40◆ 出窓の黒真珠
俺は、ルインと名も知らぬ少年のためにこの寮で夕飯を摂ることを選んだわけだが、実際には寮母さんの思い出話に付き合うことに大半が費やされた。
俺の目の前にはシチューがよそわれた木の椀。
右隣に嬉しそうなルイン。
正面には(めっちゃ頑張ってその位置を獲得していた)あの赤毛の男の子。
で、左隣になぜか寮母さん。
四人当たり一つくらいの割合でテーブルの上にはパンの入った籠も置かれていたが、俺が手を伸ばしてパンを取るだけで、ルイン以外の周りの人間が息を呑むような有様。
もう俺にどうしろと。
正面の男の子が俺に土産話をせがんできたため、多少脚色しながらも話をしてやる。
とはいえ、集落での出来事を話すとなると、やはりまだ胸が鈍く痛むので、ここぞとばかりにコリウスの魔法で空を飛んだことを話してやった。
男の子はぽかんと口を開け、夢中になって聞いてくれたが、それはそれとしてちゃんと食べような、と促す。
国境付近でのことには余り触れられたくないという意識が働いて、隣の寮母さんが俺に話し掛けたそうにしているのに乗っかったのが運の尽きだった。
そこから怒濤のように始まる寮母さんの思い出話。主にディセントラの話。
平民のディセントラは、ガルシアに正規入隊するまでの半年間、この寮にいたらしい。
「普通は半年なんかじゃ正規の入隊は出来ないんですよ。あの子、ここに来たのは十五になりたての頃でしたでしょう? そうなると普通は、正規入隊には二年くらい掛かるのが普通で」
話を聞いていると、どうやらカルディオスとコリウスは貴族であるという強みを活かして、全ての手続きを蹴り飛ばして正規入隊したらしい。
詳しい経緯は本人に訊かねば分からないが、恐らくアナベルのことは、カルディオスが死んでも離さんという勢いで連れて行っただろう。
俺のこともそうやって引っ張り込んでくれたわけだし。
なので救世主の中で、この寮を経験したことがあるのはディセントラだけ。
ディセントラからすれば、みんなに会えるかも知れない寸前で足止めを喰らって業腹だっただろう。
二年も待って堪るかと、あらゆる手段を駆使する彼女の姿が目に浮かぶ。
「ディセントラは本当に聡明な子で……、一応ガルシアの正規隊員になるには、それなりの教養も問われるのですけれど、あの子はそこも優秀で」
だろうな。教養なんざディセントラに掛かれば児戯だ。何しろ前世は伯爵令嬢。
百数十年の空白を乗り越えるのも、慣れたものでお手の物だっただろう。
頬に手を当てて、寮母さんはしみじみと。
「あの子ほど優秀な子は他にはいないと思っていたのですけれど、救世主さまだったなんて。驚きはしましたが納得もしましたのよ。あの子は本当に、優秀なだけではなくて気立ての優しい、そこにいるだけで場が明るくなるような子ですから」
俺は愛想笑い。
なんかこう、身内がべた褒めされているのを聞くと、誇らしい反面で身体中がむず痒くなってくるというか……。
もっと凄い奴だから! と輪を掛けて自慢したくなる反面で、もういいですと恥ずかしくなってくるというか……。
俺のそういう感情の機微を明瞭に察して、延々と続く寮母さんの話をルインがぶった切ってくれた。
俺が食事を終えたまさにそのタイミングを見計らって、これ見よがしに俺に囁いてきたのだ。
「――兄さん、あの子に会って行かれます?」
あの子、とルインが言った瞬間に寮母さんも周りもぴたりと口を閉じたので、俺は内心でびっくり。
「あの子」というのは、考えるまでもなくムンドゥスのことだろう。
あの、見るからに異様な子供を衆目に晒すのを避けるために、この食堂には連れて来ていないのだろうと踏んでいたが――それにしてもなんだ、この発言の威力。
