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58◆ 想い積もって

 俺は一気に口の中が干上がるのを感じた。



 ヘリアンサスだ。

 紛うかたなき。

 今まで何十回と俺たちを殺してきた魔王。


 その純白の髪。(うなじ)まで伸ばされ、緩い癖にうねる、新雪の色の髪。

 (まばゆ)いばかりの黄金の目。

 いつ見ても変わることのない、中性的に整った――毒のある花のように美しい顔立ち。


 二十(はたち)に満たない歳に見える、一見すれば青年の姿。



 ――最悪だ。

 今の俺たちは万全の状態とは言い難い。

 最大の戦力であるトゥイーディアにも疲労があるし、俺も言わずもがな。

 しかもアナベルはいない。



 そこまで考えてはっとする。



 ――駄目だ、ここでは戦えない。周りに人が多過ぎる。



 ヘリアンサスは大広間の入り口で数拍の間佇み、大広間をゆっくりと見渡している。


 その視線に伴って、まるで大広間全体が糖蜜の海に沈められたかのようだった。

 ありとあらゆる動作が緩慢になるような――あらゆる動作に通常の数倍の努力が必要になったかのような。

 それは全く心理的な、動作に課された枷であり、恐怖に起因するものだった。


 それが自覚できたが、それだけだった。


 何十回と、楽しげな表情で俺の身体を引き千切ってきた人間を目の当たりして、俺の身体は直情的な恐怖に竦んでいた。



 ヘリアンサスの黄金の目が、間違いなくこちらを向いた。

 それが、無数の棘で刺されたかのような感覚と共に分かった。ぞわりと悪寒が肌を這う。


 どういった感情の動きがあったのかは分からないが、ヘリアンサスがひとつ頷くのが見えた。


 そして、魔王は、ごくごく軽い歩調で足を踏み出した。

 ガウンの袖をひらひらと揺らしながら、まるで無人の大広間を歩くかのように。



 ガルシア隊員たちは静まり返っている。


 俺たちがここにいなかった間に、ヘリアンサスがどう振る舞ったのか、俺は知らない。

 だが少なくとも、人畜無害を装ったわけではないようだった。


 ヘリアンサスを見る隊員の目には、例外なく恐怖が浮かんでいた。

 だがそれでも、誰一人として席を立たない。(しわぶき)ひとつ起こらぬ静寂。


 まるで、動けば撃たれることが分かっている野鳥のように、全員が息を潜めていた。



 そんな隊員たちを、まるで路傍の石のように無視して、ヘリアンサスは真っ直ぐにこちらへ――俺たちを目指して歩いていた。


 かつん、かつん、と、ヘリアンサスの靴音のみが大広間に響き渡る。


 立ち上がったトゥイーディアが、一歩動いた。

 まるで俺たちを庇うかのように背筋を伸ばして立って、左の手首に揺れる、黝い腕輪に右手で触れる。

 それまで息を止めていたことが分かる、深い息を彼女が吐き出した。


 歩み寄って来るヘリアンサスは無表情だった。

 いつもこいつは、勿体ぶったような、訳知り顔の微笑を浮かべていることが多いというのに、今は全ての感情を削ぎ落したかの如き無表情。

 黄金の目は歪んだ鏡面のように何の情緒も映さず、ただ物理的に俺たちを捉えている。


 彼我の距離が三ヤードまで縮むに至って、トゥイーディアが声を出した。

 取り繕った、作られた親愛の滲む、細工物のような声だった。


「――まあ、ロベリアさん。お久しゅう。おでになるならばご一報を下さればよろしいものを」


 その声が大広間の空気を叩いた瞬間、近くにいた隊員たちが身を竦ませたのが分かった。


「――やあ」


 一拍を置いて、ヘリアンサスが応じた。

 柔らかい、中性的な、滑らかな声と口調。

 今はやや低い声だった。


 そしてその黄金の目は、トゥイーディアを見ていなかった。



 ――射るような眼差しで、ヘリアンサスは俺を見ていた。



 俺は立ち上がることすら出来ず、呼吸を止めてその瞳を見返した。

 睨むほどの気力は湧かなかったが、辛うじて視線を上げておくことは出来た。


 そんな俺の目を見ながら、ヘリアンサスはもう一度、同じ言葉を繰り返した。


「やあ」


 足が震えそうになる。手指は既に細かく震えていた。

 眩暈がまたひどくなった。吐き気がする。

 実際、俺は座ったまま少しよろめいたかも知れない。


 ――だが、そのとき、脳裏に鮮やかにシャロンさんが浮かんだ。


 同時にあのとき、〈呪い荒原〉のすぐ傍でレヴナントが発した言葉――



 ――……、()()()()()()()()()()()()()()



