとコリウスの返答に、ディセントラとアナベルが噴き出す気配がした。
カルディオスとコリウスは顔を見合わせ、しばしの沈黙ののちコリウスがぼそりと言った。
「……カルディオス、おまえ、最近また女の子を部屋に連れ込んだだろう。周りの目も厳しくなっているんじゃないか」
「いや、その前科があるからこそ多少他人の気配がしても『あ、またか』って思ってもらえるんじゃん? それに俺の部屋、角部屋だし。まだ安全なんじゃね?」
しれっと答えたカルディオスに、俺は内心で呆れ返った。
いつものことながら女好き。遊びが過ぎる。
溜息を吐き、コリウスが空になった籠を持ち上げた。
そして眉間を押さえてから、諦めたようにぼそりと。
「……分かった。カルディオスの部屋にしよう。――ルドベキアが限界だ。さっさと風呂まで連れて行くぞ」
「――人目につきそうね」
アナベルがぼそっと言った。
こいつは根っからの悲観主義者で、よく悪い予想を口にするが、今回もご多分に漏れず。
「おまえ、そういうこと言うなよなー」
カルディオスが冗談めかして言い、ディセントラは溜息。
「あの子がここにいれば話は早かったんだけどね……仕方ない。アナベル、二人で行く手にいる連中の気を逸らしに行きましょう」
ディセントラの言葉に、アナベルが頷いた。
一方で俺は、もう殆ど半分は微睡んでいるような頭でも、ディセントラの言葉の一部が気になって仕方なかった。
あの子がいれば、と、そうディセントラは言った。
ということは、あいつはここにいないのだ。
今、何かの用事でここにいないとかではなくて、そもそもみんなとの合流がまだであるということが、今の言葉で確定した。
どこにいるんだろう。
まだ俺のことを思い出してくれてはいないんだろうか。
――いや、まだなんだろうな。
あいつは思い出せば絶対に、何よりも優先して俺たちに会いに来てくれるんだから。
ディセントラが毛布をカルディオスに押し付けた。
既に片手で俺を支えているカルディオスは、「おいっ」と抗議していたがお構いなし。さすがディセントラ、泣き虫のくせに女王様気質。
「行くわよ、アナベル」
「ええ」
アナベルとディセントラがすたすたと歩いて行く。
俺が来た方向――砦の正面玄関らしき方向ではなくて、反対側に向かって。そちらに裏口があるんだろうか。そういえばみんな正面玄関とは反対側から来てたな。
ふらふらしている俺を支えながら、カルディオスが押し付けられた毛布をコリウスに向かって更に押し付けつつ言った。
「よし、俺たちも続こうぜぇ」
「ああ」
毛布を受け取り、籠と一緒に抱えながらコリウスが頷く。
砦沿いに並ぶ木の陰に隠れるようにしながら俺たち――というか、俺を支えたカルディオスとコリウスが進み、しばらくすると裏口が見えてきた。
正面玄関よりもかなり小さく、通用口といった感じだ。
そこにアナベルが立っていて、俺たちを「早く早く」とばかりに手招きする。
その傍まで行き着くと、警戒ぎみに俺を隠しながら、カルディオスが尋ねた。
「トリーは?」
「その辺を歩いてたクリスとアランの気を引いて中庭の方へ行ったわ。たぶん、すぐ戻るでしょ。今のうちに早く早く。見付かっちゃうわよ」
そろ、と三段の階段を上がって裏口から砦の中に入りながら、コリウスが抑えた声で呟いた。
「時間帯が良かったな。まだ昼だからあまり人がいない……」
砦の中は開放感のある造りだった。所々に柱が規則正しく立つほかは仕切りもない。天井はやや低く、柱は天井にアーチ形を描いて互いに繋がっているような感じだ。
「――広……」
眠気でぼんやりしながら俺が呟くと、コリウスが真面目な口調で答えた。
「まあ、一階は殆ど大広間みたいなものだからね。集会なんかで使ったり、テーブルを出してきて食堂にしたり」
俺たち――というか俺を引っ張る三人――はこそこそと壁際を伝って大広間の奥へ向かった。
奥は数段の下り階段になっており、その先が廊下になっている。
大きな窓が開かれていて、そこから中庭らしき空間が見えた。冬枯れに荒ぶ草木が覗くその窓のすぐ傍で、壁に凭れるディセントラが俺たちを待っていた。