こいつはムンドゥスと周りに距離を取らせるために、一体何を言ったんだ。
しかしながら願ったり叶ったり。
俺は延々と続くディセントラ賛美大会から抜け出すことが出来るし、ムンドゥスの様子も知ることが出来るし、万歳だ。
「ああ、会ってく」
応じた俺を促して、ルインが立ち上がる。
周囲の雑談は徐々に復活したが、寮母さんがさっきまでとはどことなく色の違う目で俺を見てきた。
内心で首を捻りながらも、俺はルインに従って食堂を突っ切った。
先ほど入って来た扉とは反対側の扉を出れば、そこはいきなり階段室。
石造りの狭くて急な階段が上へと続いている。等間隔で穿たれた壁の窪みに置かれた燭台が、頼りなげに暗闇を照らす。
自分の後ろで扉がしっかりと閉まったことを確認してから、俺は首を傾げて、早速階段を昇り始めているルインを見上げた。
「おいルイン、おまえ、ムンドゥスのこと何て説明したんだよ?」
「え?」
足を止めて身体ごとこっちを振り返り、ルインは柘榴色の目を細めてにっこりした。
「それは、兄さん。周りがあの子に近付きたがらないように、あることないことを」
「いや待て、あることないことって。あいつに関するあることで喋っていいことなんて一つもないからな?」
冗談半分に突っ込んだ俺に、ルインは肩を揺らして笑った。
「ふふっ、分かってますよ」
気楽そうなその様子に、俺は内心で、「あれ?」と。
あれ、こいつって、こんな風に気楽そうに笑う奴だったっけ?
なんだかんだでここの生活が気に入ったのか? それならいいけど。
階段を三階まで上がったところで、扉を開けて廊下へ。
廊下というより通路か。
二人並んで歩くのも躊躇う狭い通路を挟むようにして、小ぢんまりした扉が等間隔で設けられている。
ぎしぎし鳴る木の床を踏み、突き当りの部屋まで進んだルインが、俺を振り返って「ここです」と。
それからちょっと眦を下げて、溜息混じりに呟いた。
「外に出たがらないのはいいんですけど、代わりにというが読書がお気に召してしまって……」
俺は瞠目した。
旅路の途中、周囲の様子に興味津々だったムンドゥスの態度を思い返せば、外に出たがらないというのは驚きに値する。
それに、
「字が読めたのか、あいつ」
もろに驚きが声に出た俺に、ルインも「やっぱり驚きますよね」と言わんばかりの顔。
「読めるようです。――図書室中の本を読み切りそうな勢いですよ。なんだか皆さん諦めて、ここに本を溜め込んでいても怒ったりはなさらないですけど」
頷いて言ったルインに、俺は二度びっくり。
今度はムンドゥスの様子に対してではなく、この寮についての驚きだ。
「図書室があるのか、ここ」
俺の感覚では――つまりは、百数十年前の感覚では、本は高級品だ。
紙が高級品だったからというのもあるし、一定以上の階級の家庭に生まれない限りは識字すら侭ならないのが普通だったからね。
紙も知識も高級品とくれば、両者の結晶である書籍につく値段たるやお察し。
魔界における感覚も同じ。
だが、思えば大陸の文明は世双珠のお陰で大進歩している。
今や書籍すら、庶民でも手が届くものになっているのかも知れない。
それに、思えば、ガルシア隊員になるに当たって教養も見られるというのならば、この寮に図書室が備えられているのも理の当然か。
一人で忙しく思考を右往左往させる俺に、ルインはこくりと頷く。
こいつも多分、魔界での感覚を持ってここに来たはずだから、目の当たりにするあれこれにいちいち驚いているはずだ。
にも関わらず、何というか落ち着いた態度。
もしかしたらこいつ、案外大物なのかも知れない。