 あれは間違いなく、ヘリアンサスの名前だった。



 こいつが――こいつのせいで、あの人は死んだのだ。


 だからこそ俺は、あの夜にコリウスに言ったのだ。

 今度こそあいつを殺そう、と。



 ――息を吸い込む。

 殺意は容易く視線に昇った。


 眩暈と吐き気を抑え込んで、俺はヘリアンサスを()め返した。



 俺の視線を受けて、ヘリアンサスが瞬きした。


 そして、まるで興味を失ったかのように、ふい、と、俺から視線を逸らす。

 その瞬間に物理的な圧力が失せたようにすら感じる、明瞭な解放感があった。


 ヘリアンサスはその黄金の瞳で、今度はカルディオスを見ていた。

 カルディオスが、息すら止めて恐怖に抗っているのが分かった。顔色は既に蝋のようだった。


 その隣にいるディセントラまでも、同様に。



「――こんばんは、ルドベキア。カルディオス。元気そうで何よりだ」


 ヘリアンサスが、呟くようにそう言った。

 嫌味の欠片もない口調だったが、同時に、何かを抑え込んでいるような不穏さを持つ声だった。



 トゥイーディアが姿勢を動かした。

 ヘリアンサスの視線から、俺たちを庇おうとしているのが分かった。


 しかしそれを、ヘリアンサスは全く黙殺した。


 そうして数秒間。

 ヘリアンサスが、今度こそトゥイーディアを振り向いた。


 その口許に、俺たちが見慣れた微笑の――あるいは、嘲笑か憫笑の――欠片が浮かんだ。


「――ご令嬢、久し振り。随分と長く空けていたんだね」


 トゥイーディアは、打てば響くように応じた。

 声はさすがに、少し硬くなっていた。


「ええ。レヴナントの発生が多いものですから」


 おまえのせいだろう、と言いたいのを、胸の内に留めたことが分かる声だった。


 その声音の何が気に入らなかったのか、またもヘリアンサスの表情から感情が失せた。


「――今日は戻って来たんだね。何かあった?」


「…………」


「何か、あったの?」


 トゥイーディアは答えなかった。

 ヘリアンサスの言葉から、相当に不穏な気配を感じ取ったからだろう。


 ヘリアンサスの黄金の目に翳がちらついていた。



 ――もしかしたら、と、俺は漠然と思った。


 もしかしたら、あの人型のレヴナントは、ヘリアンサスが俺たちを殺すつもりで差し向ける予定のものだったのかも知れない。

 それを死なずに逃げ切ってしまったものだから、こいつは少し苛立っているのかも知れない。


 あるいは――そう、あの地下に大量にいたレヴナントは、ヘリアンサスが如何なる手段によってかあそこに留め置いていて、今後ガルシアに放つ予定のものだったのかも知れない。

