70◆ ガルシア戦役――許容
瓦礫は焦土と化していた。
炎は悉く消し止めたが、それでも逃げ切らなかった熱で、辺り一帯の空気が膨張しているようですらある。
あちこちから煙が上がっている。
瓦礫は一転して黒く焦げて砕け切り、ぷすぷすと煙が上がっているほかは遮るものなく、今も無事に残る市街までが見渡せるような有様だった。
足先でがらがらと瓦礫を崩すようにしながら、俺は真っ直ぐにトゥイーディアたちの方を目指して歩いていた。
肌に纏い付くような熱気が漂っている。
春をすっ飛ばして夏になったかのような気温だが、夏の暑さはこれほど厭なものではないだろう。
右手に長剣を引っ提げたまま、軽く息を乱して足を進める。
息が乱れているのは、大量に魔力を消費したがゆえか、あるいは罪悪感のゆえか。
――消費した魔力は馬鹿にならなかった。
得意分野の魔法を使って、ここまで魔力を削られることは滅多にない。
だが、この狭い範囲に熱を凝縮する作業は、俺の魔力を相当に削っていくものだったのだ。
からからと足許で瓦礫が転がり、崩れる。
爪先が硬い石材にぶつかる。足の下で何かが砕ける音がする。
幾度か躓いたが、俺は頑なに足下を見なかった。
足下を見た結果に、見たくないものを見ることを恐れた。
俺は視線を固定して、何も考えないように努めながら、機械的に足を進めた。
トゥイーディアとカルディオスは、元居た場所から少し移動していて、さっきまでよりも無事に残る市街に寄った場所で肩を寄せ合っていた。
――というか、もはやカルディオスが完全にトゥイーディアに凭れ掛かっていた。
トゥイーディアは膝を突いて、カルディオスを片手で抱き締めるようにして支え、彼の顔を覗き込んでいる。
彼女が身に纏う薄紅のドレスは、粉塵と血に塗れて灰色掛かった色に見えていたが、それでもなお灯火のような華やかさで、花が咲いたかのように瓦礫の中で目立っていた。
二人の足許に、十中八九はカルディオスが吐いたものだろう吐瀉物が散乱している。
魔力と同時に精神力だとか集中力だとか、そういうものをごっそりと削っていくカルディオスの固有の力は、他のみんなのものと違って、カルディオス本人に掛ける負担が他の魔法とは比べ物にならない程に重い。
つん、と鼻に衝く嫌な臭いがしたが、その状況を見て取った俺は、思わず走り出していた。
長剣が瓦礫を削って、がぁん! と硬い音が鳴る。
それで俺に気付いたのか、トゥイーディアが顔を上げて俺を見て、ほっとしたように表情を緩めた。
――怪我はない。トゥイーディアに新たな傷はない。
それを見て取った俺は、心からの安堵すら覚えた。
だが一方で、視線はトゥイーディアを一瞬掠めたのみ。
駆け寄りながら、俺はカルディオスだけに眼差しを据えて、叫ぶように尋ねていた。
「――カル。カル! 大丈夫か、おまえ」
呼び掛けに応じて顔を上げた、カルディオスの顔色は蒼白だった。
翡翠の目が幾度か瞬いて、眩しそうに俺を見上げる。
それからカルディオスはいつものように笑おうとしたが、頬が強張っただけに終わった。
大理石の彫刻みたいな顔だった。
「……おう、ルド。お疲れ。俺? 見ての通り、元気だよ」
「痩せ我慢すんな」
カルディオスの目の前に、吐瀉物を避けて立った俺は、深々と息を吐いた。
「――無理したな」
「まあ、ちょっとね」