俺たちに気付くと、ディセントラはぱっと駆け出して寄って来て、やれやれとばかりに溜息を吐いてみせた。
「もう、アランがしつこかったわ……」
「お疲れさん」
カルディオスが笑って言い、廊下を見渡して口笛を吹いた。
「ツイてる、誰もいねーじゃん。さっさと二階に上がろうぜ」
廊下の突き当たりが階段室になっていて、石造りの冷えた階段が、踊り場で折り返しながら上へと続いていた。
アナベルが先頭に立って踊り場一つ分を先んじて進み、人がいないことを確認してくれた。
「ルド、本当にここに辿り着いた時間が良かったわ」
ディセントラがしみじみと呟く。
「昼時だから誰もいないじゃない」
今生の俺は運がなかったが、これからは違うのかも知れない――なんてことを、俺はもはや朦朧としてきた意識の中で思った。
二階に辿り着いたところで、ディセントラとアナベルがコリウスから籠と毛布を受け取った。
「元の場所に戻して来るから、その間にルドベキアをお風呂に」
ディセントラの言葉を受け、アナベルが続ける。
「あたしたち、カルディオスの部屋で取り敢えず待ってるわ」
「はいよー」
カルディオスがあっけらかんと答えて、俺の腕を引っ張った。
「ほら、もうちょっとだ、頑張れルド」
二階のどこをどう歩いたのかは記憶にないが、気付くと俺は広々とした脱衣所に連れられていた。
壁沿いに衣服を置いておく棚がずらりと並び、清潔なタオルが部屋の隅に積み上げられている。
コリウスが続き部屋まで含めて見て回り、「大丈夫、誰もいない」と報告してくれた。
それを受けて、カルディオスが俺の背中を叩く。
「ルド、脱げ。一人で入れるか? それとも介助してやろうか?」
「自分で入る……」
それはさすがに。羞恥心的に。
魔王の城からここまで着て来た服を俺がのそのそと脱ぎ出したのを見て、カルディオスがコリウスに向かって言った。
「コリウス、ここで見張ってて。俺、あれだ。着替え取って来る」
「ああ」
カルディオスに向かって頷いてから、コリウスは眉を寄せて俺を見た。
「――それにしても本当に……、今までどこにいたんだ、ルドベキア。その服、少なくともこの辺りの国のものじゃないだろう……」
俺は頭がぼんやりしていて答えるどころではなかったが、それでも絞り出すようにしてなんとか言った。
「合流に十八年も掛かったんだ……察しろ……」
俺が服を脱ぎ終えると、コリウスが続き部屋を示した。
「あっちが湯殿だ。中で転ばないように」
「おー……」
よたよたとそちらに向う俺。
続き部屋と脱衣所はアーチ形に刳り貫かれた出入口で繋がっていて、扉ではなく何枚も重ねて垂らされている薄布で仕切られていた。
薄布では防ぎ切れない、湯殿特有の籠もった湿気が脱衣所にまで漏れている。
薄布を掻き分けて湯殿に到達した俺は、眠いながらも驚きにしばらく動きを止めた。
でかい。広い。
入ったところは洗い場で、壁の高い位置にカンテラが幾つか吊られていて、左手に広い湯舟が設えられていた。
どうやって水を汲み上げているのか、そしてどうやって温度を保っているのかは不思議だが、湯舟には壁から突き出したパイプから絶え間なく湯が注ぎ込まれており(お蔭で湯殿の中は白い湯気でもうもうと曇っていた)、湯舟から溢れたお湯は壁沿いに設けられた樋を伝って洗い場を巡り、最終的に洗い場の床の排水溝から流れ出していっていた。
このお湯、最終的にどこにいくんだ。排水事情までこの百数十年で進化したのか。
まあ、後であいつらに訊こう。
そう結論した俺は、濡れた床で滑りそうになりながらも壁際の樋に近付いた。
このお湯を使って身体を洗うんだろうと察してのことだ。
流れていくお湯に指先を突っ込んでみる。
ちょっと熱いくらいで、寒さに凍えていた俺にとっては有難い限りだった。
樋の下には取っ手の付いた洗面器やら石鹸やら海綿やらが置いてあって、俺はそれを拝借することにした。
ばしゃっと頭からお湯を被った瞬間、全身の強張りが取れるのを感じた。