 それをトゥイーディアが――というか、俺とトゥイーディアが――消滅させてしまったものだから、こいつはそれを感知して、事の次第を確かめに来たのかも知れない。



 答えないトゥイーディアに向かって、ヘリアンサスがにっこりと微笑んだ。


 しかしその表情も、唇と頬にのみ載せられたものだった。

 瞳は相変わらず、何一つとして感情を映さなかった。


「怪我をしたんだね。治してもらったの?」


 トゥイーディアの格好を見れば、負傷は一目瞭然。

 そして、その傷が今は癒えているだろうことも、同時に把握できる事実だった。


 ヘリアンサスの黄金の瞳が、またしても俺に向けられていた。



 ――俺はようやく立ち上がった。

 傍目にはまるで、指名を受けて立ち上がったように見えたことだろう。


 息を吸い込む。震えはもう無かった。


 あの瞬間――守るべきだった、助けるべきだった人が息絶えたあの瞬間を思えば、この恐怖は抑え込むことが出来るものだった。



 俺の視線を受けて、今度は、ヘリアンサスはいっそう微笑を深くした――その瞳にも、何某かの感情が動いた。

 俺が立ち上がったのを見て、ヘリアンサスの表情が――というよりも、雰囲気が――変わっていた。


 何かを抑え込んでいるような、いつもの訳知り顔の微笑に被せられていた不穏な薄皮一枚が、唐突に剥がれ落ちたかのようですらあった。



 俺が自分の背後で立ち上がったことに気付いて、トゥイーディアがびくりと肩を揺らした。

 拳がぎゅっと握られたのが分かった。その拳が細かく震えている。

 しかしそれでも、彼女はヘリアンサスに視線を向けたままだった。


 にこり、と、常と全く同様に微笑んで、ヘリアンサスは軽く息を吸い込んで、それを言葉と共に吐き出した。


「――治療が出来るのは、確かきみだっけ?」


 白々しくも、ヘリアンサスがそう嘯いて首を傾げた。

 俺を見たまま。俺に視線を当てたまま。



 ――知っているくせに、と思った。

 治療が俺にしか扱えないということも、治療を扱えるのは俺が魔王ゆえだということも。


 ――俺が魔王として生まれたのは、間違いなくこいつの所為だった。



 自分を睨む俺の視線に、ヘリアンサスがくすりと笑った。

 左手を持ち上げて、上品にその口許を隠して、笑った。


 その手首で、不規則な形の空色の石が連ねられた腕輪が、しゃらしゃらと揺れた。


「――さすがだねぇ」


 そうして口許を隠したままで、揶揄するようにヘリアンサスが呟いた。


「上手だねぇ」


 俺とトゥイーディアが、同時に息を吸い込んだ。


 が、声を出したのは俺が先んじた。

 ヘリアンサスの前で、今生において俺が声を出すのは初めてかも知れなかった。


「――いいえ」


 今のヘリアンサスは――ヘリアンサス・ロベリアは、トゥイーディアの婚約者だ。

 周囲には隊員の目もある。

 こいつが明らかに異様だろうと、俺たちは今は、こいつをトゥイーディアの婚約者として扱う必要がある。


 だからこそ、俺の言葉は取って付けたように丁寧だった。


「――いいえ、治癒は不得手で」


 声は震えず、いっそ平淡だった。


 俺はヘリアンサスと目を合わせた。

 口許から手を外し、ヘリアンサスが瞬きする。


「何しろ扱い慣れませんし――」


 ヘリアンサスが微笑した。

 嘲りではない何か他の感情が、その表情の奥に仄見えた。


 ぐっと拳を握って、俺は声を低めた。もはや囁くように。

 聞こえたのは恐らく、近くにいる仲間と、ヘリアンサスだけだろうという声で。


「――()()()()()()()()()()()もので」


 トゥイーディアが、横目でちらりと俺を振り返った。

 俺はそちらには視線を向けず、ひたすらにヘリアンサスを睨め付ける。



 ヘリアンサスが目を見開き、そしてにっこりと笑った。

 そしてそれに留まらず、声を上げて笑う。


 周囲の隊員たちが一斉に、怯えたように背中を丸めるのが分かった。


 玲瓏たる笑い声を、静まり返った大広間にしばし響かせてから、ヘリアンサスはやれやれと言わんばかりに首を振った。


「――まさか」


 満面に笑みを湛えて首を傾げて、ヘリアンサスは俺を見た。


 かつ、と一歩を踏み出して、奴とトゥイーディアの距離はもう幾許もなかった。


 だがヘリアンサスは、トゥイーディアのことは一瞥もせず、ただ俺を見ていた。

 俺との距離を詰めるために一歩踏み出したのだと、誰に指摘されるまでもなく俺も分かった。