「はい、最上階に」
へえ、と、見えるはずもない最上階を望むように天井を見上げる俺に微笑んでから、ルインが扉を叩いた。
慣れた様子で中に声を掛ける。
「――僕だよ。入るよ、ムンドゥス」
中からの応えはなかったが、ルインはそのまま扉を押し開けた。
中は薄暗い。
覗き込むと、ランタン一つの明かりしか灯されていないようだった。
部屋は手狭で、家具らしい家具は左側の壁に寄せて置かれた寝台が一つのみ。
扉の反対側の壁に、アーチ形の出窓が開いていた。
窓の下には大判の本が山積みになっており、本の山の一つの上にランタンが置かれている。
火事にならないか心配になるような置き場所だ。
出窓の出っ張りの上にも二、三冊の本が置かれており、まるでその本に遠慮するように膝を抱えて、ムンドゥスもまた窓辺に座っていた。
黒い長袖のワンピースを着たムンドゥスが、抱えた膝の上に本を載せて、ちょっと目を近付け過ぎなんじゃないかと思うような姿勢で、読書に耽っている。
ちょうど窓から月光が差し込んでいて、それですらもムンドゥスを彩るための舞台装置であるかのようだった。
――俺はこっそり息を吸い込んだ。
しばらく見ないうちに忘れていた。ムンドゥスの、相対するものの不完全さを突き付けるような、恐ろしいまでの美しさを。
黒真珠色の長い髪は緩い三つ編みにされ、幾つかの三つ編みを更に編むような格好になっていたが、それでなお出窓から床に落ちるほどに長く垂れている。
月光が弾ける黒真珠色の髪は、星空を映す夜の滝にも似た清冽さを湛えて見えた。
黒檀を彫り抜いたかのような完璧な顔貌が、無表情ながらも熱心に本の頁を覗き込んでいる。
本を支えるほっそりとした指には無数の亀裂が走って見えており、その亀裂のみが、唯一彼女を損なうものだった。
扉が開いたことに、間を置いて気付いたのか、ムンドゥスがふっと顔を上げた。
そしてその、何の感情も浮かべない銀色の鏡のような目で、俺とルインを見た。
見てすぐ、ぱたん、と読んでいた本を閉じて脇に置く。
そのまま出窓からぴょんと飛び降りたムンドゥスに、俺は思わずびくっとした。
彼女の、顔貌を除く全身に刻まれた罅割れが、その動作で広がるのではないかと思ったがために。
しかし、煌めく黒真珠の髪を重たげに揺らして着地したムンドゥスは、割れて砕けることもなく、当然のように無事だった。
「――ムンドゥス、本を読むのをやめるだなんて珍しいね」
俺と一緒に部屋に入り、後ろ手に扉を閉めながら、ルインがそう言った。
俺はムンドゥスから視線を引き剥がし、「そうなの?」と隣に尋ねたが、当のムンドゥスはルインの言葉には無反応に足を踏み出した。
本の山を踏み越え――本を踏むなんてとんでもない所業だが、ムンドゥスがそれをやると、まるで本が自ら望んで足場になったかのように錯覚させるのだから恐れ入る――、罅割れの走る素足で、とことこと俺の方へ歩いて来る。
ワンピースの裾と袖がひらひらと揺れ、三つ編みが床の上でムンドゥスに追従した。
ランタンの柔らかな明かりを逆光として背負って、俺の目の前に立ったムンドゥスが、ことり、と首を傾げた。
俺とこいつの間の大き過ぎる身長差を克服するために、俺は彼女の前にしゃがみ込む。
間近で見るムンドゥスの完璧な美貌に気圧されないよう――そしてこいつが持つ、一種不気味な雰囲気に浮足立たないよう、内心で自分をぐっと抑えた。
ムンドゥスは銀色の目にまじまじと俺を映して、水晶の笛を鳴らすかのように高い澄んだ声で言った。
「――会ったの?」
俺は眉を顰めた。