気怠げにそう言って、カルディオスはトゥイーディアに凭れたまま首を傾げた。
それを見守りつつ、トゥイーディアには殆ど目もくれず、俺は長剣をトゥイーディアに放り渡した。
柄から先にトゥイーディアの方へ倒れるよう、剣先を地面に置いて柄を押す。
トゥイーディアはぎょっとした様子で、慌てた様子でぱしりと長剣の柄を掴んだ。
膝を突いたままのことだったので、ぐっと背筋を伸ばして手を伸ばし、それでようやくのことだった。
「――ちょっと、危ないでしょ」
案の定、トゥイーディアから至極真っ当な意見が飛んできたが、続いた言葉に俺は内心で目を剥いた。
「傍にカルがいるのよ、もう」
――自分は。
刃物を乱暴に相手に放り渡した自分のことは棚に上げて、俺は思わず胸中で呟く。
カルディオスは俺たちの遣り取りを見て、疲れたように瞼を下ろした。
「……今は喧嘩しないで……」
弱った声音でそう言われて、俺とトゥイーディアが揃って気まずさに目を伏せる。
そこで一秒の間を置いて、黝く煌めきを灯す長剣を腕輪の形に変えて左手首に滑り落としながら、トゥイーディアがカルディオスの額をよしよしと撫でた。
「ごめんごめん。――立てる?」
「頑張る……」
ふらふらの声音でそう言ったカルディオスは、声音同様にふらふらと立ち上がろうとして、下から支えようとするトゥイーディアの介助があってなおよろめいた。
すかさず俺が手を伸ばして、カルディオスの腕を掴んで立ち上がらせる。
そのまま、カルディオスの腕を肩で担ぐようにして支えた。
翡翠色の瞳が横目に俺を見て、ふあ、と緩んだ。
随分と弱々しくはあったが、満足した猫みたいな顔だった。
「……ありがと、ルド」
「ん」
カルディオスを俺に受け渡した形となったトゥイーディアが、ほっと息を吐いてから俺に視線を移した。
飴色の目が俺を、上から下までまじまじと眺めた。
粉塵で汚れた額に汗が浮き、鼻の頭と頬に煤の汚れがある。
俺が熾した大火は、ここまでも灼熱の気温に晒したのだ。
「きみ――」
言い差してから、トゥイーディアは汚れに気付いたかのように、ごしごしと手の甲で顔を擦った。
鼻の頭の汚れはそれで取れたが、惜しくも頬の汚れを取り逃がしている。
――手を伸ばして汚れを拭ってやれたら、どんなにいいだろう。
ぼんやりとそんなことを思ったが、出来るはずもないことだった。
カルディオスもぐったりしていて、トゥイーディアに何も指摘できる状態ではない。
斯くして手を下ろしたトゥイーディアが、俺を見て言葉を続ける。
「――きみも結構、無理したでしょう。大丈夫? 怪我は? ……ちゃんと片付いたら、ゆっくり休めるからね」
「…………」
胸が詰まった。
トゥイーディアの飴色の目が、身体を気遣うばかりではない色を浮かべて、真摯に俺を見ているのが分かった。
――あれほどの火を熾せば、俺が逃げ遅れた人々を殺したことになったのは明白だ。
それはカルディオスも同じことだが、どちらかと言えばこういう問題を、より深く引き摺るのは俺の方だった。
それを知ってくれているから、トゥイーディアは俺を気遣っている。
もしかしたらこいつのことだから、自分が代わりにそれを出来なかったことをすまないと思っていることすら有り得る。
トゥイーディアはそういう奴だった。