 輝く黄金の目に俺を映して、ヘリアンサスは囁くように。


「――きみほど治癒が上手な人はいないはずだよ。きみのために条理に刻まれた能力だ」


 俺は無言でヘリアンサスの目を見返していた。


 背丈は俺の方が高く、いっそ見下ろしているといって良い位置関係だったが、彼我の力が比べるのも馬鹿らしい程に開いているのもまた、俺の理解の範疇だった。


「それに、」


 ヘリアンサスは首を傾げたまま、いっそ得意げでさえある口調で囁いた。


「とても役に立つでしょう。――特に、」


 ぽん、と、ヘリアンサスが右手をトゥイーディアの肩に載せた。


 よろめくように、トゥイーディアの姿勢が揺れた。

 今この瞬間、彼女の全身の皮膚が粟立ったのが分かった。


 コリウスとカルディオス、そしてディセントラが立ち上がった。


 ヘリアンサスは愛想よくカルディオスの方へ視線を配ってから、俺に目を戻した。

 口に出した言葉はいっそう静かで、大広間の静寂の中でさえ微かにしか耳に届かなかった。


「――こういう()()()()を庇うには」


 トゥイーディアは驚くほど無反応だった。

 まるで、「おまえは人間だ」と指摘されたかのように、理の当然のことを聞いたと言わんばかりだった。


 代わりに、俺の頭に血が昇った。

 代償がなければ、全ての恐怖も躊躇もかなぐり捨ててヘリアンサスの襟首を掴んでいたかも知れない。

 ――が、この憤怒がトゥイーディアへの慕情ゆえのものである以上、俺もまた無表情を貫かざるを得なかった。


 そしてまた、カルディオスたちは一気に色めき立っていた。

 あれほど顔色を失くしていた三人が、今や張り裂けんばかりの魔力の気配を湛えて、一斉にヘリアンサスを睨み据えていた。


 三人の魔力が荒ぶる気配を感じていないはずはなかったが、ヘリアンサスは平然たる笑みを崩さなかった。

 にこにこと微笑んで、口許に左の拳を当てた。しゃらり、と腕輪が揺れて灯火を弾く。


「それだけ治療が上手なんだから、きっときみは優しい人なんだろうね」


 周囲にも聞こえる声で、白々しくもヘリアンサスがそう言った。

 端からは俺に賛辞を贈っているとしか思えない口調で。



「ご両親にも愛されて生まれてきたのかなあ」



「――――っ!」


 俺は危うく手を上げるところだった。


 ――こいつは、俺が殺されそうになりながら魔界で過ごしたことを知っているはずだ。

 他でもないこいつ自身が、その前世において、俺を殺すように命令を下していたのだから。


 殺気立つ俺の手を、後ろ手にトゥイーディアが握って抑え込んだ。

 その手が微かに震えている。


 怯えているのではなかった――彼女の魔力の気配は今や、俺の身体の周囲一帯の空気が棘に変わったのではないかと思うほどに鋭利に、周囲に染み出して荒らいでいた。


 トゥイーディアが激怒している。


 荒ぶる魔力は周囲の空気を伝播して揺らめかせており、もはや多少の声は周りの隊員たちに届く前に霧散するだろうと思われた。


 そんな俺たちの様子をにこやかに眺めて、ヘリアンサスは愛想よく両手を合わせて見せた。


「きっと良いご両親に恵まれたんだね」


「…………」


 俺の忍耐の限界を試すかのようにそう言って、ヘリアンサスはトゥイーディアに視線を向けて、鼻で笑った。


 声は再び低く、囁きに近いものになった。



「――だってきみは、“そこの”と違って()()()()()()()()()()ものね」



 ばちッ、と、今度こそ魔力が弾けた。


 魔法の形に整えられてもいない魔力だったが、目に見えるのではないかと思えるほどに濃密に、トゥイーディアから渦巻く魔力が垂れ流されているのが分かった。


 恐らく、事態を理解できていない周囲の隊員たちは、唐突な耳鳴りに襲われているとでも思っているだろう。


「は……?」


 もはや声を抑えることもなく、トゥイーディアが嚇怒に震える声を出した。

 ヘリアンサスはそれを容易く無視して、再び俺を見た。

 


 どうやら俺とトゥイーディア、二人を徹底的に馬鹿にして愉しむ算段のようだった。


 どういうつもりで今日この場に姿を現したのかは知らないが――単純に退屈を紛らわせるつもりなのかも知れないし、あるいは虫の居所が悪いのかも知れなかった――、少なくとも確実なのは、こいつがここにいること、ここで話す言葉の全てが、害悪でしかないということだった。