この異様な少女――忘れがちだが、海を越えて二度も大陸を襲った、救世主すら苦戦させた兵器の作り手でもあるのだ――に常識を求める気はさらさらないが、再会の挨拶よりも何よりも先に、主語も目的語も省いた意味不明な質問をぶつけてくるのは勘弁願いたい。
「――誰にだ?」
問い返しつつ、俺は内心で身構える。「ヘリアンサスに」と答えられたときのためだ。
が、予想に反してムンドゥスは、更に意味の分からない言葉を続けた。
「一人の名前ではないと思う……」
「は?」
目を瞬く俺に、ムンドゥスはまた首を傾げる。
「怖がっていなかった?」
俺は、お手上げを示すように両手を肩の高さに挙げた。
「ごめん、誰のことだ?」
ムンドゥスはゆっくりと瞬きした。長く黒い睫毛がふんわりと上下する。
そして、まるで俺を責めるかのように言った。
「一緒ではなかったの?」
「ルイン、こいつに会話の方法を教えてやってくれ」
俺は匙を投げてルインを振り返り、ルインは曖昧に微笑んだ。
「――善処します」
無理っぽいな、とルインと笑い合ったところに、ムンドゥスがすうっと顔を近付けてきて俺は仰け反った。
「うわ、なんだよ!」
大仰に反応した俺を、ムンドゥスはその大きな鏡の色の瞳に収めて、呟く。
「――あなたはここにいなかった、ルドベキア」
こいつに名前を呼ばれると、身体の奥がざわりとさざめく。
息を吸い込んでそれを誤魔化し、俺は立ち上がった。
「あ? ああ、東の方まで行ってたんだ。レヴナントの被害と浮民が――」
唐突に、横からルインがぎゅっと俺の手を握った。言葉を切って俺はびびった。
「え?」
「兄さん、お怪我などなかったのですか」
必死な目の色で見られて、俺はぶんぶん首を振った。
「ない! ないない! 無事!」
堂々たる嘘だが、仕方がない。
今現在背中が結構な重傷ですとか言ったら、なんかこいつ倒れそうだもん。
一方のムンドゥスは、ぽつりと。
「……レヴナント――?」
俺は眉を寄せ、それから、「ああ」と声を漏らした。
「そっか、おまえは見たことないな。汽車の中でも船の上でも気ぃ失ってたし」
腕を組んで、俺は尤もらしく言った。
「大陸は魔界と違って大変なんだよ。おまえは知らないだろうけど」
ムンドゥスは俺を見上げた。
黒真珠の色の髪が、ランタンの明かりにさえ光輪を弾いて華やかに煌めいた。
銀色の瞳には影が落ちて、冴え冴えと冷たく見えた。
「――それは、自分で蒔いたこと」
呟くようにそう言って、ムンドゥスはくるりと踵を返す。
そのまま、こちらに近寄ってきたときと全く同じ場所を踏んで、再び出窓の上に攀じ登ろうとした。
本を踏み台にしかねないその様子に、俺は思わず大きく数歩でムンドゥスに追い着き、本の山を跨いだ。
本が貴重であるという意識が抜けていなかったもので、見ていられなかったのである。
そうして、出窓に手を掛ける彼女の脇下に手を差し入れて、ひょい、と持ち上げた。
鳥のように軽い身体だった。
そうしてからふと、ディセントラが彼女に触れたとき、ただそれだけで新たな罅割れが生じたことがあったのを思い出してぞっとした。
――が、意外にも、ムンドゥスは抵抗しなかった。
持ち上げられるがままに任せ、俺がそっと出窓の上に彼女を座らせると、無表情ながらもどことなく満足そうに、もぞもぞと姿勢を整えて膝を抱える。
そうして、読んでいた本に手を伸ばす彼女を、俺は何とはなしに罪悪感を持って見守った。
――この子は、俺たちがヘリアンサスに対する人質として利用するために連れて来た。
どうやらヘリアンサスを慕っているらしいので、そうだと分かれば傷つくかも知れない。
心の欠片も持ち合わせていなさそうな態度をしてはいるものの、実際はどうだか俺には分からないし。