子供っぽいくせに底抜けに優しくて、直截的ではない気遣いをいっぱいくれて、自分ばっかり頑張り過ぎて、それを少しも恩に着せなくて――
深呼吸がしたくて、俺は口を開いた。
同時に、予期せぬ言葉がそこから転がり落ちた。
「――おまえにどうこう言われる傷はない」
俺に支えられるカルディオスが呻いた。
俺は思わず二人から視線を逸らしたが、トゥイーディアは小さく笑った。
「……いつも通りね、大丈夫そうね。――カル、歩けそう? ここから離れましょう。きみは休まないといけないし――」
飴色の視線が翻って俺を見た。
俺は不承不承と言わんばかりの目でそれを見返したが、トゥイーディアは穏やかな瞳のままで言った。
「――きみ、まだいける?」
トゥイーディアに“いけ”と言われれば、俺は瀕死の重傷を負っていても跳ね回るし、死んでいても動く自信があった。
素っ気なく頷く俺に、トゥイーディアはにこりと微笑んだ。
顔色は相変わらず悪くて、そこに粉塵と煤を被ったがためにいっそう弱って見えたが、表情は強かった。
「良かった。私もまだ大丈夫だから、カルを他の人が避難してるところに預けたら、二人で海側の――アナベルたちの援護に行きましょう。もちろん、合流前に片付いていてくれれば何よりなんだけれど」
また、素っ気なく俺は頷いた。
――アナベルたちの方が俺たちの側よりも時間が掛かるだろうということは、当然に予想されることだった。
要因は幾つかある。
例えば、ディセントラは一旦砦に戻ってお偉いさんに話を通してからの参戦だったはずだとか。
コリウスはそもそも砦にいて、事態の把握に時間が掛かったはずだとか。
周囲の安全を確保することに固執するアナベルがいることだとか。
海に追い落としてしまえば、レヴナントが何体いようがアナベルが瞬殺するだろうが、そこに至るまでに時間が掛かるはずだとか。
――あとは、俺たち六人の中で最大の火力を誇るトゥイーディアも俺も、こっち側にいたことだとか。
――とはいえ、一般人の避難場所に行くことについては抵抗がある。
俺がカルディオスを担いでいるような現状、恐らく俺は、どう足掻いてもこいつに付き添って避難場所にまで入ることになるだろう。
そしてそうなれば、トゥイーディアとはそこで別行動になるのが目に見えている。それが嫌だった。
俺に腕を担がれたカルディオスが、ぱちっと瞳を瞬かせてトゥイーディアを見た。
そして、弱々しいながらも断固とした声で言った。
「……イーディ、無理しちゃ駄目だよ」
「いま無理しないならいつするの、ばかもの」
トゥイーディアに一蹴されて、カルディオスはむくれたように俺の肩に顔を伏せた。
それすら鬱陶しいと感じさせないこいつは何なんだろう。
「……イーディの言う『無理する』は『無理し過ぎる』なんだよ……。俺、心配で禿げそう」
――カルディオスが禿げるよりも先に、俺が死ぬと思う。
トゥイーディアはにこっと笑った。
「大丈夫よ、カル。禿げてもきみはかっこいいわ」
「そんなん知ってるよ」
打てば響くように応じて、カルディオスは翡翠色の目でじとっとトゥイーディアを見た。
トゥイーディアはまさに、俺たちを促して歩き出そうとしているところだったが、カルディオスの視線に、「ん?」と飴色の目を瞬かせる。
「――今日のイーディはいつもより怪我しやすいの、分かってる? 靴だってそんなのだし……」
――靴?