「きみが生まれを望まれなかったことなんて、これまでに一度もないものね?」



 話す内容とは裏腹に、今まで散々恵まれない生まれを繰り返してきた俺を揶揄するようにそう言って、ヘリアンサスはトゥイーディアに目を戻した。


 黄金の目に、軽蔑に近い感情が浮かんだ。


「それに比べて、きみはどうしようもないね」


 ――その口調に、俺はまざまざと思い出した。

 ヘリアンサスは確かに、トゥイーディアのことだけは明瞭に嫌っていると言葉に出していたのだと。


「生憎と愛情には不自由していない」


 徹底的に冷ややかな声音で、トゥイーディアは切り捨てるようにそう応じた。


 ヘリアンサスは少し目を瞠って、それからまるで話題に飽きたかのように、唐突に口調を変えた。


「――そういえば、」


 ぐるり、と周囲を見渡して、ヘリアンサスは純粋な悪意を籠めた口調で呟く。


「あの青髪の子はどこ? せっかく足を運んだんだ、きみたち全員揃うなら、ルドベキアが常々知りたがっていることを教えてあげてもいいのに」



 ――俺が常々知りたがっていること。


 俺が魔王として誕生させられた、そのからくり。



 ――俺は思わず息を呑んだが、トゥイーディアは怒りに震える囁き声を、食いしばった歯の間から漏らしていた。


「……失せろ」


「下品だねぇ」


 溜息と共にそう言い放って、ヘリアンサスは俺に視線を向けた。


 大広間にアナベルの姿がないことを認めて、少し残念そうですらあった。

 なおも空気を揺らめかせ、痛みすらもたらすトゥイーディアの魔力を、歯牙にも掛ける様子はなかった。


「――そう、きみに訊きたいことがあるんだけど、ルドベキア」


 今日はそのために来たっていうのもあるんだ、と無邪気な風を装って微笑んで、ヘリアンサスは首を傾げた。

 声音は霧雨の如くに静かだった。



()()()()()()()調()()()()()()()()()。最近、きみ、何かあった? ――()()()()?」



「――――」


 俺は答えなかった。答える内容がなかった。

 何をどういった意図で尋ねられたのかすら分からなかった。



 ヘリアンサスはいっそう無邪気に微笑んだ。

 その無邪気さは俺に、戯れに芋虫を握り潰す幼児を連想させた。



「ねえ、訊いてるでしょう。――()()()()()()()?」



 足許が氷漬けにされたかと思うほどの恐怖が、瞬時に俺の背筋を駆け上った。


 人型のレヴナントに感じたのとは別種の、純然たる力の差を理由とした、生物としての恐怖だった。



 トゥイーディアが、俺の手を握ったままの指に力を籠めるのが分かった。


 その瞬間、ヘリアンサスが、眉を寄せて彼女の方へ視線を向けた。

 その眼差しを何と喩えよう――



 ――何か、そう、目に映すのも言葉にするのもおぞましいものを見るような。



「結構」


 短く、吐き捨てるようにヘリアンサスがそう言った。

 黄金の目はなおもトゥイーディアに据えられていたが、言葉は俺に向けられていた。


「分からないならそれで結構。無理に覗き見ようとも思わないよ。

 ――だから、ご令嬢」


 しゃら、と腕輪を揺らして左手を持ち上げ、ヘリアンサスは己の髪を掻き上げた。


 そしてそのまま、目の前に立つトゥイーディアの耳に口許を寄せた。

 低められた声は恐らく、トゥイーディアの他には、一番その近くにいた俺にしか届かなかった。


「――もう一度でも同じことをしたら許さないよ」


 トゥイーディアが、ぱっと俺の手を離した。

 そのときになってようやく、俺はトゥイーディアが俺に魔法を掛けていたことに気付いた。


 ――恐らくは、ヘリアンサスが俺の頭の中を覗き見ることを防いでくれていたのだ。


 一歩、俺に近付くように下がって、トゥイーディアはにっこりした。

 氷河のように冷たい微笑だった。


「――あと一呼吸でも繰り返したら許さないわよ」


 徹底的に低く静かな声でそう言って、トゥイーディアは首を傾げた。


 声が聞こえていないだろう周囲の隊員たちからすれば、婚約者に向かって愛想を振り撒いているようにすら見えたかも知れない。


「つまり、そういうことよ。私はおまえを許さず殺す。

 おまえが私に何を思おうと同じこと」


「今回のきみはいつにも増して腹立たしいね。初めて会ったときと同じくらいだ」


 物柔らかに微笑んで呟き、ヘリアンサスは右手でトゥイーディアの心臓辺りを指差した。


「気が変わった。いつものように楽に殺してはあげない。

 少なくとも、きみが僕に膝を突いて懇願するまでは」


 トゥイーディアは、まるで気の利いた冗談を聞いたかのように小さく笑った。

 その飴色の目が、絶対零度の冷ややかさでヘリアンサスを映していた。


「私が? おまえに? 片膝たりとも突くものか」


 ヘリアンサスも同じく、小さく笑ってみせた。


「もちろん、そうだろうね」


 そう認めて、ヘリアンサスは毒のある花のように美しく、甘く、優しく、唇を綻ばせた。


「――きみが地面に突くのは、両膝と手だ。あと、頭だね。……もしそのときに、きみが五体満足であればね」


 にこ、と微笑んで、ヘリアンサスは親切ささえ感じさせる声で続けた。


「僕は優しいからね。

 きみが腕や脚を失っていれば、それまで僕に叩頭するのに使えと言う気はないよ」


 俺ですらぞっとしたというのに、トゥイーディアはなおも微笑んでのけた。

 手指は細かく震えていたが、表情と声は堂々としたものだった。


「――いいえ」


 絶世の魔力を周囲に渦巻かせ、トゥイーディアは明瞭に言った。