「……本、面白いか」
思わず問い掛けたのは、その罪悪感ゆえだった。
ムンドゥスは本を開きつつ、棒のように真っ直ぐな声で応じた。
「わたしのことだから」
意味の分からない応答を理解することを放棄して、俺は頷いた。
こいつは人質としてヘリアンサスの目の前に引っ張り出されたとき、どんな顔をするんだろう。
さすがに少し驚くだろうか。
それとも俺たちを、責めるようにこの銀色の目で見るだろうか。
「――そうか」
声を落とすように応じる俺に、後ろからルインが「兄さん?」と声を掛ける。
なんだかんだで敏いので、俺の声音の変化に気付いたらしい。
そしてまた、ムンドゥスも動いていた。
ふ、と目を上げて、ムンドゥスが真っ直ぐに俺を見たのだ。
燐光を放つかのような鏡の色の双眸が、透き通るような眼差しで俺を捉えた。
何かに勘付かれたことを警戒するよりも、思考が硬直する方が早かった。
ムンドゥスの視線に、思考に働きかける重力が存在しているかのようだった。
しばらくそうやってじっと俺を見てから、ムンドゥスは、さも当然のように尋ねた。
今この瞬間にはこの質問をすることが定められているのだと、教本にでも書かれているかのような口調だった。
「ルドベキア。あなたは、レヴナントを、嫌い?」
唐突な問いが、俺の頭を素通りし掛けた。
一瞬ぽかんとして、それから俺は、その言葉の尻尾を捕まえ、もう一度自分の頭の中に引き戻すようにして意味を噛み砕く。
質問が出し抜け過ぎて、そうでもしないと頭が追い付かなかったのだ。
質問を噛み砕き、俺は眉を寄せた。
考えるまでもないことなので頷く。
「ああ、そりゃあ」
レヴナントなんていう変なものが発生していなければどんだけ良かったか。
――いやでも、レヴナントが存在しなければ、対レヴナントの軍事施設であるガルシアも存在しなかったわけだ。
もしガルシアが無ければ、俺たちが今生での再会にもっと苦労していただろうことは疑いないわけで。
更に言えばトゥイーディアが、未だにレイヴァスで暮らしていたかも知れないということを考えると。
――いやいや、それであってもレヴナントなんてもの、いないに越したことはない。
今からでも消失してくれれば万々歳だ。
迷いなく応じた俺に、ムンドゥスは更に問いを投げた。
やはり、この遣り取りは全て教本に従っているのだと言わんばかりの、淀みもなければ感情もない言葉だった。
「守られていても、レヴナントは、嫌い?」
――守られている、とは、ガルシアの堅牢な城壁のことを言っているのだろうか。
であれば、この子が訊いているのはガルシアに住む人々のことか。
なんか意外だ。この人形みたいな少女が他の人を気に掛けるとは。
そう推測しつつ、俺は肩を竦めた。
「さあ。けど、レヴナントがいなけりゃ守られる必要もないんだから。レヴナントが好きな奴なんていないだろ」
ムンドゥスはしばし、じっと俺を見ていた。
俺の返答を聞いていたのかさえ、その表情から推し量ることは出来なかった。
名のある人形師の生涯の傑作がこれであると言われればそのまま信じてしまいそうになるほど、美しく不動の時間がしばし流れた。
「――ムンドゥス?」
思わず声を掛ける。
唐突にこの子が息絶えたのではないかと、馬鹿なことを考えたがために。
ふ、と、ムンドゥスが瞬きした。
長い睫毛が銀色の瞳を翳らせた。
生きてた、と思わず息を吐いた俺から、興味を失ったかのようにムンドゥスは目を背け、本に目を戻した。
しかし、直後に呟かれた言葉は、間違いなく俺に向けられたものだった。
「――そう、守られる側が先だった、ルドベキア。
分かった。努める」