思わず瞬きして、俺はトゥイーディアの足許に目を遣った。
生憎と、薄紅のドレスの裾(絹がだいぶ破れてしまっている)がふわっと広がっていて、靴までは見えなかった。
が、そのときようやく俺は思い当たった。
こんなドレスに、普通は軍靴を合わせない。
トゥイーディアは――というか、トゥイーディアもディセントラもアナベルも――そこそこ華奢な、いわゆる走ることは想定されていないような靴でここにいるはずなのだ。
瓦礫を踏んで移動することですら、いつもに比べて辛いはずだ。
全然気付かなかった自分に、むしろ俺は愕然とした。
ちょっと自分を絞め殺したい。
トゥイーディアはひょいと肩を竦めて、事も無げに答えた。
「だいじょーぶ、そんなに踵が高い靴じゃないから。メリアの心配性に感謝してね。ほら、行くわよ」
促されて歩き出す。
完全に俺に支えられて、それでなお足許をふらふらさせながら足を踏み出したカルディオスは、恨みがましげに呟き続けた。
「もうめちゃめちゃ血塗れなのに、イーディがまだ無理することないじゃん……」
「大丈夫だってば」
先頭に立つトゥイーディアは歌うようにそう言って、くるっと瓦礫の上で振り返った。
その際にふわ、と裾が広がって、俺はトゥイーディアの靴を始めてきちんと見た。
白かったのだろう華奢な靴。
繻子と革で出来ていて、確かに踵は低いものだったが、到底激しい動きに耐えられるものではない。
今は粉塵と血で汚れて黒ずんでいて、かつ裂けている箇所もあった。
もっと気になったのは、靴擦れと思しき赤い傷が、踵骨腱の辺りに見えたことだ。
俺がその事実に打ちのめされている一方で、トゥイーディアはきっぱりと言い切っていた。
「ルドベキアもいるんだもの」
「…………」
――頼られてる。信頼されてる。
しかもこう言ってくれたということは、もしかしたらトゥイーディアは俺に、別行動を避けるように言ってくれるかも知れない。
そう思って、現金にも、俺はちょっと元気になった。
が、カルディオスがそれを瞬殺した。
「こんな奴、イーディにとってはいないも同然だよ。ちゃんと分かっててよ」
こいつにしては珍しく、腹を立てたような詰るような声音だった。
俺はざっくり傷付いた。
代償のせいで平然とした態度に見えただろうが、ぐさっと刺さる一言だった。
トゥイーディアもまた驚いたように目を瞠ってカルディオスを見てから、ぽそ、と呟く。
「――そう」
くる、とまた振り返って元のように歩きながら、トゥイーディアはまるで、風の中で声を上げるかのように、心持ち大きな声で言った。
「そう、そうね。分かってる」
◆◆◆
ガルシア市街は閑散としていた。
ガルシア隊員が、如何に素早く正確に、市民を避難させたのかが克明に分かる様相だった。
瓦礫の山を抜けて市街に入り、東の街区を目指して歩き始めた俺たちは、幾度か数人ずつで動く隊員と鉢合わせをした。
恐らくは逃げ遅れた人がいないかどうか、市街の無事に残る場所にまでレヴナントが出現する気配がないかどうかを探るための、斥候の役割を担っている者たちと思われた。
トゥイーディアがそんな隊員たちを呼び止めて、南東のレヴナントを一掃したことを伝えた。
救世主が三人揃って粉塵塗れになり、かつそのうちの一人は今にも倒れそうな様子であるのを見て取って、隊員の皆さんは度肝を抜かれたようだったが、トゥイーディアはそれには構わず、彼らに幾つか指示を与えていた。
いちいち声を低めていて聞き取り難い声だった――恐らくわざとだ。
たぶん、俺に聞かせないようにしたかったんだろう。
とはいえ、あからさまに俺たちと距離を置くのも出来ない状況ではあったので、いくらか聞き取ることも出来た。
――ガルシア南東の、廃墟となった街区で生き残っている人がいるかどうか、それを確認して救助するように頼んでいる。
俺が色々と気にするだろうから、出来れば聞かせないようにしたかったんだろう。
カルディオスもそれを察したのか、俺に支えてもらっている分際で、やたらと肘で横腹をつついてきた。
それが、「おまえはもうちょっとイーディに感謝しろよ」という意味なのか、「イーディの気遣いを応援するためにもルドの気を引かないと」という意図だったのか、それは俺には分からない。
「――いってえな」
取り敢えず横目で睨むと、カルディオスはふん、とばかりに顔を背けた。