「今生のおまえは私を殺さないわ。――そして、私がおまえの首を落とすの」


 ねえ、と首を傾げて、トゥイーディアは自分自身の首筋に指を滑らせた。


「私が首を落とせば、おまえは未来永劫滅びるんでしょう?」


 返答までに、少しの間があった。

 ヘリアンサスが答えに詰まったのではなく――湧き上がってきた哄笑を、ヘリアンサスが堪えるための間だった。


「――もちろん」


 哄笑を呑み下し、しかし満面に笑みを浮かべて、ヘリアンサスは首肯した。


「何しろ、()()()()()()()()()ね。――でも今なら、振り返ってすぐに魔王の首を落とせるだろうけれど、どう?」


 俺はぞっとした。


 が、なおも荒れ狂うトゥイーディアの魔力が、どうやら完璧にここでの会話を周囲から押し包み隠しているようだった。


 そしてまた、それが分かっているからこそ、トゥイーディアは毛筋ほどの動揺も顔に昇らせなかった。


「あら、そうなの?」


 涼しい顔でそう言って、トゥイーディアが右手を持ち上げた。

 そして、真っ直ぐにヘリアンサスを指差した。


「私には、私の正面に魔王が見えるのだけど?」


 ヘリアンサスの唇が、今にも裂けるのではないかと思うほどに、大きく大きく笑みを湛えて歪んだ。



「――魔王の権能が僕のためのものだったことは一度もない」



 低い声でそう言って、ヘリアンサスは俺に視線を映した。

 本当に嬉しそうな――猟奇的なまでに嬉しげな表情で。



「ねえ、ルドベキア?」



 トゥイーディアが何か言おうとした。


 だがそれを手を振って遮って、ヘリアンサスはにこやかに言葉を続けた。


「もういいよ。口を開かないで。不愉快だ。

 ――今日、僕がここに来たのは二つ理由がある。一つはどうにも実りのない結果に終わったけれど、」


 “最近何かあったか”と、俺に尋ねたあれか。


 す、と俺に視線を向けて、ヘリアンサスは唇を緩めた。



「――もう一つはしっかり果たせた。もう満足だ」



 かつ、と靴音を響かせて踵を返し――、何を思ったか、ヘリアンサスははたと動きを止め、それから(こうべ)を巡らせた。


 その視線の先に、無言ながらもヘリアンサスを睨み据えるカルディオスがいる。


「――大変そうだね」


 愛想よくさえある声音でそう言って、ヘリアンサスは左手の親指と人差し指を立てて、その人差し指でカルディオスを差した。

 しゃらり、と手首で腕輪が鳴る。



「でも、大丈夫。もうすぐ落ち着くよ、カルディオス。保証しよう」



「――要らない」


 カルディオスが、潰れた低い声で呟いた。

 身体の横で握り締められた拳が震えていた。



「おまえからの言葉は何であっても要らない。おまえの命がそもそも不要だ。

 ――消えろ」



「…………」


 ヘリアンサスが瞬きした。

 余裕ぶった笑顔が、僅かに剥がれたかに見えた。


「……そう」


 呟いて、ヘリアンサスはカルディオスの翡翠の目から視線を外し、大広間の出口へ振り返った。


「そう、分かった。――じゃあ、またね」


 かつん、と、ヘリアンサスが一歩踏み出すと同時に、周囲に色濃く渦巻いていたトゥイーディアの魔力が、螺旋を描いて霧散した。


 それすら気に掛けた様子もなく、ヘリアンサスがガウンを靡かせ歩き去る。



 その姿が大広間の外に消えるに至ってようやく、糸が切れたようにトゥイーディアが長椅子に座り込んだ。


 テーブルに肘を突き、組んだ指に額を伏せて、震える呼吸を繰り返す。


 それを見て、ようやっと俺たちも席に着いた。

 全員、倒れ込むような座り方になった。


 そうやって座りながらもカルディオスは、ヘリアンサスと言葉を交わした衝撃が抜け切らないのか、唇を噛んだ硬い顔のまま、まるで魔王が戻って来ないよう見張っているかのように、大広間の入り口を睨み付けている。



 大広間にざわめきが戻り始めた。


 誰もが、ヘリアンサスの登場を懸命になかったことにしようとしているかのように、俺たちの方へ一瞥もくれない。

 わざとらしく会話の中に笑い声を交えて声を大きくする者もあった。


 もしかしたら全員、奇妙なまでにここでの会話が自分たちに聞こえなかったのを、それほど疑問には思っていないのかも知れない。

 会話すら耳に入れまいとしていたのだとしても、何ら不思議ではない態度だった。



「――イーディ……」


 ディセントラが身を乗り出し、震える深呼吸を繰り返すトゥイーディアを窺った。


「……大丈夫」


 呟いて、トゥイーディアが顔を上げた。

 顔色は悪かったが、表情は微笑を作っていた。


「大丈夫よ、ディセントラ」


 まさにそのとき、大広間の入り口を睨んでいたカルディオスが腰を浮かせた。


 すわヘリアンサスが戻って来たのかと、トゥイーディアを含む俺たち全員がびくっとしたが、カルディオスは力の抜けた声で呟いていた。


「――アナベル」



 弾かれたように、トゥイーディアが立ち上がった。



 俺もまた振り返った。


 大広間の入り口を、アナベルが足早に潜ったところだった。

 ぐるりと大広間全体を見回して、そして今まさに立ち上がったトゥイーディアを見付けて、肩上で切り揃えられた薄青い髪を靡かせながら、小走りでこちらへ進んで来る――


 トゥイーディアが飛び出した。

 血相を変えてアナベルに走り寄り、そのまま勢いよくアナベルに抱き着き、抱き締める。


 勢い余って二人の外套の裾が翻った。


「えっ?」


 アナベルの声が、距離があってさえ聞こえてきた。


「イーディ? どうしたの? そんなに酷い目に遭ったの?