思わず深い溜息が漏れる。
風呂なんて久し振り過ぎて泣きそう。
石鹸を泡立てて髪を洗おうとしたが、髪が汚れ過ぎていてなんとも泡立たない。
何度か洗い流してやっと泡立ち始めた。
ごしごしと頭を擦っていると、この数箇月で溜まった垢が落ちていくのが分かった。
俺の髪の先から滴るお湯の濁り具合で、自分がどれだけ汚れていたか分かるというもの。
何度か髪を洗ってようやく清潔さを手に入れると、今度は石鹸と海綿を駆使して身体を洗い始めた。
やっぱり相当汚れている。泡が真っ黒になってしまう。
長旅で溜まった汚れを落としてから、俺はよろよろと湯舟に近付いて、警戒ぎみに足先から浸かった。
お湯はやっぱり少し熱くて、でもそれがいい。
「――ああー……」
思わず声が出た。
めっちゃ気持ちいい。
身体が溶けそう。
肩までちゃぷんとお湯に浸かって手足を伸ばす。
色々あって強張っていた身体が芯から緩んだ。
お湯にはなんだかよく分からない薬草の束が幾つか浮かべられていて、そのいかにも身体に良さそうな匂いも気に入った。
「ああー……」
顎まで湯に沈めて目を閉じる。
なんだこれ、今生で一番幸せだ。
あいつには会えてないけど、他のみんなは見付かったし。
腹いっぱいだし。
あったかくて気持ちいいし。
身体がほぐれるし。
いい匂いだし。
すっげぇ幸せ…………
「――ルドベキア!」
突然名前を呼ばれて、俺ははっと目を開けた。
えっ、やばい、俺寝てた?
半分沈み掛けてた、助かった。
ざばっとお湯の中で立ち上がって振り返る。
入口の薄布越しに、コリウスが近くに立っている輪郭が見えた。
「あんまり入ると逆上せるからね」
続けて掛けられた声に、ぶはっと噴き出すカルディオスの笑い声が聞こえてくる。着替え取って戻って来てくれたんだな。
「お母さんかよ、コリウス」
「うるさいな、中でルドベキアが眠ってしまって溺れていたらどうする」
「――それはやべぇわ」
カルディオスの声が深刻になったのを聞いて、俺は慌てて声を出した。
「大丈夫、大丈夫、いま行く」
ばしゃばしゃと湯から上がって湯殿から出た俺に、すかさずタオルが投げ付けられた。
投げたのはカルディオスで、湯上りの俺を見て嬉しそうな顔をする。
「おー、ルドの顔が生き返ってきたな」
なんだそれ。さっきまでの俺の顔は死んでたのか。
ごしごしと身体と髪を拭った俺に、カルディオスが続いて部屋着を投げ渡してくる。
ラフな白いシャツとゆったりめの黒いズボンで、俺とカルディオスでは僅かにカルディオスの方が背が高いが、これなら問題なく着れよう。靴はカルディオスのものでぴったりだった。
もぞもぞと服を着る俺に、コリウスが念のため、と言わんばかりに声を掛けた。
「なあ、ルドベキア。おまえが着て来た服と靴なんだが、置いておくか? 正直、洗ってももうどうにもならないくらいなんだが、愛着があるなら――」
「捨ててくれ」
俺は即答。
魔界にいい思い出なんて一つもない。魔界から持ってきた服に愛着なんて湧きようがない。
俺が余りにもきっぱりと答えたからか、コリウスは虚を突かれたように瞬きしたあと、「分かった」と頷いた。
お湯の効果で俺の緊張は完全に切れて、もう歩きながらでも寝られるレベル。
そんな俺を両脇から抱えて、カルディオスとコリウスが歩き出した。
周囲を警戒しているようだが、肝心の俺は警戒どころではない。眠い。寝そう。
もう目を開けていられない。
階段を登ったり廊下を歩いたり、自分がどこをどう進んだのかも分からないまま、気付くと俺は少し固めの寝台に横になっていた。
誰かが靴を脱がしてくれる。
身体に毛布を掛けられて、俺はいよいよ目を開けられない。
「――ここまで酷い状態で再会したことある?」
「何があったのかは明日訊こう」
「本っ当に限界だったんだな……。すやすや寝てるぜ」
「場合によっては、あたし切れそうなんだけど」
みんなの声がぼんやりと聞こえてきたのを最後に、俺は眠りに落ちた。
今生で初めての、深い深い安心しきった熟睡だった。