隊員との話が終わって振り返り、そんな俺たちを見たトゥイーディアが、若干わざとらしく目を瞠る。
「どうしたの?」
「なんでもないよ」
即答するカルディオスに歩み寄り、トゥイーディアはじっとその翡翠色の目を見詰めた。
俺はカルディオスを支えて立っているわけだから、トゥイーディアとの距離が縮まってどきどきした。
トゥイーディアがちょっと眉を寄せてから、何か言おうとして口を開いた――まさにその瞬間、遠くから地鳴りのような音が聞こえてきた。
遠雷のようにすら聞こえる低い音。
そして、ここから見れば北の方角で、盛大に粉塵が上がったのが見えた。
「――――」
天敵を警戒する兎のように顔を上げてそちらを見たトゥイーディアは、言おうとしていた言葉を喉の奥に引っ込めて、代わりとばかりに短く言った。
「急ごうか、思ったより大変そう」
――思ったより大変そうなことになっている理由として、俺たちはおおよその予想を同じくしていた。
コリウスとディセントラ、それからアナベルが、海までレヴナントを最短で突き落とす経路は割と簡単だ。
つまり、街区の一部を犠牲にしてコリウスがぶっ壊し、その他の区画をディセントラが保護した上で、犠牲にした街区の瓦礫を使って、それこそ津波のようにレヴナントを纏めて運搬していけばいいのだ。
準救世主の地位にあるコリウスやディセントラからすれば、かなり無理をする重労働になることは間違いないが、カルディオスとて相当な無理をしたのだ。
コリウスはともかくディセントラが、その重労働を嫌がるはずもない。
そして、その作業に梃子摺る理由も簡単に察しがつく。――アナベルだ。
一部の街区を犠牲にしなければならないことについては――内心はどうあれ――、強硬に反対するアナベルではない。
払わなければならない犠牲もあるということを、アナベルも頭では理解しているだろう。
とはいえ、レヴナントによる人的被害ならばともかく、救世主による人的被害を、アナベルは許容しない。
まずはレヴナントを迎撃しながらの避難を、それから掃討の実施を主張しただろう。
――ぶっちゃけ、最初にある程度の人数を切り捨てる方が、結果的に助かる人数が多くなることの方が多い。
数の上でのその事実を、アナベルも理解はしているはずだ。
それでも、誰かが命を落とした結果に誰かが泣くことを、アナベルは許容できない。
最後の最後、ぎりぎりまで、見捨てることを躊躇うのがあいつの美点であり欠点だ。
ディセントラはさぞかし胃の痛い思いをしていることだろう。
下手すれば、コリウスとアナベルで大喧嘩が勃発したかも知れない。
「――もうそろそろ避難も終わってる頃合いだろ」
俺と全く同じ思考回路を辿ったらしきカルディオスが、やや掠れた声で呟いた。
意図するところとしてはつまり、全街区からの避難が完了したならば、もう何を気にすることもなく、レヴナントを海まで引き摺って行けるはずでは、ということだ。
「そうね、確かにこの辺りの避難は終わっているけれど、」
靴音を立てて足を速めながら、トゥイーディアが呟くように応じた。
俺もまた足を速めていて、引っ張られるカルディオスは辛そうだった。
「でも、レヴナントの被害が直撃した区画の避難は、もうちょっと時間が掛かってるかも知れないわ。アナベルは頑固だし」
ぼやくような口調だった。
それを聞いて、カルディオスが少し息を切らせながらも、ふと言った。
「ね、イーディ。俺、あの辺にまた何か落っことそうか。
そーしたらアナベルも諦めつくかもしんねーし」
「やめなさい」
トゥイーディアが言って、横目でカルディオスを振り返った。
「誰かが下敷きになったらどうするの。それにきみ、もう無理は出来ないでしょう」
「自分がもう無理しないって約束してから、そーいうこと言ってくれよ」
打てば響くようにそう返したカルディオスに、俺は内心で激しく頷いた。
とはいえ、トゥイーディアはそれを冗談だと思ったらしい。
乾いた笑い声すら立てて、力んだ様子もなく断言した。
「なに言ってるの。私が今回の救世主なのよ」
カルディオスは眉を寄せた。
そのまま拗ねたように、「それにしたって」と口の中で呟く。
絶対に表に出せない本心でそれに同意して、俺は上背のあるカルディオスの腕を担ぎ直し、また足を速めた。