 崖崩れに巻き込まれたルドベキアを助けに行ったって、結構狼狽えたカルディオスから聞いたんだけど」


 トゥイーディアは答えない。


 無言で自分にしがみ付くトゥイーディアに、アナベルは珍しくも混乱の表情。

 ぽかん、と薄紫の目を揺らして、それからよしよしとトゥイーディアの頭を撫でた。


「どうしたの? ルドベキアに何か酷いこと言われたの?」


 ――なんで、俺。


 トゥイーディアを宥めるようにしながら、アナベルが彼女を引っ張ってこちらまで歩いて来た。


 そして俺たちが、総じて顔色を悪くしていることに気付いて真顔になった。


「あら。どうしたの、みんなして」


 そう訊きつつも、トゥイーディアの手を解いて、アナベルが長椅子に腰掛けた。


 トゥイーディアもその隣に座り、またしても無言でアナベルを抱き締める。

 アナベルはさすがに、ちょっと胡乱な目でトゥイーディアを見下ろした。


「……なに? どうしたの? あの、かなり邪魔なんだけど」


「アナベル」


 名前を呼んで、トゥイーディアがようやく顔を上げた。

 泣いてはいなかったが、ひどく不安そうな顔だった。


「アナベル、だいじょうぶ?」


「いえ、それはあたしの台詞でしょう?」


 言下に突っ込んで、アナベルは眉を寄せる。


「イーディ――それからルドベキア。大丈夫だったの? 二人が喧嘩して、自ら生き埋めになっていたらどうしようかと思ってたのよ。でも、そこまで馬鹿じゃなかったわね、安心したわ。

 ――それに、」


 ぐるり、と俺たちを見渡して、アナベルはこてんと首を傾げた。

 眉の位置で切り揃えられた額髪がさらりと揺れる。


 そんなアナベルにしがみ付くようにして、またトゥイーディアが顔を伏せた。

 その様子に、アナベルは驚いたように瞬き。


「どうしたの? この子も――みんなも、様子がおかしいけれど」


 しばしの沈黙ののち、コリウスが呟いた。


「――つい先程まで、ここに、ヘリアンサスがいたんだ」


 アナベルはさっと顔色を変えた。


 すぐにトゥイーディアを見下ろして、解れた蜂蜜色の髪を優しく指で梳く。

 声音が、打って変わって柔らかくなった。


「……そうなの。イーディ、大丈夫? おかしなことを言われたの?」


 トゥイーディアが顔を上げた。

 今度はちゃんと、姿勢を正した。


 そうして、アナベルの手をぎゅっと握った彼女が首を傾げる。

 やはり、不安で仕方がないといった顔だった。


「いいえ。私は、全然なにも」


 ――うそつけ、とカルディオスが口の中で呟いた。


「アナベルは? 鉢合わせしたりしなかった? 大丈夫?」


 少しばかり眉を寄せてから、アナベルは首を振った。


「いいえ。擦れ違いもしなかったわ。――第一、あれを見てもまだこんなに態度を取り繕えるほど、あたしは図太くないわよ」


 後半は声を潜めての述懐だったが、トゥイーディアはようやく、安堵したように溜息を吐いた。


 そして、こてん、とアナベルの肩に頭を凭せ掛ける。


「良かったぁ……」


「心配し過ぎよ」


 アナベルは無表情で切って捨てたが、トゥイーディアを振り払ったりしなかった。

 そして、少々わざとらしくテーブルの上を見渡して声を上げる。


「――あら、随分おいしそうね。あたしもお腹すいちゃった」


 それを聞いて、ひょこり、とトゥイーディアがアナベルの肩から頭を持ち上げた。


「アナベルの分が来るまで、ちょっとこれ、食べる?」


 食べ差しだけど、と呟いて、トゥイーディアが自分の食事をアナベルに示す。


 彼女は大変行儀よく食事をするので、食べ差しですら食欲をそそることだろう。


 ――俺たちはヘリアンサスとの遭遇のショックで、軒並み食欲を失っていたけれども。

 何なら吐きそう。


 口許を押さえて呻く俺。

 全員似たり寄ったりの有様。


 しかしその中でも、カルディオスが幾らか生気を取り戻した声で呟いた。


「……いつもはだんとつで運が悪ぃのに、今日は一人だけ運が良かったな、アニー?」


 そうね、とアナベルは無表情で頷きつつ、ナイフを取ってトゥイーディアの食事をつつき始めた。

 真っ先に肉にいく辺り、多分相当腹が減っていたんだろう。


 それを見守りつつ、トゥイーディアがぼそりと。


「違うわよ……」


 疲れた声音でそう言って、彼女は手の甲で目許を拭った。


「運が良かったのは私。アナベルがいなくて本当に良かった……」


 もぐもぐと肉を咀嚼しつつ、アナベルがちょっと眉を顰めた。


 だがそれには気付いた様子はなく、トゥイーディアが唐突に、ぴしりとカルディオスを指差した。


「――ねぇ、カル、お願いがあるんだけど」


「んあ?」


 カルディオスが瞬きし、頬を掻いた。


「珍しーな。なに? イーディからの頼みなら、一肌でも二肌でも脱ぐけど」


「そんな大した話じゃないわ」


 気が抜けたように微笑んで、トゥイーディアは両掌を合わせた。


「湯浴みの後に晩酌に付き合って」


 カルディオスは瞬きした。

 そして、何かを呑み込んだ様子で頷くと、応じた。


「ああ、うん。いーよ、厨房から酒もらって行こーか?」


「んーん、メリアにお願いするわ。カル、いつも通りの甘いお酒が好きでしょ?」


「分かってんじゃん」


 にこ、と微笑んで、カルディオスはちょっとだけ躊躇ってから、気遣わしげに。


「――おまえが寝るまで一緒にいるよ」


 トゥイーディアが微笑んだ。


 心からの、安堵ゆえの微笑だった。

 いつもよりも頼りない風情に見えたが、曙光のように温かい笑顔だった。


「ありがと」



 ――ヘリアンサスに会って、言葉を交わして、恐らくは眠れなくなったと自分で分かったんだろう。

 あるいは単純に、一人で眠るのが不安になったのかも知れない。



 トゥイーディアは酒豪で、彼女と同じペースで盃を重ねて正気でいられるのはカルディオスだけだった。

 だから、誘う人選も妥当だし、トゥイーディアはカルディオスには特別に親しく接するから、余計にこいつが傍にいると落ち着くんだろう。


 カルディオスにしたって、姉のように慕うトゥイーディアとの晩酌は好きみたいだし。


 それに、この二人が一緒に寝たって、今さら何をどうこう踏み間違えるはずもない。



 まあ、人から見ればトゥイーディアには婚約者がいることになっているので、そこは上手く誤魔化すと思うが。



 じゃあ、と呟いて席を立って、カルディオスは手を伸ばしてトゥイーディアの頭を撫でた。

 猫の頭を撫でるみたいな手付きだった。


「――俺、湯浴みして来るね。終わったらおまえの部屋に行くから」


 うん、と頷いて、トゥイーディアはほうっと一息。


 ひらひらとカルディオスに手を振って見送り、それから、俺以外の全員を悪戯っぽく見渡した。



 ――俺はそもそも酒に弱くて、一口でも飲むと爆睡に入る。

 酒精の匂いですら気分を悪くすることがあるくらいだ。


 だから晩酌に俺を誘わないのは当然だけれど、勿論のことそれだけではない。


 トゥイーディアは絶対に、多少でも自分が弱っているときには俺に声を掛けたりしない。


 なぜなら、声を掛けたりしたら、俺が余計にトゥイーディアを傷つけて弱らせてしまうから。



 だから今も、トゥイーディアは、俺をまるでいないもののように扱った。


「他にも誰か来る?」


「おまえたちと呑むと翌日に起きられない」


 コリウスが苦い顔で即答した。


 こいつはかつて、トゥイーディアに酒の相手を頼まれた挙句に潰されて、翌日に地獄の二日酔いに苦しんだことがある。

 よくぞここまで語彙があるなと感心するくらいの恨み言を吐かれて、トゥイーディアが付きっ切りで看病をしていたっけ。


 とはいえ、トゥイーディアが珍しくも不安がっていることは見て分かることだったので、ディセントラがにこりと微笑んで手を挙げた。


「ちょっとだけ行こうかな」


「ありがと」


 アナベルは誘いを黙殺し(過去にカルディオスに潰されたことがあったはずだ)、誘われてもいない俺は勿論のことトゥイーディアを無視した。



 心情はどうあれ、無視せざるを得なかった。




 ――俺は、




 トゥイーディアがディセントラと連れ立って席を立つ。

 二人で湯浴みして、それから晩酌するんだろう。


 その背中を視線で追い掛けることすら、俺は出来なかった。




 ――俺は、大好きな女の子が不安で眠れない夜に、その手を握っていることすら出来ない。


 ――俺は、心から愛する人が傷ついているときに、その傷を更に抉ることしか出来ない。




 それが、俺に課せられた代償だ。




 ――もしもこの代償が、俺の過去の行いに対して課せられたものであるならば、過去の俺は極悪人だったに違いない。




 今夜、たとえ数分の間であっても、トゥイーディアの手を握っていられるのならば、俺は何であっても捧げるんだけど。



 それだけ――それだけ。それだけでいいんだけど。

















100万字突破。




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― 新着の感想 ―
[良い点]  そういえばヘリアンサスは、救世主達の生に合わせて生まれたり死んだりしているかさえ定かではありませんね。  彼は、部外者に聴かれたら危険なはずの台詞を躊躇なく口にしているので、これも世界の…
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